OPSホーム>基本手技目次>手技128:Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ(第3回)ドクターヘリの活用

Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ

第3回

ドクターヘリの活用

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Lecturer Profile of This Month

大嶌 邦彦(おおしま くにひこ)

鳥栖・三養基地区消防事務組合西消防署 消防係主査
年齢 39歳
出身 :佐賀県鳥栖市牛原町
消防士拝命 :平成3年4月
救命士合格 :平成12年11月
趣味 ドライブ、ゴルフ


シリーズ構成

田島和広(たじまかずひろ)

いちき串木野市消防本部  いちき分遣所



Change! Try! Avoid Pitfalls! ピットフォールを回避せよ

Chapter 3

ドクターヘリの活用

ドクターヘリの連携強化で傷病者を救え!

高速道路着陸決定から事例検討会まで

 ドクターヘリとは、1970年にドイツで誕生し、医師がヘリコプターで患者の元へ向かうシステムです。

 日本は2001年にドクターヘリ導入促進事業が始まって以来、メディア等の影響もあり、ドクターヘリ活動への理解が進んでおり、広く一般にも知れ渡っているところです。

 今回、高速道路本線上にドクターヘリが着陸し、救命、救急活動を実施したことについて、事例検討会の内容を含めて紹介します。


「事例」
A Case Report

☆救急救助指令

 昼食前に救急救助指令が入った。

「救急救助指令。場所、九州自動車道上り○○キロポスト。高速道路で車両が横転し運転手が閉じ込められている。」

119番通報は高速道路管理室からであり、指揮車、タンク車、救助工作車、救急車での出動。

横転車両内に挟まれている・・・
「ドクターヘリ要請も考えて活動するぞ!」
救急隊長で出動した私は隊員と目を合わせた。

『○○-○○間 事故車両あり』と高速道路入り口の電光掲示板に表示がある。

救急車が高速道路本線上に進入したと同時に
「傷病者は2名。両名とも自力で事故車両から出られない状況」
と指令室より無線連絡が入った。
私は「救急隊の増隊とドクターヘリ要請をお願いしたい」指令室へ連絡したが・・・
「現着後に必要ならば要請する。」の返答。

事故車両除去のクレーン車が遠くに見える

高速道路本線の3車線ある道路が現場手前より渋滞している。
救急車先導で高速道路路肩を約300m走行すると、警察官が既に到着し交通規制していた。
また、事故車両除去のクレーン車が目に入った(写真1)。
「もう、クレーン車も準備しているのか?」
「クレーン車が現場に到着しているのなら、事故が発生して時間が経っているのでは?」
隊員とそんなことを話していたら警察官が救急車に近づいてきた。

「ここに負傷者は居ません。現場は100mくらい先です。」
警察官は前方を指差し、ここは事故現場ではないことを伝えてきた。
「負傷者は、どういう状況ですか?」と尋ねたが
「私はよくわかりません。先に警官がいますから、そちらで聞いて下さい。」の返答。

100メートル進んで横転している車を発見

事故状況を把握できないまま、誘導のとおり約100m救急車を進めると、普通乗用車が横転していた(写真2)。

「救急車は救助隊の活動に支障がない位置に停車!」
「資機材は、OKだよな!」
私は隊員に確認を取り横転車両に走った。



☆状況評価

2名の傷病者を発見

安全確保・・・警察官が交通規制していた。油漏れなし
傷病者数・・・2名 両名とも事故車両内で身動きが出来ない状況であった(写真3)
受傷機転・・・車両の横転事故。関係車両数は不明
       横転車両のスピードは時速100kmと推定

傷病者の初期評価に取り掛かる

「ドクターヘリと応援救急隊を呼んでください。」
私は指揮隊にそう伝えると救助隊と共に車両の横転防止措置を実施しながら傷病者の初期評価に取り掛かった(写真4)。


☆「傷病者1」

50代男性
意識・・・JCS1桁
呼吸・・・頻呼吸
循環・・・頻脈 持続出血なし
運転席で腰部をハンドルとシートに挟まれている

☆「傷病者2」
40代女性
意識・・・JCS1桁 不穏
呼吸・・・頻呼吸
循環・・・正常 頭部より出血
助手席側で、つぶれた天井部分とシートに下肢を挟まれている。



☆ドクターヘリ到着

「女性傷病者から救出するぞ。」

「女性傷病者から救出するぞ。」救助隊長の問いかけに、私はうなずき「脊柱保護を実施しながら救出してくれ。」と言葉を返した(写真5)。

女性傷病者の観察に取り掛かる

「女性傷病者、救出完了!」救助隊長の声に
「後は引き受けた。男性も頼む!」と言いながら女性傷病者の観察に取り掛かった(写真6)。

事故現場より300m先に着陸したヘリ

上空からヘリのエンジン音が聞こえる・・・
見上げると上空にドクターヘリが旋回していた。
「さすがに早いな・・・」
ドクターヘリは上空到着から4分後、事故現場より300m先に着陸した(写真7)。

ヘリ着陸地点まで救急車を走らせる

私達は女性傷病者を収容し、ヘリ着陸地点まで救急車を走らせた(写真8)。



☆ドクターによるトリアージ

「まだ、もう1名の傷病者が救出中です」

「まだ、もう1名の傷病者が救出中です」(写真9)
「どちらの傷病者をドクターヘリで搬送するか、トリアージをお願いします」
私はドクターに告げた。
「わかった。事故現場に戻ってトリアージしよう」の返答。

男性傷病者を救出

女性傷病者を救急車に乗せたまま、ドクター2名とナース1名を同乗させ、再び現場へもどった。
ちょうど男性傷病者が救出されるところだった(写真10)。
同時に、応援救急隊(他県本部)も到着していた。

応援救急隊の隊長に男性傷病者を託す

「女性傷病者をヘリで運ぼう。男性は救急車にお願いしてください。」
「わかりました。」
ドクターにトリアージしてもらった結果、緊急度、重症度は女性傷病者のほうが高いと判断された。
「男性傷病者をお願いします。」
私は応援救急隊の隊長に傷病者を申し送った(写真11)。



☆離陸

女性傷病者をドクターヘリに収容

再び、私たち救急隊はドクターヘリの着陸地点へ戻った。
女性傷病者をドクターヘリに収容し(写真12)、

「エンジン始動します。」

モニターの装着を手伝っていたら、パイロットから「エンジン始動します。」の合図があった(写真13)。

私は、ヘリのパイロットに一礼した。
(よろしくおねがいします・・・)と
「救急車を遠ざけるぞ。」私は機関員に告げた。
反対車線を見ると警察官は、すばやく全面通行止めを行ってる。

離陸

ヘリのエンジン音が徐々に大きくなり(写真14)、

救命救急センターへ向け飛び去る

救命救急センターへ向け飛び去った(写真15)。



☆「引継ぎ書が満足に書けなかった」

「傷病者は、無事に退院できればいいな。」私たちはそんなことを話しながら、救急車内を整理して現場を引き上げた。

帰署途中・・・
「引継ぎ書が満足に書けなかったな。」
「何となく連携出来たけど、情報の共有があんまり出来なかったな。」
「初めて高速道路にヘリを要請したから、余裕がなかったな。」
とプチ反省会をおこなった。

職場に戻ってきたら警察、他消防本部など、あちらこちらから問い合わせが来た。
次につなげるため、力になれば・・・と思って丁寧に対応した。
また、事故の全容が判明したのも消防署に戻ってからであった。


「事故概要」
Outline of This Traffic Accident

 高速道路は、上下線とも片側3車線。

追い越し車線を走行中のトラックが脇見運転をして、気がつくと前方の車両に追突しそうだったので急に中央車線に入り込んだ。中央車線を走行中の普通乗用車(傷病者の車両)が、割り込んできたトラックを避けようとして左にハンドルを切ったところ、横転しながら左路肩に停車していたトラックに衝突した。

☆「疑問点」
なぜ、衝突されたトラックは路肩に停車中だったか?
なぜ、すでにクレーン車が高速道路で活動中だったか?

☆「回答」
当事故発生の約70分前に同車線、約100m手前で別件の交通事故が発生しており、事故の関係者がトラックを停車させていた。
クレーン車は、先に発生していた事故車両除去のために活動していたものであった。


事例検討会
Conference

 後日、「ドクターヘリの高速道路上離発着に関するワーキンググループ」により検討会が開催されたので、「ドクターヘリ高速道路運用の取り決め事項」に沿って紹介します。


☆高速道路へのドクターヘリ要請のタイミング

Pitfall 1:
消防だけの判断で要請する

Solution 1:
警察から交通規制可能時間を確認して要請する

 ドクターヘリは出動基準ガイドラインに沿って要請するが、119番入電時にそれらが疑えれば要請しています。

 現場が高速道路上ならば、交通規制が出来なければ着陸できません。ですから、警察と連絡調整を図り、ドクターヘリ運行センターに交通規制可能時間を事前に伝えておくことが必要となってきます。

以下の項目は、ドクターヘリ高速道路運用の取り決め事項です。
 ・事故発生時、又は現場到着後ヘリ要請を行う。
 ・現場出動隊より、消防本部及び現場警察官にヘリ要請の件を連絡する。
 ・ヘリ着陸ポイントは事故最終飛散物から100m先に警察がラインバン(目印)を設置し着陸地点とする。
 ・交通規制については、警察により事故車線及び反対車線(ヘリによるダウンウォッシュが発生するため)の全面通行止めを実施。
 ・ヘリ離着陸時には上下線全面通行止め、ヘリのエンジン停止中は反対車線の通行車線1車線のみ通行解除。
 ・無線(防災相互波)でヘリと警察の連絡を取る。
 ・交通規制終了後、ヘリ着陸可能状態になった時点で現場警察官(責任者)より現場消防隊(責任者)に報告、ヘリに合図を送る。
 ・現場消防隊又は、救急隊よりヘリに交通規制終了を無線連絡。
 ・ヘリは連絡を受け、機長判断で着陸。
 ・ヘリ誘導については、原則実施しない。
 ・事案終了後、ヘリが飛び立った際には、消防側より警察官(責任者)に事案終了の報告を行い、通行止めの解除をする。
 ・緊急車両(救急車など)の逆送は原則実施しない。やむをえず逆走する場合は現場警察官の許可を得て路肩を緊急走行(赤色灯をつけ、サイレンを鳴らす)する。


☆消防、警察、ドクターヘリ間の交信について

Pitfall 2:
無線(防災相互波)の配備不足

Solution 2:
無線(防災相互波)の早期配備、もしくは共通周波数を設定する

 通常の活動の場合、ドクターヘリとの交信は「県内波」を使用し、救急隊、消防隊と交信を行います。

 高速道路での活動については、消防、警察、ドクターヘリ間の交信は「防災相互波」を使用しなければなりませんが、当消防本部の「防災相互波」は指揮隊の無線機に設定されてありました。

 そのため救急隊からドクターヘリに傷病者情報を送るためには携帯電話が通じない場合、「県内波」で交信しようとしても、ドクターヘリ側がチャンネルの切り換えをしなければ、交信ができないこととなってしまいます。
また、応援協定に基づき要請した他県の救急隊とは「全国共通波」で交信を行いますが、チャンネル切り替えのタイミングが合わなかった場合も同様に交信ができなくなります。

 さらに当時、警察機関は「防災相互波」が導入されていなかったため、状況が警察へ伝わっていませんでした。

 現在、「防災相互波」は整備されつつあるが、まだ十分ではありません。


☆ドクターヘリ着陸地点の決定について

Pitfall 3:
高速道路本線離着陸難易度ランク資料より決定するが、確認に時間がかかる

Solution 3:
上下線とも最も近いインターチェンジで通行止めを実施する

 ドクターヘリ離着陸については、予め調査した資料が関係機関に配布されていますが、今回ドクターヘリが離着陸した地点はランクDの地点でした。

「離着陸難易度ランク資料」安全確保のために参考資料で4段階に分けられています。
 ランクA:反対車線の交通規制を行わずに着陸できる可能性がある。
 ランクB:反対車線の速度規制を行えば着陸できる可能性がある。
 ランクC:反対車線を通行止めにすれば着陸できる可能性がある。
 ランクD:着陸は不可能に近い。

 なぜ「ランクD」の地点に離着陸したのかはパイロットの判断で、判断要件としましては以下のとおりでした。
・3車線区間は中央車線に着陸すれば物理的にヘリのローターに接触するものはない。
・地上車両の状況や気象条件が良ければ安全に地着陸できる。

 今後、最も近いインターチェンジで通行止めが出来れば、事故現場からインターまでが全てクリアゾーンとなり、どの位置でも着陸に支障がありません。問題点としましてはインターチェンジ後にあるパーキングエリアからの流出車両ですが、警察車両を配備できれば解決します。

 また、ドクターヘリ着陸に上空到着から4分後という早い時間で実施できたのは、すでに上下線で発生していた交通事故処理のため警察官が付近で10数名活動中であったことと、新たな事故発生に伴い、警察官の増員がなされ、事故路線及び反対車線の完全閉鎖がパトカー数台を活用して早期に行われたことが要因であったと思います。


☆現場での救助、処置に時間を要する場合

Pitfall 4:
交通規制が解除できず、付近の交通渋滞を起こす

Solution 4:
ドクター、ナースを現場投入後、ヘリは最寄りの臨時ヘリポートに移動待機

 交通規制が長引けば、付近の交通渋滞は避けられません。交通規制を早期に解除するにはヘリの滞在時間を短くするしかありません。

 救助活動や処置に時間を要する場合、ドクターとナースを現場で降ろし、ヘリはインターチェンジを出た最寄りの臨時ヘリポートで待機することで解決できます。


さいごに
Writer's Comment

 以上、ドクターヘリの高速道路着陸活動事例から、その後の検討会における内容までを紹介させていただきました。

 救急隊長としてだけでなく、消防隊長あるいは指揮隊として「消防、警察、ドクターヘリの連携を更に強化していくことが、傷病者にとって重要である。」というところを再認識していただければと思います。

 今回の事例が、そのまま高速道路を管轄しているすべての地域に当てはまるものではないと思いますが、すでに連携活動を行っている地域において、検討課題の一例として参考になりましたら幸いです。



協力
ドクターヘリ運航調整委員会
久留米大学病院
西日本空輸株式会社


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http://ops.umin.ac.jp/

09.9.8/7:16 PM