OPSホーム>基本手技目次>手技96:ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識(10) 救急隊が内因性疾患の傷病者に対してできること

手技96:救急隊員を目指す初任科生へ

第10回

救急隊が内因性疾患の傷病者に対してできること

今月の先輩プロフィール

亀山洋児(かめやま ようじ)
稚内地区消防事務組合 消防署猿払支署
33歳
北海道宗谷郡猿払村 出身
平成5年消防士拝命
趣味はガーデニング、釣り、山菜採り、散歩


「救急隊員を目指す初任科生へ〜ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識」

シリーズ構成

亀山洋児(猿払)


1、目的(内容)

図1
JPTECに則った活動。ログロールしてバックボードに乗せる

 我が国では外傷に対する処置については「防ぎ得た外傷死」を減らすためにJPTEC(病院到着前に行う外傷傷病者に対する処置について学ぶコース、図1)が普及しており医師が受講しているJATEC(医師向けの外傷の初療コース)との整合性が図られ救急現場から手術室まで一貫した医療が行われている。

 一方、内因性疾患についてはICLS(突然の心停止に対する最初の10分間の対応と適切なチーム蘇生を学ぶコース)やISLS(脳卒中に対する初期診療を学ぶコース)などのコースが普及しているが、いずれも基本的には病院内を想定し医師・看護師を対象の中心においたコースであり、救急隊員の行える処置の範囲からは大きく外れた内容となっている。そこで今回は内因性疾患の傷病者に限定し救急隊が行える処置の範囲内で我々が行うべき処置をフローチャート化したいと思う。ただし、CPAの傷病者に対する活動要領は前回BLSと除細動の回で紹介したため今回は割愛する。

2、対象(年齢区分・疾病区分)


表1:救急自動車による急病に係る年齢区分別傷病程度別搬送人員の状況 

 対象とするべき傷病者の年齢区分は総務省消防庁が発表した「平成17年版 救急・救助の現況」において、「救急車による急病に係る年齢区分別傷病程度別搬送人員の状況」(表1)では、死亡45,895人のうち78.6%が高齢者であり26.2%が成人であった。また、重症249,605人のうち高齢者は72.9%を占め成人は26.2%となっている。このことから救急車で搬送される死亡、重症の7割以上が高齢者であり、2割以上が成人であることが伺えるため、高齢者を対象とする。


表2:救急自動車による急病に係る疾病分類別傷病程度別搬送人員の状況

 次に対象とするべき疾病分類を設定する。「救急自動車による急病に係る疾病分類別年齢区分別搬送人員の状況」において、「症状・徴候・診断名不明確の状態」と「その他」を除けば、「心疾患等」、「脳疾患」、「呼吸器系」が上位を占めている。また、「救急自動車による搬送人員のうち急病に係る疾病分類別傷病程度別搬送人員の状況」(表2)において、心疾患等が死亡の1位であり42.4%を占め、重症においては脳疾患が32.2%を占め1位となっている事から「心疾患等」、「脳疾患」、「呼吸器系」を対象とするべき疾病分類に設定する。

3、フローチャート

(1)覚知〜現着

図2
感染防御

a.場所、氏名、年齢、性別の確認
b.意識の有無
c.発症時間の確認(いつから?発症目撃の有無を含む) d.主訴の確認(どこが、どのように?)
e.既往歴の確認(服薬・アレルギー・最終食事時間を含む)

a-eは通信指令室が把握し出動指令時に伝達

f.感染防御(ゴーグル、マスク、グローブ、感染防御衣・必要に応じシューズカバー、図2)
g.携行資器材の確認
h.活動方針(上記の内容に合わせた打ち合わせを現着までに行う)

(2)現着〜現発

図3
JCSを確認

a.安全、周囲の状況確認(内因性疾患においても発生場所は多様であり安全及び周囲の状況の把握は重要である)
b.傷病者へ接触(呼び掛け等によるJCSの確認、図3)


図4
気道を確保し呼吸観察を観察する


図5
瞳孔の観察

図6
心房細動

図7
心電図電極装着

図8
腹部の聴診

図9
腹部の触診

4、終わりに

 経験豊富な救急隊員でさえ緊張することはある。まして初任教育を終えて間もない職員にとっては救急出動の際、必要以上に緊張してしまい訓練で出来る事が現場では中々スムーズにはできない事もあると思う。経験の浅い者にとってはその一生懸命さがマイナスに作用し平常心を保つのは難しい。

 しかし、一歩距離をおいて考えてみると、多様な傷病者に接しているが救急隊員に許された行為は限られており、行える行為を列挙しても容易にその全てを列挙出来るほど救急隊員に許されている行為は少ない。フローチャートの点線で囲まれた部分の数を見てもらってもわかるとおり救急隊員が行える事はバイタルサインの測定と観察が主であり、その結果に合わせた処置と病院選定が附加される。救急業務においてバイタルサインの測定と視診・触診・聴診といった観察を確実に行う事が最重要事項と言っても過言ではない。

 救急隊員が傷病者に出来る処置のうち傷病者の容態を劇的に改善しうるのは除細動のみである事を認識すると肩に入っていた力を抜く事ができるのではないだろうか。


用語解説

心雑音:心音はI音からIV音迄ありI音とII音は通常聞こえる正常な心音である。III音は心不全などで聞こえる左心室への血液流入音、IV音は左心房から左心室へ血液を送り込む心房音で心筋症などで聞こえる。その他、速い血流により生じる心雑音があり心雑音も収縮期雑音・拡張期雑音・連続性雑音に分けられる。まずは正常な心音を聴診し覚える事が重要である。

肺雑音:乾性ラ音と湿性ラ音があり、気道の疾患や肺の疾患で「ヒューヒュー」や「プツプツ」という音が聴診器で聴取される。

グル音:腸が消化の為に運動して発生する音でありグル音が聞こえること自体は異常では無い。腸閉塞では音が激しくなったり全く聞こえない状態が続く事がある。まずは正常なグル音を覚えることが大切。

皮下気腫:皮膚の下に空気の層が出来た状態。首や鎖骨の周辺の胸を掌で軽く圧迫すると雪を押し潰したような抵抗を感じる。緊張性気胸や気管支の断裂等で見られるがガス壊疽などでも見られる。

腹膜刺激症状:腹筋が意識しなくとも常に板の様に硬くなる(筋性防御、デファンスともいう)、腹部を触診すると軽く押しただけでも痛みを訴える状態(圧痛)、腹部を触診すると圧迫しているときは痛みを訴えないが圧迫を解除すると痛みを訴える(反跳痛、ブルンベルグ徴候ともいう)といった症状を総合して腹膜刺激症状という。お腹の中に血液や消化液等が流れ出し刺激を受けている状態である。

メズサの頭:肝硬変などで見られる。へそを中心として皮膚に放射状に青く太いスジとして血管が見える(腹壁静脈の怒張)を神話に出てきたメズサ(髪の毛が複数の蛇になっており直視すると石にされてしまう怪物)の頭に例えてメズサの頭という。

カレン徴候:急性膵炎で見られるヘソ周辺の皮下出血(赤黒く見える)側腹部に同様に出るグレーターナ徴候もある。

CO2ナルコーシス:二酸化炭素には麻酔効果がある。正常では血液中の二酸化炭素濃度が高くなると呼吸刺激が起こり呼吸するが、CO2ナルコーシスでは血液中の酸素濃度の低さにより呼吸刺激が起こる為、高濃度の酸素を投与し血液中の酸素濃度が高くなると呼吸回数が減り、血液中に蓄積された二酸化炭素により麻酔がかかった状態になり呼吸が停止する。

瞳孔径:正常は2.5mm〜4.5mmであるが、橋出血(脳出血の一つ)では2mm以下となったり、脳出血では左右どちらか又は両方の瞳孔が5mm以上に散大したりすることがある。

対光反射:瞳孔径はその環境の明るさに応じて常に調整されている。通常は直接瞳孔に光を当てると明るさの変化に合わせて瞳孔は収縮するが、そこに至る神経や脳の障害により光を当てても収縮しない状態を「対光反射なし」と言う。異常な所見である。

眼球位置:左右の目は連動し動くようになっている。左右の目が別々の方向を向いたり、両目揃って右、又は左といった一方を睨むような場合は脳出血などが疑われる。


バイタル測定と処置の目安

PR:普通は60〜90回/分くらいである。50回/分以下や120回/分以上は要注意であり、血圧の数値やそうなった原因に合わせた処置が必要となる。大量の出血によるものであればショック体位をとるなど処置を行う。

BP:収縮期血圧120mmHg/拡張期血圧70mmHg前後が普通であるが、収縮期血圧が90mmHg以下や180mmHg以上となる場合はショックや高血圧による脳病変が発生する可能性が有るので注意を要する。

SpO2:健常な人では常に95%以上ある。95%以下の場合は酸素投与しSpO2の数値の上がりかたをみて酸素投与量を調整する必要がある。通常のマスクでは7L以上流量を上げても効果がないので、それ以上の流量で酸素を投与する場合にはリザーバーバック付きのマスクを使用する。ただし、慢性気管支炎や肺気腫といった慢性閉塞性肺疾患の傷病者はCO2ナルコーシスになる可能性があるので、酸素投与後は傷病者を充分に観察する必要がある。また、指にセンサーを付けてSpO2を測る場合にはセンサーが外れていたり、爪の汚れ等により正確な数値が出ていない場合もあるので、SpO2の数値が低い場合には酸素投与や投与流量を上げる前にセンサーの装着状況を確かめる必要がある。

呼吸回数:普通は8〜14回/分位である。8回/分以下や20回/分以上はSPO2の数値を見ながら酸素投与やリザーバー付きバックマスクによる補助換気を行う。


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08.4.13/12:15 PM