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手技100:救急隊員を目指す初任科生へ

最終回

現在の救急情勢と目指すべき道


国家試験勉強法

081104国家試験"裏"必勝法?! 手技100:ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識(最終回) 現在の救急情勢と目指すべき道(2救急救命士の養成に記事あり) 051105有働裕妃(幌加内)救急救命士国家試験の勉強法null 040131炭谷貴博:救急救命士国家試験の勉強法(炭谷スライド:救急救命士国家試験必勝講座スライド 炭谷動画:必勝講座1 必勝講座2

救命士養成所など

080610田舎消防の救命士養成 061205最大の試練 051106有働/炭谷:救急救命士国家試験-不安との戦い 040131山本正典/炭谷貴博:救急救命士と家族の絆


今月の先輩プロフィール

大島基靖
(おおしまもとやす)
札幌市消防局総務部消防学校教務課教育係

北海道札幌市出身
昭和56年消防士拝命
平成9年救急救命士資格
趣味は温泉・地方での宴会


1札幌市消防学校

 はじめに私が勤務している、札幌市消防学校について説明したします。

図1札幌市消防学校

 札幌市消防学校、住所は札幌市西区八軒10条西13丁目、敷地面積は49,000m2で救急救命士養成所と消防科学研究所を併設しており平成11年11月9日に開校しました(図1)。

 消防学校は学校長、副校長以下校務係、教育係、消防科学研究所の教官18名体制で研修を行っています。

 私は、平成19年4月から教務課教育係員として勤務しています。

図2気管挿管・薬剤投与セット講習

 学校では、初任教育・救急標準課程・気管挿管薬剤投与講習・救急救命士養成課程を担当しており、平成19年度は薬剤投与講習39名、救急標準課程47名、気管挿管・薬剤投与セット講習46名、救急救命士養成課程30名を行いました(図2-4)。

図3薬剤投与講習

 平成20年度は、救急標準課程77名、気管挿管・薬剤投与セット講習を2回60名、救急救命士養成課程40名の講習を行う予定です。

図4静脈確保訓練


2救急救命士の養成

 平成20年4月10日に第31回救急救命士国家試験の合格者が発表になりました。
受験者数2,523人、合格者数2,022人、合格率80.1%。厳しい結果と思いました。

 第30回の救急救命士国家試験から合格基準が変更となり、従来の60%以上合格から一般問題60%以上かつ必修問題80%以上正解しなければ合格しないという大変厳しい内容になりました(図5)。

 国家試験200問のうち必修問題がどれであるかは明らかにされていませんが、第30回の救急救命士国家試験の必修問題32.5点以上合格から推測しますと、満点が40.5点ということになります。

 今回行われた第31回の試験は必修80%以上正解としか発表されていませんが、午後に行われるB・C問題に大きなウエイトがあると思われます。

 これから救急救命士を目指す方は、一般問題・必修問題ともに80%以上正解できる実力をつけ、さらには必修問題を全問正解する勢いでなければ、安心して合格発表に臨めません(図6)。

図7 全国統一模擬テスト

 前年度、救急救命士の養成に携わり驚いたことがあります。今までの経験からすると、試験の1ヶ月前には殆ど勉強が仕上がっており、後は試験の日までに不得意科目の再勉強や体調管理を行い健康維持に努めると言うイメージでおりましたが、平成20年2月に全国の消防機関養成所で実施された全国統一模擬テストで雰囲気が一変しました。札幌市消防局救急救命士養成所研修生30名の三分の一以上が合格基準に満たなかったのです。この不合格者すべてが必修問題正解8割に届いておらず、あらためて必修問題の怖さを思い知らされました。

図8 第14期救急救命士養成課程修了式

 試験結果を踏まえての検証事項として、今回からテキストが2冊になりボリュームが増えたことと併せて、必修問題対策をしてこなかったことが不合格の原因とされました。

 それからは、研修生と教官が一丸となって頑張り、研修生30名全員合格することがきました。

 これから救急救命士を目指す方に忠告です、養成所に入る前に60%程度の自己学習を終えてから入所しないと、約7ヶ月の研修期間は厳しく苦しいものとなります。

 また以前の試験体制で合格された先輩救命士にお願いがあります。
「養成所に入れば7ヶ月で教官がなんとかしてくれるから大丈夫。」
とは、絶対に言わないで下さい、貴方達の時代とは違うのですから・・・


3救急救命士の再教育

 救急救命士が資格取得後に再教育として、2年間に128時間の病院実習を受けなければならないとされてきましたが、消防庁のMC作業部会は平成20年3月21日、救急業務高度化推進検討会に救急救命士の再教育内容を充実させるための変更を盛り込んだ報告書を提出するというニュースがありました。

 新しい再教育は、これまで128時間以上だった病院実習を48時間に短縮して実習内容を絞り込むというものでした。

 実習項目は以下の内容に分類されました。
(1)安全・清潔管理
(2)基礎行為(血圧測定や輸液ルート作成など)
(3)特定行為(助細動やアドレナリン投与など)
(4)生命の危機的状況(呼吸不全など)への対応力
(5)病院選定時の判断能力

 再教育時間が48時間に減るのではなく、残りの80時間以上を地域のMC協議会が再教育を担います。

 内容は病院実習時に作成したノートをもとに、実習内容を把握して、医師がかかわることを前提にした症例検討会や集中講義、実務教育などを実施し、出動回数が少ない救急救命士など個人に応じた実習プログラムを提供するというもので、消防庁と厚生労働省が通知を出す予定です。

 今までの病院実習は見学が主体でしたが、再教育プログラムが作られるとより充実した実習になると考えられます、しかし高度な教育を行うためには、札幌市の救急ワークステーションの救急指導係員のような指導者を養成していかなければならないと思います。


4自己学習

平成16年から気管挿管、平成18年からアドレナリンの投与が認定を受けた救急救命士に限り実施が可能となっており、認定に必要な救命士の追加講習を学校で行っています。
私も、135時間の救急課程を修了し救急隊員として活動してきましたが、その後救急隊員の処置拡大により115時間の救急II課程を受講するまでの間、救急隊員としての教育はほとんどない状態でした。

 救急救命士が医療者として位置付られ、AHAからG2000が発表されてから、色々な教育プログラムのセミナーが開催されています。

 それに伴い、最近は救急隊員が参加できる勉強会がたくさんあります、大きなものでは救急隊員シンポジウムや救急隊員部会、小さなものでは所属等の事例検討会などがあります。さらにACLS・BLS・ICLS・JPTEC・各地域救急隊員の会など開催されています。
いままで教育はほとんど公費で行われていましたが、自分の能力向上のために受講費を出して勉強することが必要だと思います。

 そしてさらに自分の能力を向上させるには、一般受講生としてセミナーを受け、さらに指導者となるべく勉強をしていかなくては、実力は付かないですね。

 各種学会や事例検討会も聴講だけでなく、ぜひ発表してみてください。発表された方は解ると思いますが、内容から想定される質問の答えを考えるなど、非常に勉強になります。

 自己学習は若い救急隊員だけのものではありません。救急隊員が知識技術を向上させ、また救急隊長や先輩が部下や後輩に対し指導していくためには、日々の出動を通じて、救急活動に必要な知識・技術・技能・態度などを常に勉強していかなければなりません。

 私が実技の修了試験を終えた救急標準課程の研修生にはこう話しました。
「シミュレーションが完璧にできても、現場で全ての傷病者を助けることはできませんが、シミュレーションができない者は傷病者を助けるチャンスもなくしてしまうのです。」

 実技試験がうまくできなかった者は、「緊張してできませんでした」とよく言いますが、私が今まで指導者として携わってきた経験からすると、試験を「頭が真っ白」になる緊張状態で行うと、普段やっていることしかできないものです。頭の中だけで考えて実行しようと思っていたことは、緊張状態では出てこなくなるのです。上手にできない研修生には「数回の練習でできるわけがないのです。100回成功するまで訓練しなさい。体で覚えたことは、忘れないのですよ」と言います。


5ウツタインデーターについて

 札幌市の救急隊は今年度1隊増え31隊が活動しており、平成19年の出動件数は75,179件前年比714件の減少となりました。

 平成18年度の札幌消防の蘇生状況です。
心原性の心肺停止症例で発症目撃あり、救命できる可能性が一番高い症例です。
全国、北海道、札幌市との比較です(図9)。

 札幌市の場合、出動隊に必ず1名以上救急救命士が同乗しており、三次医療機関も5ヶ所あり恵まれた環境であると思います。

 G2000の発表以来、AEDを設置している施設が大幅に増えているとは言え、心原生性の心肺停止で一般市民による除細動が札幌市では2件しかありません。

 一般市民による除細動がもっと増えていけば、助けることができる傷病者の救命率も上がっていくのではと思います。

 それと私たち消防職員が除細動だけでなく、絶え間ない胸骨圧迫が必須であるということも一般市民に教育していかなければなりません。


6救急隊員の輪のこと

 私も同じ仕事をしているとはいえ、札幌市以外の消防職員は初任教育の同期生くらいしか知り合いがいませんでしたが、救急救命士の資格を取得してからは、各種セミナーや医学会、地方で有志が集まって開いている勉強会にたびたび参加するようになると、地方の友人ができました。

 しかも彼らは勉強熱心であり、救急に対する知識技術は高レベルなものでした。

 まさに井の中の蛙、救命率の高さから札幌の技術が一番と思っていた私は、このままではまずいと思い、言い聞かせるよりも実際に見せた方が良いと思い、地方の勉強会に行く時は、飲み会を餌に部下や同僚を誘い、地方の職員とも接触を持つようにしました。

 道内でも6ヶ所以上は救急隊員が集まって行っている勉強会がありますが、中にはホームページをつくり大々的にやっているところや、少数で定期的に勉強しているところなど様々です。

 各救急隊員の会が連絡を取り合い、行事等を通知することにより他の消防本部から参加者があり、互いに切磋琢磨しますます盛り上がっていくのではと思います。


おわりに

 「現在の救急情勢と目指すべき道」と言う壮大なテーマを与えられましたので、私が思うことを色々書いてみました。一番言いたかったことは、救急救命士の国家試験合格が目標でなく、合格してやっとスタートできると言うことです、救急隊を引退するまで続く長い生涯研修の始まりなのです。

 近年各自治体の財政難からか救急救命士の内部養成が減って救急救命士の資格保持者を採用する消防本部が増えてきています。地方の消防職員の中には救急救命士の資格を希望している職員が大勢います。しかし市町村や本部の方針として内部からの養成は時間と費用が掛かり、さらに派遣している間の補充人員もいないため、救急救命士養成所には派遣できないところが増えています。

 しかし救急隊長として即活躍できる救急救命士も必要なのも事実です。本当の即戦力を得るためにも内部養成はやはり必要であると認識を広めるためにも、札幌市消防局救急救命士養成所で救急救命士になった研修生には、すぐ救急現場で活躍できるように厳しく指導していきたいと思います。


1年間の連載にシリーズ構成として携わって

亀山洋児(稚内地区消防事務組合消防署猿払支署)

 昨年の2月に新連載についてのお話をうけ、初任科生に向けた連載を始める事になり、知人をつてに執筆を依頼して1年間の連載を続けることができました。ページ数の制限などもあり、常に充分な内容で必要事項を全て伝えることができたとは言えませんが、執筆を引き受けて下さった方々の学習・自己研鑚に対するモチベーションは非常に高く、執筆を依頼した僕自身も、書いて頂いた原稿の内容ををチェックしながらその内容から多くを学ばせて頂きました。

 初任科生へ向けた連載も今回で最後になりますが、この1年を通じて連載に協力して下さいました皆さん、執筆して下さった皆さん、愛読して下さった皆さんに感謝を申し上げお礼の言葉とさせて頂きます。

 1年間有り難うございました。


国家試験勉強法

081104国家試験"裏"必勝法?! 手技100:ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識(最終回) 現在の救急情勢と目指すべき道(2救急救命士の養成に記事あり) 051105有働裕妃(幌加内)救急救命士国家試験の勉強法null 040131炭谷貴博:救急救命士国家試験の勉強法(炭谷スライド:救急救命士国家試験必勝講座スライド 炭谷動画:必勝講座1 必勝講座2

救命士養成所など

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08.12.6/4:56 PM