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プレホスピタルケア 研究論文

現場滞在時間遅延に影響する因子について

天羽哲郎1、長島淳1、萩原琢1、鈴木良志1、郡山一明2
1埼玉県上尾市消防本部
2救急救命九州研修所

天羽哲郎(あまは てつろう)
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上尾市消防本部
〒362-0013 埼玉県上尾市上尾村537
電話 048-775-1311
FAX 048-775-2230


はじめに

 平成27年5 月に救急救命九州研修所で行われた指導救命士養成研修で、持参した地域データを解析して問題点を検討する「自地域をさぐる」という講義があった。全国から集まった100地域の比較において、当地域は平均で搬送時間が9.7分と100地域と比較しても遜色ない短かさにも関わらず、現場滞在時間が20.5分と著明に長い特徴があった(図1)。

図1
全国の研修生が持ち寄った平均現場滞在時間のデータをグラフ化したもので最多は11?13分台、平均値は14.6分、中央値は13.3分であった。
上尾市の平均値は20.5分で他の埼玉県内の研修参加消防本部も20?24分台と現場滞在時間が長い傾向が示された。

次に平均搬送時間と平均現場滞在時間を散布図にしたところ、搬送時間は短いが現場滞在時間が非常に長いことが示された(図2)。

図2
平均搬送時間と平均現場滞在時間を散布図にしたところ、上尾市は、搬送時間は短いが現場滞在時間が非常に長いことが示された。(現場平均14.6分 中央値13.3分 搬送時間平均13.5分 中央値12.5分)

 これらの結果は、滞在時間の短縮を図ることが課題であることを示している。課題克服のためには、まず問題点を明らかにしなくてはならない。現場滞在時間は、観察・処置時間と医療機関との搬入要請電話連絡時間の和である。具体的には(1)観察・処置時間(2)救急救命士の連絡方法(スキル)(3)病院受け入れ体制(一箇所集中)が現場滞在時間に影響を及ぼす。そこで我々は客観的に評価可能な要請電話連絡時間の問題点を明らかにすべく、救急救命士別、医療機関別にその実態を調査した。


対象と方法

 平成26年の上尾市の救急活動記録から必要事項を抽出した。平成26年の救急搬送人員は8752名であった。

 調査項目は以下のとおり。
・救急救命士35名別の平均要請電話連絡時間、回数
・主な受け入れ16医療機関別の平均電話連絡時間、受け入れ率
・程度別平均電話連絡時間
・各傷病程度の比率
 統計処理は回帰分析を用いた。

結果

1.各救命士の平均要請電話連絡時間(図3)

図3
各救命士の平均要請電話連絡時間
最多は5分台で51.4%、次が4分台で40.0%で4分、5分台で全体の91.4%を占めていた。

 最多は5分台で51.4%、次が4分台で40.0%で4分、5分台で全体の91.4%を占めていた。
 所属の救命士(年間100回以上隊長として出動)、35名の平均要請電話連絡時間は最短で4.3分、最長で7.3分と約3分の差が見られた。
 平均値より短時間は22名、長時間は13名であった。

2.要請連絡会数と選定回数(図4)

図4
要請連絡会数と選定回数。要請所要時間は要請回数に有意に関連していた。

 全体の要請回数の平均は、1.4回で2回以上の要請率は18.2パーセント、4回以上は4.0パーセントであった。
 ちなみに埼玉県の2012年の要請回数4回以上の要請率は10.4パーセントであった。
 要請所要時間は要請回数に有意に関連していた。

3.各病院の要請平均時間(図5)

図5
最短で2.2分(MC救命センター)、最長で7.6分、受け入れ率は29.4~90.5%と3倍以上の差が見られた。
受け入れ率と要請平均時間には相関はなかった。

 最短で2.2分(MC救命センター)、最長で7.6分、受け入れ率は29.4~90.5%と3倍以上の差が見られた。
 受け入れ率と要請平均時間には相関はなかった。

4.程度別平均電話連絡時間(図6)

図6
軽症・中等症が5分台で個人の平均より長く、重篤になるほど短くなり、重症と死亡では約2分の差が見られた。

 軽症・中等症が5分台で個人の平均より長く、重篤になるほど短くなり、重症と死亡では約2分の差が見られた。

5.傷病程度の比率(図7)

図7
軽症が全国の49.1%に対し上尾市全体は57.6%、上尾市の約6割搬送しているA病院にあっては63.7%であった。

 軽症が全国の49.1%に対し上尾市全体は57.6%、上尾市の約6割搬送しているA病院にあっては63.7%と軽症率が高い傾向が見られた。

6.搬送件数に占める軽症者の割合(図8)

図8
搬送件数に占める軽症者の割合。埼玉県、特に人口過密部の軽症患者搬送が多いことが示された。

 救急救命九州研修所で行われた指導救命士養成研修の参加者が持ち寄ったデータによる解析。埼玉県、特に人口過密部の軽症患者搬送が多いことが示された。

考察

 救急救命士別の平均要請電話連絡時間に個人の差があったことは、医療機関との伝達要領の熟達度に差があることを意味している。実際、これまで救急救命士の病態伝達訓練は少なく各個人に任せていた。指導救命士養成研修で得た知識を活かして体系的訓練を実施する必要があると考える。

 医療機関別に平均要請電話連絡時間に差があることは、医師と繋がるまでの院内状況や救急救命士に要求する情報が医療機関毎に異なっていることを意味している。これとは別に、当市の搬送では軽症傷病者の割合が57.6 %(基幹病院は63.7%)と100 地域中で極めて高いことが研究6(図8)で示されている。これらを踏まえると、医療機関は救急患者の安易受診についての警戒が少なからずあるかもしれない。情報に関する医療側の整備に加えて、市民への救急車適正利用の啓発も必要であると考える。

結論

1.救急救命士別の平均要請電話連絡時間に個人の差があった。これは医療機関との伝達要領の熟達度に差があることを意味している。
2.医療機関別に平均要請電話連絡時間に差があることは、医師と繋がるまでの院内状況や救急救命士に要求する情報が医療機関毎に異なっていることを意味している。
3.軽症傷病者が多いことが平均要請電話連絡時間の延長をもたらしている可能性を指摘した。

なお、本稿の一部は第24回全国救急隊員シンポジウム(2015年12月3-4日札幌市)で発表した。


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