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手技74:阿寒湖消防が語る「冬の救急」(1)-設備資器材編


阿寒湖消防が語る「冬の救急」(0)-総論 (1)-設備資器材編 (2)-症例編


講師

沼田一成

釧路市西消防署阿寒湖温泉支署

救急救命士

協力:中西敬佑、北澤健行


 皆さん明けましておめでとうございます。今年も「基礎講座」をよろしくお願いします。

 今年第1回目と2回目は、めでたいマリモの住む湖の傍らに建つ消防署、釧路市西消防署阿寒湖温泉支署が冬の救急を解説します。今回は設備資器材を、次回は事例を紹介します。

 阿寒湖は日本有数の観光地ですが、夏は30度、冬も-30度になる北海道でも寒さの厳しい場所でもあります。阿寒湖温泉支署は支署長以下13名の人員配置で火災、救急、救助、通信業務を担当(119番通報も受信)しています。

 隊員は救急救命士6名、2課程、標準課程隊員が7名で車両については高規格型救急車が1台配備されています。また、予備車が1台配備されており、傷病者の状況によっては高規格救急車出動中に発生した第2事案についても非番者で隊編成し出動することもあります。救急出動件数は年間約200件で観光客が訪れる夕方から翌朝にかけての時間帯に出動が集中しています。1担当4名体制で出動時はそのうち1名が支署内での通信勤務となり実質3人での出動体制です。

 それでは阿寒湖支署での取り組みの一端を紹介します。

1.保温の工夫
写真1
傷病者の保温のため毛布を4枚積載しています。

低体温を疑うときは仰臥位での背中側に2枚から3枚敷くのが効果的。

写真2
一般的ですがアルミシートは効果的ですね。衣服が濡れているときは素肌に巻くのが効果的。
写真3、4
ポットの中にお湯を入れて積載しています。低体温を疑う傷病者で酸素投与が必要であり,病院到着までの時間が長い場合には加湿流量計にお湯を入れて使用します。
加湿効果は十分ですが保温効果は??です。

帰署時に飲んでもOK。隊員も暖まるという目的外の活用もできます。

写真5,6
静脈路確保のための乳酸リンゲル液は温蔵庫を利用しています。
サーモスタットがないため一定の温度というわけにはいきません。
写真7,8
患者室の暖房に温水循環式ヒーターを装備しています(車両メーカーオプション)。
写真9
救急車の足側はかなり冷えるので、軽油燃焼式ヒーターを患者室の暖房のためにストレッチャー脚側に装備しました。頭寒足熱に有効です。

これはメーカーオプションにはありません。

写真10
燃焼式ヒーター本体。シート下ボックス内の三角の部分です
写真11
燃焼式ヒーターのスイッチ。High, Lowの切り替えができます
写真12
燃焼式ヒーターの燃料タンクです.燃料は軽油です.車両はガソリン車であるため別タンク積載となりました。冬期間は特に軽油の補給に気を使います。

ガソリン車であってもエンジン用燃料を利用したヒーターの設置は可能と思われますが、外国製しか見当たらず、メンテナンスのことを考慮してあえて別タンクではあるが国産のものとしました。

車両がジーゼル車であれば燃料を共用できこのタンクは不要です。

2. 救急車の工夫
写真13
サイレン防雪カバー。雪が吹き込むと音が響かなくなるためです。
写真14
吹雪・濃霧対策として今時あえて流行っていないイエローのフォグランプを設置しました。メーカーオプションはヘッドライト内蔵しかありませんでした。
写真15
一般的な救急車では後部は窓になっています。これが実は車内の暖房効率を低下させています
写真16,17
阿寒湖消防の高規格救急車。患者室の防寒対策として左後部窓を閉鎖しています。
この救急車の一番特徴的だと思います。かつこのタイプの救急車では日本に一台だと勝手に思っています。
写真18
運転席側から撮影しています。
写真19
後部傷病者搬入口から撮影しています。

このように断熱材を入れて内張をして仕上げることにより、外気温氷点下30度でも車内の温度を20度以上にすぐ復温させることができます。効果は絶大です。

3. 救急活動の工夫
写真20,21
冬期間は砂袋とペットボトルを切断したショベル代用品を積載しています。

屋外での事故、特に傾斜地では隊員の足元が凍結により滑ってしまうことがあります。万一の転倒防止のため時間に余裕のあるときには活動スペスースに散布しながら活動しています。凍結した勾配のきつい屋外階段でも有効でした。

乾燥砂を入れておけば、油漏れのある事故の時は火災や油による滑走転倒も防止できます。
写真22
冬期間の屋外での活動は防寒対策と足下の安全確保が大切です。普段の服装は救急服、感染防止衣を着用していますが、防寒服を着て出動することもあります。一般的には短靴で出動していますが、状況によって編み上げ靴、長靴などを履き分けています
写真23, 24
皆さんご存知バスケットストレッチャー。裏に木が付いた一体型のものです。これがメインストレッチャーでは収容・搬送できない山や雪原では活躍します.
タンク車の外部に積載しているためほとんどの場合現場まで行く間に冷えてくれます(普段より毛布は多めに必要になります)。暖かいまま雪面におろすと雪がくっつくため好都合です。
写真25
アイロンを使用してワクシングしているところ。

裏面の2本の木は特に雪が付きやすく、塗装したり、スキー用ワックス(ローソクでも可)をアイロン掛けしたりすることによって滑走性が高くなり、早期車内収容につながります。

写真26
アイロンはスキー用のものでなくても代用できます。これは手芸用を使っています.

スチームアイロンを使うと穴にワックスがつまり、洋服に使用したとき色移りすることがあります。昔のテフロン加工していない、スチームの穴がないものがベストです

Q:バスケットの下のそり

スキーを付けているんですか。またどうやって付けているんですか。

A:たぶんねじ止めのようになっていると思います。片側7カ所そのうち端は2カ所ずつ近い距離で真ん中は等間隔で3カ所です。材質は,タモや檜系だと思います
バスケットに最初から木がついているタイプを購入しています。それに塗装したりワックスを塗ったりしています。

写真27, 28, 29
冬期間の屋外の傾斜地,特にブラックアイスバーンの道路ではメインストレッチャーのストッパーだけでは走り出してしまうことがあるため、車輪止めを併用しています。
冬期間でなくても急勾配の現場では使用するときもあります。
Q:ストレッチャー止め

反射板が付いているのでしょうか

A:これは市販のものでなく合板を使った時の半端を利用して作成しました。
木材で作って赤く塗装し,反射テープを貼っています。

写真30
冬期間は電気の消費が多いことから待機中は常にバッテリー充電状態にしてバッテリー上がりの予防をしています.これにより、エンジンをかけることなく車内でほとんどの訓練も実施することもできます。
Q:コードは浮かせているんですか
電線が切れないような処置でしょうか

A:救急車の車庫の上に棚がありましてそこから電源コードをおろしているので出動時コネクターが床にあたらないように台を工作してビニールテープでとめています。配線バンドなんかで止めた方がきれいかもしれませんね。

写真31
この写真からは何もわかりませんが車庫内は床暖房になっています。車庫内および車内の温度は真冬でも氷点下になることはありません。

熱源は温泉地ということもあり温泉を利用、熱交換した湯をコンクリートの床の中に埋設した配管にポンプで循環しています。

まとめ

 救急現場でできることには限界があります。車内収容した車内がいかに暖かいかがポイントであって、特に現場到着時から車内収容まで必要最低限の時間のドア開放にとどめることは、どこの救急隊でも心掛けていると思うのですが一番費用がかからず効果が高い方法です。特に交通事故のような状況では状況評価とそれに適した資器材の投入がその後の活動の成功を左右します。そのためには救急車を作る段階からその地方地方に必要な装備を考慮すべきです。


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07.2.9/10:17 PM