OPSホーム>基本手技目次>手技90:ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識(5)心電図波形、これだけは覚えよう11個の波形

手技88:救急隊員を目指す初任科生へ

第四回
心電図波形、これだけは覚えよう11個の波形

今月の先輩プロフィール

木佐 考宏(きさ たかひろ)
22歳

富良野地区消防組合富良野消防署南富良野支署
北海道空知郡中富良野町出身
平成18年消防士拝命

趣味は映画鑑賞、バスケットボール


「救急隊員を目指す初任科生へ〜ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識」

シリーズ構成

亀山洋児(猿払)


はじめに

 第4回では観察手技のあれこれについて説明しました。第5回では「心電図波形、これだけは覚えよう11個の波形」と題して説明します。心電図波形は救急医学を学び始めた者にとって最初の難関です。未だに心電図波形は苦手だって思っている職場の上司もいると思いますよ。これを読んでいる新人消防士は今のうちにきちんと覚えておきましょう。

 このように言っていますが私もまだまだ現場経験が少ないです。今でも初出場のことは忘れていません。ある冬の日のこと、仮眠中いきなり119番が鳴りました。救急要請しかも泥酔状態で入浴し溺水していてCPAとの通報でした。救急要請時から心臓の鼓動が高まり続け現場は支署から30分以上かかるため車内では緊張のあまり無言。動いていないとそのプレッシャーに押し潰されそうで道具を準備していました。そこに搬送不要との無線が入り帰署することに。もう出動は何回もしましたが、今までに一番緊張した出動です。初出場は必ず来ます。緊張はしますが気負わず自分の役割をこなしてください。最初はできることをやる。それが重要です。現場に出てみて思いますが隊のメンバーにより活動の仕方が少し変わります。一人一人の動きがあるのでどう先輩達が動くか、どこで指示されるか、ここは自分が動くところなどを徐々にですが解ってくると思います。

心電図はなぜ必要か

 なんで心電図*1を付けるのだろう?と思う人もいるのではないでしょうか。心電図は傷病者の心臓の異常を発見するのに有効な臨床検査*2です。心電図変化により伝導障害、梗塞*3部位、電解質*4異常、炎症*5の有無、病態*6などさまざまな診断ができます。

 心疾患*7でも糖尿病*8を持つ人の場合は無痛性の心筋梗塞*9があます。心臓がおかしいと訴える傷病者ばかりではなく、通報内容と傷病者の状況から違和感を感じたら、傷病者の主訴*10や通報内容に捉われることなく、傷病者の顔色や表情を見て普段の様子と変わらないかを家族に確認し、傷病者の手などに触れて冷汗*11の有無を確認します。冷汗があったら、傷病者に接触後早期に血圧、脈拍数、呼吸数、酸素飽和度(SpO2)、心電図を測定して既往歴*12を確認し酸素投与を行います。また、外傷以外で傷病者が痛みを訴えているところが腰から上の場合は心電図測定は重要であり、皮膚の蒼白*13・冷汗・湿潤*14が見られる場合はショックの有無の把握が重要となります。

 ただこんな話を聞いたことがあります。ある傷病者が「胸の下らへんがおかしいんだよね」と苦しそうに訴えていたそうです。そこで救急隊が心臓の病変と思い心電図を測定、でも異常はない心の中で(おかしい)と思いつつ病院に搬送しました。その後診断結果は胃からくる痛みでどうやら傷病者はこれを胸の痛みと勘違いしていたそうです。傷病者は痛み部分を上手に説明をできない場合もあるので早く上手に聴き出す方法も必要になってきます。

電極の場所

図1
心電図シールの付ける場所。「あきみ」(あかきいろみどり)もしくは信号機の逆(信号はあおきいろあか)と覚える

 次に電極の付ける場所を説明します。救急隊は胸部近似肢誘導を使用し、誘導の切り換え(I、II、III)により2つの電極が選択されます(図1)。通常はII誘導を優先的に使用します。電極は現場では上手に貼ることが難しいこともあります。絶対この部位に貼りなさいということでもないですし、冬の寒い気候、またその時の着衣の量により臨機応変にしなければいけません。春場所を変えれば誘導の波形は若干変化が現れてくることを覚えるのも大切になってきます。

 初めて心電図を使用した現場でのこと、病院の引継ぎのため車内で準備していました。私は装着していた電極も何もかも外し看護師さんに引継ぎました。車内に戻ってくると先輩から「心電図の電極は付けたままにしておくんだぞ。その方が看護師さんもコード付けるだけでいいからさ」と言われました。このように看護師の手間や時間を省くことも大切です。また「心電図のシールは付けたままですよ」って一言も忘れてはいけません。

波形の覚え方

 僕は波形を覚えるのに書いて覚えました。ひたすら書く。最初は目で見てこの波形はこれと覚えていましたが実際はこの方法はまったくといって使えないですね。専門学校のテストのこと。たくさんの波形が並べてあり答えなさいっていう問題でした。この波形見たなぁとは出てくるのですがあれ??これ何だったかな??っていう感じで全く駄目でした。そこで書くことにしたのですが、ただ書くのも効率が悪いと思い、私は波形を何かに連想したりして考えました。

 例えば心室細動(VF)、これはもうグチャグチャでまるで子どもがイタズラ書きをしたような感じって思いながら何回も何回も書くのです。そうすると以外と頭にすっと入ってきて覚えられましたよ。また友人はこんなふうに覚えていました。訓練で使う高性能の人形はいろんな心電図波形を出すことができます。それを利用して私が何かの心電図波形を出し、出た波形を友人が答える。ゲーム形式で楽しみながら覚えられて良かったです。ただ覚えるのではなく何か工夫して覚えることが早道だと思います。


覚えよう11の波形 (全ての図はクリックで拡大します)

図2
洞調律

(1)洞調律(sinus rythm)(図2)

 基本となる波形です。これはもうこうだと覚えてください。数学の公式が何でこうなるのかな?って考え出したらそのことを考えるあまり数学が嫌いになっていきませんでしたか。だからこの問題はこの公式を当てはめると覚えるように洞調律はこういう形と覚えるのがいいと思います。

図3
心室細動

 (2)心室細動(ventricular fibrillation, VF)(図3)

 先ほど話をしたように覚えました。この波形を確認した場合は除細動適用です。波の高さが低下している種類もあり、解析しただけではショック不要ですと判断される場合があります。機械ばかり頼らずに疑わしいと判断した場合には感度を切り換えるなど機転をきかす迅速な行動が重要になってきます。

図4
心室(性)頻拍

 (3)心室頻拍(ventricular Tachycardia, VT)(図4)

 神経質な人が何回も何回も同じ波形を書いたと覚えました。VFと同ように除細動適用となりますがここで注意が必要です。無脈性に限られるので、総頸動脈で脈のないことを判断しなければなりません。

 心肺蘇生法の講習会のこと。最近はAEDの普及により一般の方もAEDについては何となく理解はしているようです。ですがAEDは心臓が止っている動きを動かす機械だと勘違いしている方が多く正しい説明を行うと驚く方がたくさんいます。除細動はVFと無脈性のVTが適応だということは理解しておく必要はあります。

(4)期外収縮(Premature Contraction)

 元々のタイミングで心拍が生じると予想される時期より早期に生じる電気的な興奮のことを指します。心房あるいは房室接合部から生じる期外収縮を上室性期外収縮、下部の心室から生じる期外収縮を心室性期外収縮といいます。重要となってくるのが後者で自覚症状が現れないものが多く、VFに移行しやすいためモニターで波形をしっかりと確認し除細動をいつでも使用できるようにこと前に準備をしておくことも必要になってきます。ここでは4つの心室性期外収縮を説明します。b)c)d)は主に急性心筋梗塞で見られるものです。

図5
多発性期外収縮

 a)多発性期外収縮(Premature Ventricular Contractions, PVCs, multiple)(図5)

同じ心室性期外収縮が出ている波形と覚えました。通常1分間に5個以上の心室性期外収縮が出現した場合に危険です。

図6
多源性期外収縮

 b)多源性期外収縮(premature ventricular contractions of multiple origin(multifocal), multifocal PVC)(図6)

 多発性とは違い2個以上の異なった心室性期外収縮が出ている波形と覚えました。この波形は多発性との違いを理解してください。反乱箇所が複数あるので、a)の多発性よりはるかに危険な不整脈です。

図7
ショートラン

 c)ショートラン(short run)(図7)

 3つ以上の期外収縮が連続している波形と覚えました。心室頻拍に移行する可能性があり厳重に監視します。

図8
R on T

 d)RonT(アールオンティ)(図8)

 T波の上に期外収縮が出現した波形と覚えました。電気的に不安な時期に不整脈が乗るので心室細動に移行する可能性があります。

図9
心静止

(5)心静止(Asystole、エイシストール)(図9)

 よくドラマなどで見る「ピー」っていう音だけ流れ真っ直ぐな波形と覚えました。この波形を確認した場合は、自分自身でパッドの装着状態、リードの確認を行いAsystoleだということを確認してください。この波形はCPRが必要になります。

図10
無脈性電気活動

(6)無脈性*15電気活動(Pulseless Electric Activity, PEA)(図10)

 何だかの波形は出てくるが脈がない波形と覚えました。脈拍がないと言うのが重要で、脈拍確認に自信がないとモニターに波形があるのにと不安になると思います。ここは焦る気持ちを抑えつつしっかりと脈拍確認をしてください。これもCPRが必要です。

 

図11
心房細動

(7)心房細動(atrial fibrillation, af)(図11)

 細かい波がうねうねと有り大きい波がいきなり来ると覚えました。また大きな波の間隔は不規則と覚えました。心房細動の誘発で心臓内の血栓が脳血管に詰まり脳梗塞を発症する場合があるのでこの症例の時は心電図検査を忘れないようにして下さい。

図12
III度(完全)房室ブロック

(8)III度(完全)房室ブロック(III (complete) arterial-ventricular block)(図12)

 P波とQRS波がそれぞれが規則的に動きそれぞれが等しい間隔になると覚えました。通常は症状はありません。なんらかのきっかけでQRS波が止まるとアダムスストークス発作をきたします。脳血管内の虚血*16により一時的に意識消失をきたし症状としては全身の痙攣*17、尿失禁などがあり数分で意識は回復しますが正常に心機能が戻らない場合は突然死の可能性もあるのでCPRの準備が大切になってきます。

図13
症例の波形。QRS間隔がバラバラで基線が揺れていることから心房細動と判断する。

こういう11個の波形をきちんと覚えました。でもすべてがこのようにきれいな波形が出るわけではありません。図13を見て下さい。この11個にあてはまりますか??

この症例は通報内容により救急隊は最初に脳疾患を疑ったそうです。現場到着後瞳孔*18も正常、四肢の運動、感覚麻痺がないので脳疾患ではないと判断しました。原因を発見するためモニターを装着したところこの波形がモニターに写り心疾患を疑い搬送しました。こういう症例は波形が何か解らなくても何か変だと思うようになること、また心疾患か脳疾患だけを判別できるようになることが大切です。


おわりに

現場、もしくは救急車内において脈拍を観測中に脈が極めて速かったり、ゆっくり過ぎたり、脈が一つ欠けて飛んだり、まったく規則性がなかった時はすぐに心電図を記録するように心掛けてください。怪しいと思った時はすぐに心電図を装着です。
11個について説明しましたが、まだまだ心電図波形はたくさんあります。勤務毎に1個ずつでも良いので、徐々に覚えていって下さい。こらからもまだまだたくさん覚えることもありますし、自分自身の力になると思えばできるはずです。


用語解説

木村亨(きむら とおる)
29歳

北海道空知郡南富良野町出身
平成15年消防士拝命
趣味は車と音楽鑑賞


*1心電図:しんでんず。心筋収縮によって発生する活動電位の変動を電圧計を介して記録させたもの。英語ではECG(イーシージー)=ElectrocardiogramだがEEC(electroencephalograph=脳波計)と間違いやすいためドイツ語のEKG(エーカーゲー)=Elektrokardiogrammもよく用いられる。

*2臨床検査:りんしょうけんさ。患者の状態を評価するため診療目的で行われる検査のこと。

*3梗塞:こうそく。終動脈、終静脈が閉塞し、血管の支配領域で虚血が起こり、血液が流れにくくなって、酸素や栄養が十分に行き届かず、酸欠に陥った部分の細胞組織が壊死する限局性壊死の状態(多くは凝固壊死)。一般的に静脈より動脈が虚血性壊死を起こしやすい。

*4電解質:でんかいしつ。溶媒中に溶解した際に陽イオンと陰イオンに電離する物質のこと。

*5炎症:えんしょう。感染等の生体侵襲に対し、免疫系が応答する種々の反応の総称。発赤、熱感、腫脹、疼痛、機能障害を「炎症の5徴候」という。

*6病態:びょうたい。その病気・怪我の状態のこと。

*7心疾患:しんしっかん。心臓の病のこと。

*8糖尿病:とうにょうびょう。英語のDM(Diabetes Mellitus, Diabetes=尿、Mellitus=甘い)もよく用いられる。糖代謝の異常によって起こるとされ、血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が病的に高まることによって、様々な特徴的な合併症をきたす危険性のある病気である。一定以上の高血糖では尿中にもブドウ糖が漏出し尿が甘くなる(尿糖)ため糖尿病の名が付けられた。

*9心筋梗塞:しんきんこうそく。虚血性心疾患のうちの一つ。心臓が栄養としている冠動脈の血流量が下がり、心筋が虚血状態になり壊死してしまった状態。

*10主訴:しゅそ。主に訴えてる状態(病態)のこと。

*11冷汗:れいかん。交感神経の緊張によって出てくる汗のこと。危険な目に遭うとタラタラと出てくる汗が典型。人間の汗は温熱性発汗と精神性発汗に大別されるが、冷汗は精神性発汗に分類される。

*12既往歴:きおうれき。現在の病気にかかる前の体の状態や、かかった病気の記録のことをいう。診断や治療法を決定するうえで重要な要素となる。
*13蒼白:そうはく。あおじろいこと。血の気がなく、あおざめていること。

*14湿潤:しつじゅん。水分が多く湿っていること。

*15無脈性:むみゃくせい。脈を触れないこと。

*16虚血:きょけつ。動脈血量の減少による局所の貧血。全身性の貧血(一般的に貧血と呼ばれる現象)と区別して局所性貧血と呼ばれることもある。

*17痙攣:けいれん。不随意に筋肉が激しく収縮することによって起こる発作。 痙攣のパターンは多種多様であるが、大きく全身性の場合と体の一部分である場合とに分けることができる。

*18瞳孔:どうこう。脊椎動物及び軟体動物頭足類の目において、眼の内側に入る光の量を調節する大きさ可変の黒い円形の開口部である。黒く見えるのは、内側の組織に殆どの光を吸収されるからである。


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07.11.22/10:57 PM