OPSホーム>基本手技目次>100206泣こよっか、ひっ跳べ(第8回)救急隊員の感染予防(ウイルス対策)

泣こよっか、ひっ跳べ

救急の基礎を紐解く!? 初心者でもわかる救急のポイント

第7回

資機材の安全使用(酸素を知る)

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Lecturer Profile

徳永和彦
(とくながかずひこ)

所属:南薩地区消防組合南さつま消防署

年齢:47歳

出身地:鹿児島県南さつま市加世田

消防士拝命::昭和55年

救急救命士資格取得:平成11年

趣味:疲労止め(だれやめ=晩酌のこと)家庭菜園、木工と山菜採り


「泣こよっか,ひっ跳べ」11月投稿:救急隊員の感染予防(ウイルス対策)

はじめに

 第7回では、救急現場活動に使用する救急資機材で、取扱いに注意しなければ危険性のある資機材を確認し、安全な救急現場活動を行うための事故防止について述べました。今回は、救急現場活動中に注意を怠ってはならない、感染症についての知識と、救急隊員として行うべき感染対策について触れてみます。

救急隊員の活動現場と感染症

 病院前の救急活動現場は、常に危険と直面しています。これらの危険の多くは、交通事故、火災、有害物質、危険な動物、犯罪現場など、現場の安全性に関する問題です。しかし、傷病者を観察・処置を行うことにより、多くの伝染性疾患に暴露する危険があります。外傷患者の救護では、血液と汚染された体液に接することが多いため、B型肝炎、C型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)や、結核菌に対して、特に予防策をとる必要があります。又、内因性の急病患者では、咳やくしゃみ、嘔吐物や排泄物に接することもあり、インフルエンザ、風疹、SARS、腸管出血性大腸炎、MRSAなどに対しての予防策をとる必要があります。

 現在、私たちは新型インフルエンザウイルスの脅威に曝されています。免疫を獲得していないので、容易に人から人へ感染して拡がり、急速な世界的大流行(パンデミック)を起こす危険があり、国を挙げての対応が図られているところです。

写真 1 感染症疑い傷病者の対応

 救急現場で傷病者に接して活動する救急隊員は、ウイルスへ暴露される危険性の高い濃厚接触者となりえます(写真1)。国や県から示された対応をもとに、所属の対応マニュアルに則った活動が求められます。救急隊員が正しい知識を有し、感染防止のマニュアルを遵守すれば、救急業務に起因して感染する危険は十分に回避し得るものであることを周知徹底しなくてはなりません。

インフルエンザウイルスの感染経路

 毎年、人の間で流行する通常のインフルエンザの主な感染経路は、飛沫感染と接触感染であると考えられています。現段階では、新型インフルエンザの感染経路は特定されていませんが、飛沫感染と接触感染が主な感染経路と推測されており、基本的にこの二つの感染経路についての対策を講ずることが必要であると考えられます。空気感染の可能性は否定されていませんが一般的に起きるとする科学的根拠が示されていないので、空気感染を想定した対策よりもむしろ、飛沫感染と接触感染を想定した対策を確実に講ずることが必要であると考えられます。

 また、ウイルスは細菌とは異なり、口腔内の粘膜や結膜などを通じて生体内に入ることによって、生物の細胞の中でのみ増殖することができ、環境中(机、ドアノブ、スイッチ、パソコンのキーボードやマウスなど)では状況によっては異なるが、数分から長くても数時間内に感染力を失うと考えられています。

1) 飛沫感染
   飛沫感染とは感染した人が咳やくしゃみをすることで排泄する、ウイルスを含む飛沫(5ミクロン以上の水滴)が飛散し、これを健康な人が鼻や口から吸い込み、ウイルスを含んだ飛沫が粘膜に接触することによって感染する経路を指します。なお、咳やくしゃみ等は、空気中で1-2メートル以内しか到達しません。

2) 接触感染
  接触感染とは、皮膚と粘膜・傷などの直接的な接触、あるいは中間物を介する間接的な接触による感染経路を指します。
  例えば、傷病者の咳、くしゃみ、鼻水などが付着した手(手袋)で、机、ドアノブ、スイッチなどを触れた後に、その部位を別の人が触れ、かつその手で自分の目や口や鼻を触ることによって、ウイルスが媒介されることになります。

(参考)空気感染
  空気感染とは、飛沫の水分が蒸発して乾燥し、さらに小さな粒子(5ミクロン以下)である飛沫核となって、空気中を漂い、離れた場所にいる人がこれを吸い込むことによって感染する経路です。飛沫核は空気中に長時間浮遊するため、対策としては特殊な換気システム(陰圧室など)やフィルターが必要です。

救急隊員としての具体的な感染防御のポイント

 感染症対策の基本は、感染源対策、感染経路対策、感受性対策があり、救急現場活動で感染症の傷病者搬送における感染症対策もその基本は同じです。なかでも感染経路対策は特に重要であり、病原体の特性に応じた適切な感染経路の遮断は、救急現場活動の如何にかかわらず、常に念頭に入れ行動しなくてはなりません。

1) 対人距離の保持

  最も重要な感染防止策は、対人距離を保持することです。特に感染者から適切な距離を保つことによって、感染リスクを大幅に低下させることができます。逆に人が社会活動を行うことで、感染リスクが高まると言えます。通常、飛沫はある程度の重たさがあるため、発した人から1-2メートル以内に落下します。つまり2メートル以上離れている場合は感染するリスクは低下することになります。

写真 2 スタンダードプレコーション

(方法)

感染者の2メートル以内に近づかないことが基本となりますが、救急隊員は傷病者に接し、観察・処置、医療機関へ搬送しなくてはなりません。米国疾病管理予防センター(CDC)の感染予防策(スタンダードプレコーション)(写真2)による感染経路の遮断と、傷病者へのマスク着用により飛沫の拡散を抑えられます。

2) 手洗い(写真3・4・5)

写真 3 手洗い(手のひらを指先でこする)

写真 4 手洗い(指も丁寧に)

写真 5 手洗い(手首や上肢も洗う)

  手洗いは感染対策において非常に重要であり、救急隊員、傷病者両方の感染防止策の基本です。活動を終了し帰隊後、手洗いを実施することが推奨されます。しかし、救急現場、救急車内において手洗いをつねに行うことは現実的ではありません。速乾性擦式消毒用アルコール製剤(アルコールが60-80%程度含まれている消毒薬)は手洗いに代わるものとして救急現場では有効です。

写真 6速乾性擦式消毒用アルコール製剤

(方法)

傷病者と接触する前後に必ず手を洗うこと、血液やその他の体液に暴露した場合はできるだけ早く手を洗うこと、救急現場では、手袋の交換や速乾性擦式消毒用アルコール製剤の使用が最適です。(写真6)感染者が触れる可能性の高い場所の清掃・消毒や患者がいた場所等の清掃・消毒をした際、手袋を外した後に手洗い又は手指衛生を実施する。

手洗いは、流水と石鹸を用いて15秒以上行うことが望ましい。洗った後は水分を十分に拭き取ることが重要です。速乾性擦式消毒用アルコール製剤(アルコールが60-80%程度含まれている消毒薬)は、アルコールが完全に揮発するまで両手を擦り合わせる。

3) 咳エチケット

 風邪などで咳やくしゃみがでる時に、他人へうつさないためのエチケットです。感染者がウイルスを含んだ飛沫を排出して周囲の人に感染させないように、咳エチケットを徹底することが重要になります。

(方法)

ア)咳やくしゃみの際は、ティッシュなどで口と鼻を被い、他の人から顔をそむけ、できる限り1-2メートル以上離れる。ティッシュなどがない場合は、口を前腕部(袖口)で押さえて、極力飛沫が拡散しないようにする。前腕部で押さえるのは、他の場所に触れることが少ないため、接触感染の機会を低減することができるからである。

イ)呼吸器系分泌物(鼻汁・痰など)を含んだティッシュは、すぐにゴミ箱に捨てる。

ウ)咳やくしゃみをする際に押さえた手や腕は、その後直ちに洗うべきですが、接触感染の原因にならないよう、手を洗う前に不必要に周囲に触れないよう注意する。

エ)手を洗う場所がないことに備えて、携行できる速乾性擦式消毒用アルコール製剤を用意しておきましょう。

写真 7ノーズフィッターを鼻・頬に合わせて曲げる

写真 8マスクを顎下まで下げてフィットさせる

オ)咳をしている人にマスクの着用(写真7・8)を積極的に促す。マスクを着用することによって、飛沫の拡散を防ぐことができます。

4) 救急車・職場の清掃・消毒

 感染者が咳やくしゃみを手で押さえた後や鼻水を手でぬぐった後に、救急車のストレッチャーや毛布、積載資機材に触れたり、事務室等で、机、ドアノブ、スイッチなどを触れると、その場所にウイルスが付着する。ウイルスの種類や状態にもよりますが、飛沫に含まれるウイルスは、その場所である程度感染力を保ち続けると考えられるが、清掃・消毒を行うことにより、ウイルスを含み飛沫を除去することができます。

(方法)

ア)通常の清掃に加えて、水と洗剤を用いて、特に車のドアノブやスイッチ、ハンドル、変速レバー、階段の手すり、テーブル、机や椅子、エレベーターの押しボタン、トイレの流水レバー、便座等人がよく触れるところを拭き取り清掃する。頻度については、どの程度、触れる可能性があるかによって検討するが、最低1日1回は行うことが望ましい。消毒や清掃を行った時間を記し、掲示することも大切です。

イ)職員が発症し、その直後に職場で勤務していた場合には、当該職員の机の周辺や触れた場所などの消毒剤による拭き取り清掃を行う。その際作業者は、必要に応じて不織布製マスクや手袋を着用して消毒を行う。作業後は、流水・石鹸又は速乾性擦式消毒用アルコール製剤により手を洗う。清掃・消毒時に使用した作業着は洗濯、ブラシ・雑巾は、水で洗い触れないようにする。

(消毒剤について)(写真9・10)

写真 9 消毒剤(1)

写真 10 消毒剤(2)

 インフルエンザウイルスには、次亜塩素酸ナトリウム、イソプロパノールや消毒用エタノールなどが有効です。消毒剤の噴霧は、不完全な消毒やウイルスの舞い上がり、消毒実施者の健康被害につながる危険もあるため、実施するべきではありません。

※次亜塩素酸ナトリウム
 次亜塩素酸ナトリウムは、原液を希釈し、0.02-0.1w/v%(200-1,000ppm)の溶液、例えば塩素系漂白剤等を用いる。消毒液に浸したタオル、雑巾等による拭き取り消毒を行う、あるいは該当部分を消毒液に直接浸す。

※イソプロパノール又は消毒用エタノール
 70v/v%イソウロパノール又は消毒用エタノールを十分に浸したタオル、ペーパータオル又は脱脂綿等を用いて拭き取り消毒を行う。

まとめ

 感染症対策は救急隊員一人の誤った対応により、傷病者、職場内及び家庭内へと感染症を拡大させる危険性が十分にあります。組織一丸となっての取り組みが必要です。最新の動向に注意し、現状に即応した感染症対策を検討・実践しなければなりません。活動する救急隊員は、感染症に関する正しい知識と感染防止対策を習得して、傷病者の状態を的確に観察・評価し、適切な資機材をもって処置を行うことが重要となります。また、傷病者を安全に搬送することは基本であり、さらに搬送に携わる者が感染しないことが求められます。感染経路の遮断を厳格に行うことが傷病者間と隊員の安全確保に繋がります。救急現場においては隊員一人ひとりが安全管理の責任者であり、自分や同僚の安全確保に優るものはないことを忘れてはなりません。


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10.2.6/5:13 PM