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松本達雄、山田脩、梅田広行、玉川進:モニター心電図装着部位の検討。プレホスピタルケア 2003;16(2通巻54);36-39


モニター心電図装着部位の検討

松本達雄1、山田脩2、梅田広行3、玉川進4
1旭川市北消防署永山出張所、2旭川市南消防署豊岡出張所, 3旭川市北消防署救急第2係、4旭川医科大学第一病理学講座

著者連絡先
松本達雄:まつもとたつお
旭川市北消防署永山出張所:救急救命士
旭川市永山2条17丁目
tel 0166-48-2055

目的

 救急活動を行う上で心電図をモニターすることは病院選定と応急処置をする上で重要である。救急隊が使用するのは胸部近似誘導である。今までは電極を決まった位置に装着しなければ行けないという習慣があり、冬期間の屋外での活動時や公衆の出入りする場所での事案では、寒冷や患者の羞恥心のために胸部を露出して電極を装着することを躊躇したり、車内に収容してから装着することがあった。そこで、「電極を付ける場所がないから付けない」のではなく、「付ける場所を探して付ける」方法として、着衣を乱すことなくいち早く心電図電極を装着できる四肢末端を心電図モニター症着部位に選び、近似誘導との比較検討を行った。

対象と方法

 旭川厚生病院整形外科に入院中の男性患者20名を対象とした。心電図記録には現在旭川市消防本部で使用している日本光電社ライフスコープLを使用した。電極部位はライフスコープLの取扱説明書1)を参考とした誘導を近似誘導とし、電極を両手掌と左足背に装着したものを四肢誘導として、I, II, III誘導を両誘導で記録した。両者でP, QRS, T波の波高と波形を測定し比較した。
検定にはpaired t-testを用いp<0.05を有意とした。

結果

 対象背景を表1に示す。
 I誘導ではP, QRS, T波の全てで近似誘導より四肢誘導で波高が高かった。II誘導、III誘導ではP, QRS, T波の全てで近似誘導より四肢誘導で波高が低かった(図1)。
 波形の変化では、近似誘導と四肢誘導で全く違う波形が出現したものもあった(図2)。

考察

 今回の研究では若年健常ボランティアを対象とせず、入院中の男性患者を対象とした。平均年齢は61歳であった。これは救急業務では高齢者を対象とすることが多いこと、高齢者では若年者よりも心電図モニターを要する機会が多いことによる。また、四肢の電極も標準四肢誘導で用いられる手関節手掌側・足関節内側ではなく、手掌・足背を選んだ。これは研究の目的である、着衣を乱すことなくかつ迅速に電極を装着できる位置を求めたことによる。そのため標準四肢誘導という用語を用いず、四肢誘導とした。
 もともと心電図モニターはST上昇など波高を図って診断を下すものではなく、不整脈発見などの患者の状態の変化を知る目的で装着するものである。今回の結果からも近似誘導は四肢誘導と波高が異なることが明らかとなった。
 近似誘導に比べ四肢誘導ではI誘導ではP, QRS, T波の波高が大きく、II, III誘導では小さくなった。心電図モニターに汎用されるII誘導では四肢誘導より近似誘導が波高が高くなるためSTの変化が発見されやすい。しかし、教科書に載っているST波高の増減やT波の高低差の数値は12誘導を基準にしている。今回の研究から、近似誘導と四肢誘導では波高が異なるため、12誘導での数値の基準は近似誘導では必ずしも当てはまるものではないことが分かった。
 波形は近似誘導と四肢誘導でほとんどが同じだったが、中には全く違う波形が出現したものもいた。心筋梗塞などの異常波形の観察には、電極位置を変えることによって判断に苦しむ可能性がある。異常を疑う波形が出たときには、正規の近似誘導の装着部位で測定し直すことが必要となる。
 今回の研究では波形は電極の位置で異なることが明らかとなった。しかし、そのことを理解したならば、心拍を確認したり経時的な波形の変化を観察するのに四肢誘導は有用である。心電図をモニターする場合には、波高の数値のみのとらわれることなく、全体のバランスを捉えながら波形の変化を観察する必要がある。
 今回用いた四肢誘導は体動の激しい患者や不穏状態の患者には使用できないので、その場合には近似誘導をとるべきである。

結論

1.近似誘導と四肢誘導では波高が異なる。しかし、不整脈監視などの目的には四肢誘導は十分役割を果たす。
2.四肢誘導で異常を疑う波形が出たときは、近似誘導で測定し直すことが必要である。

引用文献
1)日本光電社:ライフスコープL取扱説明書

表1 対象背景
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平均±標準偏差 (最低-最高)
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人数 20
性別 男性
年齢 61±18 (23-87)
身長 164±6 (153-177)
体重 59±11 (44-80)
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図1
結果。四肢誘導と近似誘導の波高では全ての組み合わせで有意差が認められた。


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