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Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ

第11回

医療系コースと現場活動:コースの可能性と限界

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Lecturer Profile of This Month

金城 貴雄
キンジョウ タカオ

東部消防組合消防本部 東部消防署南風原出張所
出身:沖縄県南城市佐敷
消防吏員拝命:平成9年
救急救命士合格:平成7年

趣味:子供達の応援(吹奏楽・水泳・少年野球)


シリーズ構成

田島和広(たじまかずひろ)

いちき串木野市消防本部  いちき分遣所



Change! Try! Avoid Pitfalls! ピットフォールを回避せよ

Chapter 11

医療系コースと現場活動:コースの可能性と限界

一人で活動を背負っていませんか?

 

チーム力を強化せよ!

大半の救急現場は、結果として軽症事例も多く、一人で全ての情報を把握し指示(活動)することが可能かもしれません。しかし、重症の傷病者や複数の傷病者になると、どうでしょうか?現場活動での情報収集の在り方や隊員間の連携の難しさを感じている方も多いのではないでしょうか?
今回、現場での活動力アップために何が必要か、一緒に考えてみたいと思います。


初めに
Introduction

 一人の隊長あるいは一人の救急救命士での情報収集には限界を感じませんか?
限界を打ち破るにはどうしても仲間の力が必要です!!!

 何を担当するかは、現場に到着して初めて決定できることもあると思いますが、標準的な活動を隊員が理解していると、役割を分担し同時に情報収集することが可能になります。

 例えば、患者がCPRなら、生存の可能性を高めるためには良質なCPRを理解している仲間は絶対に必要です。BVM換気担当者は致死的な緊急事態の警告症状を観察・判断します。もう1名の隊員は胸骨圧迫心臓マッサージを実施しながら、お互いの処置の評価や観察の漏れを確認します。残りの1名は状況情報収集やインフォームドコンセントを担当します。隊員間の連携(情報の共有)を図りながら、迷いが生じる場面では相談し支えあう活動ができる。このような連携を心がけることで、情報収集力の幅が広くなり隊員間の連携力も高まり、短い現場滞在時間の中でも二次救命処置も含めた活動が可能になるのです。

 では、事例を通じて情報収集力を高めるには何が必要か考えてみましょう。


事例1:内因性疾患(図1)
Case1:Internal Incident

指令内容:「40歳の男性が呼吸をしていない。」
覚知:07時18分
出動:07時18分
現場到着:07時25分
患者接触:07時27分
救急隊CPR:07時27分
→Pitfall:標準的な活動を行うことができるか?

モニター装着:07時28分
・状況情報:妻が口頭指導にて胸骨圧迫心臓マッサージを実施中。隊員が交代。
妻からは「朝起きてこないので起こしに行くと意識がなく、息もしていなかった」とは聞き出せたが、その後泣き崩れる。
→Pitfall:状況情報収集に見落としはないか?

・傷病者情報:既に心肺停止状態で瞳孔散大。
→Pitfall:傷病者情報収集(病態把握)と情報の共有はなされていたか?
→Pitfall4:傷病者や家族に思いやりのある活動はできているか?

モニター評価:07時30分心静止
医師指示受け:07時35分気管挿管及び静脈路確保の指示要請
気道確保完了:07時38分
車内収容:07時41分(現場活動16分)
現場出発:07時44分(現場離脱20分)
病院到着:07時48分(病院到着4分)
行った処置:CPR及び特定行為(気管挿管・静脈路確保)を試みる。気管挿管については、1回目挿管後チューブ固定の際に事故抜去してしまい再挿管もコーマックグレード『3』のため、BVM換気で対応。静脈路確保は試みるも確保できなかった。
→Pitfall:一人の指示・判断に頼る活動ではないか?

図1
活動状況
表1
役割分担(例)


事例2:外傷
Case2:Traffic accident

指令内容:「乗用車の単独事故、40歳女性がエアーバックで胸を強打、高校生男性道路で倒れている詳細不明。」
覚知:17時27分
出動:17時28分
現場到着:17時35分
患者接触:17時36分
→Pitfall:標準的な活動を行うことができるか?

・状況情報:出動途上、現着約2分前に怪我人4名、救急隊応援出動指令の追加情報あり。
現着時、車道に男の人が立位、頭部に外傷あり「突然路地からワゴン車が進入してきた。」と聞きだせるが、軽自動車助手席の妻が動けないことを心配し混乱状態。軽自動車助手席に40歳女性が車両変形のため挟まれ、車外へ救出できず、顔面蒼白状態。後部座席には、高校生位の男子が左前腕の痛みを強く訴えうずくまっていた。
→Pitfall:状況情報収集に見落としはないか?

・傷病者情報:傷病者数は計5名。
→Pitfall:傷病者情報収集(病態把握)と情報の共有はなされていたか?
→Pitfall:傷病者や家族に思いやりのある活動はできているか?

・45歳男性:軽自動車運転手、頭頂部に裂創、混乱状態。
・40歳女性:軽自動車助手席、胸部強打、車内に閉じ込められている(車両フロント部分から運転席まで変形し下肢が車両に挟まっている)。
・16歳男性:軽自動車後部座席、左前腕部変形、事故状況記憶なし。
・31歳男性:追突事故車両運転手、路肩で立位、頸部の違和感あり。
・34歳男性:ワゴン車運転手、てんかん発作が起きそうになり、本人自身は事故発生に気づかず、先着救急隊到着時には、現場にいない状況。現場から500mほど離れた地点で、事故を起こした可能性に気づき、現場に約20分後に戻るが、本人も前額部を負傷していた。


事故概要:高速道路側道を軽自動車が直進中、突然、左側路地からワゴン車が進入し軽自動車と側面衝突、更に、軽自動車の後方から走行中の乗用車が追突。ワゴン車運転手は、そのまま逃走し、その後友人に説得され現場へ戻る。

活動内容:先着救急隊が現場トリアージを実施。6分後に救助隊及び応援救急隊2隊到着。更にワゴン車運転手が約20分後に現場に戻り前額部を負傷していたため、応援救急隊を追加要請。軽自動車の助手席40歳の女性は約7分で救助完了。三次救命センターへ3名搬送し2名を二次救急病院へ搬送、合計5名の傷病者を4隊の救急隊で救急搬送を実施したが、救急隊1隊が応援救急車両と救助車両及び一般車両に挟まれ、現場離脱がスムーズに実施できなかった。
→Pitfall:一人の指示・判断に頼る活動ではないか?

役割分担を表2に示します。


図2
活動状況

表2
役割分担(例)


Pitfall1:標準的な活動を行うことができるか
Can you Perform as standerd techniques
Solution:医療系コースの活用

 先輩救急隊員には後輩救急隊員を育てる役割があります。しかし、3名と限られた救急隊という環境の中で限られた人間としか現場を共にしないことがネックとなります。また一人の認定救命士だけが現場をコントロールする活動は常にリスクを伴います。

 消防職員が所属の訓練だけで自己評価しているだけでは、気づかない問題があるはずです。検証体制や症例検討会等は訓練を補う教育としての面を持ち合わせてはいますが、実習ではないので体に覚えさせることは不可能です。この点から外に出て学ぶこと(医療系コース等)は重要だと考えています。

 現在の消防の生涯教育については様々な専門分野がありますが、部署を超えて全員が平等に学ぶことはできません。しかし、医療系コースなら現在の部署にとらわれずに、個人がやる気になればいつでも学べ、それを所属の訓練に活かすこともできます。

 標準的活動を学ぶ教育の一つとして、日本救急医学会策定のJPTECコースを参考に、標準的な外傷病院前救護の教育プログラムついて考えてみましょう。このコースの目標は、事故の状況や傷病者の状態から生命の危機の可能性を疑えるようになるため、生命に関係する傷病者観察と必要な処置の実施及び病院選定を適切な時間内で行えるようになることであり、この目標のために受講者全員にきわめて多くの実習時間を割きます。

(写真1)デモンストレーション

(1)朝の講義とデモンストレーション
外傷前救護ガイドラインの解説を行い、外傷病院前救護活動が何故必要なのか、何が必要なのかを最初に学びます。(写真1)

(2)全脊柱固定
外傷傷病者の脊柱管理を学びます。

(写真2)全身観察

(3)状況評価・初期評価・気道管理・全身観察
少人数グループによる体験学習を行い、実際の外傷現場における救急活動に即したシナリオを用いながら、座学で得た知識を実技通じてから学びます。(写真2)

一般目標
・現場での安全管理と二次災害の防止、初期トリアージ、受傷機転の把握及び必要に応じ応援要請ができる
・頸椎の保護とABCの評価・処置ができる
・外傷傷病者に対して適切な気道管理を行うことができる
・緊急処置の必要性とロード&ゴーの適応を解剖学的に判断できる


(写真3)コースを舞台裏で支えてくれた傷病者役の皆さん(拡大)

(4)実技・筆記試験
最後に実技・筆記試験もあります。(写真3)実技試験は受講者の技術の到達度を確認するため、想定は受験直前に提示され、それに基づいた現場設定の中で、その設定に合った活動をシミュレーション形式で学びます。


(写真4)車外救出

(5)その他
車外救出(写真4)や車内での活動(継続観察・詳細観察)等の活動方法についても学びます。


Pitfall2:情報収集に見落としはないか?
Can you catch crucial infromation?
Solution:混乱しやすい現場こそ『幹』を考える

 現場到着時の情報収集は、傷病者を中心とした周囲の状況を把握する『状況(環境)情報』と傷病者の状態を把握する『傷病者情報』に分類されます。

 現場到着時には、状況観察から開始し、二次災害の危険性、事故内容(受傷機転など)、傷病者の人数、受傷状況、受傷部位や活動障害となる衆人の動向、傷病者の搬送経路などを簡単に把握し、消防・医師・警察機関などと連携が必要と判断される場合は、早期に応援要請し組織的な活動体制を確立する必要があります。

 しかし、実際の現場活動では状況情報収集と傷病者情報(ABC評価と病態把握)を同時に実施しなければならない事が多く、情報収集の難しさを痛感したことは多いと思います(図3)。

状況情報の「幹」として
・二次災害の危険性
・状況情報
・受傷機転
・主訴、受傷部位
・現病歴、既往症
・服用薬の有無
・かかりつけ医療機関
・傷病者の人数

傷病者情報の「幹」として
・意識レベル
・気道と呼吸状態
・循環の評価
・モニター評価
・生命を脅かす病態把握

 教育コースで示される流れは、あくまでも一つの原則であって、大まかな『幹』にしかすぎません。この原則を操法のごとく適用しようとすると、応用の現場活動で通用しないことも多々あると思います。

 しかし、原則を踏まえ、観察のポイント『幹』を仲間と共有しておくことで、活動の展開を予測したり、見落としに気付いたり、或いは、その都度臨機応変に対処するためのチーム力が高まると考えます。

図3
初期評価の情報を図にしてみると…


Pitfall3:情報の共有はなされていたか?
Do you share the information with crues?
→Solution:『幹』に関する問題から情報の共有に努める。

 現場活動では、短時間で高いコミュニケーション能力が必要とされます。見落としを防ぎ、隊員同士で情報の共有化をスムーズに行うための、活動について考えてみたいと思います。

 事例1では気管挿管を救急隊が実施していますが、何故、実施したのでしょうか?
CPA=気管挿管ではありません。救急隊が、傷病者へ処置を実施するということは、観察をした結果、つまり理由が必要になります。事例1で気管挿管の判断に至る場合、絶対に知っておきたい情報は、BVM換気担当者(傷病者観察担当)の換気の評価です。もし、BVM換気担当者が自分ひとりの判断に不安を感じているなら、胸骨圧迫担当者と相談することも一つの方法です。胸骨圧迫担当者が、胸壁の挙上を一緒に確認したり、聴診器の使用を補佐したり。2回の換気にかける時間は、わずか3~5秒程度の活動の中でも、得られる情報は少なくありません。その結果を、隊長や救急救命士と情報の共有がなされれば、その必要性を医師や家族に伝えながら、二次救命処置を実施する活動にシフトすれば良いのです。

 事例1では、傷病者観察担当者がBVM換気の評価を隊長や救急救命士と情報の共有がなされていたかが重要です。

(写真5)CPR二人法で実技を通じて互いに確認し評価
 Pitfall1で標準的な活動について医療系コースで観察方法や手技の目的を学ぶことができる点をお伝えしましたが、医療従事者向けBLSコースでは、成人のBVM換気の際に過換気を防ぐことや換気不良の際に再気道確保を試みてそれでも駄目な場合に胸骨圧迫の中断を短くすることの大切さなどを学んだ上で、CPR二人法で実技を通じて互いに確認し評価することの重要性を学んでいます。(写真5)

 事例1では、仮に換気良好・良質なCPRが実施できていると二名の隊員が観察・評価し、隊長や救急救命士と情報の共有がなされた場合、状況情報や病院への搬送距離等も考慮したうえで、BVM換気でのCPR活動を継続したり、或いは、気道管理としてLT挿入を第一選択としたりするなどの判断も、傷病者の病態に応じて必要だったと考えられます。

 情報収集を役割分担すると、当然、チームの情報収集力は高まると考えられますが、標準的な活動をお互いが知っておけば、BVM換気担当者と胸骨圧迫担当者のように互いに観察し問題点の把握と見落としを防ぐことが可能となります。そして、その評価次第で、二次救命処置の判断が大きく変わる可能性があることを知っておくと、その結果(重要ポイント=『幹』)をチームで共有することがとても重要であることを学べる事例です。

 事例2では、通報段階から事故状況は詳細不明で負傷者数も2名から4名、結果として5名搬送に至る現場活動でした。

 医師要請も含めた医療行為が現場で実施されたわけではありませんが、重症度の高い傷病者から順に救護・病院選定・搬送を必要とする活動が求められました。

 緊急(赤・黄)と非緊急(緑)の分類は、さほど困難な判断は求められませんが、緊急治療群(赤)と準緊急治療群(黄)の分類や緊急治療郡内(赤)での処置・搬送順位の決定等の判断は、限られた救急隊の道具と限られた隊員数で最小限度の活動時間を目標に活動していく上で、時に非常に厳しい決断が求められます。

 救命の為に手術を必要とする傷病者や集中治療を必要とする傷病者、緊急手術を行えば機能予後が明らかに上がると思われる傷病者を見つけ出し処置し搬送する。そのような傷病者の判断をどのように観察すれば良いのでしょうか?

(写真6)全身観察の結果を共有

 初期評価=意識ABC(STARTトリアージ法)だけで、評価しなければいけない災害もありますが、事例2の様な現場活動では、やはり、全身観察の結果、急速に生命を脅かす病態を見つけ出し、緊急処置の必要性と迅速な病院搬送順位を判断することが必要な為、合計5名の傷病者情報として初期評価と全身観察の情報が求められます。(写真6)


 事例2の先着隊の活動では、傷病者観察担当者が傷病者数だけでなく、初期評価・全身観察から知りえた情報を隊長や救急救命士と情報の共有がなされていたかが重要です。

 標準的な活動について医療系コースから学ぶことができる点として、JPTECコースでは、外傷傷病者の初期評価と全身観察から、急速に生命を脅かす病態について学びますが、事例2の先着救急隊の活動ではその観察結果の生命にかかわる問題点を、隊長や救急救命士と情報の共有がなされれば、判断に悩むトリアージの場面でも円滑な対応を可能にするキーポイントだと考えます。

 また、事例2では、急病(てんかん発作)から交通事故が発生し、受傷機転の把握が難しい現場活動でした。現場には、関係者以外の人間も多数存在しており、誰から情報を聴取し現場活動に活かしていくのか?どのような応援活動が必要なのか?現場の交通整理やオイル漏れ、事故車両の安定化等の安全確保はどうするのか?さらには、救助隊の活動スペースや救護スペースの確保等、先着救急隊にとって、状況情報収集担当者の役割だけを見ても問題点の把握や求められる現場活動を予測することが難しい活動で、結果的に救急車の現場離脱に支障が生じる場面もありました。

 このような、災害現場に先着隊として活動を開始し、活動体制を確立させていくためにも、状況情報と傷病者情報を分担できる仲間の存在がとても重要で、状況情報担当者が応援隊等の活動体制を確立させながら現場を統率し、その間に、傷病者情報担当者がトリアージを実施する。そして、緊急治療群(赤)や準緊急治療群(黄)が複数名発生した場合には、その初期評価と全身観察の評価を情報共有したうえで、処置や病院搬送の優先度を短時間で判断する。見落としが生じやすい災害現場でも、お互いが標準的な活動を理解しておくことで、問題点をより広く把握し災害現場でも円滑な活動が可能になると考えます。

 情報収集を役割分担し、情報の共有に努めながら必要に応じダブルチェックも行い、問題点の把握と処置の優先順位を決定する。役割分担することで、その役割に関する情報収集と問題点把握のための観察力と集中力を高め、心の余裕にもつながります。そして、『幹』に関する問題からお互いの情報を共有し対応することができれば、チームとしても観察力の幅を広げ、現場での見落とし防止と情報収集力の向上に結びつくと考えます。


Pitfall3までは医療系コースから学べることを考えてきましたました。しかし、医療系コースからは学べない落とし穴も現場に隠れています。


Pitfall4:傷病者や家族に思いやりのある活動はできているか?
Can you care families?
Solution:患者さん中心に考える

 生命に危険を及ぼす緊急事態では、患者さんは身体的に生命が危険な状態にあるだけでなく、精神的にも強い不安感やストレスを感じている状態です。

 看護師勤務時代に恩師から学んだことは、『患者さん中心に考える』ということでした。患者さんの『患』は心が串刺しにされた患者さんの状態で、様々な要因によって心を串刺しにされていることに気づかなくてはならないことの大切さでした。

 このような緊急事態の場面にいる傷病者への対応として、標準的な活動・観察の幹を隊員間で共有し役割分担できるなら、1名の隊員が傷病者観察を担当するだけでなく、傷病者の不安感や疼痛による苦しさをいたわり思いやる姿勢で接し寄り添うことも可能となり、残りの1名が環境観察を担当しながら状況情報収集や家族へのインフォームドコンセントを実施し信頼関係の構築に結びつけることも可能となります。

図4
傷病者状態を図にしてみると・・・

 ここで、現場活動での傷病者状態を4つの情報に分けて考えてみます(図4)。

 実際に情報を得る割合は図4の通りにはいきませんが、例えば、傷病者・家族の知っている状態情報として、疼痛の有無や部位等の主訴や主症状が情報としてあります。傷病者の知らない状態情報としてはバイタルサインや瞳孔不同等の評価、両者の知っている状態情報としては嘔吐や出血があります。そして、両者が知ることができない状態情報として原因診断と言うことになります。

 ここで重要なことは、傷病者や家族と救急隊がどんなに協力して情報収集しても、原因を診断して治療することはできないということです。

 現場活動での情報収集は、どんなに頑張っても100%満足のいく活動にはならないかもしれません。だからこそ、傷病者や家族を思いやり、緊急事態での心情を察しながら、短い現場活動の中で、お互いに傷病者救命の為に協力する関係作りが重要です。

 救急隊員すべてが“医療従事者"として、患者さんの身体を見るだけでなく、患者さんその人を見る仕事であることを認識しなければなりません。傷病者へいたわりの声をかけながら、家族の心情を思いやり救急隊員と共に傷病者を支えあう。このような連携を心がけることで、情報収集力の幅が更に広くなり隊員間だけでなく関係者との連携力も高まり、短い現場滞在時間の中でも二次救命処置も含めた活動が可能になるのです。

 一人の隊長あるいは一人の救急救命士での活動の限界は、情報収集力だけに限らず、傷病者や関係者とのコミュニケーション力の低下にもつながっている可能性があると考えると、標準的な教育は、現場活動で傷病者や関係者とのコミュニケーション力アップのためにも必要な学びと考えます。


Pitfall5:一人の指示・判断に頼る活動ではないか?
Doesonlyonedecideall?
→Solution:医療系コースから『幹』を学び、仲間と共に活動に活かす。

 事例1では挿管チューブの事故抜去を起こしています。しかし一番の問題は、その処置に行く前のアセスメントにあると考えています。

(写真7)その行為は本当に必要だったのか

 実際の現場活動では、BVM換気担当者はただ単に、ダミーに送気する様な手技が求められるのではなく、BVM換気の際のバックの硬さから呼吸不全を考慮したり、致死的な緊急事態の警告症状を観察し判断したりすることが求められ、もう1名の隊員は胸骨圧迫心臓マッサージを実施しながら、お互いの処置の評価や観察の漏れを補佐する必要があります。そして、観察の『幹』=命にかかわる問題点から早急に情報の共有に努め、その問題解決法として気管挿管の処置が必要かどうか判断されるべきであったということです。(写真7)

 事例1で、仮にBVM換気が不良であったとするなら、隊員の気道確保の手技に問題があるのか?傷病者の身体状況から換気不全が生じているのか?気道確保の工夫や吸引等の処置で対応可能なのか?それら命にかかわる問題を早急に、隊長や認定救命士と情報を共有する必要があったと考えます。一人の指示・判断に頼る活動、つまり、一人で情報収集や処置の実施・評価、家族への説明に医師連絡等を実施しなければならない活動状況は、処置の判断を誤ったり、現場活動の遅延につながったりする可能性があります。そして何より、誤った判断に仲間が気づいていたり、疑問を抱いていたりしているかもしれないのに、現場活動に活かすことができなければ、傷病者にとって大きな不利益となることに我々は気づかなければいけません。


医療系コースと可能性と限界
Medical senimor: possibility and limitation

 ところで我々は情報共有のあり方について、どのように学べば良いのでしょうか?
医療系コースでは、一人の受講者が到達度を確認する為に実技試験等の評価が行われます。評価を受けることで、緊張する場面(試験会場)での個人の到達度が確認できるとともに課題を知ることもできるわけです。

 しかし、ここでの問題は一人の受講者が評価を受けるための設定として、残り2名の救急隊員役は、隊長役(試験を受験している方)の指示で動いてもらわなければ、受験者の評価が難しくなってしまう点です。つまり、ダメダメ隊員役を演じてもらわなければいけないという事です。コース中は、実技試験の評価が受講者にとっての到達度の目安と成りますので、隊長役以外の隊員役は指示を受け実施するだけの活動にならざるを得ず、自分自身で考えて動く(問題点を探す)事もなく一人の指示・判断に頼る活動(問題点に気づいても言ってはいけない。)となり、情報を共有する重要性を体験することはできません。

 また、隊長や救急救命士が一人で情報収集し指示・判断する活動になりやすいのは医療系コースだけが原因でもありません。その他の要因についても考えて見ますと、救急救命士のシミュレーション訓練も現場活動のモデルとなっていますが、やはり、教育を目的に一人で観察・判断し処置を実施する活動になっていること。普段の救急活動でも傷病者が軽症の時には一人で情報収集が可能である現場活動が多いこと。あるいは警防・救助訓練等も含め指示命令系統を重んじる消防訓練も似たような役割や責任をリーダーには求められるケースが多く、救急救命士が一人で状況情報も傷病者情報も観察・評価し、処置を指示する活動に成り易いと考えます。更に、認定救命士の誕生により、救命士間でもそうなりやすい状況が新たに発生しているかもしれません。

 混乱した現場活動で指揮命令系統を確立することは非常に重要です。しかし、そのためには、まず、問題点を把握し情報の共有に努め、問題の優先順位と解決方法を決定した上で、隊の活動が実施(処置の実施)されるべきだと思います。短時間で活動方針を決定することが厳しい場面も多々ありますし、時にはいくつかの方法論に迷いが生じる場面もあると思いますが、その方針決定に混乱が生じた場合にこそ、隊長の指示力や専門職としての判断力が求められるのではないでしょうか?

 生命にかかわる基本的な観察方法や問題点の対応方法(処置)等については、医療系コースで学び、観察の『幹』を学び深めることが可能です。それが、現場の見落とし防止にもなることから、医療系コースで有効な観察方法や問題点を把握する重要性を学ぶことができると考えます。

 しかし、役割を分担しその情報を共有した上で活動方針(処置)を決定する、チーム(隊)としての活動を学ぶことはできません。つまり、一つの医療系コースで救急活動全てに結びつく学びはできないということも知って欲しいと思います。

(写真8)学びの『幹』を共有することが大切

 一人の指示・判断に頼る活動にならないためには、常日頃から、役割を分担する活動を心がけておくべきです。そのためには、やはり、隊員一人ひとりが、まず、標準的な学びを理解しておく必要があります。繰り返しますが、標準的な学びについては、いつでも医療系コース等で学ぶことができます。大切なことは、その学びをお作法的に現場活動で実施することでなく、なぜ、このような学びが生まれたのか?どうしてこのような観察方法を求めるのか?方法論はこれだけか?等々を仲間と議論しながら、学びの『幹』を共有しておくことです。(写真8)

 そして、情報の共有については、医療系コースでは形式的になりやすく、コースで学ぶ限界があることも理解しながら、訓練等で情報共有のために隊員間のコミュニケーション力を補っておく必要があります。私自身が隊の仲間と心掛けている点として、訓練では、隊長役や隊員役、といった表現は使用せず、「傷病者観察担当」「状況情報収集担当」等、活動内容で役割の表現は行い、詳細な役割や重複しても良い内容をお互いで常に調整しておく。実際の現場活動でも情報収集の役割を分担し情報の共有に努める。そして、大切な点は、軽症事例から、情報の共有に問題が生じていると感じた活動は、必ず、隊員との振り返りを早急に実施する(例えば帰署途上の救急車の中でも)。等であります。

(写真9)情報共有が質の高い活動へつながる

 情報を共有することは、現場が混乱すればするほど、非常に難しい課題だと痛感しています。しかし、情報の「幹」をお互いが理解すれば、混乱した現場でも、観察すべきポイントに早く気づき、問題点の把握や優先順位の把握がスムーズになります。また、その活動に問題が生じたときでも、いち早く気づくことにもなります。そして、そのような仲間との連携力や判断力が、より質の高い二次救命処置の提供や、災害現場での適切な活動体制の構築に繋がると考えています。(写真9)


著者コメント
Writer'scomment

(写真10)傷病者があなたの家族ならどうしますか

 病院での看護師勤務から、縁あって消防吏員として拝命され、最初に感じた思いは、「自分で判断する責任の重さと恐怖心」でした。その不安を解決する術も知らずに現場活動を重ねていましたが、我々の仕事(活動)は、「塀の中で評価を受けにくい。」という思いを抱くようになりました。自分の妻や子供、家族なら(写真10)できるだけ良い病院を選択しながら受診しますが、消防の「119」は選ぶことはできないと感じるようになり、今のままの自分ではいけないと、研修やシンポジウム等への参加も経験しました。

 消防では、教育の機会は恵まれていますが、全員が同じように全てを学ぶことはできません。そんな時に、教育コースで学ぶ機会を得ることができました。

 教育コースや救急救命士のシミュレーション訓練等は、一人の受講者が評価を受けるために、どうしても他の隊員は指示を受けて活動することが求められます。教育コースの流れを、そのままの現場活動で実施することが不可能なところに、教育コースに対する疑問や必要性を問う声が聞こえているように感じます。

 救急救命士の業務が処置拡大され、気管挿管や薬剤投与等の認定を受けても、現場活動での不安感は解消されることはなく、逆に、一人の救命士の判断で対応することは、より厳しい時代に突入していると痛感しています。

 一つの教育コースで、現場活動の全てを学び、解決することは不可能ですが、それぞれの教育コースの『幹』を、所属に持ち帰り隊員と共有することで、現場活動に活かすことは十分可能です。

 消防は、個人で戦える現場は一つもありません。だからこそ、標準的な知識と技術を事前にお互いで理解しておくことが大切です。そして、普段の救急活動から、情報収集を役割分担し情報を共有するために隊員間で連携力を高めておくことが、今後起こりえる、困難な災害現場にもチームで立ち向かえる事に繋がると考えています。

(写真11)新たな一歩を!!! 

命を救う現場にもう一度戻って活動しなおすことはできませんが、コースでの失敗や反省は何度でもやり直しが効きますし、当たり前ですが、誰も命を失うことはありません。
そして、何よりも現場活動で"知らないことほど怖いことはありません“。勇気を出して、外でも学んでみませんか。(写真11)

 最後に原稿をまとめるにあたりご協力頂いた職場の仲間と、執筆の機会とご助言を承りました、玉川進先生と田島和広様に心から感謝申し上げます。


引用・参考文献

1)救急救命士標準テキスト(改定第7版)
2)トリアージ
3)消防職員のためのコミュニケーション実践講座
4)新消防戦術
5)AHA-BLSヘルスケアプロバイダー(G2005)
6)外傷病院前救護ガイドラインJPTEC


OPSホーム>基本手技目次>10822Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ(第11回)医療系コースと現場活動:コースの可能性と限界


http://ops.umin.ac.jp/

10.8.22/12:53 PM