OPSホーム>基本手技目次>手技67:雄武消防が語る現場学(1)オホーツク海には危険がいっぱい


雄武シリーズ オホーツク海には危険がいっぱい 自然は危険がいっぱい 医療過疎地の転院・転送について


雄武消防が語る現場学(1)

オホーツク海には危険がいっぱい

講師:安本明志美(やすもと としみ)

紋別地区消防組合消防署雄武支署

協力


 雄武(おうむ)町は、オホーツク海の沿岸、北見市と稚内市の中間に位置し、東西40km、南北24km、面積は東京23区の合計(621.42平方km)よりも広い637.03平方kmを有する、豊かな海と豊かな山と厖大なる自然に囲まれた町である。人口は約5300人、主要産業は漁業と農業である。

 この小さく豊かな町でも日々救急活動は行われていて、その中でも特殊事案を8月9月10月と計3回にわたって掲載したい。今月8月は海での事案、9月は山での事案・10月は地域の特徴でも小さな町の病院から大きな町への転院搬送での事案を紹介する。

 本稿を担当する紋別消防組合消防署雄武消防支署は12名の職員が火災・救急・救助等の消防業務を兼用する体制をとっている。救急業務については、年間約240件の救急出動を救急救命士2名を中心に救急車2台(高規格救急車1台)を運用し対応している。

事例1

普段穏やかなオホーツク海
 50歳男性

 午前4時頃オホーツク海に乗組員1名にて、蛸イサリ漁のため出港。その後、オホーツク海特有の時化に変わったため操業を中止し帰港の途に就いた。


一変して荒れた海と変わる
 午前7時頃(海面温度11℃)、瞬間最大風速(西南西の風)27.5m/Sという猛烈な強風に煽られ、転覆したとみられる。同業者も同じころ操業を中止し帰港していたが、第○○丸が帰港してないことにきづき午前7時20分頃捜索を開始し、○○沖0.8マイル・ENE方向で船先が上を向いている○○丸とともに救命胴衣を着用したA氏を発見、船に引き上げて直ちに漁船無線にて救急車の要請を入れたもの(7時52分)。

これが、北海道の救急で役に立つ「湯たんぽ」だ! 
保温には最適です! アルミ製の物は間違って直接肌に触れると即火傷するけど、このプラスチック製だと大丈夫です! それにオレンジ色がかっこいい!
  傷病者が入港する場所は、消防から約13kmの場所にあり、約10分かかる。救急車到着する前に傷病者を乗せた船は到着しており、船揚場待機室にいた。意識はJCS 10点、呼吸36回/分、SpO2 80%、体温30.8度、BP拡張期血圧のみ40mmHgであった。

 大量の海水を飲み嘔吐を繰り返していため回復体位をとらせ、ある程度落ち着いたのを待ち濡れた衣服を脱がせ毛布にて保温処置をした。バックボードにて救急車に収容のうえ、体温を回復させるため身体全体を摩擦マッサージするとともにあらかじめ用意していた湯たんぽと車内の暖房を使って体温の上昇を試みた。SPO2 も80%と低いため酸素10L/分投与し、直近病院に搬送した。

 現場出発から9分後病院到着。覚知から病院到着まで21分。 誤飲性肺炎(中等症)と診断され、入院加療。

事例2

拡大
50歳男性

 午前 7時頃雄武魚業協同組合から119番入電。 沖で操業中作業をしていた漁船員が、魚網を巻くドラムに着用していたカッパが巻きこまれ、右前腕部を負傷したとの通報を受け出動した。


このドラムにカッパが引っかかり手が巻き込まれ負傷する。
カッパは漁師にとっては必需品であるが、危険を伴うこともあるため、漁師は細心の注意をはらって、操業している!
 救急車到着時傷病者は船上にいた。意識は清明で右前腕部が開放骨折。開放部は約10cm。血圧160/90mmHg・脈拍80回/分・SPO 2 98%であった。

 まず開放して出血している部分からの止血処理をした後にシーネ固定した。バックボードにて救急車に収容し直近病院に搬送したが、搬送病院には整形外科の診療科目がなかったため、ここより約40km離れている病院に搬送した。なお看護師を同乗させ搬送した。

 覚知から病院到着時間1時間05分。 右前腕部開放骨折(中等症)と診断され、入院加療。

 反省点として、やはりいくら直近病院といっても、そこには整形外科の科目がないのが分かっていたので、40km離れた整形外科病院に現場から直接搬送すべきであったと思う。すると搬送時間も短縮できたであろう

事例3

雄武日の出岬海水浴場の風景
 2歳(乳幼児)男の子

 「海水浴に来ていて誤って焚き火跡に足を入れ火傷を負った」との通報を受け出動する。

 現場到着時男の子は、母親に抱きかかえられた状態で、到着を待っていた。


こんな感じで、足を入れたらしい。
 状況を付近の人に聴取したところ、「家族で海水浴を楽しみ砂浜で遊んでいた。子供が少し盛り上がった砂の上を歩いたところ、砂の中の焚き火後で火傷をした。何時間か前にキャンプで焚き火をしていた人が、焚き火を消すために水をかけずに砂をかけただけの消火をしたため、完全に消火していなかったようだ」

 実は、この母親に状況を聞けなかったのは、この男の子もそうだったが、2人とも言葉がしゃべれない方だったためであった。この時われわれ救急隊員が手話ができたなら、スームーズな活動が出来たであろう!

 右足踵部にII度の熱傷があった。母親がキャンプに用意してあった氷で冷やしていたので、深く進行していなかったと思われる。

 救急処置としては、炭が皮膚に刺さった部分と赤く水ぶくれしている部分を冷水で洗い流し、さらにコールドパックで冷却処置した。母親に抱きかかえられたまま収容し、直近病院に搬送。
覚知から病院到着まで20分。 熱傷II度(中等症)と診断され入院加療。


ウニの殻を踏むとかなり痛いし、生きているととげに毒があり、腫れる。
 砂浜にはこのような危険がたくさんある。焚き火跡だけではなく、釣り人が捨てた釣り針が落ちていたり、ガラス瓶が割れた破片が落ちていたり、ウニの殻が落ちていたり。このような物を踏むと怪我をするので、注意したいものである。また、救急隊員が手話を覚えることにより、ハンディを背負った傷病者に対してもスムーズな救護体制がとれるのではと思われた。
※熱傷について

 熱傷の範囲が狭く、軽度のものであれば皮膚症状(赤くなったり・はれたり・痛み)のみで数日で治るが、範囲が広く深いものでは皮膚症状のほかに、血圧の低下やショック状態などのさまざまな全身症状が現れる。

 熱傷の程度は熱の温度と皮膚に作用する時間によって決まる。(ex.熱いアイロンに一瞬触れた場合ではI度。それほど熱くない湯たんぽに長時間触れていた場合、II度といったように温度と時間が作用する。)

生命の危険度
(重症度)
受傷面積とその深さによって決まる。(人の手のひら1つ分が約1%)
成人では受傷面積が体表面積の40%以上で生命の危機、20%以上でショックをおこす危険があり、乳幼児や老人では30%以上で生命の危機、10%以上でショックをおこす恐れがある。
(人の手のひらの大きさが約1%。乳幼児の体表面積の10%は大人の手のひらの2つ分に相当する。)
受傷の深さ I 度熱傷 II 度熱傷 III 度熱傷
症状 ・発赤(赤くなる)腫脹(はれる)がある。
・痛みがある。
・数時間から数日であとを残さず治る。
・通常医療の対象とはならない
(海水浴で見られる日焼けはこれに入ります)
・皮膚が赤くなる。水泡ができる。
・受傷後数時間たってから水泡ができることもある。
・感染をおこさなければあとを残さず治る。
浅いもので10日〜2週間
深いもので3〜4週間
・皮膚の深いところにまで及ぶ熱傷。
・受傷部は白くなってひどい時には焦げている。
・痛みを感じる神経も焼け死んでいるので痛みは感じない。
・受傷部の皮膚は焼け死に落ちてしまうので、あとを残して治る。
やけどの重症度
重症 ・II度の熱傷が30%以上
・III度の熱傷が10%以上
・熱傷の程度は軽症でも、高温蒸気やガスを吸い込んで気道にまで熱傷が及んでいるもの
中等症 ・15〜30%のII度の熱傷
・10%以下のIII度の熱傷
軽症 ・15%以下のII度の熱傷
・2%以下のIII度の熱傷

事例4

このように釣りを楽しんでいた
 20歳代男性

 魚釣りをして誤って釣り針が自分の瞼に刺さったとのことで出動要請。携帯電話にて要請をしたため北見消防に119番入電となった

 (現在は、携帯電話から119番すると紋別消防に入り、転送され雄武消防に入電となる)。


瞼に釣り針が刺さる
 現場到着したところ、傷病者は砂浜で救急車の到着を待っていた。釣り針は左瞼部分に刺さっており、少量の出血も見られたが、血圧・呼吸SPO 2とも安定していた。

 針は抜かずそのまま自力歩行で救急車に収容した。針が動かないように救急隊員の手で固定して簡単に止血し、直近病院に搬送した。幸い眼球には達していなかったため、抜く必要はなかったし、抜くためのペンチなどの工具を救急車に積載していなかった。


針には返しといって一度刺さると抜けない仕組みとなっている。
 覚知から病院到着まで11分。 左上眼瞼刺創(中等症)。入院加療を勧めたが、遠方のため地元病院に入院加療。

 反省点として、やはり釣り針が刺さったとの情報が入った時点で工具を積載し出動すべきであった。

考察
 これらの事例を踏まえて雄武消防では、船から救急車に収容する方法や、漁師特有のロープの結びの解き方、釣り針が刺さった時の救出法などを考えて訓練している。
1)船の上は大変揺れるため、下半身にしっかり重心をおいて活動する。同様に軽傷であり歩ける状態の傷病者であってもバックボードにしっかり固定し収容することが重要である。
2)漁師のロープ結びは一般の人が結んだものとは違いなかなか解けない。このため、消防団の漁師の方に結び方や解き方、絡まった時の解き方のどを学んでいる。
3)針が刺さった時は、刺さった部分が動かないように手で固定したうえ、ペンチなどで折り返し部分を切ると簡単に抜けてくる。しかし針にも大きさや太さが沢山あり、あまり太い鮭釣り用の針だと容易には切れないので、固定して搬送するのが望ましいと考える。

漁師からロープについての講義や絡まったときどの様にすると救出しやすいかなどを学んでいる消防士!
常に真剣です!

雄武シリーズ オホーツク海には危険がいっぱい 自然は危険がいっぱい 医療過疎地の転院・転送について


OPSホーム>基本手技目次>手技67:雄武消防が語る現場学(1)オホーツク海には危険がいっぱい


http://ops.umin.ac.jp/

06.10.22/11:00 AM