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事後事例検証会:突然死。プレホスピタルケア 2003:16(2)通巻54:64-7


事後事例検証

本日の議題
突然死

傷病者の概要

 55歳女性。

 半年前からズボンがきつくなったことを自覚していたが、太ったせいだろうと放置していた。

 1か月前にひどい下痢をし、近医を受診したところ腹部に腫瘤があることを指摘された。総合病院の内科を受診し、CTにて後腹膜腫瘍であることが確認された。腫瘍は既に下大静脈に浸潤しており、肝門部以下の下大静脈には腫瘍塞栓が認められた。さらに精査をすべく入院予約をし、翌日は入院の予定であった。

 当日朝6時、いつものように朝食の準備をしていたところ突然倒れた。倒れた場面は誰も目撃していなかった。大きな物音に目を覚ました家人が倒れている傷病者を発見、119番通報した。指令台では口頭でCPRを指示した。

観察結果

 5分で現場到着。現着時傷病者は今で仰臥位となっており、夫が人工呼吸と心臓マッサージをしていた。ただちに救急隊が引き継ぎCPRを継続した。

 観察結果は、意識III-300、呼吸・脈拍なし。チアノーゼが四肢末端に認められた。心電図では心静止であった。

活動状況と経過

 指示医に現状を報告し特定行為の指示をもらう。心室細動波形が見られないためスミウエイチューブのみ挿入し車内収容。病院までの6分間は状態に変化は見られなかった。

 院内でもCPRを継続したものの30分後に死亡確認した。

 遺族と担当医が協議し、解剖が行われることになった。

質疑応答

 この症例の死因として何を疑うべきでしょうか。

座長:救急隊としては全く何もできなかった症例です。フロアからの質問をどうぞ。

A:ご主人が発見した時の状況を詳しく教えてくれませんか。
救急:ご主人の話によると、入院を控えていましたし、癌の可能性が大きいことからかなり神経質にはなっていたようです。前日の夜も眠れないと言っていましたが、ご主人が先に寝てしまったためそれからのことは分かりません。睡眠薬などは持ち合わせてはいないとのことです。当日朝はご主人は寝ているうちに奥さんが起きたそうで、突然「ドカッ」という大きな音がしたので驚いて台所へ行くと奥さんがうつぶせで倒れていて、慌てて揺り起こしても反応がないし、息もしていないようなので救急車の出場を要請したそうです。

B:ということは、薬を飲んで自殺したのではないのですね。
救急:服毒の可能性はないようです。ご主人に確かめましたし、また台所の回りを探したりもしましたが、睡眠薬や農薬などの飲んだあとはありませんでした。

C:CPRに心臓の方は全く反応しなかったようですが、夫が気づいてから通報までどれくらい経っていたのでしょう。
救急:ご主人の話だとほとんど時間がかかっていないとのことですが、気が動転していたためはっきりしたことはわかりません。現着後にすぐ心電図を確認したのですがもう心静止で、こちらの処置にも反応することはありませんでした。

D:心疾患とか脳疾患とかの既往はなにかありましたか。
救急:特にありません。今回の、後腹膜腫瘍が初めての病気だったようです。

座長:通常このような例では急性心不全として簡単な死因の検索をする程度なのですが、今回は解剖までしています。これはどういった理由なのですか。
医師A:一番の理由は死因が全く不明であることです。突然死では通常心臓か頭を考えますが、今回は前兆なく突然倒れてそのまま戻らなかったことから心臓に何か原因があるとは考えました。頭の場合、例えばくも膜下出血では急に意識は消失しても、それですぐ心臓が止まるとか、蘇生に全く反応しないことは考えづらいので。ほかに考えられる可能性としては、下大静脈に腫瘍塞栓があることがすでに分かっていましたので、それが遊離して肺塞栓になったのではと考えました。ご遺族は突然の出来事に当惑していましたが、心臓病か癌なのか、死因をはっきりさせておいた方がいいと解剖に同意したようです。

座長:では、ここで救急隊の皆さんには死因として考えられる疾患を上げてもらいましょう。
F:心筋梗塞が一番可能性があるのではないでしょうか。ほかには今おっしゃっていた肺塞栓ですか。
医師B:心筋梗塞が確かに考えられますね。おなかに悪性腫瘍があるのならそれが破れて出血したとか、腫瘍塞栓であっても脳梗塞とか心筋梗塞になったとか、いろいろ考えることは可能でしょう。

座長:それでは、担当の先生に解剖結果を説明してもらいましょう。
医師C:全経過を通じて蘇生術に全く反応していないことから、腫瘍塞栓で右心室系が完全閉塞し、そのため心拍出が途絶して死亡したのではないかと考え、下大静脈の腫瘍浸潤を中心に解剖しました。ところが、腫瘍は下大静脈壁に浸潤していたものの、静脈内腔に突出した量では右室系の完全閉塞を来すとは考えられませんでした(写真1)。また両肺の肉眼所見でも、肺動脈には塞栓は認められませんでした。


図1
背側から肝門部をあおり見たところ。
腫瘍は下大静脈に顔を出しているが閉塞するほどの体積はない。

 次に心臓の観察に移りました。冠状動脈の動脈硬化は年齢より軽度であり、心筋梗塞の所見も認められませんでした。次に、両心室を水平断にしたのがこの写真です(写真2)。


図2
症例の心臓水平断。
左心室は異常に肥厚し、本来あるべき左心室内腔が消失している。
図3と比べて内腔の消失を確かめること

正常の写真(写真3)と比べれば、左心室の壁の厚さが異常に厚いことが分かると思います。


図3
正常成人の心臓水平断。
25歳男性。スポーツマン心臓で左心室は肥厚しているが、病的意義は少ない。
色が茶色いのはホルマリンで固定しているためで異常ではない。

 さらに心室中隔の肥厚も著明で、大動脈弁の直下で左心流出路が閉塞する特発性肥大性大動脈弁下狭窄症IHSSであることが分かりました。

座長:ありがとうございました。それではIHSSについて説明して下さい。
医師D:肥大型心筋症は心筋症の1形態で、心臓の負荷に相当しない肥大であり、この肥大が心機能を妨げるものです。IHSSは肥大型心筋症の一種で、名前の通り大動脈弁の下が狭窄するものです。肥大型心筋症の心臓肥大は、その特徴として、非対称的に、心臓の一方の側だけを冒します。これは心室を縮小し心室からの流出路を狭めて、弁がきちんと機能を果たす能力を低下させて、心臓の機能を阻害します。平たく言うと心臓の出口の弁の下がぎゅっと細くなるものです。それも心臓が元気良く動くほど細くなる。運動中に突然死する原因となるのはこのためです。
 原因はタンパクの異常と考えられており、患者の半数には家族歴があって常染色体優性遺伝とさせています。
 発症は10~30歳代で、初発症状は狭心痛や呼吸困難です。その他の症状としては、特に動作の後で起こる失神、めまい、動悸があります。症状が進行すると心不全症状、つまり疲労や浮腫等も起こってきます。症状は心臓の収縮を増やすような状況、たとえば過激な運動、ストレス、興奮によって発症・増悪します。
 検査としては心エコー検査で心臓壁の肥厚や弁下部の狭窄を確認できます。
 予後はいろいろです。全く症状がなくて正常な寿命を全うする人もいますし、若くして突然なくなることもあります。この突然死はいつでも起こりますし、運動選手の突然死の最大原因とされています。

座長:ありがとうございました。この病気は遺伝するんですね。
医師E:はい。この患者には二人の子供がいます。この病気が分かったことだけでも解剖した甲斐はあったようです。子供たちには来月に精密検査をする予定でいます。

座長:私も高校生の事例を経験しています。一つは男の子で体育のランニング中に倒れた事例で、これは体育の先生がCPRを行い後遺症なく回復しました。もう一つ、私ではないのですが、やはり高校生の女の子で通学中に突然倒れて、これはバイスタンダーCPRがなく亡くなってしまいました。このことからも応急処置の普及活動がいかに大切か分かると思い、講習会では必ず話しています。
 では、他に質問がなければ終了したいと思います。皆さん今日はどうもご苦労様でした。


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06.10.29/12:31 PM