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梅田広行、山田脩、松本達雄、玉川進:胸部近似誘導での電極位置の検討。プレホスピタルケア 2003; 16(2通巻54):33-35


胸部近似誘導での電極位置の検討

梅田広行1、山田脩2、松本達雄3、玉川進4
1旭川市北消防署救急第2係、2旭川市南消防署豊岡出張所、3旭川市北消防署永山出張所、4旭川医科大学第一病理学教室

著者連絡先
梅田広行
旭川市北消防署救急第2係:救急救命士
0166-51-8138
fax 0166-54-9835

目的

 救急隊が心電図をモニターする場合、胸部近似II誘導が用いられる。説明書 1)によれば電極の位置は右鎖骨右端部と左肋骨弓下端となっている。しかし実際に電極を付ける場合には患者の着衣状態や外気温によって規定の部位の露出が困難な場合がある。
 今回私たちは本来右鎖骨右端部に置くべき心電図電極を頭側もしくは尾側に移動させ心電図波高にどのような影響が及ぶか調査し、これにより心電図電極留置部位としての可能性を検討したので報告する。

対象と方法

 本研究の実施を承諾した旭川厚生病院耳鼻科・形成外科・整形外科に入院中の患者20名を対象とした。
 心電図記録には現在旭川市消防本部で使用している日本光電社ライフスコープLを使用した。電極部位はライフスコープLの取扱説明書1)を参考とした誘導を標準とし、右鎖骨右端部の電極(赤)の位置を頭側もしくは尾側に移動させ心電図の波高を測定した。この時左肋骨弓下端電極の位置は一定とした。
 右鎖骨右端部電極を移動させた位置を図1に示す。(1)右下顎角部、(2)右鎖骨下、(3)右乳頭上、(4)右第8肋骨季肋部、(5)右鎖骨下に対応する背側、を電極位置として選んだ。
 心電図の波高は P, R, T波で測定し、図には平均値と標準誤差を記載した。統計処理には一元配置分散分析、Post-hocとしてFisher's PLSDを用い、標準に対する差がp<0.05を有意とした。

結果

 結果を図2に示す。

 P波(図2a)は(1)右下顎角部で標準に比べて波高に有意差はなかったが、以下(2)右鎖骨下から(4)右第8肋骨季肋部と電極が尾側に移動するに連れて波高が有意に減少した。(5)右鎖骨下に対応する背側ではほぼ(3)右乳頭上と同じ波高を示した。R(図2b), T波(図2c)では(1)で増加し、(2)では標準とほぼ同等の大きさになり、(3)(4)で有意に減少した。(5)では標準と波高に有意差はなかった。

考察

 心電図では電極に向かってくる電流の大きさに応じて波高が決まる。心筋の電気活動の総和は3次元のベクトルで表現されるため、同じ電気活動が行われていたとしても正負電極で作られる電極軸との角度が異なれば波高も異なってくる。今回の研究で見られた波高の違いも電極軸の位置(角度)の違いによってもたらされたものである。
 R, Tの2つの波を表したグラフ(図2b、図2c)ではほとんど同じ傾向を示した。すなわち、(1)で波は最大となり(4)で最小となり、さらに(5)で再び増大することである。これは、R、T波ともに心筋の電気活動を反映しているためであり、それぞれの波の持つ意味合いは異なっていてもベクトルとしてほぼ一致しているためであろう。それに対してP波は標準と(1)でほぼ同じ高さとなった。P波は心房の収縮の電気活動を反映しており、R, Tとはベクトルの方向が異なる。このためP波は他の二波とは異なった傾向を示したと考えられる。
 心電図モニターでII誘導を近似させるのは、P波の観察にII誘導が適しているためである。このことを考えると、P波が十分な高さを持ちR,Tも容易に認識できる標準が最も良いと思われる。もし電極が右鎖骨端部に置けない場合には(1)の右下顎角でも代用できると思われるが、その場合にはP波と比較してR, T波が高く計測されることを覚えておく必要がある。(1)以外の場所は心電図モニターで電極を置く位置としては適さない。

結論

 胸部近似II誘導ではR電極は右鎖骨端部に置くべきであり、それが不可能な場合には右下顎角部に置くことも可能である。しかしその場合にはP波と比較してR, T波が増高することを覚えておく必要がある。

引用文献
1) 日本光電社:ライフスコープL取扱説明書

図1
研究に用いた電極の位置。
標準としてライフスコープLの取扱説明書に示された右鎖骨右端部と左肋骨弓下端に電極を置き波形を記録した。
本研究では右鎖骨右端部電極を移動させ波形を記録した。すなわち(1)右下顎角部、(2)右鎖骨下、(3)右乳頭上、(4)右第8肋骨季肋部、(5)右鎖骨下に対応する背側、を電極位置として選んだ。左肋骨弓下端電極は固定した。

図2
右鎖骨右端部電極の位置をずらしたことによる各波高の変化。
aはP波、bはR波、cはT波の高さを示す。
標準はライフスコープLの取扱説明書に示された電極位置で記録したもの。番号はそれぞれ(1)右下顎角部、(2)右鎖骨下、(3)右乳頭上、(4)右第8肋骨季肋部、(5)右鎖骨下に対応する背側、に右鎖骨右端部電極を移動させたときの波高である。

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