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Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ

第12回

救急救命士教育の現場から

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Lecturer Profile of This Month

名前:西園与之(にしぞのともゆき)

所属:東亜大学(山口県下関市)
出身:鹿児島県阿久根市

消防士:平成8年-平成17年
救命士合格:平成7年
大学院:平成18年(国士舘大学大学院)
現職:平成19年~

趣味:プラモデル作成


シリーズ構成

田島和広(たじまかずひろ)

いちき串木野市消防本部  いちき分遣所



Change! Try! Avoid Pitfalls! ピットフォールを回避せよ

Chapter 12

救急救命士教育の現場から

救命士教育を考える

 

拡大

救命士が魅力ある資格となるために何をすべきか

 昨年7月から1年間にわたり、九州各地の救急救命士がバトンをつないで自分自身の経験から考える問題点とその解決策を、「Change! Try! Avoid Pitfalls!!ピット・ホールを回避せよ」と言う形で、お伝えしてまいりました。一年間温かく応援してくださいました読者の皆様に、心から感謝申し上げます。さて、今回は少しだけ九州を飛び出し、山口県下関から救急救命士教育の現状をお伝えしたいと思います。


はじめに
Introduction

 救急救命士は、平成3年に立法し平成4年から第1号の資格取得者が誕生した。その目的・免許・業務等は救急救命士法(以下法と言う。)で定められ、受験資格についても法第34条に定められている。

 救急救命士国家試験の受験資格取得には、(1)救急課程修了の救急隊員が救急現場の経験を積んだ後、指定された研修所で必要な過程を終了する方法と、(2)民間の救急救命士養成施設の課程(救急救命士国家試験受験資格に必要な学科69単位修得)を修了して受験資格を得る方法が大部分である。

拡大 図1 東亜大学のサークル

 今回は、(2)民間の救急救命士養成施設課程の現状(図1)をお伝えし、そこからピットホールとその解決策を検討するため、東亜大学に在学中の救急救命士受験必修単位授業を選択し受講している106名にアンケート調査を行った。その結果に考察を加え報告する。



東亜大学の現状
About University of East Asia

図2 東亜大学

 東亜大学(図2)では、平成15年4月から救急救命コースを設立し教育を開始している。平成22年3月(第4期)までにコース修了・卒業生が105名である。コース選択は、2年次に行われるが入学時の希望調査で殆ど確定している。コース定員は当初50名であったが平成20年から40名に縮小している。在学年の充足率は、4年生56%、3年生68%、2年生53%、1年生80%(希望者)である。


Pitfaii:入学者が集まらない。
Solution:東亜大学を知ってもらう。

拡大 図3
訓練風景。救急救命コースは臨床工学科の一部門。

 東亜大学では、毎年4月末ごろ次年度の学生募集用パンフレットが出来上がり、全国の高等学校への配布と入学実績を中心に全国の高校を訪問して、学校説明を行っている(図3)。実施者は全職員で教員も授業の傍ら担当地域の高校を訪問している。ただし、東亜大学は3学部6学科の総合大学あり、訪問先のニーズと担当者に委ねられる学校説明によっては、救急救命コースは元より医療工学科の説明も十分に行われない現状もあると考えられる。

 情報共有に関しては、学内に各委員会が設置され、高校訪問に関する事項は広報部委員会でWGが作られ把握されている。しかし、実績報告が殆どで内容までは担当者に委ねられたままで、周知できない現状にある。入学者に実施したアンケート調査からも、進路を考える時期としては高校在学中が圧倒的に多く、高校訪問の効果は大きいと考えられるものの、実際の入学者がパンフレットを見ている者は少数であり、且つ進路指導者への相談は18%であった。最近ではインターネットの普及などで独自に情報収集を進めているものと考えると、ホームページの充実・更新が入学者への影響も大きいと考えられる。また学生及び高等学校側の進学における関心は、就職率及び資格合格率が大きいと考えられる。


Pitfaii:救急救命士国家試験合格率はどうか。
Solution:現状を把握し、合格者を増やす対策をとる。

拡大 図4
講義。受講生。

 今年(第4期生)の国家試験合格率は、26名卒業のうち23名が受験し15名が合格(65%)であった。全国の平均合格者が84%であったのに比べると、とてもよい結果とは言えない。また、これまでの卒業年次の合格率は、第1期生42%(全国86.6%)2期生49%(全国80.1%)3期生68%(全国80.3%)となっている。更に卒業生全体の卒後を含めた合格率も追跡調査の結果、58%となっている。

拡大 図5
基礎医学講義

コース開設当初は、救急救命コースの開始以前から教育を始めていた臨床工学技士の国家資格と同時に2つの国家資格を目指す学生もおり、病院への内定を受けての受験であることもあった。そういった学生の多くは、学習効果も上がらず殆どの学生が不合格となっている。さらに2回目以降の受験は少なく、そのことは卒業生全体の合格率上昇にはつながらない結果となっている。そのため、ここでの合格率は卒業年次が重要で、且つ救急救命士の資格取得を純粋に目指す者を明確にして追跡調査をする必要がある。

拡大 図6
活動の基礎。挨拶

 現在の民間養成校の現状は、平成4年から北海道と九州の熊本で救急救命士養成が開始され、これまで全国に30校(専門・専修学校22校、大学8校)の民間及び大学が救急救命士教育を行っている。平成18年からは、国家試験が年1回の実施になったこともあり、民間養成校からの受験者が消防の養成とほぼ同数の受験者(1000-1200人)という状況である。民間養成校の合格率を見てみると、専門学校の多くは全国平均かそれ以上であり、100%に近い合格率の学校も見られる。しかし大学においては、当大学をはじめ7割を切る学校も見られている。

拡大 図7
心肺蘇生法

 この点をもう少し考えてみると、東亜大学での教育カリキュラムは、救急救命士に必要な教育内容約70単位と、それを含む大学卒業に必要となる124単位を4年間で振り分け、1年次に主に共通教育科目や基礎科目の受講(図4)と、医学の基礎分野(図5)を入れ、進級とともに、専門基礎、専門分野といった内容になっている。

拡大 図8
高度救命処置スキル

 救急処置実習についても、2年次(コース選択後)から開始となり、救急の基本となる活動の基礎(図6)から心肺蘇生法(図7)をしっかり身につけ、高度救命処置スキル(図8)からシミュレーション実習(図9)へと積み重ねて行くような内容である。また、4年次に臨地実習として病院及び救急車の同乗実習(もしくはそれに代わるもの)を実施している。

拡大 図9
シミュレーション実習

 これまでは、救急救命士に必要な科目が卒業単位にも反映されることから、実はコース選択はしたものの卒業時に救命士の受験を希望しない学生についても受験資格の取得が与えられていた。また、受験希望はあるものの卒業単位については、受験手続後に結果が出ることから、卒業が出来なくなる学生についても手続きと受験票が与えられ、その全てを母数として合格率を出す結果で現状の率に落ち着いていることが伺える。しかし、このことは学内内部事情であり、合格率のみの上昇を考えれば母数の調整を明確にすればよいと考えられる。本来の合格率は、学生の就職(公務員採用)率とも密接に関係している。

拡大 図10
卒業証書

平成22年4月現在、1-4期の卒業生(図10)の状況は消防採用者が52%となり、消防を目指し努力を続けている者が22%となっている。その他は、臨床工学技士として病院へ就職するか一般職に就職している。消防への採用は年齢制限などの条件もあり、卒後就職試験にチャレンジできる回数は限りがある。この22%の学生においては、16%が今年の卒業生でありそのうち65%は救急救命士資格を取得している。このことは、絶対条件ではないものの採用側消防にとっても有益であると考えられ、採用の可能性も高まると考えられる。さらに、卒業年次に消防採用の内定があったものの、同年の国家試験に不合格であった学生の殆どは、翌年に合格している現状で、このことから見ても国家試験取得と消防就職は学生自身の意欲向上に関ることが伺える。


Pitfaii:本当に救急救命士を目指しているのか。
Solution:資格ではなく、人間を育てる教育

 合格率で明らかにした通り、卒業年次に受験資格を望まない、また卒業単位の足りない学生がいる現状から、民間養成校での教育には何が必要であるのか考えてみた。

図11
消防学校での訓練

 現在の東亜大学在学生(救急救命コース)は、1年生32名(29.6%)、2年生21名(19.4%)、3年生27名(25%)、4年生28名(25.9%)である。殆どが現役入学であり、98%が男子学生である。アンケート対象者には受験希望をしない者は含まれなかったが、新年度転科した者と消防への採用が決定し退学した者がいるため、その学生を含め今後就職活動の中で、国家試験受験を希望しない学生も出てくる可能性はあると考えられる。また、アンケート結果から15%が消防への就職(図11)のために進学したという回答をしていた。更に5%は高校卒業時に公務員採用試験を受験している者もいた。また5%が親の勧めで進学したという回答が見られた。多くの学生が入学時に将来の目標を明確にしてきているものの、中にはそうでない者も含まれ、目標変更や単位非修得者の多くが、救急救命士になるという目標が明確でない者であると考える。

拡大 図12
基礎講義

 民間養成校の教育は、医学の基礎(図12)から教え始め、それを積み重ねて救急現場にあった医学的知識を理解させ(図13)、さらに救急医療全体の理解につなげている(図14)状況である。これは、相当の困難を伴う。例えば、消防職員が行う救急講習も同じようにバイスタンダー養成は急務とされるものの、医学の基礎を含んで理解させようとすると困難を要し、時間内に講義が終了しない状況になる事と同じある。また、その到達度を上げるためには、受講者の意欲がとても大切になると考える。

拡大 図13
救急現場にあった医学的知識を理解させる

 将来の救急救命士国家資格取得希望で進学を決定しているという者が多い中で、大学入学前に、救急救命士について事前勉強・情報収集をしたかという質問では、約54%が「少しは勉強した」と回答し、「事前に調べる必要がない、理解していた」という回答は見られなかった。また、「入学してからで十分と考えた」との回答が約10%見られた。このことから、入学生が救急救命士を目指す切っ掛けは、憧れや現場のイメージが強く、救急救命士になりたいという意欲に関しては、とても受け身の部分が大きいと感じられた。このことは、大学教育の中で、近年の学生が、表現力・発想力・創造力などに乏しいとされ、さまざまな問題を抱えることにもつながっているように思われる。

拡大 図14
実習で救急を理解させる

これは、成長段階で自己肯定感が養われず自分自身を "信用" することができないため、自分自身の "能力"にすら懐疑的となってしまい、親の勧めや進路指導の先生の勧めで進学につながったケースがあるのではないかと考えられる。また、同世代となる者たちは、同じような教育を受けていることがあり、消防へ就職する者たちにも既に、または今後そういう者が増えてくる可能性がある。そのことを考えると、民間養成校の教育では資格取得については目標設定の中の通過地点と考えることとし、それに向ける意欲を持たせ(図15)、将来の目標をイメージ出来ること、及び達成する為の人間形成が重要であると考える。

拡大 図15
実習を通じ意欲を持たせる

 民間養成校においては、2年間で教育を終えるものと当大学をはじめとする4年間の教育が必要なものがある。4年間の教育の中で、資格取得までのモチベーション維持について、何が重要と考えるかという質問では、殆ど同じような割合で「大学の専門授業」「大学内の実習」「大学外実習や学会等への参加」「授業での救急現場体験談」「現役消防職員の講義」が挙げられた。またその他として、卒業生を含む先輩からの話ということも挙げられた。大学においては、専門教育に加え大学の卒業に関る単位修得が必要となる。このことは、卒業と同時に学位の修得と採用の規定がある場合には、大学卒業区分に選定され、さまざまな有益が得られる。また、採用区分の大学卒業に求められることとしても、現場の即戦力もあると考えられるものの、業務についての問題点の抽出及び問題解決能力も重要であると考えられ、大学の研究機関としての教育達成が重要であると考える。


Pitfaii:救急救命士の職域拡大は出来ないのか

Solution:病院前の学問体系を明確にする。

 救急救命士法が制定され来年は20年になる。この間、一般市民がAEDを使用できるようになり、救急救命士も気管挿管、薬剤投与と少しずつ業務の拡大が行われている。また、前にも書いた通り消防の年齢制限があるためや、その他の理由から救急救命士として医療機関への就職を希望し、採用されている者もいる。今回のアンケートでも、既に救急救命士として医療機関への進路を希望している意思表示や、情報収集を行い、準備を進めているという回答も得られた。さらに、東亜大学には卒業生の中にも救命士として病院に採用された者が2名いる。ただし現状は、法44条関係から厳しい状況にあることには変わらない。現状は、一部の海上保安庁と自衛隊以外は、消防に採用されるほかは救急救命士の資格を活かせず、現実の職域拡大はまだまだ先のことと考える。しかし、今後の職域拡大は救急救命士資格の内容を考えると、具体的な対象調査・研究を進め慎重且つ大胆に行う必要があると考える。またそのためにはまず、現状の現場活動に必要な医学の領域、病院前の学問体系を明確にすることが必要となる。


Pitfaii:救急救命士教育には、二つの異なる制度に基づき運用されている。
Solution:……

 以上、さまざまなことを書き出してきたものの、救急救命士教育には根本的な問題がある。
消防からの養成は、事前教育として総務省管轄の消防学校で専門教育を受け、基盤となる。その後、医療資格となる厚生労働省管轄の養成校での教育を受ける。大学は文部科学省の管轄でもある。


まとめ
Writer's comment

拡大 図16
包帯は元々看護師の業務であった

 救急救命士制度の基本的な考え方は、医学教育を受けた救急隊員が現場で処置を行うPARAMEDIC制度に基づき、そこで問題となる医師法との関係を考え、看護師制度(図16)をモデルとして、看護師が行う診療の補助業務の一部分を救急救命士が現場で行う(図17)形になった。そのため、法の導入時にはその時点で既に正看護師であった者、及び正看護師を養成する施設に在籍しており、その後、正看護師の免許を取得した者は、救急救命士国家試験の受験資格を得ることができる。私もその制度を利用し救急救命士の資格を取得した1人であり、今年の国家試験においても27名の法附則第2条該当者が合格している。近年も同じように40名前後の合格者がある。

拡大 図17
救命士とは看護師が行う診療の補助業務の一部分を救急救命士が現場で行うものである

 しかし、救急救命士教育は気管挿管などの救急救命処置の拡大に伴って内容の追加・改訂が行われている。ただし、その追加・改訂は現場で活動する処置について必要になる内容であり、救急救命士が現場で活動するためにどのような医学知識が必要で、かつ何を理解しなければならないのかという根本的な改訂には至っていない(図18)現状である。当大学をはじめとする民間養成校において、現場経験者の転職や現役の救急救命士への講師派遣依頼が見られるが、これはその根本的改善の民間的な取り組みであると考える。

拡大 図18
救命士が必要とする医学知識は何か

 救急救命士を目指す学生の多くが、現場への憧れから救命士資格取得を目標とし、教育の中に現場経験者及び現職の経験談などを講義として受けたいと考えている。また、現場の救急救命士も「Change! Try! Avoid Pitfalls!ピット・ホールを回避せよ」の1年間の掲載の中で、地域での教育や現場の問題点を現場で改善するために教育につなげている内容もあり、現場に対する熱い想いと、教育に対する意欲もあるように考える。近年ではJPTECやICLSなどの指導者も自分たちの時間を利用して、現場の職員が教育に取り組んでいる。さらに学生もその講習会を受講することでモチベーションの維持・向上につながっていることも確かである。まだまだ、救急救命士教育には法を基にした根本的な改訂が問題であると考えられるものの、教育現場と消防救急の現場との開かれた関係が、その問題解決につながるのではないかと考える。

拡大 図19
現場活動に必要な医学知識の学問領域・体系の明確化が必要となってくる

 また、もう一つの問題として救急業務の拡大に合わせて、職域の拡大も考えていく必要があると考えるが、これについては、日本医師会常任理事石井先生が、救急救命士の業務のあり方等に関する検討会で救急救命士の業務の場所の場所に関する「提議」をされている。今後の動きに期待される。しかし、それらも現場活動に必要な医学知識の学問領域・体系の明確化が必要となる(図19)。


シリーズ構成者ご挨拶

「Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・フォールを回避せよ」という設定のもと企画してまいりました。
読者のみなさんは、何か感じとっていただけたでしょうか?

 執筆者の方々は、私がOff-JT(off-the-job training)で知り合い、ほとんどの方が何かしらインストラクターとしてご活躍をしていらっしゃり、勉強会等も企画をされております。勤務等忙しい中、若輩者の私のお願いを聞いていただき、「思いを文字に掘り起こす」という難題を完結していただいたことに感謝いたします。

 Off-JTは知識・技術だけではなく、「仲間」という財産も与えてくれました。この企画すらOff-JTが縁なのですから。

さて、九州・沖縄として地域性のものから社会的なものまでを取り上げてまいりました。
各執筆者の思いが伝わったのではと思います。

「傷病者を救う」という概念は不変のものであり、また、我々消防人としての共通の目的でもあります。
この目的に向かいさまざまな目標を設定し、クリアーしていかなければなりません。
少しでもみなさんの目標としてお役に立てたら幸いです。

本当に1年間、ご愛読ありがとうございました。

いちき串木野市消防本部
救急救命士:田島和広


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http://ops.umin.ac.jp/

10.8.22/4:00 PM