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手技80:知識を整理しよう(2):除細動


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 第2回目は除細動を取り上げる。AEDの普及により除細動は「電極を貼ってスイッチを押す」だけのものになった。けれど背景にある理屈が分からないと救急のプロとは言えない。ガイドライン(G)2005では除細動とCPRの順番が変わったりしてまだまだ変化していきそうだ。

I なぜ電気で治るのか
 私の学生の時の理解は「さわいでいる子供たちに雷を落としておとなしくさせる」というものだった。いまでも間違ってはいないらしいがそれでは二相性はなぜ効きがいいのか説明できない。

図1
1-1
通常なら上から電気が入ってきても下でぶつかって消える。

1)不整脈が起こる仕組み

 心室頻拍などの簡単なモデルとして電流がぐるぐる回る仕組みが用いられている。電気は心房から降りてくるといくつかの経路に分かれて心室を進む。最後には一箇所に集まってお互い打ち消し合ってなくなる(図1-1)。

1-2
しかし片方で電気が伝わりづらいところがあると

しかし何らかの原因で片方だけ電流がブロックされると(図1-2)

1-3
反対側へ電流が流れてしまい

残った電流が逆方向に進み出し(図1-3)

1-4
ぐるぐる回っていつまでも流れ続ける

いつまでもぐるぐる回って途中の心筋を収縮させ続ける(図1-4)。

図2
2-1
電気ブロックの例。心筋梗塞では壁の一部の電気の通りが悪くなり、それが原因で致死的不整脈を引き起こす

電流をブロックするのは心筋梗塞で死滅した心筋が多い(図2-1)。

2-2
電線がある例。WPW症候群は左心室と房室結節の間に電線(Kent束)があって、それが電気を戻してしまうため電気は高速に回り続ける。

逆にブロックせずにそこだけ電線が敷かれていることがある(図2-2)。WPW症候群ではこの電線を切る手術が行われる。

図3
3-1
ぐるぐる回っている電気に外側から電気をかけると

2)二相性除細動がよく効くのは

 ぐるぐる回るモデルで単相性と二相性の除細動の比較をしてみよう。単相性の場合は電流の流れは一回である(図3-1)。

3-2
逆方向の電気は消えるが同じ方向の電気は残る。

除細動器の流れと逆の連流は消せるが、同じ方向の電流は消せない(図3-2)。

3-3
全部電気を消すには圧倒的な電流を長時間流せばいい

取り逃がした電流まで消すためには巨大な電流を流す必要がある(図3-3)。

3-4
二相性は初めの電流は同じで

二相性の場合は一回電流を流して(図3-4)

3-5
同方向の電気は残る。しかし

電流が残ったとしても(図3-5)

3-6
すぐ逆向きの電気が来るので

さらに逆方向に電流が流れる(図3-6)。

3-7
全部消える

そのため取り逃がした電流もうち消すことができるし、電流の量も少なくて済む(図3-7)。

図4
4-1
悪い子が来ても少人数なら騒ぎにならない
=不整脈を起こすにはある量以上の心筋細胞が必要

3)除細動の仕組みは難しい

「さわいでいる子供たち」で除細動を説明できることとできないことがある。ここで「子供」とは心筋細胞のことである。

 心筋がある程度集まっていなければ心室細動は起きない。これは「子供たちが少ないと外から悪いやつ(誘発電流)がやってきても騒ぎ(心室細動)にならない。騒ぎを起こすにはある程度の人数がいる(図4-1)」ことで説明できる。



4-2
先生が来てもなだめる程度では騒ぎは収まらないどころかもっとひどくなる
=除細動の電力は小さいと逆に不整脈を助長する

除細動については、通電の電力が少ないとかえって心室細動を誘発する。「騒いでいる子供たちに恐る恐る注意をしても子供たちはこちらを見下してさらに暴れる(図4-2)」のである。

4-3
かといって怒りまくれば子供たちは立ち上がれなくなる
=電力が大きすぎると心筋が障害を受けて立ち上がりが遅れる

「ある程度の(電)力を込めて子供たちに雷を落とすと言うことを聞くようになる(図4-3)」ものの、「雷(電力)の量が大きすぎるとトラウマ(心筋障害)になって立ち上がれなくなる(図4-3)」。このように除細動の放電量は多すぎでも少なすぎてもいけない。

4-4
除細動には心筋の不応期を延ばす働きもある。

また、放電しても電気が通過するのは心室細動を起こしている細胞の一部分を通るのみである。つまり「雷が指に触れただけで静かになる」のである。

また子供の元気がよければいくら雷を落としてもすぐ暴れ出すはずで、そこは電気で心筋を一瞬眠らせて刺激を避ける作用があるとされている(図4-4)。

4)それなら三層性以上はもっと効くのか
効き目は二相性と変わらないらしい。ただ出力が少なくて済むという話はある。
II なぜ除細動に前にCPRを行うのか
 G2000の時は何が何でも除細動で、除細動の準備ができる間だけCPRを行っていたが、G2005では最初に2分間のCPRをしなければ放電できないことになった。

図5
5-1
心室細動でも心筋は運動しているのでエネルギ-が欲しい。心電図の波も小さい

 除細動に成功するのは心室細動でも元気のいいものが条件になる。心室細動で体に血を回していないと言っても心筋自体は動いているわけだから、元気になるためには酸素や栄養が必要である(図5-1)。

5-2
除細動の前のCPRで心筋は元気いっぱいになる

CPR、とくに胸骨圧迫で新たな血液を心筋に補充して元気を付けると除細動に反応しやすくなる(図5-2)。

図6
覚知から現着する時間と生存率の関係。現着が4分より前なら除細動を行ったほうが助かる。4分を越えるとCPRを先に行ったほうが助かる。

一つの論文では4-5分が「最初にショック」と「最初にCPR」の境い目になっている(図6)し、

図7
CPRをせずに最初から除細動をした場合に、通常の蘇生術よりどれくらい患者が助かるか心停止患者1400人のデ-タから割り出したもの。意識消失から8分を越えるとかえって蘇生を妨げることになる。

もう一つの論文では8分を越えて「最初にショック」をすると助かるものも助からなくなると報告されている(図7)。


IIIなぜ除細動の間にCPRを挟むのか
今年3月号の「最新救急事情」でお伝えした通り。

図8
3階連続ショックと一回放電ごとにCPRを挟んだものとの比較。「最新救急事情」3月号で紹介した論文。1回ごとにCPRを挟んだほうが成績がいい

CPRを挟むことによって胸骨圧迫の中断が少なくなり蘇生率向上が期待できる(図8)。
IV 出力は妥当なのか

 単相性の場合日本のG2000では200-300-360J。G2005ではアメリカで360Jのみ、日本では200-360Jとはっきりとは書いていない。二相性の場合はメ-カ-の定めた出力が基本となる。単相性でも二相性でも二回目の放電以降はその前と出力は同じか高くする。

 単相性では出力を高くしたほうが効く。しかし心臓も弱る。アメリカで360Jのみとなったのは一発で除細動完了、だめならCPR、胸骨圧迫中断を最小限にという目的のためである。日本でな200-300-360のままなのかは「医療従事者用の指針」を読んでも書いていなかった。

V 除細動に酸素は本当に危険なのか

図9
酸素は片口や脇の下に流れて溜まる

「わたしよし」「あなたよし」「まわりよし」の周りに酸素が含まれる。いままで除細動で火が出たという報告は5例あって、いずれも酸素がそこにたまった状態だったらしい。これが人工換気中ならば酸素濃度は低くなって火はつかない。酸素は空気よりわずかに重いので、蘇生中は脇の下に溜まりやすい(図7)。左胸の電極周りには注意しよう。
VI 電極の位置は胸以外はだめなのか

図10
10-1
ガイドラインで書かれているパッドの位置

肋骨の上で心臓を挟むならどこに貼っても効果は変わらない。

10-2
本当は両脇の下にパッドを入れたほうが蘇生率がいい

心臓を挟むように両脇に貼ったほうが効果がいいという報告もある(図10-2)。

10-3
心臓を挟んで体の前後に貼るのもいい。

もしなんらかの理由で通常の場所に電極を貼れない時には心臓を挟むように工夫して貼ろう(図10-3)。

次回最終回は当たり前だけど聞かれて答えられないことを取り上げる。


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07.5.12/12:13 PM