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手技54:エピネフリン

 来年度から救命士にエピネフリン投与が解禁される。そこで今回はこの薬について解説する。


1 作用

 エピネフリンは交感神経が興奮したときに、末梢に興奮を伝えるために分泌される物質である。
 交感神経は動物が喧嘩をしたり逃げたりするときに興奮する神経である(fear and fight, 恐怖と闘争)。そのため、自分が怒ったり逃げたりするときにどうなるか考えると分かりやすい。

・脈拍が速くなる
・血圧が上がる
・瞳孔が散大する
・皮膚は冷たく汗をかく
・気道が拡張する(多くの酸素を取り入れるため)
・血糖値が上がる(戦うため)
・不安や不穏になる

補足:エピネフリンには大きく分けてα受容体とβ受容体が存在する。

α受容体:興奮性作用
・皮膚・粘膜の血管収縮(緊張して顔が青ざめ汗をかく)
・血糖上昇(ケンカするにはエネルギーが必要)
・精神的興奮(ケンカですから)
・心臓の収縮力増大(血液をいっぱい押し出す)

β受容体:抑制性作用。心臓のみ興奮
・心臓の収縮力増大(血液をいっぱい押し出す)
・心臓の脈拍増大(ドキドキする)
・冠状動脈の弛緩(心臓自体にも血液をまわす)
・胃腸運動の低下(余計なところにはエネルギーを使わない)
・気管支平滑筋弛緩(いっぱい呼吸できるように)
・骨格筋や内蔵の血管の弛緩(殴る・走って逃げる)

これらの作用が合わさって「恐怖と闘争」に対応できるようになる。


2 臨床効果

1)ショック時
 心拍出量を増大させる。またβ作用より血管が拡張して全身の臓器に血液をスムーズにまわすことができる。図1、2に示す静脈注射用製剤が用いられる。

2)喘息発作
 気管支拡張作用が強い。吸入でも注射でも用いられる。

3)止血
 皮膚や粘膜ではα受容体だけ見られるため、エピネフリンにより血管は収縮する。図3に示す瓶から必要な量を取って希釈し、切創や鼻出血に対して噴霧したりガーゼに湿られて押し付けたりして使う。

図1

ボスミン。第一製薬。1本1mg(1mL)。どこの病院にも必ずある。

図2

エピネフリン注0.1%シリンジ「テルモ」(エピクイックから名称変更。テルモ。nozakoji様ご指摘ありがとうございます)

最初からテルモの2.5mL注射器に入っているボスミンで、内容はボスミンと同じ1本1mg(1mL)。袋から出して注射器の先のキャップを取ればすぐ使える。

図3

ボスミン液。第一製薬。これも1mg/mLで他の製剤と同じ。瓶の中は100mLもしくは500mL入っている。喘息で吸入したり、鼻時の場合に噴霧したりする。


3 使用方法

ボスミン添付文書から抜粋する。

1)効能・効果
 各種疾患もしくは状態に伴う急性低血圧またはショック時の補助療法

2)用法・用量
 蘇生などの緊急時にはエピネフリンとして通常成人1回0.25mg(0.25mL)を超えない量を生理食塩水などで希釈し、できるだけゆっくりと静注する。なお必要があれば5-15分ごとにくりかえす。
※添付文章では0.25mLを超えないことになっているが、プロトコールでは1mLからスタートすることとされている

3)併用禁忌
 抗精神剤
※ある種の抗精神剤を飲んでいる患者ではエピネフリン投与後に血圧が上がらず、逆に低血圧となってしまうことが知られている。

4)重大な副作用
肺水腫
呼吸困難
心停止
※肺水腫は蘇生時に大量に投与した場合にしばしば見られる。呼吸困難や心停止は心拍数上昇や血圧上昇に引き続いてみられるとされる。


4 救命士のための薬剤投与の適応と業務プロトコール


1)適応
8歳以上の心停止者で、
・目撃のある心静止
・心室細動、心室頻拍、無脈性電気活動(目撃の有無は問わない)

2)プロトコール
・On line medical controlを受ける
・静脈路確保の穿刺は2回まで
・最初から注射器に入ったタイプのエピネフリンを使用する(図2)
・投与量は全例で1回1mg(1mL)
・効果がない場合には5分おきに病院到着まで投与を繰り返す
On line medical controlとはエピネフリンの使用許可をもらうところから自発脈拍の回復確認まで電話口に医師が張り付いて指示を受けることをいう。


5 AHAガイドライン2000および2005

1)一回使用量について
 どんな症例でも1mg投与というのは昔からの習慣によるもので、なんらかの研究に基づくものではない。またAHAでは推奨量として1mg(1mL)を蘇生中に3-5分ごとに静注し、末梢投与の場合には中心部まで確実に到達するように毎回20mLで押し流すように勧めている。

2)1mg(1mL)で効かなかった場合
 エピネフリンはその投与量を増やすと反応が増加する。このため、初回量で反応しない場合には投与量を増やして投与することが行われている。実際には最初の投与に反応がない場合には1, 3, 5mgという段階的な増量か、二回目から5mgか、もしくは0.1mg/kg(50kgの人なら5mg(5mL))という量を投与することが行われる。しかし研究によれば、大量を投与すると自己心拍再開率は上昇するものの、蘇生後の心不全を悪化させる可能性が高まるし、生存退院率は普通の投与量と変わりがなかったという結果が出ている。
 私の経験では、投与量を増やすことによって心拍の再開する率は確かに上がるようだが、その後肺水腫などで結局蘇生を断念する例が多かった。

3)現在の動向
 ガイドライン2000が出てからの5年間では、今までの常識を覆すような論文はでておらず、扱いはG2000と同等と思われる。現在注目されているのは心肺停止に対するバソプレッシンの際立った治療効果で、バソプレッシン単独で、もしくはエピネフリンと組み合わせて使用することが検討されている。


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