OPSホーム>投稿・報告一覧>事後事例検証会:熱中症について

事後事例検証会:熱中症について。プレホスピタルケア 2005; 18(4通巻68):74-78


事後事例検討

本日の議題(第23回)
熱中症について

傷病者の概要

20歳男性。大学生。
夏、快晴のもとでランニング中突然意識を消失したため出場要請となった。

現着時の観察結果
通報後4分で現着。現着時、傷病者は木陰で仰臥位となっていた。顔面は紅潮が著明であった。意識レベルは当初JCS-200であったが車内収容時にはJCS-300となった。体温は鼓膜温で40℃、血圧は80/56nnHg, 脈拍は124/分、整脈。呼吸数は30/分で浅い。

質疑事項
身体の冷却方法はどうするか。

座長:病名は熱中症で、これは発症の状況から判断は簡単です。重症になると死亡率が高い疾患ですし、何よりちょっとした心がけで予防できるものです。
まず、覚知時の天気を教えてください。

救急:この日は快晴でした。気温は30℃とそんなに高くはなかったのですが、湿度が75%とすごくじめじめした日でした。この大学生は陸上部で、当地に合宿に来ていたそうです。夏のトレーニングなので、通常は早朝から午前10時くらいで終わるのですが、この日は午前11時くらいまで訓練が続いていました。気温が上がってきたのであがろうとした矢先の出来事だったようです。

A:先ほど顔面が赤かったという話がありましたが、汗はかいていませんでしたか。

救急:汗はかいていなくて、逆にさらっとした感じでした。さすがにランニングシャツはべたついた感じでしたが、通常考えられるような汗でべったりというのではなく、湿度が高いのでそれ相応のぬれ具合に感じました。

座長:では、車内活動を報告してください。

救急:酸素投与、心電図とSpO2モニターの装着を行いました。酸素10Lマスク投与で酸素飽和度は100%でしたが血圧は76/50mmHgへと低下し、また体温はさらに上昇し41℃になりました。傷病者に対してぬれタオルで上半身を被い、冷房風を直接当てるようにして体温の低下を図りました。

B:消毒用アルコールの方が冷却効果は高いと思うのですが。 

救急:以前に少し試したことがあるのですが、アルコールでむせ返ってしまったため今は水を使っています。
その体温経過ですが、病着までの6分間では変化はありませんでした。バイタルサインは心拍数が130へと上昇しました。血圧と呼吸数は変化ありませんでした。

座長:ここまでが救急側の活動内容です。フロアから他に質問はありませんか。

C:救急さんの観察の期間内で意識がどんどん悪くなって行ったようですが、意識に付随してバイタルサインも悪化して行ったのでしょうか。

救急:そうですね。初めに傷病者と接触した時点では開眼はしないまでも自発運動が多く見られたのですが、だんだんおとなしくなってきました。それにつれて呼吸が深く速いものだったものが浅く速いものに変わってきたようです。

座長:それでは病院内の経過を説明してもらいます。今回は救命士が生涯研修でちょうど病院にいましたので、彼に発表してもらうことにしました。じゃあ、よろしくお願いいたします

救命士:では院内経過を発表させていただきます。簡単な経過を図に書きましたのでご覧ください(図)。

拡大

救急部への搬入直後のバイタルサインですが、体温41℃、血圧70/46mmHg、呼吸数20回で先ほどの現場よりはゆっくりになってきました。血液ガス測定ではpH7.355, PCO2 20.2mmHg, PO2 150mmHg(10L酸素投与下)、Base Excessは-10.2と著明なアシドーシスを認めています。ヘマトクリットは59%で、正常が45%程度ですから高度の血液濃縮が見られました。
治療として全身の冷却、輸液による電解質補正を行いました。全身の冷却は全身にガーゼをまき、その上からぬるま湯をかけて扇風機で風を送るという方法をとりました。これにより3時間後には体温が37℃にまで低下しました。しかしその時点で全身けいれんを起こし、呼吸もほぼ停止したため気管挿管の上人工呼吸器につないでいます。尿も出なくなったため人工透析も始めました。人工透析前後から口腔からの出血が始まり、透析中には皮下出血も認められるようになりました。入院して2日目の血液検査では、肝障害、腎障害、それと汎発性血液内凝固症候群(DIC)を示す血液データとなりました。この傷病者は結局入院後40時間で死亡しました。

座長:ありがとうございます。前途有望な青年だったでしょうに、残念なことをしました。
さて、質疑応答に移る前に、熱中症について整理しましょう。日射病も熱中症も同じ熱による病気ですが、それらの区別ができる人は少ないと思います。これについても救命士さん、発表してください。

救命士:熱中症は外からの熱によって起きる疾患で、通常3種類に分類されています。
1)熱痙攣
2)熱疲労
3)熱射病

1)の熱痙攣は多量の発汗による塩分喪失によって手やふくらはぎの筋肉が痙攣する状態で、熱中症の初期状態です。直射日光にさらされて顔色が悪くなったり、意識が少しの間遠のいたりするのもこの状態です。治療法は涼しいところで安静とし、スポーツドリンクなどで塩分を補給することによって改善します。
2)の熱疲労は大量の塩分と水分が喪失するため怒る状態で、めまい感、疲労感、虚脱感、頭重感(頭痛)、失神、吐き気、嘔吐などのいくつかの症状が出現します。錯乱や短時間の失神など意識の変容をきたすこともあります。体温は40℃を越えることはありません。治療は1)の熱痙攣と同じですが、重傷の場合には点滴で水分と塩分を補給します。
3)熱射病は体温が40度を超え、さらに錯乱や意識消失などの脳障害が出現する、熱中症の最重症形です。体温を急速に下げなければ死亡する確率が高い状態です。
今回の事例は意識消失があり体温も40℃を超えていたことから熱射病と考えられます。

座長:ありがとうございました。質疑事項であります、身体の冷却方法について考えてみましょう。救命士さん、病院では氷水ではなくぬるま湯で傷病者を冷やしたそうですが、なぜ冷水ではないのですか。

救命士:これについては、私もよくわかりませんので、先生からお願いできますか。

医師:冷たい水を直接皮膚にかけると、皮膚の血管が収縮して血流が悪くなります。そのため皮膚での熱交換が悪くなって、かえって時間がかかるという可能性があるんです。ですから今はぬるま湯で皮膚の血管を広げつつ皮膚からの熱を奪う方法がとられます。同時に腋下や鼡径に氷嚢を置いて動脈血を冷やすことも勧められます。冷却した電解質液を点滴することも有効です。また気管挿管してあれば胃管を通じて胃に冷水を注入・回収することで腹部臓器を冷やすことも行われます。今回の症例ほどの重篤な患者さんじゃなければ、冷却ブランケットで体を包み徐々に体温を下げる方法が一番行われています。逆に重症でかつ設備のある病院でしたら、血液透析の回路に冷却装置を組み合わせることも可能でしょうし、最も効果的なのが人工心肺装置で冷却することでしょう。
以前は氷水に全身を漬けることが行われていましたが、大変な割に効果が薄く、逆に心室細動などの危険性が指摘されているので積極的には行わなくなりました。

座長:先生、そのぬるま湯をかける方法は救急車内でも使えるでしょうか。

医師:可能だと思います。風を起こして水を蒸発させる手間がありますが、これは先ほど救急さんがおっしゃっていたように冷房の吹き出し口を当てるとか、救急車に乗っている人全員で患者を扇ぐとかで体温を下げられるでしょう。救急車には普通氷は積んでいないでしょうし、現場にも氷があるとは限りません。知っておくべき方法と思います。

D:この傷病者の方は残念にも亡くなられてしまったのですが、傷病者の生死を分けるのは体温なのですか。

医師:そうです。よく聞く日射病は体温は高くても37℃程度ですし、熱けいれんも40℃以上になることはありません。しかし熱射病では体温は通常40℃以上になり、体温が高ければ高いほど死亡の危険が高まります。生体が活動するためのエネルギーを作る器官としてしてミトコンドリアがありますが、その働きは41.5℃で障害され始め、43分の高温が数分続くとミトコンドリアは破壊されてしまいます。ですから、体温上昇をどこまでで止めるか、どれだけの時間で体温を低下させられるかが患者さんの命の分かれ目となります。脳障害の程度は体温だけでなく時間にも関係しています。例えば42℃であっても短時間で下げることができれば障害が少なくてすみますし、40℃であっても長時間持続すれば障害が残る可能性が大きくなります。この点からも救急隊の初期治療は患者の予後を左右する重大な役割を持っているのです。

座長:ありがとうございました。熱中症は心がけ一つで予防できる病気ですよね。例えば、お昼の暑いときには炎天下の仕事は避けて休むとか、喉が渇いていなくても定期的にスポーツドリンクを飲むとか。

医師:スポーツドリンクは塩化ナトリウム濃度が生理食塩水より少ないのですが、糖分が入っていて吸収が速いため、結果として必要な塩化ナトリウムを摂れるようになっています。もし作業中や山道などで日に当たって具合が悪くなったときには、ペットボトルに500mLの水と食塩小さじ1杯いれて混ぜて飲ませます。これで1%の食塩水になるのですが、これで緊急の塩分補給には十分です。飲んでみるとかなりしょっぱい感じがしますので、もし嫌でしたら少し塩分を少なくしてその代わり飲みやすい濃度に砂糖を入れるといいでしょう。

座長:あとは、事故を防ぐことでしょうね。子供を車に置いてパチンコにいくなんてことは犯罪そのものですし、今回の事例についても監督なりコーチなりが少し練習メニューを変えるだけで大切な部員を失わずに済んだはずです。社会的な責任はまず命を守ることだということを肝に銘じてほしいと思います。では本日はこれで終了いたします。皆さん熱心な討論をありがとうございました。


OPSホーム>投稿・報告 一覧>事後事例検証会:熱中症について


http://ops.umin.ac.jp/