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泣こよっか、ひっ跳べ

救急の基礎を紐解く!? 初心者でもわかる救急のポイント

第9回

医療機関選定(ファーストコール)

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Lecturer Profile

徳永和彦
(とくながかずひこ)

所属:南薩地区消防組合南さつま消防署

年齢:47歳

出身地:鹿児島県南さつま市加世田

消防士拝命::昭和55年

救急救命士資格取得:平成11年

趣味:疲労止め(だれやめ=晩酌のこと)家庭菜園、木工と山菜採り


「泣こよっか,ひっ跳べ」12月投稿:医療機関選定(ファーストコール)

はじめに

 第8回では、感染症についての知識と、救急隊員として行うべき感染対策について触れて、救急活動中に限らず日常生活からも感染のリスクはあり、常日頃からの手洗い、咳エチケットが感染予防に重要であることをお伝えしました。

 今回は救急現場から傷病者を救急車へ収容し、医療機関へ搬送するにあたっての病院選定と収容依頼について述べてみます。




医療機関選定の現状

 救急搬送をめぐっては、救急出場件数の増加に伴い、人口密集地域を管轄する救急隊は、1隊あたり1日、20件近くの出場件数があり、救急隊員の疲労は極限に達しています。地方の救急隊では、消防の広域合併などにより、管轄する範囲が広がり、救急隊の活動時間が長時間化しています。また、受入医療機関が速やかに決定しない、選定困難な救急事案が社会問題にもなっています。新型インフルエンザの大発生が予測されるなど、複雑多様化する諸問題で、救急搬送は益々、困難な状況になると思われます。

1 傷病者搬送に「実施基準」策定

 本年、国会で消防法の一部を改正する法案が可決され、消防法及び消防組織法の第1条改正により、消防法の目的及び消防の任務として「災害等による傷病者の搬送を適切に行うこと」が明確化されました。「傷病者の搬送を適切に行うこと」とは、傷病者を傷病の種類や重症度・緊急度に応じた適切な医療の提供が行われる医療機関に迅速に搬送すること解されます。

 改正案の中には、「傷病者の搬送を適切に行う」にあたり、都道府県が地域において「傷病者の搬送」と「傷病者の受入れ」に関する「実施基準」を策定すること規定しています。今後は、定められた「実施基準」を遵守し、傷病者の搬送に当たることになると思われます。

2 地方の現状

 私の勤務している地域は、少子高齢化の過疎化の進行している地方都市で、救急出場の大半は急病による60歳以上の高齢者です。搬送先の医療機関も限られており基幹病院となっている、管轄内の県立病院か市立病院で、私立の脳外科病院と合わせると救急件数の半数以上を搬送しています。小児科の入院施設はなく、産婦人科医院も1か所、細々と開業している状況です。夜間の救急出場では、受入れ医療機関も限られた中での対応となり、「小児の熱性けいれん」や「鼻血が止まらない」などは、受入れ依頼した病院の当直医師の診療科目が専門外で診察できないと言われ断られる事もあります。また、重症の外傷では管轄内の医療機関では緊急の対応ができずに、近隣の医療機関へ受入れを要請するケースもあります。

 地方には、地域に密着した開業医が居られます。往診先から救急車の要請を受けることも度々あり、長年患者さんと関わっているので病態をよく把握されています。病院選定から搬送中の観察・処置についてのアドバイスなど、救急隊員にとっては神の声に聞こえてきます。限られた条件の中で、救急隊員、医療関係者が、お互い協力し合って傷病者の救護にあたっているのです。



医療機関選定のポイント

 救急現場では、現場の状況、傷病者の発症状況や受傷機転、発生時間などから、傷病者の重症度・緊急度をいち早く判断、その評価に基づき適切な医療の提供を受けられる医療機関へ搬送しなければなりません。脳卒中や急性心筋梗塞、重症外傷などの生命にかかわる重篤な傷病者は、現場滞在時間を短くするため、必要な観察と処置のみを行い、早期に現場離脱し医療機関へ搬送する必要があります。救急現場の救急隊から医療機関への傷病者に関する情報の伝達不足となり、医療機関の受入判断を誤らせないように必要な項目を適切に伝える必要があります。



1 医療機関選定にあたっての注意事項(写真1)

写真 1 医療機関表・当番医表を参考に受入れ先を選定。

ア 傷病者の症状に適応した医療がただちに診療できるもっとも近い医療機関へ搬送することが原則です。

イ 傷病者または家族などから特定の医療機関への搬送を希望された場合には、傷病者の症状及び救急業務上の支障の有無から判断し選定します。
  傷病者が重症であるために予定していた医療機関に搬送するいとまがない場合には、最も近い医療機関を一時的に選定し、必要な医療処置を受け、症状の安定化が図られたあとに予定していた医療機関へ搬送することを考慮します。

ウ 必要により消防通信指令室の指導医や掛かり付け医師に助言を求めるなどして、適応の医療機関へ搬送する。

※ 事前に医療機関情報を収集しておくと選定が容易になります。
ア 診療科目別の診察可否
イ 診療科目別の手術および処置の可否
ウ 診療科目別男女別の空床状況
エ ICU、CCUなどの特殊診療施設の状況



2 ファーストコール(傷病者の情報提供)(写真2・3・4)

写真 2 車載無線機から通信司令室へ医療機関を選定依頼する。

写真 3 車載電話からCPA対応時は指示要請などを行う。

写真 4 携帯電話は場所を選ばず何処からでも連絡が取れます。

 受入れ医療機関へ正確で簡潔な情報提供を行うことが肝要です。現場状況や傷病者から得られたすべての所見を伝えるのではなく、適正な治療のための必要情報を伝達することです。医療機関への連絡方法はMIST:年齢、性別を加え、以下の内容を簡潔明瞭に傷病者の情報を伝える事ができます。

急病(内因性傷病者)のファーストコール
 年齢
 性別
Mmechanism(原因)
Impaired(症状・身体所見)
Sign & Stroke scale(バイタルサイン・ショック状態・ロード&ゴーの理由)
Treatment / Time(行った処置・既往症・処方されている薬剤/発症時刻・到着予定時間)

外傷(外因性傷病者)のファーストコール表

外傷(外因性傷病者)のファーストコール(写真5)
年齢
 性別
Mmechanism(原因・受傷機転)
Injury(受傷部位)
Sign(ショック状態・ロード&ゴーの理由)
Treatment / Time(行った処置・到着予定時間)

※ファーストコールの注意点
 1)コール前に内容について考えをまとめる。
 2)手短に簡単に、静かにはっきりと話す。
 3)病歴の重要ポイントに絞って話す。得られたすべての情報を伝える必要はない。



3 傷病者情報の聴取(写真6)

写真 6 関係者からも傷病者情報を聴取する

 原因、主訴、最終食事摂取時刻、病歴、服用薬品、アレルギーを傷病者や関係者から聴取しておくことで、搬送中の継続的観察や詳細な観察の参考となると伴に、医療機関での検査や処置の診療方針に役立てることができます。

GUMBA(グンバ)
G:原因(事故・発症のいきさつ)
U:訴え( 主訴 )
M:めし(最終食事摂取時間)
B:病気・病歴(服用薬品を含む)
A:アレルギー

SAMPLE(サンプル)
S:Sign&Symptoms 徴候と症状
A:Allergies アレルギー
M:Medication 内服薬
P:Past medical history 病歴(関連する既往症)
L:Last oral intake 最終食事摂取時刻
E:Event preceding the incident 外傷や疾患のきっかけとなった出来事



まとめ

 病院の傷病者受入れ体制は、地域によって大きく異なっています。多くの医療機関が存在する地域は別として、多くの地域は限られた医療機関しか存在しない所がほとんどです。また、救急告知病院や病院群輪番制病院の多くが脳神経外科、整形外科、循環器科などの単科の専門を標榜している病院であるために、多発外傷などの総合的な管理が必要な傷病者に対応できないこともあります。もし長時間搬送等の理由で、医師の治療開始までに時間を要することが想定される場合には、ドクターヘリや消防・防災ヘリの要請も考慮しなければなりません。

 救急活動時は傷病者の生理学的徴候・身体所見・発症状況・重症機転・傷病者の年齢や既往症などから重症度・緊急度評価を正確に行い、予想される搬送所要時間と医療機関の対応能力の兼ね合いを考慮して、搬送先病院の選定を行う必要があります。医学的知識をもとに観察力を磨いておきましょう。

 救急隊員として管轄地域の地理に精通することも、傷病者を医療機関への搬送時間を考慮する上で重要になります、病院の位置や診療科目はしっかりと把握しておきましょう。また、医療機関のスタッフとの顔の見える良好な関係を構築しておくことも、限られた時間の中でスムーズな傷病者受入れに役立ちます。電話での対応、傷病者の引き継ぎ時など接遇にも十分注意しましょう。


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10.2.6/5:49 PM