OPSホーム>基本手技目次>100314泣こよっか、ひっ跳べ(最終回)最悪を想定・最善を尽くす

泣こよっか、ひっ跳べ

救急の基礎を紐解く!? 初心者でもわかる救急のポイント

最終回

最悪を想定・最善を尽くす

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Lecturer Profile

徳永和彦
(とくながかずひこ)

所属:南薩地区消防組合南さつま消防署

年齢:47歳

出身地:鹿児島県南さつま市加世田

消防士拝命::昭和55年

救急救命士資格取得:平成11年

趣味:疲労止め(だれやめ=晩酌のこと)家庭菜園、木工と山菜採り


「泣こよっか,ひっ跳べ」3月投稿: 最悪を想定・最善を尽くす

はじめに

 昨年4月から私の救急現場活動中に気付いた、傷病者や関係者への対応、資機材の取り扱い、活動中の注意すべき事などを、11回にわたりお伝えさせて頂いてまいりましたが、今回で最終となりました。最終回では、救急現場活動は発生現場の地理・建物の構造や発生時刻・天候又は、人的影響などで、時として活動困難な状況に遭遇する事があります。活動困難な現場状況を取り上げ、最悪状況の中でも最善を尽くす救急活動のポイントについて触れてみます。

救急現場活動(写真1)

写真 1  CPAの現場活動(隊員4名対応)

 救急現場活動は、救急隊長を中心に救急隊員と機関員がそれぞれの役割を分担して傷病者へチームで救護にあたります。また、それぞれが状況を把握し、的確な時間に、適切な観察と処置・病態に応じた病院選定を行うことが、理想的な救急活動となります。

 病院前の救急現場は、悲惨な交通事故現場や、突然の発病に動揺した家族、関係者が見守る急病人のいる場所など、特殊な環境下に置かれています。心肺停止症例や致死的な重症外傷からタクシー代わりと思われるような救急要請もあり、まさに臨機応変な対応が求められます。また、救急隊員の現場活動では、現場の地理・地形、建物の構造や発生時刻・天候又は、人的影響などで、時として活動困難な状況に遭遇する事があります。

救急現場での活動困難な状況

写真2 コミュニケーション困難時はジェスチャーを交えた会話をする。

1 コミュニケーション困難(写真2)

ア 外国からの入国者で日本語での会話が通じない。
イ 視覚障がい者・聴覚障がい者でコミュニケーションが取りづらい。
ウ 犯罪者や興奮した傷病者や関係者などにより危害が及ぶ恐れがある。

2 現場活動に障害となる物がある

ア 傷病者の付近に危険な動物がいる。
イ 高熱を発している物・有毒ガス等、感電の恐れがあり、接近出来ない。

写真3 景観は最高、事故現場は活動困難

3 活動困難な場所(写真3)

ア 山岳地帯・崖地の容易に接近し活動できない地域。
イ 地震・台風・大雨による洪水などの自然災害発生時
ウ 大規模の事故や災害により多数の負傷者が発生。

 以上のような活動困難な状況が推測されますが、これらの状況が重複して発生する場合もあります。

コミュニケーション困難への対応

 縫製工場の従業員が急病との救急車要請で傷病者に接触すると理解できない言葉を発していたので、意識障害があるのではと思い対応していると、関係者から中国から受け入れている中国人就労者であると説明を受け、簡単な会話は理解できるとの情報を得ました。救急車内に収容するまでは、答えや主訴を短時間で導ける、「はい」、「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンで病態を把握出来ましたが、車内収容から病院到着までは、同僚の中国人で日本語会話の上手な方の同乗を求めて通訳を依頼し、オープンクエスチョンを用いて自由に答えさせ、安心感を持たせることでコミュニケーションを図り、継続的な観察と病態の把握を何とか行えましたが、言葉が通じて理解が得られる事の大切さを改めて気付かされました。

 同僚がボランテア活動に参加した時に、聴覚障がい者の方から、災害発生時の対応について尋ねられた事をきっかけに障がい者への救急対応がこれまで不十分であったことに気づかされ、組織での見直しと救急隊員の取り組みが始まりました。

聴覚障がい者への救急活動

災害時において、聴覚障がい者が直面した事例

1)大雨で河川が氾濫・洪水の時などに避難勧告等の放送が流れているが、聞こえないためにそのまま自宅にいた。(幸い被害なし)
2) 台風で停電・断水となった時、支援物資の配給放送が聞こえない。
聴覚障がい者宅には、他者訪問が分かるようランプ付きインターホンが設置されているが、停電のため作動せず、不在と思われた。
3) 水害が発生している時、状況が全く分からないまま車を運転していた。

 後日になって、洪水の方向へ向かって進んでいたことが分かり。カーラジオで情報が流れていたが、もちろん聞こえていなかった。(現在は、携帯電話やメールの機能が充実しているので、情報は入りやすくなっている)

想定される聴覚障がい者の困難症例

1)災害時に、避難広報などの放送が聞こえない。(サイレン)
2)救急車の要請方法がない。(電話対応)
3)救急隊員が手話を理解できない。
4)住宅火災警報器の警報音が聞こえない。(近隣で夜間に火災が発生した時、熟睡していてき気づかず巻き込まれる可能性がある。)
 ※振動・発光機能の機種も開発されている。
5)119FAX通報がない。
6)口頭指導ができない

現場活動での注意点

 聴覚障がい者には、聾者(ろうしゃ:耳が聞こえない人)、軽度難聴から高度難聴などの難聴者、成長してから聴覚を失った中途失聴者など様々です。聴覚障がい者との会話は、口話(読話)、筆談、空中文字、手話、指文字などの方法があります。

写真4 口話(読話):口の動きで理解する

1)口話(読話):自分から話し、相手の口の動きを見て話を読み取り、伝え合います。(写真4)

写真5筆談:あいうえお表で会話する

写真6 筆談:紙などに書いて、伝え合う

2)筆談:伝えたい事を紙などに書いて、伝え合います。(写真5・6)

3)空中文字:空中に伝えたい事を空書して、伝え合います。
4)手話:手や腕の動き、表情などによってことばを伝え合います。
5)指文字:アイウエオ50音を指を使って表し、ことばを伝え合います。

※聴覚障がい者本人に、どのような方法が良いかを聞くとよい。その場合は、声を出して話す方法(口話)なら口をパクパクするジェスチャーで、筆談なる紙に文字を書くジェスチャーをすると理解しやすい。

聴覚障がい者への取り組み

1)緊急通報FAX電話を設置

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図1
緊急通報FAX電話用通信用紙

 聴覚障がい者の住宅のFAXから、予め、本人の氏名・住所・緊急連絡先・地図などを記入しておき、緊急時にFAX用紙に症状などの該当項目に印をつけてすぐに送信してもらい、受信した司令室からは救急車が向かっている事を知らせるFAX用紙を返信する。(図1)


写真7 FAX電話説明

  ※手話通訳士を依頼して、聴覚障がい者へ説明会を実施(写真7)

 2)手話研修会を開催
   現場での最低限の会話が出来るように、手話通訳士を招いて研修会を実施しました。参加した隊員の中には、しっかりと手話を学ぶため手話講習会に休みを利用して参加するようになりました。

 3)普通救命講習会の開催
   聴覚障がい者と通訳ボランティアに対しての普通救命講習を開催しました。聴覚障がい者は耳からの情報収集が困難な分、視覚・触感は健常者より優れている事に驚かされました。また、AEDの機種は音声ガイダンスによる操作案内がほとんどで点燈ボタンでしか操作が分かりませんでした。視覚による操作案内(液晶画面のテロップや操作手順のイラストなど)の機能があれば、より多くの人が簡単に操作出来るようになるのではと思われます。

活動困難な場所・障害になる物への対応

 管轄地域には海岸線に沿って国道が通っている場所があり、海岸線と海との美しい景観が随所に見られます。しかし、この道路はカーブも多く道幅も狭くなっている場所もあります。道路から転落すると海岸まで達するような断崖絶壁も多く存在しています。これまでに、自動車の転落事故や自損行為者の事故がありました。事故現場は急傾斜地で活動が困難な場所で、活動スペースと隊員の安全を確保しながら慎重に傷病者に接触して、救護・救出活動が必要なために時間も要してしまします。又、救急隊・救助隊含めた多数の人員も必要とされます。

 鹿児島県と宮崎県の境に位置する、霧島連山の高千穂岳での滑落事故では、地元霧島市消防局を中心とする捜索活動に従事された150名以上の方々が、腰の骨を折る大怪我を負った男子高校生を、急傾斜地の事故現場から固定処置をされた身体を、救急隊員の指導の下で足場の悪い状況の中、延々と列を作り手から手へ渡して麓へ救出しました。多くの方々の一人の命を助けたいとの思いが通じ、男子高校生は半身不随にならずに元気に社会復帰されました。治療にあたられた医師から高い評価を受けた事はもとより、家族や社会から賞賛された症例がありました。

現場活動のポイント(写真8・9)

写真8 応援要請:安全管理が重要

写真9 隊員の体力消耗・資機材の不足に注意

1)活動困難な原因を早期に確認、活動プラン設定して、必要な資機材・人員確保を的確に行う。(関係機関の応援要請も早期に検討する)
2)2次災害の防止を徹底する。必要に応じて警戒要員を配置する。
3)複数の関係機関が現場活動を行う場合、各機関との連絡調整を図り一体となった活動を行う。
4)人員・資機材配置は適切に行い、一部に負担がかからないようにする。
5)長時間の活動は、隊員の集中力を欠き、2次災害の危険につながるので、適宜交替して休息をとり、活動にあたる。
6)活動困難な現場である事を十分に認識すること、活動終了して安全地域へ活動隊員の全員と使用機材が撤収している事を確認する。

まとめ

 救急現場での活動困難な状況はいつ発生するか知れません。どのような困難な状況でも救急隊員として傷病者を救護するために、自身の全知識と技能を発揮できなければなりません。そのためには、これまでにお伝えしてきました、「基礎的な医学知識を身に付ける」、「救急資機材の取り扱いを知る」、「観察の基礎的なスキルを身に付ける」ことが、きっと役に立つと思います。また、毎回の勤務中での、救急資機材の点検や、取扱い訓練、病態を想定した基礎訓練が現場活動時に、傷病者に対するバイタルサインの測定などの基本行動をスムーズに行うことに繋がります。自身の経験から基本的な観察がスムーズに行えない時には、必ず、現場滞在が長引くことや、病院選定に苦慮することが多くありました。現場活動を振り返り、適切な観察や処置が行えるように反復訓練を行うように心がけています。

写真10 連携の取れた訓練を目指す

 現場活動では、救助隊・消防隊との連携、警察官や医療関係者をはじめとする、多種多様の職業の方たちと行動を共にすることもあります。合同の訓練を実施する事により、お互いの連携を密にして円滑な現場活動に繋げなければなりません。(写真10)

 昨日よりは今日、今日よりは明日と、少しでも質の高い救急現場活動をめざして、どんなに最悪な状況の救急活動現場でも、「泣こかい、跳ぼかい、泣こよっか、ひっ跳べ」と勇気を振り絞って、自身の持てる知識と技術をフル活動して、チームワークで最善の現場活動に繋げましょう。


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http://ops.umin.ac.jp/

10.3.14/4:15 PM