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第6回

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「高齢者への救急対応」

第1回高齢者の特性

講師

白府正志
(しらふまさし)

所属:北海道 北留萌(きたるもい)消防組合消防署古丹別(こたんべつ)支署
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年齢:46歳
出身地:北海道苫前郡苫前町字古丹別
消防士拝命:昭和58年
救急救命士資格取得:平成17年
趣味:スポーツをすること・スポーツ観戦・下の句かるた


1はじめに

 皆さん、はじめまして。このたびのシリーズ構成及び第1回目を担当する事になりました、北海道は北留萌(きたるもい)消防組合消防署古丹別(こたんべつ)支署に勤務しております白府正志(しらふまさし)と申します。

 私が救命士資格を取得したのは40歳の時で、まだ6年しか経っていない若輩者です。まだまだ勉強中の身である私が救急の事について執筆するなんて「なんか勘違いしてないか」と、お叱りの声が聞こえてきそうですが、このような機会を与えて頂いたことに「縁」を感じ、これもまた勉強と思ってお引き受けすることにしました。

 本シリーズは全12回で、1年間に及ぶ長丁場です。私の勤務している北留萌消防組合、留萌(るもい)消防組合、増毛(ましけ)町消防本部の救急隊員有志が、今までの経験や出動から得た教訓等を基に、わかりやすい誌面づくりを心がけたいと考えています。どうかよろしくお願い致します。

2消防組合の概要

 当消防組合は北海道の北西部、留萌(るもい)振興局管内苫前(とままえ)町から日本海オロロンラインを北上し、宗谷(そうや)振興局管内幌延(ほろのべ)町まで5町1村で構成され(図1,2)、組合管内人口約2万3千人、管轄総面積約2,800Iであり、1消防本部・1署・6支署・4分遣署、職員数91名体制となっています。

図1
宗谷振興局

図2
留萌振興局

 留萌振興局には、南部・中部に「暑寒別(しょかんべつ)天売(てうり)焼尻(やぎりし)国定公園」、北部に「利尻(りしり)礼文(れぶん)サロベツ国立公園」があり、南北194Hに及ぶ海岸線は、「日本海オロロンライン」の愛称で呼ばれています。夏には管内各地でイベントが開催され、甘エビやぼたんエビ、ホタテやウニ、蛸等、日本海沿岸で水揚げされた新鮮な魚介類が即売され、大勢の観光客が訪れています。


3救急件数と高齢化率の関係

 図3
北海道の人口(年齢階層別人口)の推移

図3は北海道の人口推移(年齢階層別)です。平成22年以降、人口の減少に一層拍車がかかり、65歳以上の高齢者の割合が増加しているのがわかります。

 当組合を構成する各自治体も人口の流出が著しく、少子高齢化が進んだいわゆる「過疎」と言われる地域です。65歳以上の高齢者人口の割合(高齢化率)は31.5%で、全道の24.4%を大きく上回っており、今後ますます増加することが見込まれています。

 平成22年の当組合の救急出動件数は866件で、861人の傷病者を医療機関へ搬送しています。このうち65歳以上の高齢者は543人で、搬送人員全体の約63%に及んでおり、これも高齢化率の上昇と深く関わっているものと思われます。


4高齢者に多い救急疾患


 今までの搬送した高齢傷病名や、一般的に高脳血管障害:脳出血・脳梗塞など齢者に多いと言われている救急疾病を表1にまとめてみました。脳血管障害や心臓血管系疾患に加え、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病に伴う低血糖発作、骨のもろさに起因すると思われるような整形外科系疾患が含まれるのが特徴です。

表1
高齢者に多い救急疾患
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循環器疾患:急性心筋梗塞など
消化器系疾患:胃潰瘍・イレウスなど
呼吸器系疾患:肺炎・COPDなど
整形外科疾患:骨折・外傷など
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 また、季節別にみると比較的涼しいと言われている北海道ではありますが、夏季の熱中症や、冬季は屋外(雪道)での転倒による骨折などがあります。


5高齢者救急の特徴

表2
高齢者救急の特徴
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(1)一人で複数の疾患を持っている
(2)処方薬、市販薬を含め、たくさんの薬を服用している
(3)主訴や症状から原因疾患を推定するのが難しい(現場で問診した時に言わなかったことや言ったことと違うことを、病着してから医師に告げたりすることが多々ある)
(4)一緒に住んでいるのにも関わらず、いつごろから、どのように発症したか知らない
(5)疾病名を言えない(知らない)ことが多い
(6)疼痛等を我慢する傾向があり、発症から救急通報まで時間経過していることが多い
(7)日中より、夜遅い時間帯の救急要請が多い
(8)軽微な外力でも大きな怪我をしやすい
(9)重要臓器の出血や梗塞など、重篤でしかも突然発症する疾患が多い
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表2は、今までの出動経験から高齢傷病者に多いと感じた特徴です。表2、表3を踏まえて、救急現場における高齢者に対する適切な対応や特徴となる原因について考えてみました。

(1)一人で複数の疾患を持っている

加齢による身体の各臓器や組織に動脈硬化を中心とした全身的な器質的退行変化、機能的老化現象をきたすためひとたび疾病に罹患すると、種々の臓器の生理機能低下が複雑に絡み合い、多臓器の障害を引き起こすと言われています。また、慢性化になることが多く、薬の副作用が出やすい等の特徴を持っています。

(2)処方薬、市販薬を含め、たくさんの薬を服用している

慢性疾患を含め複数の疾患を持っていることから、当然処方される薬の種類は多く、私たち救急隊員が驚くほどたくさんの薬を所持しています。救急活動時に困るのは、症状と関係のないような市販薬を服用していたり、種類が多いことが原因だですが、どの薬をどれだけ服用したのかわからなかったり、服用したかどうかがわからない場合もあります。また処方箋等を保管していない場合もあります。

(3)主訴や症状から原因疾患を推定するのが難しい

現場活動では、状況聴取や傷病者観察結果を基に原因疾患を推定し、搬送医療機関等を選定していると思います。特に傷病者観察をする上で視診、触診、打診等は当然ですが、本人からの情報も大変重要になります。この時わかり易く問診しているつもりなのですが、要領を得ない答えが返って来たり、私たちに症状や状況を上手く伝えられないことも多く、原因疾患の推定に苦慮する場合があります。

また、現場の触診等で疼痛部位や感覚障害等を確認したのに、病着後の先生の診察時に「ここも痛いです」「ここが痺れている感じです」と現場では言っていなかったことをよく言ったりします。先生には「現場では触診しなかったの」と言われ、状況を説明するのに冷や汗ものの時もあります。

このようなことから、
・問診時は専門用語を極力使わず短く答えられる問診内容にすること
・傷病者観察では視診、触診、打診は必要が無いと思える場合でも必ず実施すること
以上のことは最低限現場活動に必要なことと考えます。

(4)・(5)についても、高齢者救急の特徴として多いものの一つだと思います。情報が無いことにより現場活動に支障がありますが、処方箋等が見当たらない場合は薬品名を記入し、引き継ぎ時に先生に伝えることが重要と考えます。

私の住んでいる町では、高齢者世帯、独居高齢者世帯を対象に、平成21年より「見守り情報」(図4)と言う取り組みを行っています。

この取り組みは、氏名、生年月日、血液型、通院情報、病歴、服用薬、緊急連絡先等を記載した用紙をボトルに入れ(図5)

冷蔵庫に保管し(図6)、救急出動時にこの情報を確認できることになっています。

このボトルは各高齢者家庭の冷蔵庫に保管することに統一されており、また、冷蔵庫にはステッカーが貼られていて(図7)、すぐわかるよう工夫されています。

このことにより、的確な傷病者情報が得られ、病院選定や収容先医療機関への情報提供がスムーズに行えるようになりました。


(6)・(7)発症から通報まで時間経過している・日中より夜遅くの救急要請が多い

 どうしてか理由はわかりませんが「なんで」と言うくらい通報に時間がかかっていることが多々あります。家族が近くに居るにも関わらず「迷惑をかけたくない」と言う思いからでしょうか?それとも「具合が悪い」「○○が痛い」と言うのは高齢者にとっては我慢できる範囲と言う思いなのでしょうか?酷い時には「三日前から調子が悪かった」とか、受傷部位に関係無く「冷やしたら治ると思った」など、現場に行った時には重症化しているケースが多くあります。

(8)軽微な外力でも大きな怪我をしやすい

 加齢により骨粗鬆症を有し、骨が脆くなっているため、ほんの些細な力が加わっただけでも骨折を生じる場合があります。「つまずいて足を捻った」「布団の上げ下ろしの時尻餅をついた」等、成人では考えられないような骨折が起こります。

中でも大腿骨の骨折(図8)は高齢者に大変多い症例で、他には腰椎圧迫骨折等があり、いずれも重症で治癒に時間を要し、時には歩行ができなくなり寝たきりの原因にさえなりうることもあります。


(9)重要臓器の出血や梗塞など、重篤でしかも突然発症する疾患が多い

 心臓や血管の病気は高齢になるにつれ増加すると言われています。その原因としては動脈硬化が関与していることが多く、更に動脈硬化の原因として高血圧、糖尿病、高脂血症といった生活習慣病や喫煙が関与していると言われています。

動脈硬化に起因する代表的な心疾患は急性心筋梗塞であり、ポンプの働きが急速に阻害されて急死の原因になりえます。また、脳梗塞や脳内出血(図9)等の脳血管障害も高齢者に多く、重篤かつ緊急を要する代表的疾患です。


6まとめ

 高齢者の特性を私の経験を基にまとめてみました。勤務年数だけ多いばかりで、皆さんのように色々な症例を経験しているわけではありませんが、中には思い当たるところもあったのではないでしょうか?高齢者の救急対応には知識、経験、技術は勿論のこと、何より社会の大先輩である高齢者の方を敬う心、そして優しさやいたわりの気持ちを持って接することが大事ではないでしょうか?


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11.10.21/11:01 AM