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手技75:阿寒湖消防が語る「冬の救急」(2)-症例編


阿寒湖消防が語る「冬の救急」(0)-総論 (1)-設備資器材編 (2)-症例編


講師

中西敬佑

釧路市西消防署阿寒湖温泉支署

北澤健行

釧路市西消防署阿寒湖温泉支署


症例1

2月。20代女性、低体温

「外で女の人が倒れている。呼びかけに応答する」(図7)という通報にて覚知。現場が支署から近かったためか、通報者が消防支署まで、傷病者を自家用車で搬送してきた。救急車内へ移し、観察を始める。

図7
女性傷病者が倒れていたと推測される場所。スキー場へ向かう道路で交通もあるが夜間から早朝までは人も車もほとんど通らない

7:41メインストレッチャーに仰臥位。意識レベル30、顔面蒼白、冷感、脈拍54回/分、血圧90/60mmHg、SPO2 99%、体温は30.4℃。シバリングを認める。

しきりに寒気を訴えている。傷病者の衣服は下着まで完全に濡れ、上下肢に凍傷が認められたため、外套及びジーンズを脱がし、Tシャツを切断、その後毛布にて保温し、直近の診療所を選定、搬送。

その後、釧路市内の病院(阿寒湖温泉地区から約70km)へ転送となる。医師の指示により、特に処置はせず、保温のみ実施し搬送。時間経過と共に意識レベル、体温等のバイタルも次第に改善した(表1)。

表1
時間 JCS 呼吸 脈拍 血圧 SpO2 体温
7:41 30 - 54 90/60 99 30.4
9:00 10 18 52 74/58 98 32
9:15 10 18 44 80/- 100 33.1
9:30 3 17 43 111/30 99 34.1
9:45 3 16 44 82/63 99 34.2

この件での特記事項としては、傷病者の衣服を脱がせたことがあげられます。衣服が濡れていたのは雪面に倒れていたためであると思われますが、2月の早朝、外気温はマイナス20℃前後、上下肢に認められた凍傷、また体温も30。4℃と、電子体温計で計測したことによる誤差を考慮しても、低体温の危険性が認められます。これらの状況から、傷病者は若い女性ではありましたが、脱衣を実施しました。


症例

1月 男児2名、溺水・低体温

「湖で子供二人が溺れた、湖からはすでに救出されており、応急処置がされている」との通報にて覚知。傷病者2名との通報から、非番公休職員を召集する。

覚知から5分後現着。現場は結氷した阿寒湖上で、氷が薄くなったところに子供が進入し、落水したもの(図8、9)。

図8
子供たちが越えてしまった危険防止ネット

図9
湖の岸側から河口を撮影。子供たちは沖側からこの河口の方へ向かい遊び進んできてしまったと思われます

救急車での現場までの進入はできず、100mほど手前から徒歩にて現着した。救急隊現着後間もなく召集された後続隊も到着、傷病者2名にそれぞれ分散し活動を開始した。

男児A、現着時BSCPR実施。顔面蒼白無表情、出血なし、嘔吐物なし、四肢の変形なし。意識レベルJCS300、呼吸感ぜず、脈拍総頚で触れず、瞳孔対光反射なし。隊員によりCPR開始。1分間CPRを実施したが回復兆候見られず、CPR実施したまま収容。

図10
子供が湖に落ちたときに漁師さんがかしてくれたスノーボート。一般に子供が遊ぶボブスレーの2倍の大きさ

この際関係者の協力で大型スノーボート(ソリ)(図10)に傷病者と隊員(CPR実施者)を乗せ(図11、12)、覚知から13分後、車内へ搬送、収容した。

図11
スノーボート上でのCPR

図12
湖に落ちた子供にCPRをしながら車内まで搬送するところ。

スノーボートは湖で漁をしてい漁師さんたちがすぐに用意してくれました。もちろんバイスタンダーCPRもしっかりやっていてくれていました。

阿寒湖の漁師さんは漁協の人全員が半年前くらい前に普通救命講習を受講してくれていました。本当に感謝しています。

男児B、現着時BSCPR実施。観察をはじめる。意識レベルJCS300、表情苦悶状、呼吸浅く弱い、脈拍総頚動脈にて触知可能、嘔吐あり。吸引後、補助呼吸を実施。こちらの傷病者も、関係者の協力を得てスノーボートで車内へ搬送、収容した。

搬送先は一刻も早く医師の管理下とすべく直近を選定。到着後、直ちに衣服を裁断、毛布での保温を実施。男児Aは状態変わらずCPR継続。男児Bは、次第に自発呼吸に回復が見られ、リザーバー付高濃度酸素マスクに切り替え、酸素10L/分投与。

医師の指示により、男児Bが釧路の病院へ転送となる。

覚知から1時間後、JCS300、呼吸18回/分、脈拍98回/分、体温30、9℃(鼓膜温)。自発的に数回開眼するも対光反射はない。毛布の上からマッサージを実施し、さらにアルミシートにて保温。酸素10Lリザーバ付投与。転送先病院へ到着。

男児Aについても、男児Bの転送後間もなく釧路の病院へ転送となり、途中、阿寒救急隊に引き継いだ(搬送車両が救急車でないため、別支署救急隊へ引き継ぐ必要があった)。

初診時、男児Aは病院到着時死亡、男児Bは溺水・低体温という診断であった。

考察

図13
このように湖の危険なところすべてに網を張って事故防止策をとっているのですが

氷の張った阿寒湖上で遊んでいた男児が、氷上の立入禁止区域に侵入し(図13)、氷が割れたために水中に転落した水難事故でした。阿寒湖では湖底から温泉が至る所から噴出しており(図14)、氷の厚さは氷上から全く分かりません。

図14
ハザードマップもあり危険箇所が赤字と黄色ベタで表示してある

この件でも水中転落ですから当然ですが衣服は濡れ、体温を保てる状態にはありません。それにCPAでしたので、CPR等その後の処置を考え外気に触れる状況ではありましたが衣服は切断しました。

また、傷病者が2名とのことで非番・公休者を召集し後続隊を編成。さらに救急車は1台なので、隣の支署の救急隊を応援要請しました。

この件では、男児は関係者によって氷上に引揚げられていましたが、現場は氷の上なので救急車では近づけません。また現場近辺も氷上であること、また積雪のため、ストレッチャーの曳航ができない状況でした。搬送には子供用のソリを使用し、隊員が子供にまたがるようにしてCPRを実施、関係者によって車までソリを引っ張ってもらいました。


症例3

2月 40代男性 低体温

「遊歩道内で人が倒れている。意識あり」(図15)との通報により覚知。気温-25度。

図15
遊歩道で人が倒れている

通報内容による現場は温泉街東側に位置する湖岸遊歩道で、冬季間は積雪で膝まで埋まる状態。除雪はされておらず、また車両は進入不可となっている。救急隊一隊のみでの搬送は難しいと判断し、非番公休者を召集。さらに通報内容から自殺企図を考え、警察官の臨場を要請。

覚知から15分後現着。現場は遊歩道入り口から約300mほど進んだ地点で、傷病者は立木の脇に仰臥位。周囲には缶ビールの空き缶、乾物等の食物、紙ケースに収められた刺身包丁があった(図16)。警察官立会いのもと持ち物を確認。傷病者の周囲も含め、薬物はない。

図16
ビールの空き缶、ウイスキーの空き瓶、包丁があった。薬のたぐいはありませんでした

意識レベルJCS20、呼吸様式正常、脈拍60回/分、血圧128/100、SpO2 99%。呼びかけに対し返答なし。シバリングあり、体温30、9℃(鼓膜温)。アルコール臭あり、外傷なし。着衣は濡れている。既往、主訴等は不明。

覚知から35分後現発。スクープストレッチャーに毛布を敷き(図17)、左側臥位で収容したのち、さらに毛布にて保温。

図17
バスケットストレッチャーに毛布を敷く

現場は積雪のため、ストレッチャーによる曳航はできない。後続隊員の持参したバスケットストレッチャーにも毛布を敷き(図18)、その上にスクープストレッチャーごと収容、さらに毛布をかけ保温に努める(図19)。

図18
スクープストレーッチャーごと収容

図19
曳航しているところ。

再現したこの隊員(北澤健行(阿寒湖))は、この時気温氷点下2度と気温が高く暖かいのに、仰臥位になるとやはり寒いと言っていました。当たり前ですがやはり雪面に近いほど冷たいようです

車内へ収容後、濡れた着衣を脱がしモニター装着、リザーバ付高濃度マスクにより酸素6L/min投与。低体温が特に四肢の末梢に顕著に見られたため、直近の病院を選定。しかし処置困難ですぐ転送となった。搬送中は、隊員の呼びかけに対し理解を示すものの、発語はないままであった。初診時傷病名は低体温。

考察

この出動では収容まで時間が掛かることが予想されたこと、気温が氷点下25度前後の事、また、一般的にこの時期にこの場所へ行く者は地元の気候を熟知したものか、まったく土地勘のない観光客しかおらず、戻れなくなったとしたら、かなりの時間その場に滞在したことが想像できたことからから現場での観察は必要最低限としました(傷病者とは会話できない)。

また、機材もこの環境では確実に作動するか、不安も残ります。ハートスタート4000は環境温度、動作時0~50度、保管時氷点下20~70度となっていますが、阿寒湖温泉地区では1月中旬から2月中旬が一番気温が低く-25度を下回ることがあります。ちなみに体温計は鼓膜温式、ジニアスを使用。ほかに乾電池を使用する機材も、急激な電池容量不足が心配されます。

なお搬送に使用したバスケットストレッチャーは、降雪時期の前に裏側の接地面(木製の部分)にロウソク、スキーワックスを塗布しておくことによって雪上でも十分に活用することができます(図20)。

図20
このバスケットストレッチャーは暖かいところからすぐに雪面に降ろして使用したました。

ワックスを塗布した部分には雪は付きません。現場へ向かう時は、走行中に冷えてしまうので裏面には全くと行っていいほど雪は付きません。この雪が付く、付かないの滑走性の違いは想像以上です


症例4

10代女性 交通事故。びまん性軸策損傷、右上腕骨骨折

「国道上において交通事故、怪我人がいること以外詳細不明」と駆け付け通報にて覚知。

現場は阿寒湖温泉支署前の路上。普通乗用車対自転車の交通事故で、傷病者は約20m跳ね飛ばされていた(図21)。集中豪雨で視界不良もあり、隊員の安全確保のため非番、公休者を召集。

図21
自転車と車の交通事故の写真。手前の人がいる場所で接触したと推測されます。向こうに小さく倒れて見えるところまで飛ばされました

傷病者は路上に左側臥位。JCS300、呼吸あり、脈拍(総頸、橈骨とも)触知。高エネルギー事故で意識障害のためロードアンドゴーを宣言。大雨のため体温低下を考慮し全身観察は車内収容後とし、後続隊と協力しネックカラー装着、初期評価及び背部観察後バックボードに全身固定、高濃度酸素マスクにより酸素10L投与を並行して実施。固定完了後、即車内収容し、全身観察開始。後続隊から隊員(救命士)1名増員し現発した。

車内収容後全身観察。JCS300、呼吸12回/分、SPO2 99%(高濃度酸素マスクにて酸素10L投与)、脈拍100回/分、血圧92/45mmHg、体温35、4℃。

全身観察:頭部・顔面・胸部・腹部にDIPなし。左上腕内転、右上腕部に変形腫脹(骨折疑い)。瞳孔散大(左右5mm)、対光反射鈍く左側への共同偏視も確認された。

収容先は3次医療機関である市立釧路総合病院(現場から80キロ)を選定するも、搬送時間を長時間要すことから早期医療処置が必要と判断。現場から40キロの病院医師の同乗を依頼、了解を得、同病院救急車用駐車場にて乗車、すぐに処置を開始した。医師により、右大腿静脈より静脈路確保実施。更なる保温のためアルミシートと毛布を併用した。

考察

高エネルギー事故と考えられる受傷機転、大雨警報が発令されるほどの豪雨、さらに夜間の国道上という状況評価から、非番・公休職員を召集しました。

また、体温低下を考慮し、全身観察は車内収容後に実施しました。特に搬送時間の長い我々は1分1秒でも早く現発し、決定的な治療ができる病院へ早く搬送することを心がけています。

また、収容先病院まで時間がかかる場合は途中の医療機関で2次救命処置をしてもらい、その後医師が同乗し病院へ搬送という方法をとることもあります。今回の場合は医師に救急車用駐車場前まで出てきてもらったことにより時間のロスを減らし、早く病院へ収容することができました。もちろん、その旨を医師が了承してくれた上でできる行為であることは言うまでもありません。


症例5

12月 自損行為

「銀行付近の林内で足が冷たく動くことが出来ない」と本人からの携帯電話による119番通報にて覚知。

救急隊は別件で出場中であったため、また通報内容から現場は町内にある林内とのことであったが、場所の確定が不可能であることから捜索を考慮し、非番・公休職員を召集。その間、救急隊は医師に傷病者を引き継ぎ、診療所から出場した。

非番・公休職員は後続隊を編成し、指揮車に資器材(バスケットストレッチャー、スリングロープ、カラビナ等)を積載し出動した。

救急隊、現着。現場付近にて大声で呼び掛けたところ、林内より女性の声での返答を確認。現場は温泉街の中央道路から10メートルほどの小高い雑木林内。一人用のテント内で膝を抱えた姿勢で発見した。傷病者は自殺企図があり、市販の睡眠薬を約40錠ほど飲んで野宿したとのこと。

顔面蒼白、JCS0、呼吸18回/分、脈拍66回/分、血圧172/82mmHg、体温33、9℃。全身、特に下半身が雪及びテント内の湿気により濡れ、全身が震えていた。

間もなく指揮隊現着、救急隊と協力しながらバスケットストレッチャーに収容し移動、車内収容した。

搬送先は直近を選定。バイタル測定、保温、医師による輸液等の処置を実施。さらに滅菌アルミシート、加温した輸液を使用した。(阿寒湖温泉支署の救急車には冷温ボックスを積んでおり、温かい輸液を積載していた)。

考察

本症例では、搬送にバスケットストレッチャーを使用したこと、また救急車に積載した冷温ボックスにより温めた輸液を使用したことが特記事項として挙げられますが、特に加温後の輸液は、こうした低体温の傷病者に対し有用です。


左:北澤健行(阿寒湖) 右:中西敬佑(阿寒湖)
玉川が阿寒湖消防を訪れた時にたまたま居合わせたために原稿を書くはめになりました。ごめんなさいね


阿寒湖消防が語る「冬の救急」(0)-総論 (1)-設備資器材編 (2)-症例編


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07.2.9/10:20 PM