OPSホーム>基本手技目次>120602実践ガイドライン2010(9)救命士が行う処置

実践ガイドライン2010

第9回

救命士が行う処置

近代消防のご購読はこちらから

イラストで覚える救命処置と応急手当

2012/6/15近代消防社から発売 

税込み315円

講師

落合 正(おちあい ただし)

富良野広域連合 上富良野消防署 
ochiai.jpg
年齢 43歳
出身地 北海道空知郡上富良野町
拝命 昭和63年
救急救命士資格 平成11年12月1日
趣味 ロードサイクル(自転車)



1.はじめに

 今回、ガイドライン2010(以下「G2010」)の救急救命士が行う救命処置に関することを書かせてもらうことになりました。

 さて、G2010の話をする前に現時点で救急救命士が行える現場処置について書かせていただきます。

 (私の様なものがこの原稿を担当すること自体、「シャカに説法」をするようでとても心苦しいです)

 救急救命士は、よく3点セットと言われる、「心肺機能停止患者」に対し「除細動」「食道閉鎖式気道確保」「静脈路確保」が特定行為として行われており、この全てが医師から直接を指示される「具体的指示下」で処置をしていました。そのうち、時代と法律が変わり「除細動」については、一般人が誰でも使えるようになり(ある程度訓練された人)、救急救命士以外の救急隊員も医師から直接指示を受ける具体的指示下ではなく「包括的指示下」で除細動できるようになりました。救急救命士が行える特定行為は「食道閉鎖式気道確保」と「静脈路確保」になったと言ってもいいかも知れません。

2.食道閉鎖式気道確保

写真1
「食道閉鎖式気道確保」は、食道にチューブを挿入し気道を確保し気管に空気を送るもの

「食道閉鎖式気道確保」は、食道にチューブを挿入し声門部分に空間を造るようにバルーンを膨らませ気道を確保し気管に空気を送るものです(写真1)。

写真2
各メーカーから色んなタイプが出ていてます

その器具ですが今や各メーカーから色んなタイプが出ていて(写真2)、特定の対象者以外は、何を選択すれば良いか迷うくらいです(使い捨てで低下価格のものがあれば理想なのですが… ちょうど予算時期なので価格が気になります)。

写真3
気管挿管の資器材

救急救命士が行える気道確保は、「食道閉鎖式気道確保」だけではありません、気管内に直接チューブ(写真3)を挿入する技術と教育を身に着け、医師だけしか行えなかった「気管挿管」ができるようになりました。



3.静脈路確保

写真4
静脈路確保の資器材

一般の方には、「点滴」(写真4)と言った方がわかりやすいかもしれません。患者さんの静脈に点滴用の針を刺し血管に指定された液体を入れることも救急救命士はできます。

写真5
アドレナリン(エピネフリン)

「静脈路確保」も進化してきました、「アドレナリン(エピネフリン)」(写真5)が使えるようになり、停止した心臓を再稼働させることも可能な薬品も使用できるようになりました。

 「エピネフリン」や「気管挿管」を使用できる救急救命士は同様に特別な教育を受けてきた者だけに限られています。

 最近では、救急救命士を養成する学校を卒業し、国家試験に合格するとその両方の認定を与えられる救急救命士もいますが、それ以前の救急救命士は、1ヶ月以上の追加講習を消防学校等で行い、その後で認定を与えられます。

 ただ、気管挿管を含む「気道確保」も、薬剤が使用できる「静脈路確保」にしても現場で救急救命士が行うのですが、必ず医師の具体的指示を受けなければ実施できないことも書き加えておきます。


4.G2010と救命士活動

写真6
カプノグラフィ。気管内チューブとの接続部分

 日本の救急救命士の活動上、G2010の内容で救急救命士の行える特定行為で変化したものは、特に見当たりません(私が見た分なので明らかに違いがあるという方がいたら申し訳ありません)。ただし、「ACLSの二次救命処置の主要な問題点および変更点のまとめ」の中では、「気管チューブの位置およびCPRの質の確認とモニタリングに、定量波形によるカプノグラフィ(写真6)が推奨される。」とあり、カプノグラフィの推奨では、「2010(新):連続定量波形によるカプノグラフィが周心停止期の挿管患者に対して推奨される。定量波形によるカプノグラフィが成人に対して用いられる場合、気管チューブの位置の確認、CPRの質のモニタリング、および呼気終末二酸化炭素量PETCO2値に基づいたROSCの検出に対する勧告が適用される」と記されています。

図1
救急隊員が行うCPRの質、胸骨圧迫の目安になります

 気管挿管されたCPAの患者に対して「カプノグラフィ」が活用された場合は、救急隊員が行うCPRの質、胸骨圧迫の目安がとして用いられます(図1)。『AHA 心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドライン 2010』にも「血液は必ず肺を循環し、CO2が排出され測定されるため、カプノグラフィは胸骨圧迫の効果を示す生理学的モニターとしても機能し、心拍動再開の検出にも役立つ」とも記載されています。気管挿管されたCPAの患者に対して「カプノグラフィ」を活用することで、救急隊員が行う有効な胸骨圧迫をする判断する材料が出来るということになります。

 さて、ここに出てくる「カプノグラフィ」でありますが、呼気に含まれる二酸化炭素の量を測定しグラフ化したものです。これを測定する機材は今の地方自治体の逼迫した財政状況で機材を購入するのは、とても厳しいのが現実だとおもわれます(予算時期なのでどうしても価格が気になります)。しかし国内で販売されている一部の「半自動式除細動器」のオプションには二酸化炭素を測定する機能が付いていているものもありますので(判って使用しているところもあるとはあると思います)ご検討してみては如何でしょうか。

5.救急救命士を取り巻く現状

 さて、今の救急救命士の現状について少しお話をしたいことがあります。前段でも書かせてもらったことのですが「薬剤投与」、「気管挿管」と救急救命士が行う処置は新しく追加されています。心肺機能が停止した患者に対して有効な手段が増えていくことは、とても良いことだと思います。しかし、その一方で地方の消防では、消防学校で行う追加講習や国家試験により新しく処置の資格を持っている消防職員を採用するなど救急救命士が増えることで、その認定を受ける病院実習の場所が足りなくなり、未だ実習を行えない未認定の救急救命士がいます。

 大都市などの消防では、気管挿管を実習する救急救命士の受け入れをしてくれる病院の数が多ければ各実習も進めることも可能ですが、地方の消防では、実習を行える病院の数が限られており、気管挿管の実習にかかる日数も約1カ月以上もあるということで、年間1病院が実習を終了できる人数は多くて6?7人いれば良い方だと思います。私が勤務している地域では、気管挿管実習が可能な病院は3か所で、その周辺に気管挿管実習を希望する消防本部が5?6か所あるため(図2)、年間で実習ができる救急救命士が1消防本部で2-3人に限られます。実習の資格があっても数年待ってやっと病院実習が受けられるのです。

図2
実習可能病院と消防本部の位置(地図)

 そこに拍車をかけることが加わります。団塊の世代が大量に退職し消防の中でも世代交代が進んでいます。そこで職員採用をするときに専門学校等を卒業し救急救命士の資格を持った職員を採用している消防も少なくないと思われます。採用が増えることで、病院実習の受け入れの数が少ない地方では、気管挿管の病院実習に行けず資格を持ったままの救急救命士がますます増えていくことが予想されます。資格があっても実際現場で活用できなければ宝の持ち腐れになっていきます。


6.救命率を上げるために

 地方消防の明るくない話ばかりで申し訳ないので、救急救命士が行える処置とは少し離れますが、当消防署で実践し、救命の効果を少しだけ上げていることをお話ししたいと思います。

 地方の消防で問題になっているのは、救急救命士の病院実習の待機している数だけではありません。問題の一つとして、特に北海道での様な広大な土地では重症患者を受け入れる三次医療機関まで長距離であるということです。当消防署も、一番近い三次医療機関まで約40kmあり、救急車で現場から緊急走行をしても平均40分かかる場所にあります。(まだ遠い所も沢山あります)これでは搬送中に質の高い胸骨圧迫を持続することは不可能で救命率を上げることは難しいと考えました。

 思案を重ねた結果、地元で唯一の救急告示病院との連携を組むことで重症患者の病態を安定させ高度医療機関へ搬送することが患者の負担が少なくなるという考えに至りました。重症患者の病態を安定させるためには、早期治療が必要だということです。しかし、地方の病院ではスタッフや機材等が限られていて、情報のない患者をいきなり院内に搬入することに対し緊急に対応することは困難であるということがわかりました。

写真7
救急が要請された時点で病院スタッフへ患者容態の詳細を提供

 そこで考えたのは、消防の通信に119番等で救急が要請された時(写真7)の「患者容態情報の内容」を受信直後または、受信中に病院スタッフへ直接携帯電話で通報時の患者容態の詳細を提供することで、患者の容態の情報を受けた病院スタッフは、院内の他のスタッフを集合させ情報の周知を行い、患者情報により治療機材の準備を始められるということです。そして出動した救急隊より直接患者に接触し観察によって得られた詳細情報を2報目として病院へ提供して、病院へ搬入した時には、早期に治療が始められ重症な患者の病態を安定させることで長距離の高次医療機関まで搬送を可能にさせることができます。

 これには、地元病院の協力と友好な関係があってできることなのですが、そこは何度も話し合いを重ね、問題を解決させながら病院関係者と良い関係を築いていかなければなりません。


7.最後に
これから救急救命士の活動の幅が広がります。「ビデオ硬性挿管用喉頭鏡」、「血糖値」など新しく追加されるものの名前も出てきています。「追加講習」に「病院実習」と現場活動以外にも救急救命士の負担が増えることも事実だと思います。できるだけスムーズで負担が少なくなるような実習カリキュラムを祈るばかりです。


OPSホーム>基本手技目次>120602実践ガイドライン2010(9)救命士が行う処置


http://ops.umin.ac.jp/

12.6.8/10:59 PM