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血圧計が替われば測定値も変わる

炭谷貴博1、亀山洋児2、玉川 進3

1南宗谷消防組合中頓別支署
2稚内地区消防事務組合消防署猿払支署
3旭川医科大学第一病理学講座

炭谷貴博、亀山洋児、玉川進:血圧計が替われば測定値も変わる。プレホスピタルケア 2006:19(5)通巻75:35-8


はじめに

 標準課程修了者の行える応急処置の一つである血圧測定は、救急患者の循環動態を把握するために重要である。現在身の回りには水銀柱血圧計、アネロイド血圧計、自動血圧計など多くの種類の血圧計が製造されている。筆者らが主に使うのは車載の自動血圧計であるが、現場でアネロイド血圧計を、また病院研修では水銀柱血圧計を用いている。また出場を依頼した傷病者があらかじめ自宅で血圧を測定し救急隊員に申告することも多い。ここで注意すべきことは、それら多くの血圧計が同じ値を示すかどうかである。

 今回我々はこれら血圧計の種類によって測定値にどのくらいの差があるかを実際に血圧を測定し検証したので報告する。

対象と方法

 血圧計は、水銀柱血圧計(EMI SPHYGMO-MANOMETER)(図1)、アネロイド血圧計(タイコス アネロイド血圧計 TR-2型) (図2)、携帯式自動血圧計(カシオ デジタル血圧計 BP-1M)(図3)、設置型自動血圧計(UEDA USM-700G)(図 4)の計4台を使用した。

図1
水銀柱血圧計(EMI SPHYGMO-MANOMETER)

図2
アネロイド血圧計(タイコス アネロイド血圧計 TR-2型)

図3
携帯式自動血圧計(カシオ デジタル血圧計 BP-1M)

図4
設置型自動血圧計(UEDA USM-700G)

 あらかじめ研究の目的と方法を説明し同意を得た入院中の患者14人に対して測定を行った。測定方法は、水銀血圧計とアネロイド血圧計は聴診法で測定し、携帯式自動血圧計と設置型自動血圧計はそれぞれ本体説明書に記載に従い測定した。患者に対しては測定5分前から測定終了後まで安静を指示し、腕と体幹が動かないように仰臥位もしくは座位で測定した。坐位での測定の場合には血圧計のマンシェットの位置を心臓と同じ高さに保った。ある血圧計について患者をどの順番で測定していくか、また一人の患者について血圧計をどの順番で装着するかは無作為に決定した。

 調査項目は対象患者の血圧測定値である。血圧測定値については一元配置分散分析で統計処理をし、p<0.05で有意とした。また各血圧計間での測定値のばらつきは、一人の患者での測定値で最大値から最小値を引いたものとし、収縮期血圧と拡張期血圧それぞれに算出した。

結果

 測定対象患者の背景を表1に、各血圧計での測定結果を図5に、各血圧計間の測定値のばらつきを図6に示す。

表1 拡大 患者背景

図5 拡大  血圧計ごとの血圧測定値。折れ線の一つ一つが一人の血圧測定値を示す。

統計学的検討では収縮期血圧・拡張期血圧ともに血圧計の違いによる有意差は見られなかった。しかし図5に示す通り、個々の測定値を見ると血圧計が異なれば測定値が異なること、またそれらの異なり方はランダムであり定まった傾向は見られないことがわかった。

図6 拡大 収縮期血圧と拡張期血圧の、血圧計の違いによるばらつき。ばらつきは4種類の血圧計の測定値での最高値と最低値の差と定義している。グラフ中の横線は平均値。

また図6に示す通り、各血圧計の測定結果は個々の患者でみると平均で収縮期血圧・拡張期血圧ともに20mmHg以上ばらついていた。

考察

 普段我々は救急現場での血圧測定にはアネロイド血圧計を、救急車内では自動血圧計を使用している。また病院研修中では水銀血圧計での測定が多い。これらの血圧計は全て測定原理が異なることから、血圧計の種類によって測定値にどのくらい差があるのか非常に興味があった。今回の研究を始める前の予想では、水銀血圧計とアネロイド血圧計の測定差は少なく、自動血圧計と水銀血圧計の測定差が大きいであろうと思っていた。実際に血圧を測定してみると血圧計の種類では統計学的に有意差は見られなかったものの測定結果は大きくばらつき、血圧計の種類の間で差がある人、ほとんど差のない人、いろいろであった。

 血圧の定義からいえば血圧は水銀柱血圧計で測定したものであり、血圧測定の基本となる。しかしながら正確な測定には血圧計本体を水平に保ったうえで目盛りを直角に読む必要があること、通常聴診法で測定しなければならないことから救急現場での使用には耐えられない。

 アネロイド血圧計は、水銀血圧計に比べコンパクトなうえ目盛りが回転式のものが多く読みやすい。様々な救急現場での測定を考えると、設置場所を選ばす数値が読みやすいアネロイド血圧計が有用と考える。しかしこれも聴診法での測定には聴診器が必要であり、さらにアネロイド血圧計は測定にバネを使っているため、バネの劣化により測定値が狂う可能性がある。

 自動血圧計はマンシェットを巻きスイッチを入れると自動で測定ができ操作が楽なのに加え、測定に聴診器がいらないことは省力化に大きく寄与する。しかしオシロメトリック法で測定しているため振動には弱い。今回2種類の自動血圧計を用意したが、血圧値が一致した人は一人もいなかった。オシロメトリック法は空気の振動を感知して数値に表す方法であるが、オシロメトリック法での振動の出現点・消失点は収縮期血圧・拡張期血圧と一致しないし、それらを結びつける理論的根拠も存在しない1)。このため同じオシロメトリック法を採用していてもメーカーや機種によって測定値が異なることは十分考えられる。

 使用する血圧計によってこれだけ血圧値がばらつくのは驚くべきことである。血圧の測定値に影響を与える要因として測定時の体位、測定の順番、測定者の別などが考えられるものの、今回の研究においては体位は血圧計が異なっても同じであり、また測定の順番も全くのランダムであったため結果に影響を及ぼしたとは考えられない。ただ、4つの血圧計ごとに測定者を決めていること、水銀柱血圧計とアネロイド血圧計は数値を読みとるという行為に主観が入る可能性があることから、この点がばらつきの原因となったことは考えられる。しかしながら測定者を決めていることも数値の読みとりに主観が入る可能性も救急現場では起こりうることである。

 アネロイド血圧計では水銀柱血圧計に接続して定期的に校正すること、またオシロメトリック法を用いる血圧計の場合には、測定した血圧計の機種と測定結果を考慮することが現場では必要となる。同様に医療機関へ血圧測定値の報告も、使用した血圧計の種類と測定結果を報告することが望ましい。例えば、現場でアネロイド血圧計を使用し血圧を測定、車内収容してから自動血圧計を使用した場合は、厳密な測定比較は難しいと考える。

結論

(1)同じ患者でも血圧計によって測定値は異なる
(2)血圧計を途中で変更した場合は、厳密な血圧比較は難しい

謝辞

今回入院患者さんに研究の協力をお願いしまたが、みなさん快く協力していただき、大変助かりました。患者さんから「私の血圧が研究に役立つのかい?頑張って研究してね」と逆に励まされました。コミュニケーションの大切さも、今回の研究で再認識しました。

文献

1)伊藤寛志:特別講演I 間接法による血圧測定の進歩と現状。臨床モニター 1992;3s:9-15


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06.10.29/12:32 PM