OPSホーム>基本手技目次>手技127: 泣こよっか、ひっ跳べ(第5回)ストレッチャー搬送のポイント

泣こよっか、ひっ跳べ

救急の基礎を紐解く!? 初心者でもわかる救急のポイント

第5回

ストレッチャー搬送のポイント

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Lecturer Profile

徳永和彦
(とくながかずひこ)

所属:南薩地区消防組合南さつま消防署

年齢:47歳

出身地:鹿児島県南さつま市加世田

消防士拝命::昭和55年

救急救命士資格取得:平成11年

趣味:疲労止め(だれやめ=晩酌のこと)家庭菜園、木工と山菜採り


「泣こよっか,ひっ跳べ」8月:ストレッチャー搬送のポイント

はじめに

 第4回では、救急現場活動中に使用する救急資機材の中から、使用頻度の多い観察用資機材・呼吸及び循環管理用資機材についての、必要な基礎知識と使用ポイントについて述べました。今回は、傷病者を救急現場から救急車へ、及び救急車から医療機関内に収容する場合に用いる、メインストレッチャーの取り扱いと、傷病者の搬送要領について触れてみます。

傷病者搬送資機材について

 ほとんどの傷病者は苦痛や運動機能の障害で自力での行動ができない状態で、救急隊員により救急車に収容され医療機関へ搬送されます。救急車内には、傷病者の病態や救急現場に応じて安全に収容・搬送を行い、傷病者の負担の少ない体位を取ることができる搬送資機材が積載されています(写真1・2)。

写真 1 メインストレッチャー・サブストレッチャー・布担架

1 メインストレッチャーは、ほとんどの傷病者の搬送に使用されます。搬送中は車両からの振動を軽減するため防振架台の上に設置されます。

2 サブストレッチャーは、屋内、階段、狭あいな場所等で、メインストレッチャーが物理的に使用できない場合などに使用します。

3 布担架は、狭あいな場所等で、メインストレッチャー及びサブストレッチャーが使用できない場合の傷病者搬送に使用します。

写真 2 スクープストレッチャー・バックボード・船形担架

4 補助搬送資機材として、スクープストレチャーや全脊柱固定用バックボードを傷病者の病態に応じて使用します。

5 その他の搬送資機材として、救急車には積載していませんが、船形担架等が救助救出現場で活用されています。

傷病者搬送の現場状況について

 救急現場活動において、傷病者に接触してから救急車内に収容するまでの時間で、現場滞在時間を長引かせる要因の一つとして、傷病者のストレッチャー搬送があります。

 私の勤務地には、傾斜地に住宅が立ち並んだ地域があり、宅地には車の入らない狭い路地が通っているだけです。救急車は進入できずに、救急現場から離れて駐車し、傷病者を狭い路地から救急車まで搬送しなければなりません。一人が通れるぐらいの狭い道でバランスを崩しやすい場所が何箇所もあり、慎重に搬送しなければなりませんでした。特に、夜間や雨天時には細心の注意で搬送していました。

 また、傷病者が住宅の奥まった所にあるトイレや浴室、2階建て住宅の急勾配の階段上の部屋や、狭あいな場所で活動スペースが狭く、傷病者をストレッチャーに収容するのに手間取る場所や、エレベーターのない高層階の住宅など搬出が困難な現場での活動もあります。

 救急指令での、傷病の種別、発生場所、傷病者の状況から現場状況や傷病者の病態を予測して、PA連携による搬出を行う場合もあります。現場に到着するまでの間に搬送用資機材の選定を行いますが、現場を確認してから、搬送用資機材が不足や救急隊だけでの搬出が困難であることに気づく事もあります。

 私は、現場到着後に、関係者から傷病者の状況聴取とともに、どの場所にいるのかを確認するように心がけています。また、傷病者へ向かう時は搬出の経路を確認しながら接近し、観察を行い病態の確認をしてから、搬送用資機材と搬送要領を隊員と確認し、安全な搬出行動に努めています。

メインストレッチャーの安全操作と搬送のポイント

写真 3 エクスチェンジ・ストレッチャー

 現在、救急車に積載され使用されているメインストレッチャーは、ストレッチャー部とアンダーキャリッジ部に分かれる、エクスチェンジ・ストレッチャーが普及していると思われます(写真3)。

 ストレッチャー部は、バックレスト(上半身側)とフットレスト(下半身側)の角度調節が可能で、傷病者の病態に合わせて、体位管理を行う事ができます。また、フラットな状態からチェアーポジション(椅子型)変形させる事ができ、狭あいな場所からの搬送などに有効です。

写真 4  CPA時の移動中

 アンダーキャリッジ部は高さの調節が可能で、6段階ぐらいの調節機能が備わっています。頭部側と足側の調節がそれぞれ可能で、状況に応じた目的の高さに調節ができ、傷病者の搬送に有効です。また、高さを調節することで、CPA時の移動中にも胸骨圧迫心臓マッサージを行う事ができます(写真4)。

1 救急車への搬入・救急車からの搬出(写真5・6・7)

写真 5 救急車への搬入

  搬入時、アンダーキャリッジ部の高さは最高位にします(最高位以外は搬入できない)。隊員は頭部側の両脇と足側に位置し、アンダーキャリッジ部のメインフレームを両手で保持し、傷病者の安全を確保します。

写真 6 リヤレッグにファスナー(固定金具)で固定

ストレッチャー架台にローディングホイール(頭部側)を設置させ、リリースハンドルを握り、両脚のロックを解除して、車内に押し込みます。ストレッチャー架台のロックバーまでしっかりと押し込み、リヤレッグにファスナー(固定金具)で固定を確実に行います。

* 両脚のロックが外れた時は、傷病者とストレッチャー全体の荷重がかかります、落とさないように特に注意が必要です。

写真 7 両脚のロックがされていることを確認

搬出時、アンダーキャリッジ部のメインフレームを保持し、固定ロックを解除し、リリースハンドルを握りながら引き出します。この時、頭部側の両脇から隊員はアンダーキャリッジ部を保持し、落下させないように注意します。リヤーレッグ(後脚)が伸びたらリリースハンドルを離し、前脚(フロントレッグ)が伸び切り両脚のロックがされていることを確認してから地面に接地させます。

* 傷病者をストレッチャーに収容している時は、両脚のロック解除や脚の伸縮の振動や発生する音に配慮し、不快感や不安感を与えないような操作が必要です。

2 ストレッチャー部の体位調整・チェアーポジション(写真8・9・10)

写真 8 半座位(ファウラー位)

 ストレッチャー部は、フラットな状態から、バックレスト(上半身側)とフットレスト(下半身側)の角度調節をすることにより、傷病者の病態に合わせて、ポジションを作ることができます。呼吸不全や心不全に対応した半座位(ファウラー位)、

写真 9 足側高位(ショック体位・トレンデレンブルグ体位)

循環血液量減少性ショックに対する足側高位(ショック体位・トレンデレンブルグ体位)などの体位管理を行います。

 * 角度調整を行う時はフレームをしっかりと支えて、急に落下する事が無いように十分注意し、確実にロックがされたか確認します。また、操作中は指を挟む危険もあり注意が必要です。

写真 10 チェアーポジション(椅子型)

フラットな状態からチェアーポジション(椅子型)変形させる事ができ、狭あいな場所の搬送や階段の昇降などに有効です。傷病者をストレッチャーに乗せた状態でもチェアーポジションに変形させたり、フラットに戻したりもできます。アンダーキャリッジ部への取り付けも容易です。

3 アンダーキャリッジ部の高さ調整(写真11)

写真 11 メインフレーム両端を両手で確実に保持し、背筋を伸ばし全身で荷重を受ける

 傷病者をストレッチャーに乗せてから、アンダーキャリッジ部の高さ調節をする時は、傷病者とストレッチャーの全体の荷重がかかることを考慮し操作します。2名の隊員でメインフレーム両端を両手で確実に保持し、背筋を伸ばし全身で荷重を受けるようにします。救急隊長はサイドアーム側から介助します。

 * リリースハンドルを握ると両脚のロックが解除され荷重が隊員にかかります、隊員どうし、呼吸を合わせて操作するようにしましょう。

4 傷病者収容時の注意点(写真12・13)

写真 12 病態を考慮した処置の行いやすい体位で収容

  傷病者をストレッチャーへ収容する時は、観察から得られた情報を基に、病態を考慮した処置の行いやすい体位で収容します。ストレッチャーへ移す時は、傷病者の状態を確認しながら素早く行い、不安感や苦痛を与えないよう注意します。

写真 13不安定な移動は、落下や転倒の危険がある

また、ストレッチャーを跨いだり、足元が確認できない場所での後退など不安定な移動は、落下や転倒の危険があり絶対に避けるべきです。

 * 傷病者をストレッチャーに乗せた時は、必ずサイドアームを立て、ロックされているかを確認します。さらに、傷病者の安全確保を図るため固定ベルトで胸部付近と下腿部を固定します。傷病者へは固定する旨を説明し了承を得てから行いましょう。

5 ストレッチャー曳行の注意点

 曳行要領は平坦面では傷病者の足側を進行方向に向け、昇斜面では頭側を、降斜面では足側を進行方向に向け曳行します。

 傷病者をストレッチャーに乗せ、アンダーキャリッジ部を最高の高さにすると、5インチキャスター4個に傷病者とストレッチャーの全体の荷重かかり、重心が高い位置になった不安定な状態です。傷病者が不穏状態で急に暴れだす恐れや、尿管結石などの耐え難い痛みで動いてしまう時などは、アンダーキャリッジ部を低くして曳行し、転倒の予防に努めます。また、活動現場は平坦で硬い地盤ばかりではありません。階段・傾斜面・泥濘・凍結面・積雪面などあらゆる状況が考えられ、傷病者の病態を考慮し、ストレッチャーを持ち上げて搬送するなど、最善の曳行方法を選択しなければなりません。

6 メンテナンスについて

 現場活動で、嘔吐や出血などにより汚れた時は、中性洗剤等で洗い落とします。マットレス、シートはアルコールなどで拭き消毒しておきます。アルミフレームは自動車用ワックスなどでコーティングしておくと、汚れが付きにくく、落ちやすいです。
最低でも月に一度は点検が必要です。作動時にすれ合う部分には、グリースを注油します。特にキャスター及びホイールのベアリング部の注油は欠かさないようにしましょう。作動時にすれ合う部分は磨耗によりアルミフレームが薄くなります。また、溶接部分が振動等により亀裂か発生している事案も報告されています。点検により、不具合な箇所が見つかった場合には、早急な対応を図ってください。傷病者の生命にかかわる重大な事故につながりかねません。

まとめ

  救急現場活動において、傷病者搬送は救急現場から医療機関へ引き継ぐまで継続しています。搬送要領は傷病者への接遇と同じく不安感を除き、安心感を持たせることが可能です。私も救急隊員として活動し始めたころにストレッチャーに乗せられ先輩から指導を受けました。この時に、操作する隊員の呼吸が合っていないと、振動が大きくぐらついた不安定な曳行になること、呼吸のあった操作では、振動が伝わらず動いている事に気付かないほど安定していること知りました。救急現場活動では簡単な操作ひとつにも傷病者に配慮した行動が大事であることを気付かせて頂きました。

 救急現場の活動はチームワークが第一です。日ごろからの自己研鑽とチームとしての訓練を積み重ね、傷病者や関係者に不安感を抱かせることなく、自信を持った活動に務めましょう。


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10.2.6/3:01 PM