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工夫(第11回)

欧州型ドクターカー活用の工夫

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プロフィール

松本晃(まつもと あきら)
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所属高知市消防局東消防署三里出張所
出身高知県高知市
消防士拝命平成15年
救命士合格平成19年
趣味サッカー・釣り


シリーズ構成

>シリーズ構成者ご挨拶

泉清一(いずみせいいいち)
大洲地区広域消防事務組合
大洲消防署内子支署小田分駐所勤務
専門員兼救急第一係長兼消防第二係長
昭和五十六年四月一日消防士拝命
平成十六年五月救急救命士合格
気管挿管・薬剤認定救急救命士
趣味:格闘技全般(柔道五段・相撲三段)


欧州型ドクターカー活用の工夫

トップ写真
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欧州型ドクターカー(FMRC)

1欧州型ドクターカー(FMRC)導入の経緯

 高知県は、東西(190H)・南北(160H)ともに移動距離が長く、県土に占める山林面積の割合が84%(全国1位)である上に、交通インフラ整備も遅れており、中山間地域を中心に急速に高齢化が進行している。また、高知市など県中央部に救急医療機関や医師が集中している一方で、近年の深刻な医師不足により、郡部における救急医療の確保が非常に困難な状況にある。

 そのため、平成17年3月から、県の消防防災ヘリ「りょうま」(写真1)が、医師を搭乗させて現場に出動するドクターヘリ的運用の活動が開始され、本県の救急医療に貢献してきた。しかしながら、夜間・悪天候・離発着場確保困難場所等ヘリ救急に適さない場合や、毎年行われる耐空検査による運航休止期間(約一ヶ月半)が存在する、救急医療専用ではないため出動のたびに救急医療資機材を持ち込まなければならない、といった制約があり、これらを改善

するために、高知医療センター(基幹災害医療センター、3次救急病院)にFMRC(Fast Medical ResponseCar:欧州型ドクターカー=緊急医療チーム現地派遣車両)(写真2) 1) を導入、昨年8月からその運用が開始され、さらに今春には、ドクターヘリの導入も決定した。

 今後は、消防防災ヘリ(ホイスト機能があり、救助を伴う救急搬送にも対応)、ドクターヘリ(救命に必要な機内装備が充実)、FMRC(ヘリ救急に適さない天候・場所への医師搬送を可能にする)がそれぞれの強みを発揮することで県内の救急医療体制の強化・充実が図られることとなった。

1)欧州型ドクターカー(FMRC)とは、医師・看護師・事務職員の3名が乗車し、救急現場やドッキングポイント等で救急隊と合流後、救急車に同乗し、できるだけ早期に医療行為を行うために導入されたドクターカーである。FMRCには緊急薬剤や応急外科処置セット、簡易血液検査装置、エコー装置、心電図など(表:PDF)が搭載されているが、一般に言われるドクターカー(医師が同乗する高規格救急車)とは異なり患者搬送機能は有しておらず、救急車と並行して運用することで、一般的ドクターカーと同等の能力を発揮できるとされている。また、高規格救急車の価格(約2,000万円)と比べると、比較的低コスト(約330万円)で導入できるといった利点もある。



2少ないFMRC要請

 私の勤務する高知市東消防署三里出張所は、管内に高知医療センターがあり、管内救急現場から同病院への搬送所要時間は、昨年平均で約6分(表2)、最大でも約12分と、水難事故等特殊な事案を除けば、ヘリを要請するといったことはまず考えられない。

また、FMRCを要請するにしても、FMRCと合流するまでに病院に着いてしまうのではないか、合流したとしても、医師が処置・治療できるだけの時間があるのかなどといった、遠隔地にはない近距離であるからこその問題点・疑問点があったり、高知県下では今までにない新しい車両の運行でもあるためか、合流後に自分達は何をしたらいいかわからないなどという戸惑いの声も上がっていたりしているのが現状である(運用開始から約半年が経過したh22.12.31時点でもFMRC出動件数は三里管内で3件、高知市全体で見てもわずか8件と少ない)。そこで、FMRCを有効に活用し、救急車に同乗する医師・看護師との活動を円滑に行うために、今後取り組んでいくべき「工夫」について考えていきたいと思う。

3FMRC要請の工夫

工夫その1
要請・出動件数を増やす

 FMRCの出動要請を行うタイミングは消防覚知時点、現場到着-出発までの現場活動中、そして、現場出発後の搬送途上の3パターンが考えられるが、できるだけ早期に医師と傷病者を接触させるという観点から考えると、消防覚知時点での出動要請が一番効率的であり、現在は、高知医療センター救命救急センタードクターカー運用マニュアル内の「ドクターカー要請基準(表3)」、

「要請基準における通報内容のキーワード(表4)」に基づいて、情報指令課職員の判断でその要請が行われている(高知市消防局では、119番通報には全て情報指令課職員が対応)。

が、ここで、そのキーワードを見てみると、中には、それだけでは重症感が連想されにくいものもあり、通報内容にキーワードが含まれる場合でも、対応する職員の判断で、その全てに出動要請が行われているわけではなく(列挙されているキーワードが含まれる事案全てにFMRCが出動すると考えると、極端な言い方をすれば、現場に救命士がいる意味がなくなるのではないかと感じている私にとっては、間違った判断ではないと思うが…)、救急隊から出動途上で「FMRC要請していますか?」というような問い合わせを行ったり、医師からは病院収容後に「なんでFMRC要請しないの!?」というようなお声を頂戴したり、立場ごとにあるいは個人個人によって、意見の相違が発生しているのが現状である。

 このような意見の食い違いをなくすためにはまず、「FMRC要請・出動件数を増やす」ことが必要ではないだろうか?まずは、キーワードに則って、本要請ではなく、「現場に到着した救急隊から出動要請があるかもしれないので、出動できる態勢を作ってほしい」程度の内容でも構わないので、とりあえず一報を入れてみる。もちろん場合によっては、その後現場救急隊からFMRCに要請を行わず、救急隊だけで対応する事案もあるだろうが、そうすることによってキーワードの適切性、妥当性を検討することにもなるだろうし、現場から要請をかけた場合には、より早い出動が期待でき、現場到着までの時間短縮にも繋がる。

 このような考えは、緊急事態に遭遇し動揺している通報者からの少ない情報から、重症度・緊急度を判断し、出動指令を出してくれている情報指令課職員に対し、非常に不愉快な思いを抱かせるかもしれないし、マニュアルに囚われ過ぎて、自己の判断を排除してしまうことは大変危険なことではあるが、高知県下で初の試みである以上まずは、具体的事案を増やし、それに対する事後検証を行うことによって、より良い体制作りを行っていくべきであると考える。

工夫その2
現場からの出動要請は、救急隊現場到着から5分以内に行う

 救急隊の現場活動所要時間は、年間平均約12分(重症度による活動時間の差異は認めなかった)で、FMRC要請?現場到着までの時間を7分(救急車と同タイム:表2を参照)と考えると、5分以上経過した後に要請を行った場合、救急車が現場に滞在し、FMRC到着を待つことになる可能性が高くなるため、救急隊によるFMRC出動要請は、現場到着から5分以内を目標に行う。

工夫その3
FMRC要請理由を明確にする

 現場からFMRC出動要請を行う際は、バイタルサイン・傷病者の置かれている状況だけでなく、「どんな病態を疑い、医師に何(してもらいたい処置・治療)を望むのか」を伝える。決して確定診断を付けるという意味ではなく、それと合わせて、現場に向かっている医師から、治療のために収集しておくべき情報や、処置のための準備等についても指示をもらい、そうすることによって、治療開始までの時間短縮に繋げる。もちろん、医師の治療方針とは違う判断をしてしまうことも考えられるが、病態を一つ除外できるという意味では決して無駄にはならないだろうし、それに対するフィードバックを受ける機会を作ることができれば、救急隊の資質向上にも繋がると考える。

4現場誘導の工夫

 現在、FMRC要請時の現場位置の伝え方・現場への誘導方法は、「ゼンリン地図○Pのアルファベット△と数字□の交点」と伝えるあるいは、携帯電話で誘導するというような方法を取っているが、消防でいう機関員にあたる事務職員の方にお話しを伺ったところ、土地勘のない場所を一度地図で見ただけではなかなか頭に入らず、現場近くまでは行けたとしても、特に住宅密集地などに入り込むと正直わからないという意見をいただいた。また、ゼンリン地図は嵩張るためか、FMRC車内には持ち込まないとのことでもあるし、同乗する医師は県外出身の方が多いようで、特に住宅街での誘導は望めないとのこと…

工夫その4
FAXを使用して指令書を送る

 高知市消防局は、出動指令と同時に1枚の指令書が送られてくるようになっているが、それを高知医療センターにも送れるようなシステムを作る。そうすることによって、嵩張るゼンリン地図(写真3)の煩わしさは無くなるし、目標物には(目)、出動場所には(救)の文字が明記されているため、現場近くまで来た後の再確認も行いやすいというメリットがある。

工夫その5
携帯電話による誘導は、FMRCから救急隊を誘導する

 地図だけではわかりにくい場合や、救急隊から直接出動要請を行う場合には、携帯電話による誘導を行うことになるが、土地勘のない人間を短時間で現場に誘導することは非常に難しく、隊員1名(私の所属する救急隊は3名での出動が基本)がそれに取られるため、時間的にも人員的にも大きなロスに繋がる可能性がある。

 そこで、FMRCが現場近くの目標になるようなものがある地点で待機し、そこに救急車を誘導する方法を取る 2) 。消防職員は日々、運転訓練・地水利調査と管内を回っており、ある程度目標となるものを伝えればその位置まで辿り着けるはずで、FMRCを誘導するよりも時間短縮が期待できる。

2)ドッキングポイントの選定にあっては、病院からある程度離れており、救急車の進行車線側で安全確保が容易で十分なスペースを有していること、また、合流後の経路が比較的直線的で整備されていることが望ましい(慣れない環境、揺れる車内では、医師・看護師の処置に支障が出る)が、三里管内ではそれに適した場所を見つけることができなかった。三里出張所管内から高知医療意センターへの搬送経路は、主要地方道春野?赤岡線、桂浜?宝永線から県道高知南インター線に合流し同病院へ向かう、あるいは、住宅地を抜け蛇行した道を下る3路線が考えられるが、3路線ともに、上記条件を満たさない。

5FMRC合流後の工夫

工夫その6
一方的ではなく双方向的な情報伝達を行う

写真4救急隊から医師への申し送り

写真5医師の活動方針を確認

 合流後は、知り得た情報、観察結果、病院までの搬送所要時間等を簡潔に伝え、医師あるいは看護師の補助をしつつ活動を行うことになるが、まず、救急隊から一方的に伝えるだけではなく、医師の判断・活動方針を確認するように努める(写真4、5)。

写真6 手持無沙汰な救急隊員

医師・看護師が現場到着後、ついつい任せっきりになり、これからどうするだろうとただ見ているだけ、指示を待つだけになりがちであるが、活動方針を共有することによって、自分達の出来ることを探す。ただの傍観者になってしまうことだけは避けたい(写真6)。

工夫その7
救急隊としての通常業務を忘れない

 医師・看護師の補助ばかりに気を取られ、救急隊としての自分達の通常業務を忘れないように心掛ける。安全管理、無線連絡等様々な業務があるが、中でも忘れやすいのが病院への連絡である。救急隊は、医師・看護師が現場に来ることで、病院にも傷病者の詳しい状態が伝えられ、準備万端救急車の到着を待っているような錯覚を覚えてしまいがちであるが、院内で待つスタッフには、要請時以降の詳細は伝わっていないことがほとんどで、これが抜けるあるいは遅れることで院内の準備が後手に回ってしまうので特に注意を払いたい。

工夫その8
作業効率の高い人員配置・役割分担を行う

写真7 狭い救急車内での移動

 狭い救急車内に、さらに2名乗車してくると考えると、走行中に立ち位置を変わることは難しく(写真7)、限られた活動スペースで作業効率を上げるための人員配置、役割分担が重要となる。

写真8 人員配置一例

 例えば、隊員の1名は、頭部側に位置し、気道・呼吸管理を行いつつ、傷病者への声掛け、情報収集を行う。続いて傷病者の横に肩口から、医師-看護師と並んで(医師の補助は救急隊ではやはり荷が重い…)、隊員の残り1名は頭部側の隊員と医師の間、全体が見渡せる位置に立ち、安全管理、時間管理、無線連絡、病院への連絡等を行う。(写真8)

 もちろん、様々な病態・状況が考えられるため、これはあくまでも1案であってこの限りではないが、大切なことは、医師・看護師・救急隊が病院到着までのプランを共有し、それを遂行するために最も効率的な配置につき、それぞれの役割をしっかりと果たすことである。

6おわりに

 今回、この原稿を執筆させていただくにあたり、FMRC・ドクターヘリをともに導入する例は西日本では高知県が初とのことであり、また、自分が所属する管内の病院に配備されるということもあって、すでに運用の開始されたFMRCについて書かせていただいたが、前述したとおり出動件数も少なく、実際に実践しているという工夫を挙げることは出来ず、現場を通して、あるいは検討を重ねて感じたこと、これから実践していきたいと思うことを列挙させていただいた。

 運用開始からまだまだ日も浅く不慣れな点もあり、これから改善していかなくてはならないことも多々あるだろうと思われるが、大切なことは、医師・看護師が現場に出てくることで、医師・看護師に任せっきりになるのではなく、本来、プレホスピタルは自分達の現場であるという自覚を持って、救急隊として主体性を持った活動を心掛けていくことではないだろうか。

 最後に、貴重な資料を拝見させていただき、また様々な意見を寄せてくださいました、病院関係者の皆様、先輩方に心より感謝し、終わりとさせていただきます。


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12.6.9/6:27 PM