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泣こよっか、ひっ跳べ

救急の基礎を紐解く!? 初心者でもわかる救急のポイント

第6回

活動スペースと搬出経路確保のポイント

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Lecturer Profile

徳永和彦
(とくながかずひこ)

所属:南薩地区消防組合南さつま消防署

年齢:47歳

出身地:鹿児島県南さつま市加世田

消防士拝命::昭和55年

救急救命士資格取得:平成11年

趣味:疲労止め(だれやめ=晩酌のこと)家庭菜園、木工と山菜採り


手技129: 泣こよっか、ひっ跳べ(第6回)活動スペースと搬出経路確保のポイント

はじめに

 第5回では、傷病者の搬送要領とメインストレッチャーの取り扱いについての、必要な基礎知識と使用ポイントについて述べました。今回は、救急現場で傷病者に安全・迅速な観察・処置を行う上での活動スペースと、傷病者を現場から救急車へ安全に搬送するための経路の確保ついて触れてみます。



救急隊員の活動現場(写真1・2)

 病院前の救急活動現場は、悲惨な事故現場や、突然の発病に動揺した家族、関係者が見守る急病人のいる場所など、特殊な環境下に置かれています。また、夜間や気象状況による視界の悪さや、自動車の往来の激しい道路上・危険物を取扱う工場内など、活動困難な二次災害の恐れのある危険と隣り合わせての現場もあります。

 このような過酷な状況の中で、救急隊は傷病者に適切な観察・評価、必要な処置を行い、病態や症状の安定と改善を図りながら、少しでも早く救急車へ収容し、適切な医療機関へ搬送しなければなりません。そのためには、様々な現場の状況を瞬時に判断、危険な状況を排除し、安全に観察・処置の行える活動スペースを確保するとともに、傷病者を安全・迅速に救急車へ収容するための搬送経路も確保しておく必要があります。



救急現場活動中に気付いたこと

 救急隊員が活動する救急現場は、出場要請があって初めて場所が確認できるわけであり、現場状況についても事前に十分な情報が得られる事は多くありません。現場に到着して初めて状況を知る事になるのです。

 「道路沿いの山林で伐採作業中に65歳の男性がけがをして動けない」との通報があり出場、現場付近で関係者から、けが人は救急車の入らない林道をさらに進んだ先の山林に居るとの情報を得ました。応援を要請しようと、無線連絡・携帯電話で試みましたが不感地帯のため連絡が取れず、負傷者が一人とのことで、関係者の軽貨物車に資機材を積み込み、救急隊のみで負傷者のもとへ向かいました。林道から更に100メートルぐらい徒歩で入った山林に負傷者を確認しました。幸い緊急度の少ない負傷で、固定と被覆のみの処置でしたが、傾斜地で足元が不安定なため、処置にも時間が掛かりました。山林から負傷者の曳行は傾斜した不安定な場所を移動しなくてはならずに、負傷者を気遣いながらやっとの思いで曳行しました。以前、伐採作業中の事故に出場したとき、観察の甘さから、骨盤骨折に気付かず搬送した負傷者が、その直後に、輸血を行いながら三次病院へ転院搬送された事があり、一時でも早く傷病者に接触して状況を知りたい。早急に病院へ搬送したいとの思いから、負担の掛かる活動を選択してしまいました。

 また、「風呂あがりの男性が自宅の寝室でぐったりして返事をしない」との通報で出場し、現場の住宅で関係者から2階の寝室に傷病者は居るとの情報、手摺のない急な階段上の寝室でソファーに腰掛け、CPA状態の傷病者を確認しました。病態から現場処置を優先して直ちにその場で救命処置を開始したのですが、救急車までの収容は、急な階段と狭いローカを移動しなければならずに、装着した資機材などが支障となり、迅速な活動が出来ずに、救命処置もしばしば中断しながらの移動となり短い距離の搬出でしたが思いのほか時間を要しました。傷病者の搬出も救命処置と同様に重要な現場活動であると再認識させられました。

 現在の活動では、現場到着後に、関係者から傷病者の状況と、どの場所に居るのかを必ず確認するように心がけています。(写真3)

 必要に応じて資機材の変更や応援の要請することもあります。また、傷病者へ向かう時は搬出の経路を確認しながら接近し、観察を行い病態の確認をしてから、搬送用資機材と搬送要領を隊員と確認し、安全な搬出行動に努めています。



活動スペースと搬送経路確保のポイント

☆活動スペース確保について

1 危険性の評価・排除し安全な地域を確保する

二次災害の恐れとなる有害・危険要素など確認し、関係機関の援護要請や必要資機材を使用して危険性を除去する

例:有害物質の漏えい・ガソリン漏れ・危険な荷物・切断された電線・危険な動物(ペット)・興奮したバイスタンダー・犯罪現場の加害者など

※ 危険性の評価は最も重要です。適切な対応を行わずに飛び込めば、結局は自分の命も傷病者の命も失うことになりかねません。

2 傷病者に適した観察・処置・体位の取れるスペースを確保する(写真4)

 自動車事故の車内や住宅のトイレ・浴槽内などの狭隘な場所は、救急隊員の行動も制限され、傷病者の観察・処置も十分に行えない場合があり、資機材準備・装着も困難です。また、CPRや止血など緊急な処置が直ちに行える体位が取れない場合もあります。

 現場状況・傷病者の状態を考慮し、活動に支障となる物を除去するか、傷病者を処置活動の出来る場所まで、素早く移動させることも考慮する必要があります。また、傷病者のプライバシー保護にも十分配慮し現場に居合わせた人々の視界から遮断するなどの処置も必要です。

3 救急隊員が観察・処置を行いやすいスペースを確保する(写真5・6)

(1)夜間事故現場や薄暗い屋内では視界が悪く、現場状況の把握や傷病者の病態を観察することは困難です。ヘッドライトや携帯用高輝度ライトなどを活用し、負傷者数の見落としや足元の確認などを行います。また、広範囲の現場では、応援を要請し、照明資機材を活用する場合もあります。

(2)大型車両からの救出では、救急隊員の身体が不安定になり、高所での救急活動では、転落の危険もあります。ヘルメット・皮手袋・安全帯や身体確保のハーネスを装着して安全確保を確実にしておきます。また、資機材を落下させないような配慮も必要です。

(3)台風や洪水・海難事故では、救命胴衣やロープによる命綱で身体確保し、二次災害に備え活動します。

(4)寒冷地では活動中の低体温を防ぐため十分な防寒対策が必要です

☆搬送経路確保について(写真7)

1 住宅

 住宅内部には、家具・調度品、電化製品が置かれており、傷病者を安全に搬出する場所がない時は、経路確保のため移動しなければならない場所があります。家族・関係者の同意と協力が必要です。

(1) 1戸建て住宅
 1階部分では玄関や窓からの搬出が可能です。間取りによっては階段や廊下が狭く、ストレッチャー搬送は困難な場合があります。病態により体位や搬送資機材を工夫しなければなりません。

(2)アパート・共同住宅
 一般的に通路や階段が狭く、室内への進入口は玄関ドアからの1箇所です。搬送資機材の選定を考慮する必要があります。

(3)高層住宅・マンション
 出入り口がセキュリティーによるオートロックされている場合、管理人等に開錠してもらう必要があります。エレベーターが設置されていない高層階では階段からの搬出は救急隊のみでは困難な状況です。応援を要請することも考慮しましょう。

2 公衆の出入り場所

 デパート・遊技施設・公園などの、不特定多数の出入りする場所では、敷地や建物の面積が広い所や、内部に不案内な所もあり、傷病者に接触するまでに時間を要す場合があります。また、進入口が複数ある所や、車両の進入を規制している所もあり、搬送経路の選定に戸惑うこともあります。施設の関係者に案内を依頼して、安全な搬出経路を選定してもらう必要があります。

 傷病者のプライバシー保護にも十分配慮した、必要以上に現場に居合わせた人々の視界に触れないような経路を選択することも必要です。従業員の専用通路や荷物搬入の出入り口なども活用できます。

3 工業施設

 従業員以外立ち入らない所であり、危険性物品を取扱う場所もあります。関係者の案内による搬出経路の確保が不可欠となります。

4 農場・野外

 救急車の停車位置から傷病者までの距離が離れている場合も多く、未舗装の道路や不整地の不安定な場所を搬出経路に選択しなければならない事もあります。気象状況にも影響を受けがちであり、応援の要請も考慮しなくてはなりません。

※救急隊員の活動する現場は多種多様です。活動状況も出場ごとに異なり、上記の内容は、一例にしか過ぎません、勤務地の地形・気候・風土、人口の密集度・産業形態などにより現場状況は異なります。



まとめ(写真8・9)

 どんな救急現場においても、一番大切な原則は安全の確保です。二次災害および血液や体内物質による汚染から自らを防ぐため、感染防護具をきちんと身に着けることは決して軽んじられてはなりません。救急現場においては隊員一人ひとりが安全管理の責任者であり、自分や同僚の安全確保に優るものはないことを忘れてはなりません。すなわち、隊員自身が負傷してしまったら、傷病者を助けることはできないのです。

また、救急活動にはチームとして連携して活動を行うことも必要です。そのためには隊員それぞれが救急資機材の使い方や必要とされる救急技術に精通していなければなりません。

技術向上のためには、より実際の現場に近い状況で、より多くの訓練をし、迅速に概括を把握し、より多くの細やかな情報を見逃すことなく収集できるように、繰り返しトレーニングすることが最良の方法です。


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10.2.6/3:19 PM