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泣こよっか、ひっ跳べ

救急の基礎を紐解く!? 初心者でもわかる救急のポイント

第11回

現場保存のポイント

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Lecturer Profile

徳永和彦
(とくながかずひこ)

所属:南薩地区消防組合南さつま消防署

年齢:47歳

出身地:鹿児島県南さつま市加世田

消防士拝命::昭和55年

救急救命士資格取得:平成11年

趣味:疲労止め(だれやめ=晩酌のこと)家庭菜園、木工と山菜採り


「泣こよっか,ひっ跳べ」2月投稿: 現場保存のポイント

*記事内容と事故写真は関係はありません

はじめに

 前回では、救急現場から傷病者を救急車内に収容してからの車内活動のポイントと病院収容後の引継ぎのポイントについて述べました。今回は、救急現場活動時に同時に出動してきていることの多い警察官との対応と交通事故や犯罪現場においての必要となる現場保存について触れてみます。



犯罪現場への出場

写真1 交通事故現場

 救急隊は、その業務の性質上、犯罪などに関係する現場へ出場することも少なくありません。交通事故や犯罪が関係する可能性のある加害事故や自損行為事故による出場などです。犯罪現場も様々で、犯罪がいま進行中のもの、すでに犯行が行われた後などがあります。救急隊がこうした犯罪に関わる現場に遭遇した場合、救急隊員の安全確保を第一に考慮し活動しなければなりません。そのためには、救急現場に臨場してきた警察官と連携を密にして活動する必要があります(写真1・2)。

写真2  現場の安全確保

 交通事故現場での交通規制などの、活動スペースの安全確保や負傷者や関係者などが救急隊に危害を加えるおそれがある場合や負傷者が自己を傷つける可能性のある場合には、警察官に安全確保を依頼します。消防法では消防隊員と警察官は互いに協力しなければならないこと、救急隊員は救急業務の実施に関して警察官と密接な連絡をとることが定められています。



警察業務と救急業務(写真3・4)

写真3 負傷者の救出救護活動

 救急隊の活動現場では、通報時や現場状況から犯罪が疑われる場合にはいち早く警察署へ連絡して現場へ臨場を要請しており、また、警察へ先に通報がなされて,救急隊が後から現場へ駆けつける場合もあります。多くの場合に救急隊員だけでなく警察官も出動して現場活動に従事しているわけです。

写真4 警察官による現場検証

 傷病者の救命や救護は救急隊員の最優先任務であり、そのことは警察官にとっても同様と考えられます。しかし、警察官はこれに加えて、「変死体又は変死の疑いのある死体の現場保存」と「犯罪現場保存」を義務づけられていますので、犯罪捜査を目的として、現場保存・検証や関係者からの事情聴取が行われます。このことにより、救急業務と警察業務が競合し問題になることもないわけではありません。

 縊頸による自損事故現場へ出場した時に、現場へ到着してみると、警察への通報が早かったらしく、警察官が臨場していました。傷病者がすでに死亡していると判断して現場検証を行おうとしていましたが、私は現場に検証医師がまだ臨場していないことと、傷病者の病態観察と関係者からの状況聴取から、明らかに傷病者が死亡していると確認できない救命の可能性もあると評価し、救急活動を続行すべきと判断しました。警察官の判断とは異なりましたが、関係者と警察官へ説明し、同意を得て病院へ搬送しました。救急隊員は、救急要請があって出場したからには、例えそれが警察官の意向に反しても、臆することなく傷病者の観察を実施し、的確な判断のもとに必要があれば傷病者を病院へ搬送しなければなりません。明らかに傷病者が死亡していると確認できない限り、救急活動を続行すべきです。



自損行為・犯罪現場の救急業務(写真5・6)

写真5 交通死亡事故(ガードレールに激突)

 深夜に、「頭を怪我した人がいる」との救急要請があり、現場へ到着したところ、住宅の中に、頭から血を流した二人の負傷者が倒れていました。現場状況から加害事故が強く疑われ、警察の現場臨場を早急に要請しましたが、あいにく直近の駐在所も不在で、現場まで30分以上かかる警察署から警察官が向かうとのことでした。現場保存を託す関係者もいないままに、負傷者の救護を優先し、現場を離れました。病院収容後に警察官から現場到着時の傷病者と周囲の状況を詳しく事情聴取されています。

写真6 農業機械の死亡事故(トラクターに体を巻込まれた)

 交通量の殆どない林道の脇に駐車した車の中に排気ガスを引き込んでの自損事故では、傷病者の観察から死の三徴候(呼吸停止、心拍停止、瞳孔散大・対光反射喪失)、死斑、全身硬直を確認し、関係者からの聴取で前日から安否が確認されていないとの情報を得て、明らかに死亡していると判断し、現場を保存して警察官へ引き継ぎました。

 犯罪現場で救急業務を行うにあたり留意すべきことに、現場保存があります。犯罪の究明に携わる警察官にとっては、犯罪現場での現場保存は非常に重要なものとされています。救急隊員はその職務上警察官よりさきに犯罪現場に到着することも多く、そこで救急業務を行う限りは、当然のその現場になんらかの影響を及ぼすことになります。しかし、救命ということは何よりも優先されるということを考えると、体幹離脱や死斑確認など、明らかに死亡していると確認できない限りは、救急活動を現場保存に優先して実行していくべきと考えられます。医師と違って死亡確認の能力も権限も持たない救急隊員は、被害者(傷病者)の観察や応急処置を行い搬送するために、必ず傷病者を移動させることになります。軽犯罪法では、「正当な理由がなくて、変死体又は死胎の現場を変えた者」が掲げられていますが、救急隊の行う傷病者救護の必要性を考慮しての活動は、「正当な理由」に該当すると思われます。



交通事故現場での救急業務

写真7 事故車両位置のマーキング

 交差点での事故現場へ出場、現場に到着すると、信号機のある交差点で中央付近にミニバイクが転倒し負傷者に関係者が付き添っていました。通行する車両も多く、二次災害の危険が非常に高い状況でした。警察官は現場に到着していません、傷病者の救護と合わせて事故車両をマーキング(写真7・8)してから移動させ、到着した警察官へ事故概要と車両を移動させた事を伝え、傷病者を病院へ搬送しました。

写真8 転落位置のマーキング

 交通事故現場への救急出場は多く、しかも通常負傷者を移動し、病院へ搬送してしまい、さらに二次災害防止措置を行う必要もあるため、現場の保存が非常に困難になる場合も多いと思われます。警察官の到着前に傷病者が搬送されてしまうと、加害者と被害者の進行経路や、被害者の倒れていた位置は、第三者の目撃者がいるとか血痕が道路に付着してその場所が明らかであるという場合を除き、加害者のみの現場指示によって特定されることになります。また、被害者が道路を横断中突然車にはねられたというような場合には、加害車両を見ていないことも多いので、後では倒れていた位置さえはっきりしない場合もあります。このような場合、救急隊の搬送時に負傷者の倒れていた位置がマーキングされていれば、真相究明のため非常に役立つことになります。現場でのマーキング一つが、犯罪事実の究明に役立つ場合の多いことを記憶しておき、救急活動に支障をきたさない範囲において現場保存に協力するべきです。

 夕方の交通事故現場へ出場、軽乗用車同士の衝突事故で負傷者が1人との通報。現場に到着すると警察官が現場検証中で、道路わきにエアーバックが作動した軽乗用車が停車し、歩道にしゃがみ込んだ女性が関係者に付き添われていました。警察官から事故の状況と負傷者が1人であることを再確認して、被害者(傷病者)の救護を行い、病院へ搬送しました。帰隊後しばらくして、先程の交通事故現場から、病院手配の依頼があり、現場検証に立ち会っていた、事故を起こした運転手が、鼻からの出血があり気分が悪くなったとのことでした。事故発症時は張り詰めていた緊張感から体の不調に気付かず、現場検証が終了してから、体の不調を訴えたようです。

 私は現場到着時に警察官から事故状況と負傷者について聴取しましたが、車両の損傷状況と事故車両に乗車していた関係者の観察を怠っていました。車両の損傷状況から乗車していた関係者の身体に受けたダメージを推測し、観察を行い、必要に応じて病院へ搬送するべきでした。警察官より救急隊員が傷病者の病態観察は優っているわけであり、たとえ、警察官が負傷者ではないと思っていても、事故の発生状況や車両等の損傷状況から何らかの損傷を疑ったならば、必ず観察を行わなければなりません。



発生状況確認と現場保存のポイント

1 救急活動前の状況を記憶しておく

2 必要以外の物には手を触れない

3 物を移動させる場合は最小限にする
 (移動させた物はなるべく元に戻す)

4 活動中に知りえた事を記録しておく

5 生活痕跡の確認



まとめ

 救急隊の現場活動は人命を救うことを目的としており、現場保存よりも救急活動を優先させるべきことは疑いありません。しかし、警察官の現場保存にも協力する必要があります。交通事故に限らず、犯罪に係る救急事案については、傷病者の緊急度や救急活動内容などにもよりますが。傷病者の移動、救出のための建物の破壊、家具その他の部品の移動等が必要な場合には、現場状況から可能と判断されれば事前の写真撮影やマーキングなどを実施することも必要です。傷病者の不利益とならないよう、現場保存の重要性も念頭に置いて、現場での物品等の移動は救急活動のために必要な最小限度にとどめるよう努力すべきです。また、現場へ警察官が到着していない場合は、通信司令と連絡を取り、速やかに現場への臨場を要請し、救急業務の円滑な遂行と現場引き継ぎがスムーズに行えるよう配慮すべきです。

 なお、犯罪に関係する傷病者を搬送したときには、後で警察官や検察官から事情聴取を受けることが多いでしょう。場合によっては刑事事件の証人として証言をもとめられることもありますので、救急活動時の状況について、傷病者の症状はもちろん周囲の状況などを詳しく記録しておくことが望まれます。


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10.2.6/10:54 PM