OPSホーム>基本手技目次>手技95:ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識(9)外因性疾患の観察と処置

手技95:救急隊員を目指す初任科生へ

第9回

外因性疾患の観察と処置

今月の先輩プロフィール

加藤康史(かとう やすし)
34歳
網走地区消防組合 大空消防署

北海道網走郡美幌町出身
平成3年 消防士拝命
趣味は、そば打ち・ブートキャンプ


「救急隊員を目指す初任科生へ〜ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識」

シリーズ構成

亀山洋児(猿払)


<はじめに>

 この傷病者は、ある事故にて搬送された方です。

 見てのとおり、止血処置が施され、四肢の変形についても、現場でしっかりと固定処置された状態で搬送されましたが・・・残念ながらこの傷病者は、その日のうちに亡くなってしまいました。

 なぜ??救急隊はしっかり応急処置したはずなのに??

 外因性疾患は、普段健康に過ごしていたはずの人が、突然の事故等により生命の危機にさらされた状態をいいます。

 そして、病院前での適切な観察、最低限の処置を施せば、助かる症例も少なくはありません。

 今月は不運にして生命の危機的状況に陥った、外因性疾患傷病者を救うために病院前救護の必要な観察と処置についてです。

<講座>

1.日本における外傷初療について

 日本における病院前の外傷初療は、JPTEC(japanprehospitaltraumaandcare)が普及し、病院前の標準的な外傷初療を行うことによって、「防ぎえた外傷死」の撲滅を目指しています。

 なぜなら過去には、救急隊の迅速的確な観察処置により、すばやく適切な医療機関へ搬送されれば助かっていたかもしれない、いわゆる「防ぎえた外傷死」(preventable trauma death: PTD)が多く含まれていると考えられているためです。

そこで、今回はJPTECに基づいた外因性疾患の観察と処置について話を進めていきましょう。

2.JPTECの流れ

 ここにJPTECの活動内容をフローチャートにしてみました。

以上が活動の流れですが、細かな手技については、JPTECテキスト及び外傷関連の教科書にお任せしましょう。

3 まずは、自分を守ろう

 外傷現場は、事故のみならず、犯罪現場等多岐にわたり、救助者をも危険な状況に巻き込む可能性があります。現場では、まず自分そして同僚の安全をしっかり確保したうえで、活動しましょう。救急隊が傷病者になってしまっては、助けを待つ傷病者を助けることはできません。

1) 感染防止

 外傷の現場は、傷病者の体液接触及び飛沫による汚染に救助者がさらされる場面が多々あります。外傷はもちろんのこと、急病傷病者の場合でも、写真のような感染防止を行います(写真2)。

 自分が消防士2年目の頃、高熱と呼吸困難で搬送した傷病者が、病院到着後、劇症肝炎だったという事例を経験しました。その頃は、白衣こそ着ていたものの、その他の感染防止がおざなりになっており、感染の恐怖に震えたことがあります。感染こそはありませんでしたが、当直明けに「アルコール消毒だ!!」と称して隊長とビールを浴びるほど飲んでしまいました注)

注)逆に体に悪いため、お酒は適量で、ビールで体内消毒できません・・・

2) 現場の安全確認

 外傷現場が安全でない場合には、現場から危険を排除するか、または、自分自身を危険な状況に置くことなく、現場から傷病者を移動するかしなければ、救急活動を始めてはいけません(写真3)。

4 現場状況を把握する。

1) 傷病者数を確認する。

 安全が確認できれば、傷病者数の把握を行いますが、自隊にて対応しきれない数がいた場合は、応援隊の要請が必要です。交通事故であれば、他の傷病者を見落とさないよう注意し、現場を一周したり、下敷きになっている傷病者がいないか等の確認を行います(写真4)。

2) 必要器材

 救急車両への往復のような時間のロスを避けるために、可能であれば、必要な全ての資器材を現場へ持ち込みます。写真の資器材は外傷傷病者には必須です(写真5)。

3) 受傷機転の特定

 安全に傷病者へ接近できることができれば、受傷機転の特定を始めます。受傷機転を正しく特定、評価できれば、損傷部位を探すにあたって疑わしい場所を予測することができます(写真6)。フローチャートの状況評価にあるような高エネルギー事故は重症と考えてください。

5 傷病者を観察する。

 安全確認、状況把握ができたら、いよいよ傷病者の観察です。

 観察は、大きく2つに分けて、初期評価(生理学的評価)と簡易全身観察(解剖学的評価)を行います。いずれも表面に見える損傷ではなく、体内でどのような損傷が存在するのか? それは、緊急度・重傷度が高いのか? を評価します。

 重症外傷であれば、1時間以内に医療機関にて手術を開始できるよう、観察は2分以内で行い、現場離脱目標時間は5分以内とします。

1) 初期評価(生理学的評価)

 目的は、傷病者を生理学的に評価し、生命を脅かす状況の有無を見極めることです。その後の処置方法や搬送開始の時期が決まるため、迅速かつ中断の無いように行わなければなりません。

 気道閉塞やCPAの場合は評価を中断して必要な処置を行います。

ア 頭頸部固定とABCチェック(写真7)

 傷病者との接触は頭頸部固定から始まると言ってもいいでしょう。

救急隊は到着から傷病者に不利益となるようなことは、避けなければなりませんが、傷病者もやっと助けが来たことにより、救急隊に反応し、不用意に顔を向ける恐れがあるので注意しましょう。

ここでの意識の確認は、JCSの沍~。桁と大まかで構いません。

傷病者が話せれば、その場でA(気道)は開通と判断し、B(呼吸)、C(循環)のチェックへと続きます。
頻呼吸、頻脈で手先が冷たければ、ショックを疑い、酸素投与を10Lから開始してください。

他にも全身を見て、活動性出血があれば、圧迫止血を行いましょう。

イ 気道閉塞とCPA

 気道閉塞及びCPAは初期評価を中断し、必要な処置(吸引(写真8)・

CPR(写真9))を行わなければなりません。

 ABCチェック及びCPRは救急隊にとって、外因性のみならず、全ての症例において最も大事な観察、処置項目です。

 初学者の中には、訓練中、観察が操法のようになってしまい、気道閉塞及びCPAを見つけ声に出したとしても、必要な処置を行わず全身観察に移行してしまうケースを見かけます。観察は操法ではなく、傷病者の体でなにが起こっているか見つけ出すことが目的ですので、特にABCの評価は確実に行い、観察結果に的確に対処しましょう。

2)簡易全身観察

 全身に及ぶ重大な受傷機転がある場合や意識レベルの低下がある場合は、簡易全身観察を行います。視診及び触診は、頭の先から始まり、顔面→頸部→胸部→腹部→骨盤→両大腿→両下腿→両上肢の順になります。フローチャートにある代表的な所見を見た場合は、重症外傷と判断し、前述のとおり1時間以内に手術の可能な医療機関に運ぶ必要があります。

 視診及び触診では、体表面の損傷(創・打撲痕)、圧痛、動揺、骨の擦れる音等を確認し、損傷部位を検索します。人間の体表面は、正中線を境に左右対称となっているので、片側が受傷している場合は、必ず健側を触診してから患側に移行します(写真10)。これは、健側を先に触れることにより、正常な状態を確認し、患側がどの程度受傷しているのか知ることができるからです。

 胸部触診後、両側呼吸音の聴診を左右中腋下線の肺底部付近で行いますが、これも健側にてにて正常な呼吸音を確認した後、患側音がどの程度変化(減弱等)しているか知ることができます(写真11)。

6 ログロールと全脊柱固定

 一命はとりとめたものの、四肢麻痺等重大な後遺症が残ると、その人の一生に関わります。私達の仕事は、その患者をこれ以上悪化させないように搬送することが、目的ですので、しっかりとした全脊柱固定を行いましょう(写真12)。全脊柱固定の目的は、体の動揺を押さえることにより、脊柱、脊髄のみならず、胸・腹腔の重要臓器をも含めて、損傷悪化を防ぐことにあります。

 自分は救急救命東京研修所時代のシミュレーション総合演習にて、6,600Vの配電盤に触れ、約1m程後方に飛ばされた後、その場に倒れたとの想定でシミュレーションを行いました。外因性でしたが、想定上CPAであったため、CPRの特定行為等に追われてしまい、しっかりとして頸部固定ができていませんでした。後の反省会で見取りをしていた教授より「そこに直立で立て!! そのまま受身も取らず、後ろに倒れてみろ!!」と怒鳴られてしまいました。さすがに自分は何もできず立ち尽くしてしまいました。その教授は「わずか1mでも人間が無意識の状態で後のめりに倒れると、確実に頭部外傷及び頸部損傷があると、疑わなければならない」ということを伝えたかったのです。今でも忘れられないシミュレーションとなりました。

7 搬送途上

 現場での観察、必要最低限の処置が終了したら、速やかに搬送を行います。

1)モニター装着と酸素ラインの接続

 車載モニター(心電図、Spo2、血圧計)を装着し、携帯用酸素ボンベから車載酸素ボンベに切り替える。特に胸部に損傷のある傷病者の場合は、心電図による不整脈監視を行います(写真13)。

2)神経学的所見とバイタルサイン

 呼びかけにより意識の再確認をし、意識障害があれば、JCSの確認をします。JCSは、到着時から病着までの時間軸の変化を記録しておきましょう。神経学的所見では、四肢の運動及び知覚麻痺を再確認するとともに、瞳孔の確認をします(写真14)。さらに車積モニターによるバイタルサインも記録します。寒冷環境及びショックであれば、低体温に留意し、体温測定も実施します。

3)GUMBA

 病院での治療の参考として、傷病者の病歴等を聴取します。これらは、外因性疾患のみではなく、内因性疾患での聴取にも有効です。

G 原因gen_in:事故原因、経過
U 訴えuttae:主訴、自覚症状
M 食事meshi:最終食事時間
B 疾患byouki:現病歴や既往症、薬剤に使用について
A アレルギーallergy:薬剤や食物アレルギー

 G・B・Aについては、外傷傷病者が既往症として重大な内因性疾患を抱えている場合があるので、必ず聴取しよう。また、その疾患を発症してしまい、事故に至った場合もあります。

 前述した、研修所でのシミュレーションについては、もう1つ教授から質問があり、「内因性疾患の疑いは?」と聞かれ、「電撃症によるCPAなので、可能性は無いかと思います」と答えてしまい、「脳疾患や心筋梗塞等で意識消失したから、配電盤に触れたかもしれないだろ!!」と再び、雷を落とされてしまったことがあります。普段起こりえないこと(事故)が起こっているのだから、ひょっとすると内因性疾患(脳疾患等による意識消失等)を発症したことが、事故の原因かもしれないことを必ず念頭におくよう指導されました。皆さんも起こった事故だけを見るのではなく、なぜ事故は起こってしまったのかを考えると、意外と傷病者の思わぬ疾病を見つける手がかりになることを覚えておいてください。

 さて、Mについてですが、胃に食物が残っている場合は、手術室内での麻酔導入中、誤嚥の恐れがあるため、必ず聞いて医師に伝えましょう。

4)病院選定と連絡

ア 病院選定

 重症外傷傷病者の生死を左右するのは、受傷から決定的な治療が開始されるまでの時間です。決定的な治療とは、多くの場合、手術になるため、単に直近の病院を選ぶということではなく「どの医療機関であれば、最も早く決定的な治療を開始できるか」を念頭に置きます。そのためにも、普段から地域の医療機関について、知っておく必要があります。

イ 病院連絡(写真15)

 搬送先を決めたら、次の要領で、落ち着いて連絡しましょう。

ア)連絡元と連絡先を明確にする。

 「○○救急隊の○○です。」と名乗る。はるか昔、病院連絡して状況を伝えると、実は夜警のおじさんであり、再度医師に同じ説明をし、余計な時間を使ってしまった事例もあるので、相手方の資格、氏名は必ず確認しましょう。

イ)傷病者の状況を伝える

 例として「○○歳○性、2階の屋根より墜落して、骨盤と大腿の痛みを訴えています。」等大まかな事故状況、傷病者の状態を伝えます。

ウ)緊急度、重症度が高い場合は大まかに

 特に重要な受傷状況、生命に危険を及ぼすような問題点と神経学的所見に焦点を当てます。例として「血圧は60、脈拍は130前後で、両下肢に麻痺があります。」等の内容で伝えます。

エ)病院到着までの時間、助言

 必要であればその場で例として「酸素10L投与中で、Spo2 90%ですが、酸素流量はどうしましょうか?」等の内容で助言を求めます。

8 寒冷環境及び群集の中での活動

 寒冷な環境若しくは、見物人が多い屋外では、そのまま観察を続けると、低体温を促進したり、多くの人の目に曝されてしまいます。救急車を近くに停車できたなら、初期評価のみを行い、速やかにログロールしてバックボードに乗せ、車内に収容します。救急活動中は、救急車内が最も安全な場所であり、資器材も十分揃っているので、傷病者観察に最も適した場所です。全身固定は車内で行うこととし、バックボードを2人で持ち、残った1人が用手頸部固定をしながら、車内収容します(写真16)。

 以前、9月初めのまだ暖かい時期でしたが、深夜の3時頃に雨の中、路上で人が倒れているとの通報で出場しました。周りが暗く事故か急病かもわかりませんでしたが、初期評価中に隊長がチョークで鑑識官のように歩道に印をつけ、自分が呼吸、循環を確認した後、速やかにバックボードに乗せ、車内収容した事例がありました。濡れた衣服を全て脱がせて、体を拭き取りましたが、体温は33.5℃の低体温でした。比較的温暖な時期でも、周囲の状況(雨、屋外、薄着)等により簡単に低体温になってしまうことを良く覚えておきましょう。

<終わりに>

 現在、全国各地で外傷傷病者に対する病院前救護のセミナーが開催されています。セミナーの中では、外傷に関する重要な基本を教えてくれるため、初学者の皆さんには、良い経験の場となっているようです。自分もセミナーを受講して、もう4年経ちますが、現場での活動に大いに役立っています。ただ、様々な現場があるため、セミナーでの内容をそっくりそのまま実施するというのは、やや無理があります。

 現場で使えるようになるには、この3段階の道のりがあると考えています。

 第1段階:最初はセミナーにて学んだ要領で活動する。

 第2段階:現場活動にて合わないと感じる部分は、思い切って破ってみる。注)

注)あくまでも基本に反していないか? を考えること。

 第3段階:最後は基本を守りつつ、独自(自分流)の現場活動要領を確立する。

同じ現場は2度とありません。 決して操法では終わらないように、自分の五感と知識技術を駆使して頑張ってください。


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08.3.6/8:15 PM