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Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ

第6回

予期せぬ事例

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Lecturer Profile of This Month

名前  馬込 圭三(まごめ けいぞう)

所属  いちき串木野市消防本部 救急係
出身  鹿児島県いちき串木野市
消防士拝命 昭和62年4月
救命士合格 平成11年5月

趣味  子供のソフトボール応援


シリーズ構成

田島和広(たじまかずひろ)

いちき串木野市消防本部  いちき分遣所



Change! Try! Avoid Pitfalls! ピットフォールを回避せよ

Chapter 6

予期せぬ事例

こんな経験ありますか

島国・日本。特に九州は大小の島が多数あり海岸線も多く、魚に関する救急事例も多いと思います。私が出場し観察、病院選定等、苦慮した事例を発表します。
少しでも全国の皆さんの参考になれば幸いです。

救急隊は目的をもって会話をせよ!


1.アオブダイによる食中毒
Aobudai poisoning

ある日の11時頃、庁舎内に救急指令が鳴り響く。「場所:○○付近、乗用車内にて同乗者の女性が呼吸苦と手足のしびれを訴えているもの」

「呼吸苦と手足のしびれ」で、みなさんは何を想像しながら現場へ出場しますか?


Pitfall 1: 安易に過換気症候群と思い出場していないか!?
Solution 1: 原因疾患があることを念頭にいれ活動する

写真1
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両手に助産婦の手

 現場到着。傷病者は50歳代の女性(以下母C)(図1)で助手席を後方に倒し仰臥位で寝ていた。意識は清明であったが呼吸は浅く、速く、両手に助産婦の手(写真1)と言われるテタニー症状が現れていた。ゆっくり呼吸するように促すとしばらくテタニー症状は改善されたがしびれは継続した。また全身のしびれを訴えていた。

 症状からファーストコールで呼吸器科のある2次医療機関の総合病院へ主訴とバイタルサインを連絡し、受け入れの了承を得えて現場から病院へ向かった。

 バイタル等の継続観察をしながら病院到着までの約15分間、引き続き呼吸管理をしながら症状の経過等を聴取した。すると、20歳代の同居している娘(以下娘E)も朝5時ぐらいから腰のしびれがあり、腰痛の既往があったことから懸かりつけの整形外科を受診したところ、そのまま入院となっていた。母Cは娘Eと同じように腰のしびれがあったため心配になり、娘Eの入院している整形外科病院へ電話したところ、「母Cの場合は整形外科の疾患等ではなく内科的要因が強いため総合病院への受診を薦められた」とのことだったが、病院へ向かう途中でしびれが強くなり救急要請したとのことであった。


Pitfall 2: 経験したことのない症例で困惑!?
Solution 2: 迷った時ほどMCオンラインを活用する

 しかし、何が原因で過呼吸症状を呈してるのか、またなぜ娘Eと同じく腰のしびれから発症したのか。過換気と腰のしびれを関連づけて理解することができなかった。そこで娘Eの入院している整形外科へ電話したところ、昨夜の夕食に家族三人(母C,父D,娘E)でアオブダイ(トップの写真)の味噌煮を食べていることが判明したが、まだ私には食事と腰のしびれの関係、及び呼吸器症状との関係は想像すらできなかった。

 業を煮やした医師から「フグ毒と同じのようだ」との荒々しく言われた。受話器に当てた耳が痛かった。アオブダイでは、ピンと来なかったが、「フグ毒」と言われたことにより呼吸筋麻痺がイメージできた。
すぐさま、病院へセカンドコールにて「アオブダイ摂食による食中毒の可能性あり」を連絡し、対応準備を要請するとともに処置について指示を仰いだ。
救急車内では、バイタルサインの継続観察と指示のあった呼吸状態の重点観察をしながら搬送した。

 病院では、過去にない症例のためアオブダイの食中毒事例を情報収集し対応を急いだ。病院の処置室で経過を説明し引継いだ時に、医師からアオブダイにはパリトキシンという毒がある旨の説明があった。

 また、母Cの引継ぎ中に、整形外科病院へ入院していた娘Eも同じ病院へ転院搬送されてきた。その娘Eには導尿カテーテルが留置してあり尿バッグにはピンク色の尿が溜まっていた。

 その夕方、付き添っていた父Dにも全身のしびれと呼吸苦が現れ、アオブダイの味噌煮を食べた一家3人全員が入院となった。


Pitfall 3: 集団食中毒!?
Solution 3: 早急に摂食者の特定及び入手経路を聴取する

 しかし、このアオブダイの一件は、終わらなかった。

 その日の夜、80代の男性が全身のしびれと呼吸苦を訴えているとの救急要請があり、通信指令室も救急隊も、世帯名が違うことから今日は同じような救急要請が多いなぐらいの感覚で出場した。

 救急隊が現場へ到着すると祖父Aが全身のしびれと努力性の呼吸をしていた。既往歴及び現病歴に心疾患があったことから酸素投与後、モニターにて心電図の監視を行った。

 経過等を聴取中に昼間、母C一家が入院した事とアオブダイを摂食している事を聴取できたので母C一家が入院している病院を選定し車内収容を急いだ。

 詳細を聴取すると、味噌煮を調理したのは祖母Bであった。祖母Bが知人からアオブダイをもらい、肝も一緒に味噌煮にしたが、祖父母二人では多かったので母Cの家へ持って行ったとの事であった。摂食は、前日の夕食、朝食、昼食、夕食の計4回していた。

 祖母Bも同じように摂食していることから、症状はなかったが念のために救急車に同乗してもらい病院へと向かった。病院到着するころから腰のしびれを訴えだし二人とも入院となった。

 今回の症例では、結局2世帯5名が入院となった。

表1 時間経過

hyou1.doc

経過

 治療は点滴などで毒を体外へ出すことしかできなかった。祖父Bは一時呼吸が停止したため人工呼吸器を装着し人工透析を受けた。5名入院したうち祖父以外は約2週間で退院したが、祖父は重症化したことから3ヶ月以上入院した。現在は自宅での生活に戻っている。

解説

 アオブダイ(青武鯛)は、スズキ目・ベラ亜目・ブダイ科の魚。岩礁やサンゴ礁に生息する大型魚で、名のとおり青みの強い体色が特徴である。日本では過去に数件、アオブダイによる食中毒での死亡例がある。アオブダイはスナギンチャクを捕食するためパリトキシンという強力な毒成分を蓄えており、内臓を食べてはいけないとされている。 なお、パリトキシンは加熱や塩蔵によっては分解されない。


アニサキス症
Anisakisu

 23時頃、「場所○○、50歳代の女性が激しい心窩部痛と嘔吐している模様」との救急要請!!

 心窩部痛と嘔吐でみなさんは、何を想像しますか?


Pitfall 4: 急性冠症候群!?
Solution 4: 胸腹部の様々な疾患を考える必要がある

写真2
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洗面器に顔をうずめる傷病者

 現場到着すると傷病者は、自宅居間にて座った状態でこたつのテーブルに置いた洗面器に顔をうずめていた(写真2)。

 突然に激しい心窩部痛とともに頻回に嘔吐し、通報の約30分前から痛みは持続。痛むところは発症から心窩部に限定しており、背部痛や放散痛はなかった。吐物は当初食物残渣であったが吐く物がなくなり、ほとんど嘔気のみであった。

 顔面は蒼白で冷汗あり、痛みのためか体動が激しく、苦悶の表情を浮かべていた。呼吸は速くて嘔気のため強弱は判断できず、脈は弱く速い状態であった。

 バイタルは、呼吸約20回/分左右差なし、脈拍約100回/分、Spo2 96%血圧約150/80mmHg左右差なし、心電図モニターを装着し、標準肢誘導・CM5・変形胸部誘導へ電極を張り替えても明らかなST変化はなく、また不整脈もなかった。

腹部の膨満や腹膜刺激症状は、痛みのため判断できなかった。


Pitfall 5: 状況聴取は適切か!?
Solution 5: 関係者等から簡潔かつ的確に聴取する

 本人から状況聴取しようにも、激しい痛みと苦悶様の表情で聴取は困難であり、こちらが問いかけても「痛い、速く病院へ搬送して」と訴えるのみであった。

 通報者の夫に状況を聴取たところでは、既往歴及び現病歴はなく喫煙歴や飲酒もない。18時頃に夕食にサバの刺身を食べ、いつもと変わった事もなかったとの事であった。

 サバの刺身と聴いて、「アニサキス症疑い」で近位の消化器外科を選定し搬送。病院では、早速内視鏡検査をされアニサキス幼虫が発見された。そのまま内視鏡的に抜去し摘出されたら、さきほどまでの激痛がうそのように軽快したとのことであった。


症例検討会
Case confarence

写真3
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署内で症例検討会で二つの事例を検討した

 後日、署内で症例検討会(写真3)を行い次の点について検討した。

1. アオブダイ事例

○「呼吸苦と手足のしびれ」との通報で安易に過呼吸症状のみを考え、原因疾患を考えて活動したか!?
・過換気症候群となる病態は様々あるなかで、なぜ呼吸苦となったかを考えながら活動しなくてはならない。
・先入観での活動は危険である。まずは、しっかりとした観察こそ大事である。

写真4
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MCへのオンラインコールの様子

○アオブダイの食中毒という初めて経験する症例で対応に苦慮した。
・迷った時ほどMCを有効に活用すべきである(写真4)。
・多種多様な経験をしたことのある人ほど対応できる範囲が大きく、経験が少ないと対応できるものも少ないということになるが、救急の現場では対応せざるを得ない。だから常日頃の知識と技術の向上に努めなければならない。

○同じ料理の摂食者及び入手先を早急に聴取しておけば、祖父母の昼食及び夕食を止める事ができたのではないか?
・確かに摂食を止めれられる事例であった。さらに早めの受診を勧めておけば重症化しなかったかもしれない。

○その他
・偶然かもしれないが、年齢の若い順番に発症しているのも特徴的である。

2.アニサキス事例

○心窩部痛と嘔吐との通報で急性冠症候群だと先入観で活動してないか?
・緊急度と重症度からいえば、急性冠症候群を疑って観察し、可能性のある病態を探すべきである。
・観察に重点を置くのはいいが、現場滞在が長くなってはいけない。

○適切な状況聴取はできたか!?
・観察に没頭したため、家族への聴取等が遅れた。また、早急に聴取できていれば病院選定も早くできた事例である。


付記
Appendix

写真5
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シロサバフグの煮物

 今回の原稿作成中に知人から「シロサバフグ」(無毒)だと貰い煮物(写真5)にして摂食した70代の夫婦がフグ中毒で救急搬送される事例がありました。

 結果的には、「ドクサバフグ」(有毒)を摂食していたが、量が少なかったためか大事には至らなかった。

 前述の症例検討会での結果がいかされ、状況聴取で摂食者や原因物の特定、入手先、保健所等への連絡等スムーズに行った。


まとめ
Writer's comment

 救急隊は、迅速・確実な観察によって緊急度と重症度を判断し、必要な処置を行い、適切な医療機関へ迅速に搬送しなければならないのは言うまでもない。通常の救急現場であれば、通報内容、状況評価、生理学的評価並びに症状で病態を把握できるのだが、はっきりとした症状がない場合ほど、頭の中でフローチャートが動きだし、あーでもない、こーでもないを繰り返しすことになり、短時間での病態把握と医療機関選定が困難になる。

写真6
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教科書の呼吸困難の章を思い浮かべることは時に効果的で時に障害となる

 また、傷病者と救急隊では、症状に対する見方が異なりがちである。救急隊は、一般的に症状のカテゴリーの面から考え、判断し、それに適応する病院選定を行い搬送する。一方、傷病者は「異常」と思われる症状のために救急車を要請している。例えば、急に息苦くなったとの訴えでは、救急隊は教科書の呼吸困難の章を思い浮かべ(写真6)、呼吸困難になる病態を予測する。

 この方向性の違いはときに効果的であり、ときに障害になる、救急隊が症状を判断するための単なる補助と考えれば有効であり、先入観や経験に盲目的に頼り、他の可能性を考えなければ障害となる。
救急隊は、注意深く耳を傾けるだけでなく、目的をもって会話をしなければならない。「あなたが最初にそれに気がついたのは、それはどのような感じでしたか・・・・?」というように。


引用文献
「救急搬送における重症度・緊急度判断基準作成委員会報告書」財団法人救急振興財団
「救急救命士によるファーストコンタクト?病院前救護の観察トレーニング」医学書院
「改訂第7版 救急救命士標準テキスト」へるす出版


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10.2.7/11:05 AM