OPSホーム>基本手技目次>手技131:Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ(第5回)救急講習

Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ

第5回

救急講習

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Lecturer Profile of This Month

なまえ:吉田訓浩(よしだくにひろ)

年齢:36歳
所属:佐賀広域消防局 佐賀消防署
出身:佐賀県佐賀市東与賀町
消防士拝命:平成4年4月
救命士合格:平成12年10月
趣味:剣道、綱引き


シリーズ構成

田島和広(たじまかずひろ)

いちき串木野市消防本部  いちき分遣所



Change! Try! Avoid Pitfalls! ピットフォールを回避せよ

Chapter 5

救急講習:満足してもらえる救急講習を組み立てよう

救急講習、苦手ですか?

 人前で話をするのが苦手な人や自分の考えを相手にうまく伝えられない方いませんか?

 私も最初は緊張してうまくできませんでした。先輩方の指導を見て勉強したり、いろんなセミナー等を受講して、実際の救急講習で学んだこと活用して、徐々に救急講習が好きになりました。今回自分自身が経験したことを踏まえ、受講した方に満足していただけるような救急講習の準備や指導要領を紹介させていただくことで、皆さんの参考にしていただけたらと思います。


1 確認しよう
Confirmation

Pitfall 1
受講者が何を求めているかわからない
Solution 1
必要なことは必ず確認

(1)開催の趣旨

電話による講習受付。この時点で聞けることを聞いておきましょう

 主催者に開催の趣旨を確認しましょう(図1)。心肺蘇生だけではなく、応急手当や熱中症、労働災害事故等の内容を含んだ講習を希望される場合もあるでしょう。また受講者のバックグラウンドの確認もできます。どんな職種、団体、企業、サークルセミナーなのか確認することで参加する受講者のバックグラウンドが見えてきます。

 過去に救急講習の受講経験を確認することも大事です。毎年開催している、不定期に開催している、今回始めての開催である等を確認しておけば、開催要領、時間配分の役に立ちます。また企業や団体であれば、過去に心肺蘇生、AED実施した、救急車を呼んだ等の経験があれば、講習時に紹介し実際に身近で起こることを伝えてあげれば講習自体の受講者の取り組む姿勢が違ってくるかもしれません。

(2)受講者

確認すべきことを表1に挙げました。

表1 受講者を知ろう
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・講習の目的は?
・講習に特に盛り込んでほしい内容、興味があるところは?
・受講者の年齢層は?
・バックグラウンドは?
・講習を初めて受講するのか、過去に受講経験があるのか?
・過去に心肺蘇生や救急車を呼んだ経験がありますか?
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 講習にはいろんな方が参加します。年齢では高齢者から学生(小学生もあるかも)、職種ではありとあらゆる職種の方が受講されます。

 講習時に話す言葉には気を使いましょう。言葉の捉え方は人それぞれ違う場合があります。私はしばしば救命や心肺蘇生法という用語について、講習のはじめに受講者に言葉の意味を確認します。

 例えば心肺蘇生法であれば下記のような言葉の受け止め方があります。
・人工呼吸
・胸骨圧迫(心臓マッサージ)
・生き返らすこと
・電気ショックをかけること

言葉は職種や年齢によって受け止め方やイメージが異なります

職種や年齢によって言葉の受け止め方(イメージ)が異なることに注意しましょう(図2)。講習中に使用する用語については、指導者と受講者が同じイメージをもって進めることが重要です。

(3)会場

 使用する会場の広さ、環境を確認しましょう。会場の広さや、室内の空調関係を確認し必要な資機材、プロジェクターやマイク、ホワイトボードの確認をしておきましょう。真夏の体育館では休憩時間、水分補給等を考慮しなければいけません。


2 計画しよう
Planning

Pitfall 2
指導者が自分の都合で講習会を組み立てる
Solution 2
受講者を中心に講習を考える

 主催者、受講者が何を求めて講習に来ているのかを考え進行要領を練ります。指導者側の自己満足に陥らないように計画を立てるべきです。受講者の記憶に残る、また満足して次も受講してみようと思うような講習を心がけましょう。そのためには受講者に満足感を与えなければいけません。

 皆さんに質問です。瞬時に思い浮かべてください。

「昨日の昼食は何を食べましたか?」
「今食べたい献立はなんですか?」

 すぐに答えが出てきた人、少し考えて思いつかなかった人もいるでしょう。本当に食べたいものを食べた人はすぐ答えられたと思います。

 定食は、おかずが数種類ありますが、食べ終わった後の印象は薄いものです。その点本当に食べたい物を食べた後の満足感は記憶に残るものです。

 救急講習も食べたいものを提供できたらいいですね。受講者の好みに合わせてタイミングよく提供しましょう。統一基準に基づいて講習を進めることは大事ですが、独自に味付けし、記憶に残る味にしましょう。


3 実施しよう
Performance

Pitfall 3
人前で話すのが苦手
Solution 3
知識、経験、コツ

 人前で話すのが苦手な人、あがってうまく話せない人どういうよう要因があるか考えて見ましょう。

座って受講者と同じ目の高さから話し始めると緊張が和らぎます

 心理的要因としては、他人から高評価を得たいとか失敗したくない、他人の視線を気にすることが上げられます。これらを克服するためには、まずは先輩や他人の指導要領、話し方を観察しましょう。上手な人の真似から初めてもいいでしょう。最初はやりにくいかもしれませんが、繰り返し実施していけば、あなた自身が持つ個性が出てきます。人前で立つだけで緊張する方は、椅子を用意するなどしてまずは座って受講者と同じ目の高さから話し始めてみて(図3)、落ち着いてきたら立って話してみるのも効果的です。

他の職員の講習を見て、真似したいところ、改善した方がいいところなどを考えます

 あがる原因としては、知識不足、経験不足があります。知識不足には、事前勉強と最新の知識の吸収が有効です。経験不足にはとにかく経験を積むことです。ほとんどの方は経験を積み重ねて話がうまくなっていきます。真似したいところ、改善した方がいいところなどを考えながら他の職員の講習を見る(図4)と、頭の中の引き出しを新しく作ることができます。


4 注意しよう
Caution

Pitfall 4
受講者が戸惑う
Solution 4
当たり前のことを心がける

(1)内容のすりあわせ

話しかけは一人ずつ。いっぺんに話しかけられると困惑します

 また進行役の指導者と講習前に入念な打合せをして、自分ひとりだけ内容が違う指導をしないようにしましょう(図5)。受講者もまわりの様子を確認しています。指導時には指導者は必ず1人とし、補足する事項や間違いについては紙等に記載して渡すか、最後のところで補足するように心がけましょう。どうしても今すぐ注意したい、補足したいと思ったら手を挙げるなどして発言するようにして受講者が戸惑わないようにしましょう。

(2)呼びかけ

こんな言葉を使っていませんか?
・おじいちゃん、おばあさん、奥さん等
・次の人どうぞ

 上記のような表現については講習中はできるだけ避けましょう。皆さん名前がありますので、名前で呼ぶように心がけましょう。

 事前に名簿がある場合は、名札の準備するようにしましょう。受付時に本人に記入させる方法もあります。見た目は悪いかもしれませんがガムテープとマジックがあれば対応できます。受講者自信で書かせることで氏名の間違いもなくなります。100円ショップなどでも手書き用の名札なども販売されています。

 講習中は名前で呼ばれて怒る人はいないでしょう。また指導者自信も順番決めや実技の進行がスムーズになります。

(3)ボディータッチ

突然のボディータッチはいやな気持ちにさせます

 講習には男女問わず参加されます。手技の修正等でどうしても相手の体に触れての指導が効果的な場合もあるでしょう。いきなり体に触れられたらどうでしょう。いやな気持ちになる受講者もいるはずです(図6)。受講者に「手を添えさせて指導させていただきます」等の声掛を行うようにしましょう。男性同士、女性同士であっても声かけはしましょう。

 同性であっても不愉快な気持ちになる方もいます。


5 ピットフォール集
Pitfall database

(1)指導者編

指導風景1

 講習中に勉強してきたこと、知っていることは自信を持って話したり答えたりするが、難しい質問や自分が知らないようなことを質問されたらおどおどして受講者に不安を与ている光景。

対策

 自分が知っている知識について自信をもって話したり、質問受けすることは大切です。難しい質問で自分が知らないようなことであれば素直に受講者に回答できないことを伝え、先輩職員につたえ対応をお願いしましょう。無理に回答しようとしておどおどしていると受講者に不安を与えてしまいます。分からないことは分からないと受講者に言う勇気も必要です。

指導風景2

指導風景2。周りの受講者はほったらかし

 複数の受講者がいて指導をする場合、手技のフィードバックやポイントの説明をしている時に指導に夢中になり、実技中の受講者ばかりに話をして、回りにいる受講者をほったらかしにしている光景(図7)。

対策

 経験不足の方に良く見かける光景です。話す相手の目を見て話すことは大事ですが、受講者が1名でないことを常に考え、他の受講者にも目線や質問等をしてグループで学習するように心がけましょう。

指導風景3

指導風景3。いっぺんの質問でおどおど

 受講者から質問がありました。複数の質問があり(図8)、初めの方の質問を忘れてしまいおどおどして、無言になったり、指導者が受講者の質問の趣旨とはまったく違う内容を回答している光景。

対策

 受講者の質問を受ける時にはメモ等を書いておくか質問の内容の解釈が正しいかどうか受講者に確認しましょう。確認することで受講者が満足する回答ができると思います。

講習風景4

 数十人の講習会で会場も大きくところでの質問を受けました。質問した人に対して回答を行いましたが、周りの人や少し離れて講習を受けている人は口をぽかんと開けて、質問が何なのかも分からない光景。

対策

 多数の受講者や会場が広いところで実施する場合は、受講者の質問等は他の受講者に聞こえるように大きな声で復唱をしましょう。受講者が耳を傾け、質問の内容が受講者全員に伝わり知識の共有ができるようにしましょう。

(2)受講者編

 指導者もいろんなタイプの方がいますが、受講者も同じです。効果的な講習を行うためには、受講者ごとに指導者自身がスタンスを変える必要があります。
せっかく受講しに来た方が救急講習に興味を持ってもらえるような講習が一番いいのですが、最悪でも講習に来ていやな思いをすることがないようにしたいものです。

よくいる受講者1

 とにかく質問してやろうと思っている。質問してみんなから注目されたいと思っている受講者。講習中も常に発言内容を考え、一見集中しているように見えても内容は理解していない。

対策

 とにかく質問して注目を集めさえすれば満足するので、質問を受け、「良い質問ですね」と受容的に受け止めてあげれば満足します。

よくいる受講者2(図9)

よくいる受講者2。腕組みして見ています

 会場の後や隅の方で腕を組んで、比較的態度が大きい人。挑戦的な目をしている人。本人または身内が医療関係者だったり、過去に救急講習に参加している人。自尊心が強い人。事前勉強をしてきている人。積極的に講師を困らせてやろうという行動には出ないが人工呼吸の実技の際にいきなり下顎挙上法を行なったりしてできることをあからさまに表現する。

対策

 みんなの前で誉めてあげれば問題ない。「良くできていますね。以前講習を受けたことがあるんですか?すばらしい良くできていますね。」とプライドを傷つけないようにしてやれば満足し喜びます。

よくいる受講者3(図10)

よくいる受講者3。お互いに手技の順番を譲り合う

 自分から受講申込をしていなくて、町内会の行事のためや会社の命令で参加した、やる気のない人、時間だけが過ぎればよいと思っている人。極端には救急講習があると知らないで参加している人。

対策

 グループ学習を強調し座学や実技の際に何らかの役目を与える。例えば、実技を2番目に行うことを事前に指名しておき、講習会参加型へと誘導しやる気を引き出してやる。

よくいる受講者4

 熱心に受講する。質問コーナーになっていきなり疑問・難問をしてくる。過去に本人または家族が救急搬送された経験があり、希望する病院へ搬送してくれなかった、救急車の到着が遅かった等、消防側にクレームのような質問をしてくる人

対策

 ほとんどの疑問は本人の思い込み、救急隊の説明不足によるものなので、謙虚に、丁寧に救急システムを説明し、質問した本人はみんなの前で話を聞いてほしいというところがあると思うので、相手の話を聞くようにし謙虚な対応に心がけましょう。

よくいる受講者5

 講習が始まる前や講習中まず、何となく「態度が大きいなぁ、あの人」と感じる人。休憩時間に寄ってきて、消防職員の知合いの名前を聞いてくる。ほとんどが消防長、署長クラスの名前を出して、「ご存知なんですか」と問うと「実は元○○の部長でね」鼻を高くして君らより相当偉いんだと案に誇示する人。

対策

 過去の栄光・披露型。単純で特に支障はないが、プライドを傷つけないように話をする。とにかく話を聞くよう心がける。

よくいる受講者6

 講習中に周囲を笑わせる行動を取る人。特にこの傾向は、女性の前で強くなる。笑ってもらえば満足する。

対策

 サービス精神旺盛で、笑って貰えさえすれば満足するタイプなので罪はない。言えば素直に応じる。度が過ぎると手技の印象がなくなり覚えてもらえないので真剣にやるよう注意することも必要な場合もあるかもしれません。


6 評価について
Assessment

Pitfall 5
学習意欲がわかない
Solution
適切なフィードバックが有効

フィードバックの風景

講習中では受講者の手技に対する評価を行い、フィードバックをしなければいけません(図11)。フィードバックを行うのは、受講者の学習意欲を高めるのが目的です。言葉の伝え方、表現、タイミングを上手く活用し、受講者の学習意欲を高めるようなフィードバックを心がけましょう。

(1)褒める

 今の手技は上手でしたよ。事前勉強してきた成果がでていると思います。頑張ってください。

 2回実施しましたが、一回目より、2回目の方が数段よくなりましたね。この調子で頑張ってください。

 人工呼吸の胸の上がりが悪かったですが、胸骨圧迫はとっても良かったですよ。

(2)指摘する

 ちょっと待ってください。今の手順でいいですか?そうですね。よく気がつきました。

 今日はじめての実施ですよね。心肺蘇生法は難しいですよね。自分のペースで身につけてください。コース終了までにできればいいですよ。

 ストップ!今の手技は危険ですのでやめてくださいね。

 上記以外にもいろいろな方法があると思います。受講者にとって適切なタイミングでどんなフィードバックをすれば効果的かを常に考えるようにしましょう。

 良く見かける光景が、悪いところを探して、悪いところだけ指摘する方がいます。皆さんの周りにもいませんか。悪いところを指摘ばかりされて受講者に受け入れられるでしょうか?

 また「流れは良かったです。でも胸の上がりが悪かったですね」と、流れはよかったという言葉が、次ぎの言葉を考える時間稼ぎの言葉になっていませんか?

 受講者の表情、行動を良く見て、良いところは褒めて、悪いところはタイミングよく手技を止めフィードバックを行い、受講者に受け入れられるに工夫しましょう。

 最初から上手くできる方はいません。数多くの講習会に参加し、実際に指導を行い、受講者に接し、経験をつみましょう。先輩方の上手な表現方法や指導の仕方をメモを取ったりして、真似したいところはどんどん取り入れ、改善したほうがいいところは改善して、講習会でやってみて、自分自身の指導の引き出しやアイディアを増やしていきましょう。

 数年後には自分自身の大きな財産になっているはずです。


まとめ
Writer's comment

 講習について書かせていただきました。上記に記載した内容については、講習以外でも役に立つことだと思います。はじめから上手にできる方は少ないと思います。ほとんどの人が講習に参加し指導しながら経験をつんで上手にできるようになります。
講習は苦手だ!イヤだ!とは思わず、勇気を出して指導してみましょう。

 最後にこの原稿を書くためにご協力していただいた皆さん、また執筆の機会を与えていただきました皆さん、感謝いたします。


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09.12.21/3:09 PM