OPSホーム>投稿・報告 一覧>炭谷貴博、横山正志、古谷裕一、渡辺光司、鳥田博、玉川進:小学2年生までは人を呼び、小学3年生からは力の限り胸骨圧迫を行う。プレホスピタル・ケア 2008;21(4):57-63

プレホスピタル・ケア2008;21(4):57-63
「研究論文」

小学2年生までは人を呼び、小学3年生からは力の限り胸骨圧迫をおこなう

炭谷貴博1、横山正志1、古谷裕一1、渡辺光司2、鳥田博1、玉川進3


ご意見をいただきました。

2009-3-17 tue

大阪府在住の二児の母親です。子供(小1)にCPRを教えられるのか、迷っていたので、こちらの論文記事は非常に参考になりました。北海道は一度も行ったことはありませんが、検索で貴会のホームページにたどり着きました。これからも、お体に気をつけて、頑張って下さい。

→ありがとうございます。励みになります


1南宗谷消防組合中頓別支署
2稚内地区消防事務組合消防署猿払支署
3旭川医科大学病理学講座腫瘍病理分野

著者連絡先
炭谷貴博(すみやたかひろ)
南宗谷消防組合中頓別支署:救命救命士
098-5551 北海道枝幸郡中頓別町字中頓別
電話:01634-6-2119
ファックス:01634-6-1843


炭谷貴博(中頓別)筆頭執筆者

横山正志

玉川進、古谷裕一

渡辺光司

鳥田博


はじめに

 バイスタンダーCPRの重要性は広く認識されている。さらにガイドライン2005 1) で絶え間ない胸骨圧迫が強調されたことにより、現場に遭遇した人が躊躇なく胸骨圧迫を行えるような指導が我々消防職員に求められている。

 バイスタンダー養成のためには救命講習対象を広く募る必要がある。しかし我々の勤務する南宗谷消防組合中頓別支署で実施している救命講習会は中学生以上を対象としており、小学生は救命講習会に対しての理解力と体力が劣ることを考慮し対象外としていた。今回我々は小学生に対する救命講習会開催の可能性を探るべく、胸骨圧迫について小学生がどのくらいのことが実施可能か、小学生全児童を対象に講習会を実施し検討した。


対象と方法

 我々の勤務する町の中頓別小学校全児童を対象とした。あらかじめ学級通信を通じて保護者に対して研究の目的を説明した。研究に不参加を申し出た者はおらず、口頭で承諾を得たものとして実施した。

 初めに心臓の位置を説明し、心臓が止まった場合に胸骨圧迫が必要であることを教えた。次に胸骨圧迫の手の位置、胸骨圧迫の方法、圧迫の深さをデモンストレーションしながら約3分程度説明を行った。さらに良い例・悪い例の胸骨圧迫をデモンストレーションした。

 図1  救命講習の実施風景

 次にレールダル製レコーディングレサシアン(カタログ番号200010)に対し胸骨圧迫を1分間100回連続実施してもらい、押す深さを測定した。胸骨圧迫のリズムは、クリップ式メトロノームを使用し、音のリズムに合わせて実施してもらった(図1)。人工呼吸を行わず胸骨圧迫のみの検討としたのは全員を一日で測定するため時間が限られていたこと、今回の結果を踏まえて今後の講習会で人工呼吸を教育する予定のためである。また時間はガイドライン2005の提唱する「胸骨圧迫30回人工呼吸2回1クール2分」を採用せず、低学年が集中できるであろう時間を考慮して1分間とした。

 検討項目は学年差・性差・身長差・体重差・1分間の疲労である。学年差・性差・身長差・体重差の検討には児童それぞれ100回の胸骨圧迫の深さの平均値を用いた。

 また翌日には学校の好意により自由記入式の感想を書いてもらった。

 統計処理は、学年差は一元配置分散分析, Ad hoc としてFisher's PSLD、性差は各学年ごとではt検定、児童全体では正規検定、身長差と体重差は回帰分析を用いた。有意水準は0.05とした。


結果

1.対象

表1  対象児童

対象児童は95名であった。身長体重については5年生で男子が女子に比べ、6 年生で女子が男子に比べ身長体重ともに大きかった(表1)。

2.年齢別の比較(図2)

図2拡大  学年別の結果。押す深さの平均は1・2年生に比較して3・4・5年生では有意に大きい。6年生については本文参照。エラーバーは標準偏差。*p>0.01

1・2年生に対して3・4・5年生では有意に深く押すことができた。

1年生(6歳) 平均で1.06cm。体重が軽いため十分な胸骨圧迫は難しいと思われた。

2年生(7歳) 平均で1.19cm。1年生同様、十分な胸骨圧迫は難しいと思われた。

3年生(8歳) 平均で2.40cm。最大で4cm以上押せている子が14名中5名いた。

4年生(9歳) 平均で2.10cm。3年生よりも平均が下がっていた。最大で4cm以上押せている子が17名中4名。

5年生(10歳) 平均で2.45cm。この学年がもっとも深い胸骨圧迫ができていた。特に男子が深く押せており、最大で4cm以上押せている子が9名中7名であった。

6年生(11歳) 平均で1.68cm。3年生(8歳)よりも深く押せていなかった。最大でも3.1cm押せているのが最高であった。

表2  最大で3.8cm以上押せている割合

最大で3.8cm以上押せている人数の割合を表2に示す。

3. 性別による比較

図3拡大  男女差の結果。押す深さの平均は5年生で男児が女児に比べて有意に大きい。児童全体でも男児が有意に大きい。エラーバーは標準偏差。

胸骨圧迫では1年生から5年生までは男子が、6年生だけは女子が深く押せていた。男女間で有意差は5年生のみ認められた。児童全体では男子が女子に比べて有意に深く押せていた。(図3)。

4. 身長と体重による比較

図4拡大  身長(a)体重(b)と押す深さの平均との関係。両者には有意な相関が見られる。

身長・体重と押す深さには有意な相関が見られた(図 4)。

図5拡大  学年ごとの身長・体重と押す深さの平均の関係。6年女子以外(a, b。比較のため5年女子を掲載している)は身長・体重と押す深さの平均は正の相関が見られたが、6年女子だけは負の相関となった(c,d)。全てのグラフでp<0.01。

しかし学年ごとに検討すると、6年生女子以外では身長・体重と押す深さに正の相関が見られたのに対して、6年女子のみ身長・体重と押す深さが負の相関であった(図5)。

5.1分間の疲労

図6拡大  1分間での疲労を示すために代表的な3例を示した。時間とともに深く押せなくなるタイプ(a)、一回ごとに深く・浅くなるタイプ(b)、何回かまとまって強弱があるタイプ(c)。

各学年とも時間が経過すると疲労により押す深さが浅くなっていた。100回目の押す深さを見ると、学年が上がるにつれて深く押せており、疲労による影響は少なくなっていた。個別に見ると、時間とともに深く押せなくなるタイプと、一回ごとに深く・浅くと強弱があるタイプがあり、また数回まとまって強弱を繰り返すタイプもあった(図6)。

6.感想

 2、4、5、6 年生から感想を受け取った(表 3)。2 年生では胸骨圧迫を行う前はドキドキしたこと、実施した後「疲れた」「手が痛くなった」などの感想が多かった。少数ではあるが、誰かが倒れていたら心臓マッサージをやってみるという感想もあった。4 年生では「力が必要だ」「また練習したい」とうい感想が多かった。5・6 年生では、貴重な経験・体験ができたという感想が多かった。


考察

 今回の研究では押す深さについては、2年生から3年生に上がる時点で押す深さが有意に深くなっている。また3年生から上の学年になるにつれて、ガイドライン2005で推奨する胸骨圧迫の深さ3.8cmもしくは4cmに到達できる子がだんだんと増えること、押す深さは6年生女子以外で体重と相関することが明らかとなった。しかし学年の平均ではガイドライン2005が推奨する深さに達している学年はなかった。しかしこれをもって「小学生には胸骨圧迫は不可能である」とこの研究の結論を導くつもりはない。なぜならガイドラインは蘇生行為のただ一つの方法でも2)全ての救助者に当てはまるものでもなく3)、「医療行為を制約するためのものではな」い4)。また指導者は状況に応じてガイドラインを当てはめるべき3)だからである。小学生であってもCPA傷病者に遭遇する可能性はある。指導者たる我々は本研究の結果を踏まえて、以下に述べるように小学生であっても有効な蘇生行為ができるように指導したい。

 研究前の予想では年齢が上がるにつれて押す深さも増えると考えていたが、結果としては色々な要素があることがわかった。

 低学年に関しては、体格が小さいため十分な胸骨圧迫が難しい。そのため例えばクラスメートが突然倒れた場合には「周りの人にそのことを素早く伝える」ことを我々は児童に教えるべきである。また小学3年生以上であっても体重の軽い子は十分な胸骨圧迫を行うことは難しい。もしそういう子が胸骨圧迫を行うような場面に出くわした場合は、本人が胸骨圧迫を実施するのではなく、大人もしくは体重の重い人に助けを求めることに専念したほうがいい。

 3 年生以上の中高学年に指導する場合には、誰かがすぐ助けを求めることに加え、居残ったクラスメートは力の限り「胸骨圧迫を行う」ように指導するべきである。また3年生以上であっても1分間で疲労がみられるので、30対2の心肺蘇生法を実施する場合、1サイクル未満でも胸骨圧迫を他の人に交代したほうが十分な深さの胸骨圧迫を期待できる。

 5 年生では男子が、6 年生では女子が深く押せるのは体格の差に起因している。また6年生女子では5年生以下の女子より身長・体重の平均で上回っているのに押すのが浅く、さらに身長体重と押す深さとの間には負の相関が見られた。これは6年生女子では他の学年に比べて周りの目を意識し押すことを恥ずかしがったためである。我々筆者らが懸命に励ましても同級生の顔色を伺い深く押そうとしない児童が多かった。

 今回の結果から蘇生法を教えることについても学年で異なった工夫が必要であることが明らかとなった。つまり、研究実施後のアンケートからは、小学1・2年生は緊張が先に立ってしまう。これは胸骨圧迫の意義が分からず、大きな大人に対して胸骨圧迫を行うこと自体に恐怖心を持つ可能性が大きいためと思われる。そのため理屈抜きで「こういう場合は、こうしましょう」と具体例を簡潔に話し、その後実際にやってもらうことで恐怖心を払拭させるべきである。3年生以上は理科で体のしくみを学ぶので、心臓・肺などの簡単な解剖生理を含めた話をし興味を持ってもらってから実際にやってもらうことが有効と思われる。アンケート結果からは4年生以上で蘇生の大切な手技として胸骨圧迫を理解できるようになるので、知的好奇心を満たす努力も必要となる。さらに5年生以上になると十分な深さの胸骨圧迫が可能となるため、現場に即した積極的な指導も可能となる。

 だがここで、6年生女子については特別な配慮が必要となる。6年女子は第二次性徴発現時期と重なり多感な時期を迎えている児童が多いと想像される。胸・もしくは乳房を押すことの恥ずかしさと、周りのクラスメートの視線が気になって十分な深さの胸骨圧迫ができない子が多かった今回の結果から、人を救うためには恥ずかしがってはいけないと教えることと、可能なら一人一人パーティションで仕切り他のクラスメートの視線を遮断する工夫が必要と考えられた。

 今回の児童を指導してみて、また講習後の児童からの感想からも、小学生の低学年から救命講習会を実施する意義は胸骨圧迫に対する恐怖心を取り除くことにあると認識できた。 倒れて意識がない人に対して胸骨圧迫が実施できる自信をつけさせるばかりではなく、救命講習会を通じて命の尊さを学ぶことにも繋がる。胸骨圧迫を満足な深さまで押せない学年にまで救命講習を受講させることは、児童たちが将来十分な体格になる時に備える5)意味もある。

 今回の研究結果を踏まえて我々は小学生への受講拡大を進める予定である。


結論

1)小学生ではG2005の推奨する深さの胸骨圧迫を持続することを期待することは難しい

2)小学2年までは「周りの人に「人が倒れた」を素早く伝える」よう指導すべきである

3)小学3年以上では「周りに伝える」ことに加えて「力の限り胸骨圧迫を行う」よう指導すべきである

4)学年によって異なった指導法が必要である。


謝辞

今回の研究は、中頓別町立中頓別小学校の全面的な協力を得て実施することができました。児童・教職員とPTAの皆様に深く感謝いたします。

→中小学校だよりH18年11月号


文献

1)ECC Committee, Subcommittees and Task Forces of the American Heart Association:2005 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care.Circulation 2005;112(24 Suppl):IV1-203.

2)Basckett P, Zideman D: Preface. Resuscitation 2005;6715:51

3)ECC Committee, Subcommittees and Task Forces of the American Heart Association:2005 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care.Circulation 2005;112(24 Suppl):IV-4

4)日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会。救急蘇生法の指針2005医療従事者用。日本救急医療財団心肺蘇生法委員会監修。改訂3版。へるす出版。東京、2007、p5

5)Jones I, Whitefield R, Colquhoun M et al: At what age can schoolchildren provide effective chest compressions? An observation study from the Heartstart UK school training progremme. BMJ 2007;334:1201-1203


表3  児童の感想

2年生
心臓マッサージをやるとき手が痛くて痛くて手があかくなりました。
心臓が止まっている人に心臓マッサージをすると、心臓が動き出すことがわかりました。
心臓マッサージの練習をして、とてもどきどきした。とってもがんばりました。またやりたいです。
今まで心臓がどこにあるのかわかりませんでした。
心臓マッサージの手の位置を教えてくれました。
心臓マッサージを1分間やってつらかったです。
心臓マッサージは私の番になるとどきどきしました。1分やると汗が出た。
心臓マッサージをするときは、手をはなさずくりかえしてやることがわかった。
心臓マッサージが楽しかったです。もう一回やりたかったです。
心臓マッサージをやっているとき「上手だね」と言ってくれた。もしかしてお母さんが「おつかい行ってきて」と言って、帰りに人が倒れていたら心臓マッサージをすればいいとわかりました。
心臓マッサージのとき、緊張して、息が止まる場面もあったけど、楽しかったのでよかったです。
心臓マッサージの練習をしているとき「がんばってね」と言われ、がんばりました。疲れました。だけどまたやりたいと思いました。
心臓マッサージは、けっこう力がいることがわかりました。終わると力が抜けてきました。

4年生
心臓マッサージの練習をしました。人それぞれ違いがありました。
心臓マッサージの力が足りないと思いました。
心臓マッサージの練習をやらせてもらって、とてもうれしかった。
みんな同じスピードで、同じ力でやっていました。3年生の男子はすごく強くやっていてすごいなあと思いました。
心臓マッサージの体験をしました。将来看護師になりたいので、一生懸命やりました。
誰かが倒れていたときの練習をした。またやりたいです。
心臓マッサージをやった後、手が少し赤くなって痛かった、これをやっている人たちはすごいなあと思いました。またこういう機会があればもっと教えてもらいたいです。
先生達は力が強くて上手でした。でも私はどんだけ力を入れても押せなかったです。でも他の人たちは力強く押せていたので、これで心臓が止まっても大丈夫だなあと思いました。
1分間やるのがつらかった。
すごく力がいるんだなあと思いました。すごく楽しかった。
心臓マッサージの練習は1分間リズムをとってやるのが、少し大変で難しかった。

5年生
誰かが倒れていたら、私が助けたいと思いました。
貴重な体験ができて、とても楽しかった。
とてもいい体験ができてよかったと思いました。
心臓マッサージの練習、これから習ったことをいかしてかんばっていきたいと思います。とても楽しかった。
今度人が困っていたら助けたいと思います。
心臓マッサージは疲れたけど楽しかったです。もし倒れている人がいたら「勇気を出して心臓マッサージ」をします!
心臓マッサージ、いい経験になりました。
心臓マッサージは、結構体力を使いまいした。何かあったときには、教えてくれた事を活かしていきたいです。
心臓が止まって倒れた人がいたら、教えてもらった心臓マッサージを活かしたいと思います。
初めての体験でした。またこんな機会があればまたやりたいです。
心臓マッサージは実際にやってみて、勉強になりました。
心臓マッサージ、いい経験になりました。
家の人が倒れたときに心臓マッサージができるようになりました。

6年生
1分やるだけであんなに疲れると思わなかった。
同じリズムで心臓マッサージをするのはとても難しかった。これから心臓マッサージをやる機会があったらがんばります。
人を助ける事は、とても良い事だと思いました。心臓マッサージを長い時間するのは、辛いと思いました。
また機会があったらやりたいです。
1分でも疲れた。心臓マッサージを覚えれば、人が倒れた時などに役立つと思います。
これでもし誰か倒れたら助けてあげることができます!私たちは次中学生です。中学校でも教えてください。
心臓マッサージは結構「力」が必要だということを知りました。ちょっと疲れたけど良い勉強になりました。
いざというときに役立ちそうです。


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http://ops.umin.ac.jp/

09.3.17/9:36 PM