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Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ

第10回

自分を守る活動記録

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Lecturer Profile of This Month

鴨川富美夫(かもがわふみお)
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所属:佐世保市消防局中央消防署救急小隊
出身:長崎県佐世保市
消防士拝命:昭和54年4月
救命士合格:平成7年10月
趣味:ゴルフ・子育て


シリーズ構成

田島和広(たじまかずひろ)

いちき串木野市消防本部  いちき分遣所



Change! Try! Avoid Pitfalls! ピットフォールを回避せよ

Chapter 10

自分を守る活動記録

活動記録は正確に


正確な記録で自分を守れ

 救急活動記録は医療機関のカルテに相当するものです。記録に基づき事実を医療機関に伝えることにより予後の改善につながることもあるでしょうし、その後の検証によってプロトコルの変更などにつながることもあります。
事件や事故では捜査資料や裁判資料として開示を求められます。保険の請求では搬送された時の状況の確認のため救急活動記録が公になります。
トラブルや裁判になった場合には客観的に書かれた活動記録が自分と活動を守るでしょう。


1記録の基本
Bases of Record

記録で最も重要なことは信憑性です。「救急業務実施基準」には救急活動記録票を作成することと記載内容が定められています。


(1)時計を合わせる

図1
機器の時計合わせ

時間は救急活動記録の基本ですから、正確に確認し記録に残すようにしなければなりません。救急車内には傷病者モニター・除細動器・車内据付の時計・携帯電話・自分の時計など時間を表示する機器があります。特に傷病者モニターや除細動器は傷病者のデータに時間が一緒に記録されます。後で確認する際に時間がずれていれば検証が困難になる場合もあるでしょう。年や日付などまで違っていれば救急記録の信憑性が疑われます。勤務交代の点検時には機器の日時を合わせる(図1)のはもちろん、

図2
隊員の時計合わせ

隊員3名の時計を合わせる(図2)ことも必要です。

 傷病者の状態は経時的に記載します。指示要請の時間、特定行為などの処置の実施時間も記載します。記録やメモができなかった場合は積極的に時間を声に出して隊員間で時間を共有し、後の記録に反映させます。

(2)状況を記録する

 指令員が119番通報を受け、その内容が無線や電話を通じて救急隊に伝わります。その内容は医療機関にとっても必要なものですから記録に残し、医療機関に伝える必要があります。ただ指令員が救急資格を持っているとは限りませんし、通報者もあわてている場合があります。報告書の記載欄にも限りがありますから、指令から流される情報から必要な部分を取捨選択し必要な部分を記録しておきます。

図3
聴取した内容は客観的に記載する

事故概要や発症の状況についても、傷病者および関係者などから聴取した内容内容を客観的に判断し、報告書として客観的に記載する必要があります(図3)。救急現場や事故の発生状況・疾病の発症状況はさまざまです。状況をしっかりと記載することで、事故ならば事故発生のメカニズムや傷病者が受けた負傷の程度が想像できます。疾病ならば生活状況など当人のADL(日常生活動作)を確認し記載しておくことで、低血糖や内分泌系の疾患などを想像できます。

(3)裁判に備える

 活動記録は交通事故や事件では捜査の資料となり裁判の証拠となります。客観的に現場の状況を把握できるような記載が必要です。

 救急活動記録票を基に検証票が作成されます。公務員としての救急隊員が職務で作成し、委嘱された医師が検証し結果を記載するものですから、検証医の評価や検証所見も含め救急活動記録票および検証票は公文書となります。虚偽内容を書くことは公文書偽造に該当しますから、正確な内容を書かなければなりません。客観的で正確な記載をするために、いつ・誰が・どこで・どのような観察を行い、その観察に基づきどのような判断をして、どのような応急処置を行ったかもしくは実施しなかったか、指示要請の判断やその内容について、評価をおそれず記載することが必要です。

図4
特定行為は救急救命士法や医師法などとの微妙な関係の上に実施されている

 特定行為は救急救命士法や医師法などとの微妙な関係の上に実施されています(図4)。MC医師の具体的な指示の下に救急救命士は医師の補助者となって医療を実施しています。これは医師法第16条や20条にある医師以外の医業の禁止や無診察診療の禁止に抵触しないと解釈され、救急救命士の活動を守っています。実際に傷病者を診ていない医師が救急救命士の観察した情報を頼りに必要な具体的な処置(医療行為)を指示するわけですから、救急救命士が伝えた情報について正確に記録しておくことはもちろん、医師の具体的な指示についても時間も含め正確に記録に残しておくことが必要です。プロトコルに従った活動であれば、傷病者や関係者から訴えられた場合でも自分たちを守ることができます。

 通報段階で事件が予想される場合などは特に良く観察し記録することはもちろんですし、出場途上の状況などについても観察し記載しておくことも必要です。


2事例:内因性・外傷
Cases, Internal and Accidental

Pitfall1:プロトコルに縛られて活動が制限される
Solution1:活動記録を積み重ねてプロトコルの改訂を目指す

(1)内因性

 83歳女性、1時間ほど前から胸痛および呼吸困難を訴えているとの通報。

 高血圧の既往のある患者。1週間ほど前から胸痛が時折出現していたが、短時間で痛みは消失していたため医療機関の受診はしていなかった。本日7時ごろ朝食の支度中、胸部痛が出現したので安静にしていたが痛みが治まらず、さらに呼吸困難も出現したため救急要請。

 接触時、椅子に座って呼吸苦を訴えていた。

 初期評価で呼吸脈ともに速くショックと判断。酸素投与の準備を行いながらバイタルサインを測定。血中酸素飽和度が80%で喘鳴があったため高濃度マスクにより酸素10リットル投与。心電図上は多源性のVPCを1分間に約10回確認。呼吸苦が強く心不全を疑い座位の状態で安静を保ち救急車内に収容。循環器のある直近の2次病院を選定し搬送する。

(2)外傷

 交差点での車とバイクの衝突事故、バイクの乗員が負傷しているとの通報。

 右折の普通自動車と直進の大型2輪の交差点での衝突事故。2輪の乗員が普通自動車の左側面に衝突し、約8メールトル飛ばされ負傷したもの。

 交差点中央に左側臥位でヘルメットをかぶったまま倒れていた。左胸部と左上肢の痛みを訴えており、左上肢に変形がみられた。普通自動車の乗員は負傷なし。

 傷病者とバイクの距離および事故の概要からロード&ゴーと判断し活動開始。初期評価で呼吸が速く浅く、脈についても速く弱く触れたためショックと判断し高濃度酸素を投与。さらに全身観察の結果、左胸部に打撲痕および呼吸音の左右差があり呼吸苦を訴えることから胸腔内の損傷を疑い、全身観察でもロード&ゴーと判断した。

 高濃度酸素投与・全脊柱固定・保温処置を行い、3次医療機関を選定し搬送する。
搬送中、詳細観察を実施したところ、左肘および左腰部に擦過傷があり微量の出血を確認、さらに時間経過とともに左胸部に皮下気腫を確認したため、緊張性気胸に注意し搬送した。

・問題点
プロトコルに基づいた活動だったか

・解決法
救急隊の記録から確認

 傷病者の状態は経時的に観察し記録します。傷病者の訴えの変化や、接触してからの傷病者の経過について、救急隊の判断や応急処置とあわせて記録します。これにより救急隊が行った応急処置が有意義であったか・そうではなかったか、さらには状態を悪化させたかなどを評価できます。

 プロトコルが救急隊の活動にとって良いものか、傷病者の状態を改善もしくは維持することができるかは、傷病者の状態から判断しますが、その判断のもととなるのも救急隊の活動記録と医療機関に収容されてからの記録です。傷病者の状態がプロトコルで目指している状態になっていれば良いのですが、期待するような状態にならない場合は、その記録を積み重ねてプロトコルの改定を行うこともできます。


3事例:事件
Cases, Criminal

Pitfall2:警察官に質問されて答えられない
Solution2:覚知時点で事件への対応を始める

(1)女性が首を切られた(リンク下方「起訴前の身柄引渡要請があった事件」)

図5
首を切られた女性

 客待ちをしていたタクシー運転手から「若い女性が首を切られたと助けを求めて来た」(図5)との通報。

事件は駐車場に止めていた車に乗り込もうとした20代の女性の後ろから近づき、片手で口を押さえ反対側の手に持っていたカッターナイフで首を切った後、女性のかばんを盗って逃走したもの。

図6
傷の確認。気管が切れており話せなかった

・問題点
この事例では切られた部位が首であり、気管まで切れていたため会話ができず本人からの状況聴取ができなかった(図6)。

・解決法
状況が不明であっても、接触時の傷病者の状態や負傷の状況など、客観的に判断できる内容について、搬送後の記憶の新しいうちに記録として残しておくこと。

図7
警察の事情聴取。走行中に見た外国人まで聞かれた

この事件は米軍基地の兵隊が起こしたものであったため、警察官からは現場到着までの走行中に確認できた外国人の状況まで聞かれました(図7)。

 通報では首を切られたとしか入っておらず、外国人の起こした事件とは知りませんでした。現場到着までの距離が500メートルと短く発生時間も夜遅かったため通行人が少なく、また出場後早い段階での事情聴取であったため何とか答えることはできましたが、時間経過してからであれば記憶が曖昧となりはっきりと答えることができたかどうかわかりません。現場到着前から周囲の状況まで注意深く確認していく必要性を感じました。

(2)頭部からの出血。実は拳銃による自殺

図8
頭部外傷。血溜まりができている

外出先から帰宅した妻が、窓際の布団の上に頭から血を流して倒れている夫を発見したもの(図8)。

図9
傷病者の体の下から銃を発見

 喉頭がんの治療中で自宅療養していた傷病者が、妻の外出中に持っていた拳銃で頭部を打ち抜き自殺を図ったもので、通報者の妻も状況がわからないまま救急要請。接触時・頻脈・頻呼吸・意識レベルJCS3-300のショック状態。救急隊の初期評価・全身観察でも状況が確認できず搬送のため身体を移動させた際に、体の下にあった銃を発見し(図9)事件が発覚したもの。

・問題点
傷病者搬送にともなう現場保存・銃の取り扱いをどこまで行うか。

・解決法
傷病者の状態から緊急搬送の必要があり警察官の到着まで待つことはできないため搬送を優先とする。しかし捜査の必要もあることから、すぐに警察通報し可能であれば現場の写真を撮る。
拳銃については、傷病者と一緒に搬送することは暴発等の危険があるため現場に残し、施錠をして第3者が侵入しないようにしておくとともに、現場の状況・負傷部位やバイタルサイン、また通報者などの関係者の言動についても記載しておく。

 拳銃の発見までは壁で後頭部を打撲したものと考えていましたが、拳銃発見後に再度負傷箇所を確認すると右側頭部に射入口、左側頭部に射出口を確認でき、また隊員の後方部の壁には弾痕らしき穴がありました。後に現場の状況観察及び傷病者の観察が不十分であったと問題にはなりましたが、銃を持っているとは思わず、通報状況からも暴力団関係者との認識はできず銃創とは考えもつきませんでした。振り返れば打撲にしては不自然な血だまりがありましたが、銃創だとわかったのは拳銃を発見してからです。

 拳銃による事件は非日常的であるため、通報段階もしくは関係者との接触時の情報がない限り想定できず通常の一般負傷としての活動しかできません。負傷の状況がどうあれ傷病者の状況に合わせた救命処置を行うしかありません。

(3)銃乱射事件

散弾銃を持った男性がスポーツクラブに侵入し銃を乱射し、負傷者が多数発生したもの。

・問題点
警察官からは現場の状況について詳しい説明がなく、現場の安全を確認できないままの負傷者が居るとの情報で現場進入し、救急活動を行った。

・解決法
通常から警察官との密接な連絡を取ることで現場情報の開示を求め、さらに安全が確保できたとの保証がない限り現場進入しない。消防組織法および消防法には警察官と相互に協力する旨の記載がある。安全な現場活動を行うために警察官に情報提供を求め、提供がなされない場合は現場の警察責任者の所属・階級・氏名を救急搬送記録票に記載しておくことが必要。

 負傷者数と事件の概要が全くわからないまま現場到着。警察官から犯人が建物内にいる可能性があるため進入できないとの情報があり現場待機。その後負傷者がいると警察官に案内され現場進入し傷病者に接触しましたが、犯人の状況等警察官からの情報提供はないままでした。

 負傷者は心肺停止でしたが、現場の安全が不明なため処置よりも搬出を優先し、車内収容後に心肺蘇生を開始しました。その後もけが人の追加情報があり救急隊を3隊投入しました。自力歩行で出てくる負傷者に対応中、中に意識のない傷病者がいるとの情報により現場に進入しました。この傷病者が最後の負傷者でしたが、この時点でも犯人の動向については情報提供はなく、ジュラルミンの盾を持った警察官の後について現場進入し(トップ写真)、現場保存のため敷かれた敷物の上を移動し傷病者に接触、やはり現場の安全が不明であったため車内収容後に心肺蘇生を行い搬送しました。


4事例:法律
A case, Legal

Pitfall3:処置行為が違法ではないか
Solution3:法律を確認するとともに記録を残す

(1)同意を得ることの出来ない心肺停止傷病者への救命処置

 一人でステーキハウスに入ってきた高齢の男性が窒息し心肺停止状態となったもの

・問題点
特定行為が必要な傷病者に対し、インフォームドコンセントができない

・解決策
意識不明や家族がそばに居ない場合は、インフォームドコンセントは免除されるため必要ない。

救急救命士の特定行為については、傷病者に対し侵襲を与える行為であるため、場合によっては傷害に該当します。特定行為を行うことが法的に正当化する事由となるかが問われます。そのために、特定行為を行う場合はプロトコルに沿った活動であったか、指示要請は正当に行われたか、その際の傷病者の状態がどうであったかを救急活動記録や救命処置録に正確に記載しておきます。


5まとめ
Writer's comment

 PDCAサイクル品質管理をおこなう手法の一つにPDCAサイクルがあります。Plan-Do-Check-Act cycleの略で、結果・実効・評価・改善の4項目が円を描いて連続するものです。救急隊活動の継続的な質の管理と品質の改善もPDCAサイクルで可能です。しかしこのPDCAサイクルを有効なものにするのも、正確な記録が残されていることが前提となります。

 メディカルコントロールでは、救急隊員が傷病者を適切に観察し評価することができるか、さらに評価に基づいた処置を行う技術を身につけているかについて確認されます。医師が救急隊と一緒に現場に出場しその活動を評価することはできないため、救急隊の活動記録や救命処置録で評価されます。今後に予想される救命処置の高度化でも新しいプロトコルの作成・改定には救急隊の活動記録、救命処置録、検証票が基本資料となります。

 記録がこれからの救急隊の活動を左右すると認識し、正確な救急記録を作っていく必要があります。


引用・参考文献
1)改定第7版救急救命士標準テキストへるす出版
2)救急活動の法律相談新日本法規出版


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http://ops.umin.ac.jp/

10.4.17/12:32 PM