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工夫

第1回

救急法指導

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筆者・シリーズ構成

泉清一(いずみせいいいち)

大洲地区広域消防事務組合
大洲消防署内子支署小田分駐所勤務
専門員兼救急第一係長兼消防第二係長

昭和五十六年四月一日消防士拝命

平成十六年五月救急救命士合格

気管挿管・薬剤認定救急救命士

趣味:格闘技全般(柔道五段・相撲三段)


工夫

第1回

救急法指導


1.初めに

 今回から新たに四国の十二名の救急救命士による連載「工夫」が始まります。海あり、山あり、川あり、島ありと自然豊かな四国で都市部にない四国独特の現場での「工夫」があります。その取りまとめと第一回目を担当します愛媛県の大洲地区広域消防事務組合大洲消防署内子支署小田分駐所の泉清一です。どうぞよろしくお願いします。

図1
大洲消防本部

 私の「工夫」は、皆さんがいつも行っている救急法指導についてです。
当消防本部は愛媛県南予北部に位置し、大洲市及び内子町の1市1町で構成され管轄面積七千三百十七平方キロメートル・管内人口六万九千人余り一本部一署三支署一分駐所・救急車六台・職員数一〇五名体制の小規模の消防本部です(図1、2)。

図2
大洲消防のマスコット。大洲市秋滝龍王神社のご神体であり、農業の神様として信仰される龍を描いています。

現在までの救急講習の概要は、受講人員六千百二十五人(内訳普通救命講習会沐ェ十九回千六百八十九人、普通救命講習会十六回二百六十一人、応急手当普及員講習1回三名、応急手当指導員講習1回三名、一般救命講習会百十八回四千百三十九人、応急手当普及員再講習会二回十七人)です。

 この指導には救急救命士二十六名で対応していますがとても救命士だけでまかなえる件数ではありません。

 また、指導人数によっては補助者も必要になります。そこでの「工夫」が応急手当指導員と応急手当普及員の活用です。

2.応急手当指導員資格を職員に取得させ口頭指導に活かせる「工夫」

 当消防本部は一〇五名の職員がいますが、応急手当指導員の資格を持つ職員は九十一名。一部の幹部職員を除きほぼ全員です。当然救急隊員以外も消防隊・救助隊・指令係員を始め予防課・総務課の職員も応急手当指導員資格を持っています。

 応急手当指導員資格を持つというメリットは応急手当の実技をマスターしているということ。この効果は急変時の口頭指導に活かされます。自ら資格を持った指導者でもある通信指令係員が一一九番を受けることにより口頭指導がスムーズに相手に伝わる効果は絶大であります。多くの救急事案で口頭指導により応急手当が実施されています。

 また、応急手当指導員の資格取得の特徴は、当消防本部自ら養成を行っている点です。その資格取得にあっての「工夫」は、各所属で新しく救急隊員資格を取得した者を対象に所属の救命士が一定期間(講習を数回に分け)勤務中に取得させる方法を実践しています。そのため、勤務の振り分けや非番日での研修でないので無理のない資格取得が可能となります。

3.応急手当普及員の養成の「工夫」

図3
筆者による応急手当普及員講習のようす

 応急手当普及員を誕生させたのは四国で一番早く、平成八年八月に養護教諭二十四名を誕生させたのが最初でした。きっかけは、学校での危機管理に敏感だった養護教諭の方々でありました。夏休みに実施している養護部会研修の一環として初めて四日間の応急手当普及員講習を実施しました。マニュアルもない手さぐりの状態で私を含め四人の指導員が一から作り上げた講習会であり、修了後はお互いに達成感もあり、顔の見える関係が現在も続いています(図3)。

4.取得した資格を維持するための「工夫」

 せっかく取得した応急手当普及員の資格をどう活かすか。また技能を維持するために今後どうしたらいいか。技能を維持するためには、定期的な再講習と実際に指導に当たってもらうのがベスト。再講習は養護部会と協力し、二年間に一度は夏休みに4日間研修することにし、これを現在も続けています。

 また、資格を活かす「工夫」として、応急手当普及員に最初に指導してもらうのは自身の学校への部内研修としています。指導することが学ぶことの原点であります。その後は、消防職員と供に小中学校での講習には応急手当普及員として協力し指導に当たってもらっています。

図4
女性応急手当普及員による講習

現在、当消防本部では応急手当普及員九十一名を養成しています。特に近年は女性消防団員の誕生により、地域住民の指導に一役買っています(図4)。

5.救急法の指導技術の均一化の「工夫」
 
 毎年、救急法の指導養成が多くなる前に応急手当の指導技法の統一を図るため、各所属の救急係長を集め、指導の統一を図り、各救急係長が所属職員に周知徹底を実践しています。この「工夫」により、指導者間の統一が図られ各所属同じレベルでの指導を可能にしています。

 指導経験の浅い指導員には、ベテランの指導員の補助役をさせて指導技法を見分させることと、初めての指導の際には、事前にベテラン指導員の前で披露して指導を受けてから任に当たらせています。

 また、「工夫」として若手職員を中心とした応急手当の指導競技会に定期的に医師が参加し、お互いに切磋琢磨する環境を設けていることも特徴です。

6.救急法指導でのつかみの『工夫』

 私が実際指導している救急法の手順を普通救命講習Iを例として紹介します。
自己紹介は、受講者の職業や年齢・性別それと受講者のやる気で変えます。堅い話は最初のみ、後は極力標準語では話しません。大洲弁で押します。

 必ず話すことは「救急車の適正利用」と病院のかかりつけの定義。それと救急車は飛行機やレーシングカーではない話等を入れます。これでつかみはOKです。
私の場合、導入にはパソコンやDVDは使いません。視覚や聴覚に訴えるのに最高のパーツであるけどその20分?30分がもったいない。

※『工夫』

私はアイスブレーキングを兼ねてミニゲームを行います。ミニゲームは簡単なものでリズムに合わせて手をつないだりグループを作ったりする簡単なものです。ミニゲームは会場の雰囲気を和やかにする効果は絶大です。

自論ですがDVDは視覚に訴える効果が大きいため緊張がほぐれません。

また、ミニゲームは実技のバディを作るのにも一役買っています。

7.意識の確認の『工夫』

 体が温まり、気持ちもほぐれたところでバディ(二人組み)による生体での意識・呼吸の観察に入ります。

※『工夫』

まずはジャンケンです。勝った者が傷病者役、負けた者が救助者役で意識の確認から行います。

救助者役に大きな声で名前を呼んで、肩を叩いてもらいます。この時、大半の傷病者役の人が笑いますので、「今みたいに笑ってもらう人は意識がありますね。」と皆さんから同意を得ます。その後に意識について質問をします。

筆者
「呼びかけたり、肩を叩いて返事をする人は意識があるとわかりましたが、返事をしないけど目を開けた。この人は意識があると思う人は手を挙げてください。」

受講者
「はい。」

筆者
「そうですね。意識はありますが、返事をする人に比べレベルは悪いですね。」

筆者
「次はどうでしょう。呼びかけても、肩を叩いても返事もしないし、目も開けない。しかし、無意識に手足を動かしている。この人はどうでしょうか?」

受講者
「無意識なので意識はないです。」

筆者
「無意識なのだから意識はありませんね。でもね、日本語の無意識の状態は意識があるの。当然レベルはものすごく悪くはなっているけど。意識のない人とは刺激に対して反応がない人のことをいうのです。一一九番入電時、指令係員が必ず聞くこと『意識はありますか?ないですか?』当然ほとんどの人が『意識のある、なし』を即答します。でも、先ほどの質問でもそれぞれに分かれましたとおりです。でも、迷ったら悪い方に考え『意識なし』と判断することが大切です。わかりましたか?」

受講者
「はい。」

※『工夫』
意識のない状態は危険の三段論法(泉清一語録)
意識のない人は全身の筋肉が弛緩する。

地球には重力がある。高い舌は低い喉へ落ちる。

舌が喉に落ちると息ができない。

※『工夫』
死の三段論法(泉清一語録)
息が出来ないと心臓が止まる。

心臓が止まると脳が死ぬ。

脳が死ぬと植物化する。

※『工夫』
応急手当の三段論法(泉清一語録)
脳を殺さないための胸骨圧迫

心臓を殺さないための人工呼吸

肺を殺さないための気道確保


次に119番通報依頼とAED搬送依頼を教えます

筆者
「意識が無かったら、助けを呼びます。皆さん助けを呼んでください。」

受講者
「誰か来てください。助けてください。」

筆者
「どうしました。」

受講者
「・・・・。」

筆者
「意識が無い人がいたら、救急車の依頼とAEDを持ってくるようにお願いしてください。それではもう一度。どうしました。」

受講者
「人が倒れて意識がないんです。救急車を呼んでください。AEDを探して持って来てください。」

筆者
「わかりました。」

8.気道確保の『工夫』

図5
「救助者は傷病者のおでこに傷病者側の手を置きます」

筆者
「それでは皆さん気道確保の手技に入ります。救助者は傷病者のおでこに傷病者側の手を置きます(図5)。もう一方の手はチョキにして、傷病者の下顎先の固いところに引っ掛けるようにして、ボーリングの玉を転がす感じで下顎を持ち上げます。皆さんできましたか?」

図6
下顎の先端と耳の穴が床面と90度

※『工夫』下顎の先端と耳の穴が床面と90度

この下顎を突き出した姿勢はラジオ体操の深呼吸と同じポーズ(図6)。当然呼吸が楽になります。

受講者
「はい。」

筆者
「気道確保をしたまま、傷病者の鼻と口に自分の頬を近づけます。その時の目線は、胸・お腹を見てください。傷病者は普通に息をしていてください。」
「まずは、『見て』胸・お腹が上下して動いているのを見ます。皆さん傷病者の胸・お腹が動いているのが分かりますか?」

受講者
『分かります』

筆者
「続いて『聞いて』です。傷病者の呼吸音を耳で聞いてください。わかりますか。」

受講者
「はい」

筆者
「次に『感じて』です。吐息を頬で感じてください。分かりますか。」

受講者
「分かりました。」

図7
呼吸は五から一〇秒間で一から三回確認できればOK

※成人の呼吸数を教える『工夫』

一分間に成人の呼吸数は一二から二十回。五から一〇秒間で一から三回確認できればOK(図7)。

筆者
「呼吸の確認は『見て、聞いて、感じて』を確実に行うことで5秒以上10秒以内に確認することができます。呼吸がなければ心肺蘇生法を開始します。」
「人工呼吸と胸骨圧迫についてはこの後人形で行います。それでは、救助者と傷病者役を交代してください。」

筆者
「それでは、皆さんもう一度ジャンケンしてください。今度は勝った人が、心臓麻痺を起こし、胸を押さえて倒れてください。当然先ほどみたいに仰向けにはならないでしょ。さあ、この人の意識・呼吸の確認をしてください。できますか?」

受講生
「もしもし、大丈夫ですか?」

筆者
「このままでも意識の確認はできますね。助けとAEDの依頼も可能ですね。それでは気道確保はどうでしょうか?先ほど仰向けの時、説明しましたが喉の位置と舌の位置関係は舌が下の位置にあるため、嘔吐をしていなければそのままでも問題ありません。」
「問題は、呼吸ですね。呼吸は傷病者に手の甲を鼻と口に近づけてください。呼気を感じることができます。ではやってみましょう。」
「呼吸を感じることができましたか?」

受講者
「わかりました。」

9.腹臥位を仰臥位にする『工夫』

筆者
「呼吸がない場合に初めて、仰向けにします。見本を見てください」

仰向けにする要領
(1)倒れている人の頭の向きを見て、仰向けに返す方向を決めます。今回は頭が右を向いている(図8)ので右回りに起こします。

(2)傷病者の手の平を下にしたまま地面を滑らせ(図9)頭の上にあげ1本のまっすぐな棒のようにします。

※『工夫』手の平が上を向いているままで無理に腕を上に挙げると肩関節が外れます。

(3)左手で後頸部を支え、傷病者の右脇から右手を差し入れ右肩部分を掴み(図10)右回りで傷病者を回転させます。

※『工夫』顎まで保持する方法は、技術を要し一般向けでないためこの方法を実践しています。

(4)傷病者が仰向けになったら、左手で支えていた後頸部をゆっくり降ろします。

筆者
「続いて、意識は無いけど呼吸がある。又は生き返った場合に傷病者を横向きにします。回復体位といいます。それでは見本を見せます。」

(5)仰向けの傷病者の右側に位置します。傷病者の右腕を九十度に広げ傷病者に胸の厚み分を残し近づきます。

(6)傷病者の左手甲を傷病者の右頬に当て、左足を膝立ちの状態にします(図11)。

(7)傷病者の左肩と左膝を持ち横に向けます(図12) 。


(8)傷病者の左膝裏に手を入れ腹部付近に移動させます(図13)。

10.蘇生人形の『工夫』

 蘇生人形については2名に1体が理想です。現実には4人に1体か6人に1体を用意することが精一杯です。そんな時の「工夫」はボールです。人工呼吸は人形を使わなくてはなかなか難しいですが、胸骨圧迫の練習は出来ます。

図14
テニスボールは手技の取得に適しています

特にテニスボール(図14)を使っての練習は腕を伸ばして垂直に押さえないとうまくいきません。かなりの効果が見込めます。

図15
バレーボールは人間の厚み位あるので感覚を得るのに適しています

バレーボール(図15)は人間の厚み位あるので練習には適しています。

11.想定訓練の「工夫」

図16
講習の仕上げに想定訓練をします

 今までの普通救命講習は、基本訓練で修了していました。しかし、心肺蘇生の基本は学んでも実践で役に立つとは限りません。そこで『工夫』として、実際の現場を想定した訓練を実施します(図16)。想定訓練は発見・通報・救助・引渡しまでの完結まで行います。

(1)想定訓練は、プールで溺れた。事務所で倒れた。などのごくありふれた想定にします(図17) 。

(2)受講生に役割分担表に基づき行います。(救助者役・傷病者役・関係者役)

(3)進行・指令係員・救急隊員役は職員で行います。

(4)講評・質問で修了です。

(5)アンケート(図18)でも想定訓練を実施することで受講者の理解度や救急法の評価も高まります。

12.まとめ

 救急法指導は救急救命士や救急隊員にとって日常業務の一環として当然身に付けていなければならないものです。指導方法も十人十色、『工夫』も人それぞれです。

 でも、受講者の声を聞きくこと、受講者に満足してもらう指導法を常に『工夫』していく努力を惜しまないことが大切であり、自己研鑽にも繋がると思います。今年G二〇一〇も発表されます。ますます『工夫』が必要になります。今回の執筆が読者の皆さんの少しでもお役に立てれば光栄です。ありがとうございました。


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10.5.15/6:05 PM