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One Step Up 救急活動

第2回

AHAガイドライン2005から読む急性冠動脈疾患

Lecturer Profile of This Month

安藤 聖貴(あんどう きよたか)

北十勝消防事務組合 上士幌消防署

35 歳
出身 幕別町
消防士拝命:平成4年
救命士資格:平成13年

趣味:野球 ドライブ


シリーズ構成

若松淳(わかまつ・まこと)

胆振東部消防組合消防署安平支署


「AHAガイドライン2005から読む急性冠動脈疾患」〜 我々ができる心臓救命 〜

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我ら、救急隊!仕事は命を救うこと!!

蘇れ!命のリズム!

 前回の連載では脳卒中の兆候をいち早く発見し適切な処置を迅速に行い、適切な医療機関へ搬送することで後遺症を減らし、救命率を上げる事について述べた。今回は脳卒中同様、発症からの時間が闘いとなる心臓疾患に焦点をあてる。中でも突然死の原因となる急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome:ACS)についてAHAガイドライン2005を参考に我々ができる心臓救命について講義する。


A Case Report

☆胸が痛い!

午前2時37分。
救急出動を終え帰署中の救急車内に新たな救急出動を告げる無線が入る。
「救急指令。内容急病。現場、上士幌町○○-○○番地。57歳男性。胸痛を訴えている模様。」
一気に車内に緊張感が走る。詳しい詳細は分からないが、ただ一つわかる事は傷病者が胸痛を訴えており、現在も苦しんでいるということである。隊員に現場での活動内容を指示し、胸痛というキーワードから心電図の装着など心疾患を考慮し活動する事を伝えた。

☆胸部を押さえ込み座位でいる傷病者

現場に到着すると不安そうな妻の横で傷病者が座位の状態で胸部を押さえ、苦悶様症状でいた。直ちにバイタル測定・酸素投与を実施しながら本人に症状を聞くと胸を中心として頸部から背部にかけて広がる痛みを訴えている。妻から発症時刻や既往歴等の必要事項を聴取し、車内収容を急ぐ。車内収容後、心電図測定を実施。心電図波形からはSTの変化は見受けられないが持続する胸部不快感や痛みの部位、既往歴(高血圧、コレステロール)などから循環器系疾患を疑い医療機関を選定する。

☆適切な病院選定で無事退院

搬送後、冠動脈造影を行い、閉塞した冠動脈をバルーンで拡張後、ステントを留置した。
診断名―急性心筋梗塞

その後、胸痛も認めず、重篤な不整脈もなし。10日後、後遺症もなく退院した。


AHA 2005 Guidelines for CPR and ECC

AHAガイドライン2005。救急心血管治療のテキストとしても大変に貴重な情報源である

AHAガイドライン2005:現在の世界標準(ZU2)

☆CPRだけでなく救急心血管治療も

AHAガイドライン2005はアメリカ心臓協会(American Heart Association, AHA)が作成した心肺蘇生(CardioPulmonary Resuscitation, CPR)と救急心血管治療(Emergency Cardiovascular Care, ECC)ガイドラインの2005年版である。

2000年に発表されたAHAガイドライン2000は科学的なエビデンスに基づき作成され、標準的なCPRを世界的に普及させた。2005年に発表されたAHAガイドライン2005は、主にガイドライン2000以降に発表された蘇生に関するあらゆるエビデンスをくまなく集め、評価、審査したものである。このガイドラインは心肺蘇生に関係した教育、訓練だけではなく、救急心血管治療のテキストとしても大変に貴重な情報源となっている。


Knowing and Understanding ACS

急性冠症候群を知る
疑うことが救命の第一歩!

☆急性冠症候群(ACS)

G2005では、急性心筋梗塞(Acute Myocardial Infarction:AMI)と不安定狭心症(冠動脈が血栓により、いまにも完全に詰まりそうになっている状態で、心筋梗塞に移行しやすい危険な狭心症)を一連の病態とし、さらに心臓突然死を含めて「急性冠症候群:ACS」と呼ぶことにした。ACSに共通の病態生理は、血管の内部にコレステロールなどが沈着して内腔がせまくなる状態(アテローム)の破綻またはただれること(びらん)である、と記載されている。要するにACSの原因は血管を細くするおかゆ状のコレステロールの破裂による血栓閉塞である。また、上記のようにACSは独立した疾患名ではなく、臨床的には急性心筋梗塞、不安定狭心症、心臓突然死などを指している。

☆胸痛を来す疾患(ZU3)

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胸痛を来す疾患をZU3に示す。
どのパターンでも重症化するが、中でも短時間で死に至るものとして@に分類されている心臓突然死がある。通報内容が「胸痛」という場合に緊張感や活動に不安感を持つ人が多いのは胸痛=心臓突然死をイメージし短時間で死に至ると連想するからであろう。

☆ACSを示唆する症状(ZU4)

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ACSの症状を(ZU4)に示す。

これらは、いずれの症状も心臓突然死の起こる可能性があり、ACSが疑われる傷病者に対して適切な治療が行える医療機関へ搬送するように心掛ける。このような症状が15分以上続く場合はACS/AMIの発症を強く疑う。しかし、これらの症状のみでの判断では十分ではなく12誘導心電図などの他の情報と組み合わせることが必要である。また、ACS患者の多くで前駆症状がみられるが、特に高齢者、女性、糖尿病患者ではこのような症状が乏しく無視されたり、誤って解釈される非定形的徴候が多いことにも注意しておく。

☆ACSの心電図

STが上がっているタイプの心筋梗塞

心電図所見からACSを評価する場合は、STが上がっている(ZU5)のか、

STが下がっているタイプの心筋梗塞

または下がっているのか(ZU6)を確認する。
ただし注意しなければならないことは、心電図上でSTの変化がなくても心筋梗塞に陥っている場合があるので、臨床状態からACSが示唆される場合(胸部不快感の持続など)には心電図を経時的に記録することが必要である。つまり、心電図が正常波形だからと言って安心するのではなく、始めは正常波形でも一部の傷病者には心筋梗塞が隠れていることを忘れてはならない。継続観察を行いバイタルの変化に注意する。



Out- of-Hospital Management of a Patient with ACS

AHAガイドライン2005に沿ったACL救急活動を見る!

(1)通信指令員は119番入電時に状況聴取、発症時刻、痛みの部位・症状、既往歴、服用薬などを聴取し、通報内容からACSが疑われるキーワードを察知し、聴取した状況を救急隊と共有することで現場活動の迅速化を図る。
(ZU7)

(2)通報内容より隊長は隊員に「ACS」の可能性のあることを告げ、資機材準備や感染防御の指示を出す。
(ZU8)

(3)関係者から情報を収集し、現場の安全や傷病者がどのような訴えをしているかを確認し現場や傷病者の情報を整理する。(ZU9)

(4)初期評価。意識・気道・呼吸・循環の評価を正確にかつ迅速に行う。
(ZU10)

(5)初期評価と並行して主訴などを確認する。痛みの部位や発症時間ならびに持続時間などを確認しACSを認識する。
(ZU11)

(6)ACSが疑われる傷病者にはバイタルサインと心電図をモニタリングし、酸素を投与する。酸素投与は早期に実施することによって前壁梗塞におけるST上昇を抑制することができる。
(ZU12)

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(7)現場でSTの上昇を同定したなら、線溶療法チェックリスト(ZU13)に沿って観察、問診を行うことが医療機関での早期治療を可能にする。このチェックリストの内容には、救急隊が現場でも行える血圧測定の参考数値を始め、医療機関が線溶療法を行う上で傷病者から聴取するべき項目が網羅されている。

(8)病院選定とファーストコール。医療機関では、救急隊からの情報を受けた時点から治療の準備が開始される。院内での治療を早期に実施するうえでも、救急隊員は傷病者の情報を的確に医療機関へ連絡する。
(ZU14)

(9)車内搬入
高規格救急自動車に積載してある12誘導心電図で波形を迅速に記録し、ACSの心電図所見を把握する。
(ZU15)

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(10)心電図伝送とセカンドコール
心電図伝送を利用し医療機関へ判読結果を早期に報告する。ファーストコールで伝えきれなかったバイタルサインや発症時刻、既往歴などは勿論、ACSの自他覚症状、12誘導心電図の所見もいち早く認識し、医療機関へ情報提供する。
(ZU16)

(11)ACSによる死亡の半数は、病院到着前に起こる。これらの大部分で起こり得る心リズムは心室細動/無脈性心室頻拍であり、除細動が有効である。現場でCPAに遭遇した場合、有効な胸骨圧迫を行い、早期除細動を試み心拍再開を目指す。
(ZU17)

(12)救急隊の迅速適切な判断により血栓溶解療法が適応できる。
(ZU18)



Getting ACS Over to the Emergency Services and the Residents

ACSを克服するために

日ごろから心電図を見ることによって苦手意識は少なくなっていく

☆とにかく心電図に慣れる(ZU19)

先に述べたACSの特徴を示す心電図波形を見つけるには、日ごろから心電図に慣れておく必要がある。そのためには、まず正常波形を理解しておく。正常波形を理解することが現場で異常波形を見つけるポイントになる。正常波形とどこが違うのだろうという疑問が生じてくると、既にその波形は異常波形だとあなたは認識できているはずである。活動中に測定した心電図は帰署後、もう一度見てみる。心電図にはいろんな形がある。とにかく心電図に慣れることから始めてみよう。

☆心電図伝送を利用する

現場で12誘導心電図を迅速に記録し、ACSの心電図所見を把握することは搬送先医療機関の決定、また医療機関へ判読結果を早期に報告できるメリットがある。このことは、事前に医療機関側で状況の判断ができ、線溶療法が適応の場合、治療開始までの時間を短縮できる。ACSを救命するには早期治療(再灌流療法)が不可欠である。このことから、心電図伝送を有効に活用したい。
救急隊員の包括的除細動が開始され、心電図伝送自体の必要性が議論されることもあるが、私は救急隊員にACLSの教育が浸透されつつある今こそ、ACSの自他覚症状を示す傷病者にはルーチンの12誘導心電図記録と心電図伝送が救命率をあげる近道だと感じている。現在、早期治療を目的とする遠隔医療画像システムの実用に向けたプログラムが各地で取り組まれており、今後の実用化に期待したい。ただし、12誘導心電図の測定に時間を要し医療機関への搬送が遅れることは避けなければならない。

ふだんの救命講習で用いているスライドの例

☆住民に教育する

日頃より救急講習会等でACSについて住民の関心を高めると同時に住民自身がACSの症状を正しく認識でき、必要に応じた救急要請が出来るように指導(ZU20)する。

治療が遅れる3つの時間帯

ACSはいかに早く治療するかが肝要であり、治療の遅れは救命率の低下を意味する。その治療の遅れは、3つの時間帯で起こると言われている(ZU21)。このうち@の遅れが最も多い。このことからも救急講習ではACSが心臓突然死の原因になることを認識させ、徴候が出た場合の対応や、CPAに陥った場合に早期通報、一次救命処置(BLS:basic life support)という救命の連鎖を理解、実践できるよう指導することが必要である。


What does Applied AHA Guideline make?

AHAガイドラインを導入して何が変わったか?

ガイドライン2000との出会いは衝撃的であった。当時の自分は救急のテキストは読んでいても、何の根拠がありCPRを実施しているのかすら分からず、ただ胸骨を押していたような気がする。そのような時、ガイドライン2000が発表されエビデンスという言葉を知った。どんな処置にも根拠があるということを知り、現場での処置にも俄然熱がこもるようになった。現在もガイドライン2005を読みながら知識の整理を行っている。ガイドラインは今後さらに進化していく。常に新しい情報をキャッチし救急現場で対応できるようにしたい。
〜すべては傷病者のために〜



Voices of the Emergency Room Doctor, Nurse, and Paramedics

各地でAHAガイドラインを活用している医師・看護師・隊員に聞く

〜 麻酔科医師 〜 エビデンスを理解したことによって自分の知識の整理がされ、急変時(AMIでもCPAでも)の対応に余裕ができました。また、医療スタッフの間で意思(使用薬剤・投与法・手順)の統一が可能になりました。

〜 看護師 〜 非心停止の人をいかに心停止させないかのマネジメントを学ぶことができ、患者さんの安全を守るために必要な知識・観察の技術を得ることができました。

〜 救急救命士 〜 救命士としてプロトコルを順守するためにも、ガイドラインを深く理解することが必要です。プロトコルだけではカバーしきれない内容をガイドラインを読んで確認しています。

〜 救急救命士 〜 エビデンスに基づいているため、救急講習会などで住民に指導する上でも、自信を持って指導することができるようになりました。



Writer's Comment

最後に

救急隊の最大の目的は、すべての傷病者に後遺症なく社会復帰して頂けるように、最善の観察、処置を行い、適切な医療機関へ搬送することである。今回、ACSの概要について簡単に述べたが、そこから見えてくるものは、傷病者の状態を正しく評価するために常に最新のエビデンスに基づいた知識や技術を習得し、そこで得た情報を現場活動で上手くリンクさせ傷病者を最適な医療機関へ搬送することである。このことは決して救急隊だけで完結するものではなく、住民への啓蒙活動や医療機関との協力なくしては成り立たない。私はこれらが一本のラインで繋がった時にはじめて傷病者の利益となると確信している。今後もいかなる事案にも対応できるよう、自己研鑽に取り組んでいきたい。


Acknowledgment

謝辞

本稿をまとめるにあたりご指導いただきましたJA北海道厚生連帯広厚生病院 麻酔科 田辺水緒子先生、十勝恵愛会病院 小泉洋一院長はじめ病院スタッフに深謝いたします。


References

参考文献

日本蘇生協議会監修:AHA心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドライン2005
AHAガイドライン2005準拠:ACLSプロバイダーマニュアル


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http://ops.umin.ac.jp/

08.8.23/3:28 PM