OPSホーム>投稿・報告 一覧> 池田雅司、阿波祐介、津島勇太、他: 静脈路固定時はループを作るべきだが生体では抜去されやすい。 プレホスピタル・ケア 2010;23(2):48-50

静脈路固定時はループを作るべきだが生体では抜去されやすい

池田雅司1、阿波祐介1、津島勇太1、吉田琢哉1、佐藤和幸1、畑俊一1、渡邊孝司1、玉川進2

1紋別消防組合消防署雄武支署
2旭川医科大学病院病理部

著者連絡先
池田雅司(いけだまさし)
写真:ikeda.jpg
紋別消防組合消防署雄武支署:救急救命士
098-1702 北海道紋別郡雄武町字雄武幸町
TEL 0158-84-2052
FAX 0158-84-2900

はじめに

 平成3年に救急救命士法が制定され、医師の指示のもと救急救命士が器具による気道確保・自動体外式除細動器による除細動・静脈路確保の為の輸液が行えるようになった。救急救命士数の増加に伴い、救急救命処置実施数は増加してきたが、静脈路確保に関しては微増であった。しかし、平成18年以降は救急救命士による薬剤(アドレナリン)投与が認められ、大幅に静脈路確保の実施数が増加した1)。

 救急活動における静脈路確保では傷病者の移動など様々なリスクファクターが存在する。穿刺に成功した静脈路を事故抜去してしまうということはあってはならない。これは救急隊はもちろん、共に活動する消防隊・救助隊にも共通の認識で活動しなければいけないことである。しかし認識だけで全ての事故抜去が防げるはずはなく、不用意の外力に対して静脈路を抜去から防ぐ固定法も熟知している必要があろう。筆者のような小規模消防の救急救命士はCPA事例が少なく静脈路確保の経験が浅いため、不用意の外力を静脈路に及ぼす可能性はないとは言えない。そこで、どのくらいの負荷が静脈路にかかると留置針が抜去してしまうのかという疑問を解くために、静脈路の強度を測定したので報告する。

実験材料と方法

(1)材料

1)模擬腕        レールダル社 レサシアンシミュレーター
2)固定テープ      NICHIBAN エラストポア 
3)ドレッシングテープ  Kenz サージンフィルム30ミクロンNo.80(8cm x 12cm)
4)輸液セット      TOP R036E75H
5)静脈留置針      TERUMO サーフロー留置針 20G
6)生体 筆者のうち1名の右上腕を使用

(2)方法

 模擬腕には20G留置針で穿刺、図1-3に示す方法で固定した。静脈路にビニール袋を巻き結びにて固定し、500mlペットボトルを1本ずつそっとビニール袋に入れ外筒が数mm抜去するまでを観察し、抜去に至ったペットボトルの本数より1本少ない本数を「耐えられる負荷」として記録した。観察時間はペットボトル1本につき最大2分とし、外筒が数mm抜去された場合はそこで観察終了とした。ペットボトルの重さは1本500gとした。

 生体には静脈穿刺は行わず、静脈路の先端を模擬腕と同様に固定した。模擬腕と同じ方法でペットボトルで負荷をかけ、静脈路の先端がずれるまでを観察し、ずれに至った本数より1本少ない本数を「耐えられる負荷」として記録した。すべての実験は1度だけ行っている。

(3)固定

 模擬腕、生体とも3種類の固定方法について調べた。また模擬腕では3種類の静脈路の牽引方法についても調べた。

1)固定方法

(a)ドレッシングテープ+ループ+固定(図1)。固定テープ、ドレッシングテープともに前腕に直接付着している。ループは固定テープで前腕に固定されている。固定テープはドレッシングテープとは離れている。ドレッシングテープは穿刺部位を保護するために貼っている。

(b)ドレッシングテープ+ループ(図2)

(c)ドレッシングテープ(図3)

2)牽引方向

(a)内側:前腕を水平に、穿刺部分を天井に向け、静脈路を鉛直に垂らす
(b)末梢:前腕を垂らし、静脈路も鉛直に垂らす
(c)下方:前腕を水平に、穿刺部分を地面に向け、静脈路を鉛直に垂らす

結果

(1)牽引方向の比較

 模擬腕を用い、「ドレッシングテープ+ループ+固定」で固定した結果では内側3.5kg、末梢側と下方が4kgであった。

(2)固定方法による比較

 牽引方向を内側とした結果を図4に示す。

図4
牽引方向を内側にした場合の、固定方法による比較

 固定方法の検討では、模擬腕・生体にかかわらず、ドレッシングテープ+ループで固定したものが最も耐えられる負荷が大きかった。ループを作らずドレッシングテープだけで固定した場合は模擬腕であっても1kgしか耐えられなかった。模擬腕と生体の比較では、全ての固定方法で生体は耐えられる負荷が小さく、その値は模擬腕の約半分であった。

考察

 模擬腕を用いた実験では、ループを作成することで耐えられる負荷が二倍になり、しかも牽引方向に関係なくその効果がもたらされることが示された。た。このことから、必ずループを作成することが重要になる。現場離脱を早期に行いたいと思い固定を疎かにしてしまうと、せっかく確保した静脈路を失ってしまう可能性が高くなるため、きちんと固定することが重要である。

 次に生体の腕を使用した結果では、模擬腕に比べて耐えられる負荷が約半分になることが判明した。我々は静脈路確保の訓練は模擬腕で行う。このため模擬腕でのしっかりした固定の経験から、「生体でこれくらい静脈路を引っ張っても大丈夫」と勘違いしてしまう可能性がある。さらに今回の実験は抜去事故のような、瞬間的に大きな力を加えるのものではない。いくらループを作ると固定力が増すとしても、衝撃に対してはまだ固定が足りないと思われる。加えて静脈路確保は生体に対する行為であり、生体では汗・垢等の様々な要因で抜去されやすいので、愛護的に静脈路を扱う必要がある。

引用文献

1)総務省消防庁:平成19年救急・救助の概要。2008、p13


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10.8.23/1:06 PM