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シリーズ 教育:Education and Training

最終回

訓練を組み立てる

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講師

城石 公輔(しろいし こうすけ)
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所属:西十勝消防組合 芽室消防署 消防課 救急救助係
年齢:28歳
出身:帯広市
消防士拝命:平成16年4月
救急救命士取得:平成16年5月
趣味:旅行

土日の訓練でモンキー渡過を実施する新規採用職員

シリーズ「教育」最終回
第5回
訓練を組み立てる



シリーズ「教育」
5回にわたってお送りするシリーズ「教育」。最終回の今回は芽室消防署での教育をお送りする。

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芽室(めむろ)消防署について

 芽室消防署は北海道の十勝西部に位置し、清水(しみず)町、新得(しんとく)町、芽室(めむろ)町で構成する西十勝消防組合に属しています。

 芽室町の人口は約1万9千人、平成22年中の救急出動625件、火災出動10件です。当署の職員数は35名、平均年齢は約36歳の比較的若い年齢構成となっています。勤務体制は3交代制で、日勤者3名、当務者10名です。限られた人員で一般業務と各種災害に対応するため、業務の専従化はしていません。災害に応じて、日勤者を含め、一人一人が救急隊員として、また、消防隊員や救助隊員として出動しています。職員の教育についても、救急や救助に偏ることなくバランスの取れた教育を実施することが重要であると思います。

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訓練の概要

写真1
水難訓練の風景

 災害出動や一般業務がある中で、個人の手技については各自で訓練できても、勤務者全員が集まっての訓練は、どこの消防署でも難しいのではないでしょうか。芽室消防署では、事前に訓練計画を作り、毎週土日は消防訓練や救急訓練、救助訓練を1時間半程度実施しています。また、一般業務に支障となる訓練内容の場合は、非番日に訓練を設定し実施しています。非番に行う訓練は、救急訓練年6回、救助訓練(トップ写真)年4回、水難救助訓練(写真1)年1回となっています。

写真2
消防団と合同の夜間訓練。町内自動車整備工場の協力を得て車両破壊訓練をしています。

 その他、救急救命士のみが参加する署内の救命士訓練年3回、組合内(清水町、新得町、芽室町)の救命士訓練年2回が計画され、消防団との夜間活動訓練(写真2)や、組合消防技術訓練会も実施されています。

 また今年初めには、芽室消防署では若手職員を対象とした予防実務の基礎研修会を実施しました。



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訓練・研修を組み立てる

(1)救急訓練

 救急訓練では、管内で実際に起きたCPA事案を元にした想定訓練や、新しく導入された資器材の取扱い訓練、ガイドラインの復習等を行っています。CPSS(シンシナティ病院前脳卒中スケール)やKPSS(倉敷病院前脳卒中スケール)等の評価法も、事前に救急訓練を実施し導入しています。

 また、職員が薬剤投与や気管挿管課程等で消防学校に入校した場合は、その内容を受講した者が講師となり、十勝圏MCの取り決めから外れない範囲で新しい情報や技術を取り入れる訓練を行っています。

写真3
救命士訓練でオートパルスの使用基準について検討

 最近の救命士訓練では、オートパルスの使用法について訓練をしました(写真3)。芽室町では、隣接する帯広市の救命救急センターへは、現場引揚から20分程度で搬送可能です。また、町内の特定行為指示医療機関へは、現場引揚から数分から10分程度で搬送可能です。全CPA症例にオートパルスを使用するのが有効なのか、町外への搬送に限って使用するのが有効なのか、使用基準も考えながら訓練をしています。


a.発案する

 訓練の準備というのは、他の消防署でも苦慮しているところだと思いますので、私が救急訓練を担当した時の話を書きたいと思います。救急と救助の訓練は、消防課救急救助係が計画や指導を行っていますが、私は係3年目、拝命7年目です。どんなことを訓練するか、どのように教えるべきか、いつも悩みます。訓練の内容が決まりましたら、分からないことは調べ、係で相談し、消防学校の同期に聞いたりします。皆さん、同じことをしているとは思いますが・・・。

写真4
トリアージ訓練に用いた「消防職員のためのトリアージ」。右の紙は勉強会の時間割

 多数傷病者発生時の訓練をするため、まずは自分で資料を読み勉強していたところ、救急救命士の専門学校で一緒だった友達から、「消防職員のためのトリアージ」(写真4)という本をもらいました。

写真5
興部進歩の会が主催したトリアージ訓練。評価者が筆者。傷病者役は2011年1月号「教育」を執筆した清水悟さん

 一通り読んで、インターネットでも調べていると、本を執筆された方々(興部進歩の会)が主催してトリアージ訓練をすることが分かりましたので、同期の職員と車で約3時間半をかけて見学に行きました。会場では、1次トリアージ、2次トリアージの訓練(写真5)に参加させて頂きました。

写真6
多数傷病者発生時の一連の流れ。傷病者一番手前が筆者。

 その後、開催場所の消防本部が主体となった多数傷病者発生時の一連の流れ(シミュレーション)も見学(写真6)させて頂きました。

 訓練を見て、1次トリアージはマニュアルを読んで練習すればできるようになると思いましたし、2次トリアージはPTECに準じた形で良いとのことでしたので、これも、訓練すれば問題なくできるようになると思いました。問題は、多数傷病者に対応する為に出動させた隊員を、どのように行動させるかという点でした。大規模な消防署と違って、職員数が限られてくるので、見学したことをそのまま導入することはできません。


b.計画する

 見学したことや集めた資料を基に、3人で協力しながらマニュアルを作成していくこととしました。先輩は、多数傷病者発生時の署全体の行動について考え、後輩は1次トリージと2次トリアージの手技を訓練で教えられるように準備を進めました。

 私はその両方を指導しました・・・というのは嘘で、興部進歩の会のトリアージ訓練を見学に行っているという縁で、訓練(シミュレーション)の動画を貰えるようにお願いしたり、3人が集まっても分からないことを代表して、玉川先生や各署に質問するというような調べ物の担当でした。

 マニュアルを作成する目的は、多数傷病者発生時に行わなければならない原則(本で紹介しているような内容)を芽室消防署の状況に合わせて変更し、限られた人員や資器材を最大限に活動する為です。例えば、「先着救急隊はトリアージを実施し、最後まで現場に残る。」という原則を、芽室消防署の状況に合わせてみます。先着救急隊の隊長と救急救命士は、それぞれ、現場統括指揮者、トリアージオフィサーとして最後まで現場に残ることにしましたが、救急車という限られた資源を無駄にしておく必要はありません。先着救急隊から2名を現場に残すなら、現場活動している消防隊員や救助隊員の全員が救急資格者であるという当消防署の利点を生かし、救急車に乗せ換えれば問題は解決します。

 傷病者の搬送を開始する前に、救急車から搬送に使用しない資器材、ネックカラーや包帯を下せば現場で処置が可能になります。何個も積載されている資器材で、降ろしておけば使えるものは、現場で活用ようにマニュアルで定めています。

 私の担当では、玉川先生に黒(死亡)タッグの取扱いについて確認しました。救急隊は死亡6項目の合致や、頭部や体幹部の切断を除き、死亡判定をすることはできないというのは本にも書いている事実ですが、「すぐに来れる救急車が2台で、現場にCPA3名、赤タッグ3名なら実際はどうのように活動したら良いのでしょうか?」というような内容です。仮に現場に医師を要請し、黒(死亡)タッグ判定をしてもらうまでに、1時間かかるとすると、容易に解決できる問題ではありません。

 100ページ以上にわたって、トリアージについて書かれている本でも、一言では答えられない難問です。今後、玉川先生に月刊消防で答えてもらいたいと思います。

 私が伝えたいことは、マニュアルを作成していくと、解決困難な問題に直面するということです。それでも、マニュアルを作成する目的は、前述の通り限られた人員や資器材を最大限に活動するためです。マニュアルの作成に限界が見えそうになっても、3人で協力し考え、上席者に相談し、他の消防署の状況を調査し、医師に確認を取り、なんとか完成させています。全職員が救急隊員や救助隊員として活動できる当消防署の利点を生かせば、隊員の動き次第で、少ない人数でも、より良い活動ができる可能性を秘めていると思います。

c.実行する

 作成したマニュアルは係内だけでなく、各隊の隊長と副隊長までの決裁を取り、事前に理解してもらうようにしておきました。決裁中に質問を受けることが多く、その質問に回答することで、事前に理解して頂けたと思います。マニュアルはパワーポイントとプロジェクターを使用し説明しました。1次トリアージと2次トリアージは実技での説明にしました。署内の救急訓練では、作成したマニュアルを基に多数傷病者発生時の指示命令系統の確認、1次トリアージ、2次トリアージ等の一連の流れについて訓練を実施しました。

d.やってみて

 マニュアルの説明を進める中で、何名から多数傷病者発生時のマニュアルを使用するのかと質問がありました。マニュアルでは当消防署の救急車2台で対応できない場合は、多数傷病者の事案として取扱うことにしています。何名からと明確に定めておけば分かりやすいのですが、例えば黄色タッグ3名を救急車1台で1つの病院に搬送できる場合もあれば、搬送先病院が3か所になる場合もあります。搬送先病院が3か所になれば、救急車も3台必要になり、多数傷病者発生のマニュアルが適応になります。マニュアルを使用する立場になって考えれば、明確な判断基準が必要ですが、作成する立場からすると明確に決められないと思います。1次トリアージと2次トリアージは予想通り、訓練を続ける必要はありますが、特に問題なく、導入できたと思います。作成したマニュアルに無理が無いかは、規模を大きくして訓練する必要があると思います。

(2)救助訓練

写真7
解体予定の建物で屋根を破壊している様子。役所に解体予定の建物を教えてもらい実施しています。

 スタティックロープ、ギヤ等を用いた新しい救助技術(いわゆる都市型救助資器材)を用いた梯子救出法と、従来の梯子救出法で救出タイムや安全性の比較や、中州救助訓練等を行っています。また、役場に解体予定の建物がないか(写真7)教えて頂いて、

写真8
解体予定の住居で濃煙検索訓練を行いました。

 建物内での濃煙救出訓練を実施(写真8)したり、車両破壊訓練をするために町内の自動車整備工場に協力を頂いています。 都市型救助資器材については、平成18年から資器材購入を開始し、平成20年から運用開始しています。



a.発案する

 当消防署が都市型救助資器材に触れたのは、平成15年度の北海道消防学校救助課程です。北海道内の消防署では、ほとんど導入されていない時期でした。入校していた先輩は、都市型救助資器材では3倍力が基本で、さらに大きな倍力を作れるということに衝撃を受けたそうです。

 所属に戻り、都市型救助資器材の必要性を説明し、札幌RRRにも派遣してもらい情報取集をしています。また、導入に向けたアンケートも実施しています。消防人生において1回しか遭遇しない救助事案があっても、それに対する備えは必要かという問には全員が必要と答えています。しかし、都市型救助資器材の導入が必要かという問には、全員が必要とは回答していません。つまり、新しい救助資器材が災害の備えになるということを理解してもらう必要があったということです。

 先輩は、自分の机にアルミ製のカラビナとテープスリングを置いておくなど、興味を持ってもらえるように心掛けたそうです。また、都市型救助資器材があれば良かったと思もうような過去の事案を探してみたそうです。

b.計画する

 運用までには、資器材購入計画だけでなく訓練計画が必要でした。それには、訓練を指導する人を作る必要があります。平成19年からの3年間、新得町で開催されたレスキュー3ジャパンのテクニカルロープレスキューの講習に派遣し、その者が講師となるようにしています。私も平成20年に派遣してもらっていますので、これまで何度か救助訓練の起案をしています。

 テクニカルロープレスキューの講習に参加してみて、実技を学ぶことはもちろん重要ですが、当消防署に導入されていない資器材の使用法を学べることも良いことだと思いました。資器材購入は計画に沿いつつも、必要なものを考えながら購入しています。今年度購入分の資器材は私が中心になって考えましたが、講習に行かせてもらっていなければ、もっと苦労していたと思います。また、講習には自費で来ている方が半分くらいいました。当消防署でも今までも、自費で講習に行っている人がいます。志の高い人がたくさんいるということを知る良い機会でした。

c.実行する

写真9
都市型救助資器材を用いた梯子水平救助(第一法)

 資器材の購入を開始した平成18年から訓練をしています(写真9)。資器材があまり無い時は、スタティックロープの結索訓練や、ウェービングの結索訓練等を行いました。資器材が増えるにつれ、都市型救助資器材を使用しての梯子クレーンや、応急梯子救出、中州救助訓練等を実施しています。昨年は、実際の川にロープを展張し、中州救助訓練を行っています。

d.やってみて

 例えば、崖下に落ちた人が居るという現場を想定します。従来の救助資器材では、引き揚げるのに3名必要だったとところを、都市型救助資器材の3倍力を使えば、1人の力で引き揚げることが可能です。しかし、崖から落ちたからと言って崖から引揚げなければならないとは限りません。遠回りすれば、緩やかな傾斜から救出することが可能な場合もあります。訓練では、なかなか技術的なことしか教えることができませんが、状況にあわせて緩やかな斜面からの救出を選べるように知恵を付けてもらうには、時間がかかると思います。

写真10
アリ○ナボーテックスならぬ、トミチノボーテックス。消火栓のポールを使用し作成しました(Aフレームとして使用時)。

 救助に一番必要なのは発想力だと先輩も言っています。この先輩はアリ○ナボーテックスならぬ、トミチノボーテックスという資器材(写真10)を考えています。

写真11
ウェービングと、署にあった鉄の杭でアンカーを作成。

他にも、身近にある道具を利用できないか研究もしています(写真11)。



(3)予防研修

写真12
予防事務研修会の様子。非番、週休者は自主参加です。

芽室消防署では若手職員を対象とした予防実務の基礎研修会を実施しました(写真12)。

a.発案する

 救急業務の高度化や新しい救助資器材の取扱い等、新しい知識・技術の習得に追われ、当消防署に限らず、若い職員の消防法や予防関係法令等に関する知識が乏しくなってきていると言う話を耳にします。そのため、講習会が計画されています。

b.計画する

 計画は予防課主導で行なっています。私の起案や実施ではありませんので、担当職員に聞いてみました。難しいことを理解してもらうというより、消防法や危険物関係法規について、理解してもらう起爆剤(きっかけ)になればという思いがあったそうです。

c.実行する

 予防課の職員が講師となり、非番・週休者にも声を掛けて実施しました。自主参加ということでしたが、17名の参加がありました。

 内容については予防課を経験したことがある方には、当然、知っているようなことから勉強しました。危険物関係では、品名による指定数量がいくらになるのか、「運搬」と「輸送」の違いは何なのかなどです。2時間かけて勉強してみて、予防課に配属された経験がない職員は、私を含め、消防法や危険物関係の法規についての知識が浅いことに気が付きました。

d.やってみて

 講習が計画されてから、「講習にはテストがあるのではないか?」という心配がありました。私も事前に勉強をしようと思い、家で消防基本六法を開いてみました。消防学校を卒業してから、あまり開くことのなかった本を開き、消防法第10条と消防法第17条を見てみました。危険物と消防用設備について記載されている法律です。家に帰って消防法の勉強をしようとする気持ちの変化。起案者の意図通りに行動している自分がいます。

 予防勉強会を行なった月には、危険物乙4類を受験した職員が2名いました。変わった試験ではありませんが、同時に2名は珍しいように思います。彼らも起案者の意図通りに動いています。起案者は、講習は基本的な内容にしたと言っています。基本的な内容の講習で十分な起爆剤(きっかけ)になるなら、気持ちを変えてもらうことは、もしかすると難しいことではないのかも知れません。私の起案ではないので、準備の苦労は計りしれませんが・・・。

 勉強会の講師をしてくれた方は切れ者なので、「予防の勉強は難しくない。勉強会を開催することは難しいことではない。」と私達に思わせつつ、次の計画を練ってくれているのではないでしょうか。私はそれを楽しみにしています。





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まとめ

 28歳というまだ若い(?)私の立場で、教育について論じる等、不可能ではないかと思っていました。ですが、お世話になっている玉川先生の依頼です。そして、当消防署のように比較的規模の小さい組織は、大きな消防署から情報を貰うことの方が多いので、たまには、私の職場について発表しても良いかもしれないと思いました。

 真新しい教育方法は書かれていないかも知れません。トリアージのマニュアルも発表する程の内容ではないのかも知れません。しかし、当消防署の状況に合わせ、教育方法やマニュアル作成も考えながら行っています。できたマニュアルを渡されて、その通りに行動するよう教育されている職場とは違う分、考えて動ける人間になれるようになりたいと私は思います。

 原稿の冒頭部分で、「バランスのとれた教育」が重要と書いています。トリアージの訓練も、新しい救助技術の導入も、予防の勉強会を行った目的も、究極のところは弱点の克服(備えの必要)です。我々、消防士は発生した災害に対して、「得意分野ではないので対応できません」とはなりません。弱い部分を自ら見つけを補っていくことが、教育には重要だと考えています。


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12.6.9/4:00 PM