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教育・伝承(3)

シミュレーション教育 「学生救急救命技術選手権」

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講師

氏名 西園与之(にしぞのともゆき)

所属 東亜大学 医療工学科救急救命コース
年齢 43歳
出身 鹿児島県 阿久根市
資格 看護師・救急救命士
救命士取得 平成7年5月
趣味 健康づくり(筋トレ・ダイエット)


シリーズ構成

西園与之

(東亜大学医療工学科救急救命コース)


写真番号はスライド番号に一致します



シリーズ「教育・伝授」〜先人の知恵と経験から〜
第3回
シミュレーション教育 「学生救急救命技術選手権」

東亜大学 医療工学科 救急救命コース 准教授 西園 与之

1 はじめに

 現在、教育・訓練の一つの手段として、シミュレーションは効果的に実施されている。また、その効果とは実際の現実をリアルに再現・想定することで、現場活動イメージが身に付くこと、また個人だけでなくチームの役割遂行能力の訓練や評価も可能になること、更に想定の作成や評価など、実施させる側にも高い知識と技術が求められ、これは学生には勿論であるが指導者側にも十分な教育・学習効果がある。従って救急救命士教育施設・研修所においても、その教育・訓練、更には評価として、シミュレーションにはより力を入れていると考える。

 私自身が救急領域におけるシミュレーションで、教育という印象を強く受けたのは、もちろん市民教育における心肺蘇生法ではあるものの、それ以上に受ける立場であった標準化教育、いわゆるJPTEC(当時PTCJ)であった。その頃の私は、PTCJという言葉も聞き覚えがなく、救急救命士として誰かに聞くことの恥ずかしさもあり、不安が芽生え始め危機感を感じていた。偶然あったPTCJミニセミナーへ参加する機会に当たり、更にそこで患者役をすることになり、それが最初でありとても印象に残っている。また、シミュレーションは、同じことでも繰り返すことにより疑問も出てくる。それらを科学的根拠に基づき研究し、検証することでより高度な教育にもつながると考える。

写真1
東亜大学と桜

 東亜大学(写真1)は、救急救命士教育施設として全国の救急救命士教育施設協議会に参加し、シミュレーション教育の一環として学生選手権開催において、西日本大会の運営及び学生の大会への選手参加を実施している。今回はその経験を報告する。


2 東西日本学生救急救命技術選手権

 この大会は、救急救命士を養成する全国の専門学校や大学の学生が、救急救命に必要とされ学んだ技術・知識を競い合い、共有し合うこと、さらには本大会を通して学校間は勿論、学生間の救命に対する意識の統一やモチベーションの向上と将来現場での活動においての救命率向上を図ることを目的に掲げ、平成16年から全国救急救命士教育施設協議会(JESA)の主催で開催されてきた。(表1)

表1
現・一般社団法人全国救急救命士教育施設協議会


 全国救急救命士教育施設協議会は、平成5年9月に当時の救急救命士民間養成校3校(北海道ハイテクノロジー専門学校・熊本総合医療福祉リハビリテーション学院((現)・湘央生命科学技術専門学校)で設立された。その後年々会員校が増え、第1回開催当時は会員校は21校を数えた。

 本大会は、全日本救急救命技能選手権として国士舘大学を舞台に開催され、参加校が5校で競技が競われた。開催場所として国士舘大学は、教育施設であり開催に必要な資機材及び、その他の環境も整っていることがあげられた。私自身は、第3回大会当時(平成18年)国士舘大学大学院に在籍していたことから、競技の評価者として関わることができた。さらに翌19年からは全国にわたる会員校の増加と選手権に参加する学生の負担軽減も考え、東西2か所での開催となった。

 私は、国士舘大学大学院を修了後、東亜大学医療工学部(現・医療学部)医療工学科に赴任しており、また中部地区から東西に分けられ地理的に東亜大学は西日本対象校地域のほぼ中央にあり、開催場所の条件にも近いことなどから西日本大会は東亜大学を会場として開催するという形で、運営に関わることとなった。

3 西日本大会の経緯と東亜大学の取り組み

(1) 第1回大会

 平成19年11月23日(祝・金)全日本救急救命技術選手権・西日本大会として開催した。参加対象校9校中5校から10チームが参加し、競技を競った。当時は前年の国士舘大学での開催要領を参考にして、競技種目を外傷想定(午前中2ブースで実施)(写真2,3)・

心肺停止想定(午後2ブースで実施)(写真4)及び、CPRコンテスト(競技時間を考慮し、空き時間で別に時間と場所を準備)として実施した。

第1回 表彰

また、参加チームは1チーム5名で編成した(写真5)。大会開催後は、参加者にアンケート調査を実施し、大会の振り返りとした。今回のアンケート調査は、10チーム50名のうち40名(80%)から回収された。またその内訳は大学生と専門学校生がそれぞれ50%ずつで、最終学年とそれ以前の学生では1:3であった。

アンケート内容及び結果の一部を図で示す。(図-1,2,3)

 この結果から、大会については教員から情報を得ており、その情報から積極的に参加につなげていると考えられた。更に全員が勉強になった若しくは大変勉強になったと回答していることと、大会が無ければ自主的に勉強をしていなかった、又は多分勉強していなかったという回答が約68%に上り、この大会は学生の学習への取り組みに良い契機となり、その効果も高いものが伺えると結論付けた(写真6)。

第1回懇親会

 東亜大学においては、選手参加対象を最終学年の4年生とし、教員は評価の公平性を図るために、開催要領の案内のみで事前の対応は避けた。4年生においては、参加希望者が多数みられ最終的に3チームを編成してきたため学内選考を実施して、2チームが参加した。

 ちなみに東日本大会は、11月11日国士舘大学において、9校15チームが参加し開催された。

(2)第2回大会

 平成20年12月6日(土)第2回西日本学生救急救命技術選手権大会として開催した(写真7-12)。

開会式(宣誓)

第2回打ち合わせ

第2回打ち合わせ準備

第2回準備(tutor)

第2回活動

第2回活動

 参加対象校10校中5校から9チームが参加し競技を競った。開催要領は前年通りとしたが、前年の趣旨から学校・学生間の交流を更に勧めることを考え、競技終了後に下関市内観光を計画した。当日は大雪に見舞われたが、観光は計画通りに実施した(写真13-15)。東日本大会も同日開催となったが、東日本大会は競技形式をメディカルラリー形式に変更し実施された。

第2回観光バス

壇ノ浦合戦場

観光中

 この年の東亜大学は、参加希望が得られず遅めの準備であった。最終的には2チームの参加になった。

(3)第3回大会

 平成21年12月5日(土)第3回西日本学生救急救命技術選手権として開催した(写真16)。東日本大会も同日開催された。参加対象校10校中6校から10チームの参加となった。開催要領も東西の統一性を図り、ラリー形式に変更した。4つのシナリオと特別ブースを1つ設けて競技を競った(写真17-22)。

第3回開会式

第3回修了式

第3回表彰後

 東亜大学では、参加希望が出るのは遅かったものの希望者は前年に比べ多く見られた。しかし、参加希望校が前年より1校増えたことから参加チームを1チームとするように案内を出す結果になり、1チームが参加した。チーム編成は、学内選考も考慮したが学生が中心になり検討・協議してメンバー編成を行った。

(4)第4回大会

 平成22年12月4日(土)第4回西日本学生救急救命技術選手権として開催した。参加対象校も11校に増えたが、運営の連絡不備で準備が間に合わず参加校は昨年同様の6校であった。参加チーム数も9チームであった。また、開催要領は継続したが、参加校への配慮から出来るだけ短時間で競技を実施できるような計画を立案した(写真23-25)。

第4回小児

第4回集団

第4回疾病

 本大会において、東亜大学の学生は積極的な参加希望者が少なく当初は2チームの参加を予定したものの、結果は1チームのみの参加にとどまった。

(5)これまでの大会のまとめ

 シミュレーション教育の一環として、競技大会を実施してきた。先ずは開催校においては、他参加校との不平等を軽減するために競技においての対応は控えている。このことは、学生の主体性を促し一層の効果につながったと考えられたものの、競技参加以外の学生においても様々な形で運営への協力を受けている現状があり、そのことなどから大会を負担ととらえ参加への積極性が減退していることもあるのではないかと考えられた。

九州新幹線の開通で、新下関はさくらの発着駅になりました。・・・桜満開です。

 当大学は、新幹線の駅(写真26)も徒歩10分圏内にあることなどアクセスの利便性も考え開催地としての環境は十分と考えるものの、実際には停車便数が少なく、更に関西方面からの移動は不便な部分が多い。それらを考慮した計画としているものの、参加者への負担は大きいものと考える。しかし、その負担をしてでも参加したいという学生も見受けられ、またその結果が今後の自信とその先の結果につながっていることも確かに伺える。このことはさらに分析する必要があると考え、また開催場所や方法の見直しも必要に応じて協議する必要があると考える。

 これまでの大会は、その目的を十分に果たしていると考えている。更に西日本においては、全開催においてその大会を通して実際の現場の職員と交流が持てることも考え、県内外から多数の消防職員に評価者をお願いして、実際に競技運営にも協力を頂いている。そのことは、現場の職員にとっても教育施設の質等を伺う機会にもなり、それぞれのモチベーションにつながっていると考える。また、それぞれの立場において相互理解につながるものと考えている。しかし、運営面において不況のあおりから様々な問題が出ており、評価者の参加も縮小傾向にある。このことについても、今後よりよく連携が取れる方法を検討する必要があると考える。

4 まとめ

 シミュレーション学習は、1.ローテクシミュレーションと2.ハイテクシミュレーションに分類され、救急救命士教育施設をはじめとする現場教育においては、スキルトレーナーや模擬患者などを用いたローテクシミュレーションが効果的に行われている。ローテクシミュレーションは、初心者や学生が基本的な技術を身に付けたり、意思決定のプロセスを学習するのに向いている。また、ある程度の経験を積んだ者や指導的な立場にあるものにおいても、基本操作の実施・評価や想定の作成・模擬患者の実施においても知識の習得・復習にもつながると考えられる。従ってこれは、教育のする側・される側に両方にとっても効果がある方法であると考えられる。

 私は現在学生を教育する立場で、常々学生には「皆いつかは教育的立場…いわゆる現在の私の立場になる」と伝えている。なぜならば、私の経験上 消防を目指す学生にとって消防では、避難訓練をはじめとする防火指導・心肺蘇生普及などその業務として教育的な立場に立つことは勿論、それ以外でも多くの学生が将来、結婚し子供をもうけることになると思われる。総説でも書いた通り、教育現場の最小単位 家庭で、子供の教育をすることとなる。子育てにおいてのシミュレーション教育を具体的に考えると難しいものであるが、シミュレーション教育には受ける側から指導する側へもその効果があると考え、それは受ける側の時の意欲を指導側が如何に増して、それぞれが継続した学習環境を作っていけるかが重要になると考える。

 昨年の月刊消防11月号においては、Special Featureにおいて大量退職期における消防職員の技術伝承という記事が書かれていた。消防に関する技術力の低下が懸念され、若年職員教育・技術伝承の課題が挙げられていた。中でも○火災件数の減少、○新規職員と指導者との関係の問題などということが挙げられていたが、シミュレーションを有効に実施していくことで、はじめに挙げたように個人だけでなくチームの役割遂行能力の訓練や評価も可能になることなどから、消防活動においても技術伝承につながると考える。しかし、訓練施設の問題という部分では、リアルに実施するところまでのシミュレーションに至らない可能性がある。これらは、消防活動用のハイテクシミュレーターの導入なども必要になるかもしれない。ただし、問題とその対応・効果を考えると積極的な訓練時間の確保を行い、全体でシミュレーションを実施すること(若年職員も想定・評価に早いうちに関わる機会を設けるなど)で、全体の活動技術の伝承と知識のブラッシュアップにつながると考える。

5 おわりに

 今回は、シリーズ構成と記事の投稿機会を得られシミュレーション教育の実際(学生選手権)と、その効果を自分なりに考えてみた。教育をする側も勉強になるということは、シミュレーションでなくても何倍もの知識がなければ人に教えることはできないというように当たり前の事であり、さらにいくら効果的な方法であったとしても、受ける側の受け入れる姿勢によっては全く効果が発揮されない。また、今回は割愛したが想定作成と評価については、色々な問題があり、実際には大変な作業になるものである。その苦労と受け側のやる気のない態度と伝わらない内容を比較すると、時々ふと馬鹿らしくもなることがある。現在の教育現場は、ゆとり教育世代の真っ只中であり「覇気がない」「自分の意志を持たない」「競争をしない」などの学生が多くみられる。これはまさに、消防においても若年職員はそういう世代で、皆さんも感じることが多くあるのではないかと考える。勿論、最近はより一層公務員の競争は激しく、そういう者が簡単になれるものではないが、ゆとり教育世代の全体的な能力が下がっていることではなく、そういう世代の多くに「覇気がない」などが感じられることである。従って、教育効果を上げるためには やはり如何に物事に興味を持たせ積極的に参加する環境を作るかが重要であると考える。

 最後に私自身は、現在5歳・2歳・0歳と子育ても真っ最中にある(殆ど嫁任せ…)。この子供達は、現在私自身が感じるような大人にはならないような教育ができるように努力したいと考える。また、「子育て(育児)」=「育自」と、自分自身が教えられることも多くある。人の親になって、初めて親の有難味が分かるとはまさにその通りであった。常に教える側よりも学ぶ姿勢でいることも、大切な事であると考える。この子達(皆さんのお子様達にも)の明るい未来を作れるように、皆様にもお願いしたい。


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12.6.9/5:46 PM