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151227今さら聞けない資器材の使い方(25) 可搬式ウインチ:実践編

氏  名:根本由之(ねもとよしゆき)
所  属:稲敷広域消防本部
      龍ケ崎消防署
拝  命:平成12年4月
撮影協力:丘野敬介(おかのけいすけ)
     中島健(なかじまけん)

1 はじめに

はじめまして,「いまさら聞けない資機材の使い方」シリーズを担当させていただきます,茨城県稲敷広域消防本部の根本由之と申します。

我々は多種多様な災害に対応するために多くの資機材を所有していますが安全,確実,迅速な現場活動をおこなうためには,単に資機材の用途や安全な使用方法を知っているというのみでなく,災害現場などの過酷な環境下において資機材を「手際よく」,「使いこなす」レベルであることが求められます。

そこで今回は本誌3月号でも掲載された可搬式ウインチをさらに掘り下げて研究しました。

可搬式ウインチは以前から救助用資機材として導入され,長期にわたり使用され続けていますが,皆さんはどのくらい使用した経験がありますか。

当消防本部の可搬式ウインチは,チルホールおよびハベガー製のものが配置されていますが,用途,操作方法は同様です。ここでは,当署救助工作車に積載しているチルホールをとりあげます。

諸元や性能,各部名称,取扱説明書に基づく正しい使用方法は,本誌3月号掲載分を参考にしていただき,今回は構造や実際の設定,操作のポイントを紹介いたします。
 
2 構造

構造を確認するために本体カバーを取り外します。解放レバー,前進レバー,バックレバーは各アームを介して機械的に繋がっていることがわかります。

つかみ装置が二つのブロックに分かれていて(便宜上ブロック1,ブロック2と表現する),前進レバーまたはバックレバーの往復操作にあわせてブロック1とブロック2が近づいたり,離れたりする動作を繰り返します。(写真1)

この時に一方ではワイヤロープを挟み込み,もう一方では挟み込みを解除します。

表現は難しいのですが,ロープを片手ずつ手繰り寄せる動作として考えるとイメージしやすいでしょうか。(写真2)


   

チルホールの使用前後には,機能を十分に発揮させるため専用グリースを注油します。つかみ装置に潤滑油が塗布されることは悪影響を及ぼすのではないかとおもいますが,この部分に注油します。

3 各部分における注意点

(1)アンカーフック設定

支持物にワイヤ(かけなわ)等をかけ,アンカーフックに設定します。支持物には十分な強度が必要であり,最大能力の2倍以上の耐力が必要とされます。

支持物には頑丈な地物,工作物を利用しますが,支持物としての使用に耐えられるかどうかの確認と判断は重要です。(写真3)

写真3 支持物には何を選ぶ?強度は?

現場に都合の良い支持物を得られなければ,消防車両を利用することも考慮します。

いずれにしても,活動の重要ポイントである支持物の選定には細心の注意を払わなければなりません。

使用荷重を超えて使用するとアンカーフックの変形が生じる可能性があります。クレーン等安全規則によるフックの点検項目の判定基準を下回れば使用できませんし,チルホールの特徴的な形状をしたセフティキャッチも機能しません。後述するワイヤロープに付属するフックも同様です。(図1)

図1 変形したフック

点検項目には,外れ止め金具の状態や摩耗,亀裂なども含まれます。
   

(2)ワイヤロープ

ワイヤロープを本体に通すために解放レバーを解放します。

解放レバーのスプリング(写真4)が弱くなるという理由で,解放レバーを解放した状態での保管はできません。また,同じ理由でワイヤロープを本体に通した状態での保管もできないことになっていますが,皆さんの所属ではいかがでしょうか。

当消防署では本来の保管方法とは異なり,災害現場での迅速な活動を目的として解放レバーを解放し,ワイヤロープを本体に通した状態で保管しています。ただし,仕業点検時にそれぞれの作動状態や機能を確認します。

延長したワイヤロープには,躓きや引っ掛かりを防止するために毛布等をかけて存在を明示しましょう。(写真5)

写真5 毛布等で明示

チルホールの揚程(けん引できる距離)はワイヤロープ自体の長さになります。仮に100mのワイヤロープがあれば,それだけの距離をけん引できる機構になっています。これはチルホールの特徴のひとつですが,所有するものはチルホール専用の標準20mワイヤロープが多いとおもいますので揚程は20mとなります。

連続操作により,つかみ装置とワイヤロープが熱を帯び操作不能に陥る場合があります。具体的な連続操作回数または連続操作時間が気になります。しかし,その揚程などから考慮して,標準20mワイヤロープを使用しているならば,このような状況は発生しないということです。

もし,発生したら操作を中断し,つかみ装置を冷却する目的で専用グリースを注油したのちに操作を再開します。



(3)けん引操作

パイプハンドルが二段伸縮式であり,伸ばして使用するほうが,テコの原理を大きく利用できます。活動スペース等の制限により縮めて使用する場合と比較すると,明確な数値では表せませんがテコ比に変化が生じます。操作隊員の肉体的負担にも変化がともなうことに注意しなければなりません。

構造の項目で触れたとおり,前進レバーとバックレバーは機械的に繋がっています。たとえば,前進レバーを操作すると連動してバックレバーも同様に動きます。何らかの理由でバックレバーの動きが阻害されると,連動する前進レバーの操作にも支障をきたしてしまいす。

禁止行為とされる前進レバーとバックレバーの同時操作について,現場活動ではこれらを同時に操作する必要性がないこと,また,パイプハンドルが通常1本しかないので,このような発想自体がないでしょう。実際にどうなるか試したところ,ワイヤロープが数センチ前進したかとおもえば,不意にバックするなどまったく予想できない動作が起こりました。つまり,同時操作が不可能なわけではなく,故意にやればできてしまうことが確認できました。

同じけん引作業であるならば可搬式ウインチよりも救助工作車の車載ウインチを使用するほうが設定および活動が迅速にできる場合もあります。しかし,可搬式ウインチは数ミリ単位の微動操作が可能であることが油圧式や電動式ウインチとの違いのひとつです。なお,つかみ装置の摩耗を防ぐため,微動操作以外はパイプハンドルをできる限り大きく動かすということを知っておく必要があります。

要救助者に直接,接触する箇所のけん引,拡張には可搬式ウインチを用いることが望ましいでしょう。なぜなら,操作隊員に負担はあるものの,けん引対象物の重量感やワイヤロープの張力を常に体感しながら操作するので,どこかに異常があれば早期に気付くことができ,けん引を即座に停止することができるからです。(写真6)


写真6 利点も注意点も多い


(4)安全ピン

 災害現場や救助訓練において安全ピンが切断した経験がありますか。安全ピンを交換したこともなく,安全ピンがどのように切断するかを見たこともありません。そこで,安全ピンを切断させるための検証を実施しました。

 頑丈な支持物間にチルホールとともに張力計を設定し,けん引操作をおこないます。

 安全ピンの強度約3,200Lと,張力計の目盛り最大3,000Lを考慮すると能力が不足しますが,3,000L以内で切断すれば計測可能であるという推測によるものです。

隊員2名にてけん引操作を開始します。指針は3,000Lを示しましたが,異常は感じられません。(写真7)

写真7 張力3,000Lでは変化なし

張力計の破損を避けるため,設定を解除して張力計を取り外します。安全ピン切断に至る数値は不明になりますが,3,000L以上であることが判断できます。

 安全に十分配慮した上で検証を継続すると,やがて安全ピンが3本同時に切断されました。(写真8)

写真8 安全ピンの切断状況

慎重に操作をしたこともあり,さほど衝撃はありませんでしたが、通常とは異なる感触がありました。安全ピンの強度である約3,200Lの負荷をかけるためには操作隊員2名がパイプハンドルに全体重をかけている状態であり,安全ピンの切断とともに急に抵抗がなくなれば,全体重をかけた隊員が転倒することも視野に入れましたが,今回はそのようなことはありませんでした。


  安全ピンが切断すると,前進レバーと内部構造の連続性が切断される仕組みになっています。これ以上のけん引操作はできませんが,この時点での張力は保持されていますし,バックレバーで張力を緩める操作は可能です。

  本体やアンカーフック,ワイヤロープには異常は認められませんでした。

 切断した安全ピンはその場にとどまっているので,これを交換するためには,切断されたものを抜き取る必要があります。しかし,ペンチなどの手がかりになる部分がまったくありません。前進レバーを叩く振動により,安全ピンの頂部がせり出してくることを期待しましたがうまくいきません。専用工具があれば別かもしれませんが,救助工作車に積載する工具および当消防署で保有する工具では抜き取ることができませんでした。

 そこで,一般的な潤滑油を前進レバーの根元部分に塗布し,前進レバーごと取り外すことで切断されたものを除去しました。やはり,実際にやってみないとわからないことは多いものです。(写真9,10)

写真9 前進レバーを取り外す

写真10 切断した安全ピン

キャリングハンドル内に収められた新品のものと交換します。(写真11)

写真11 新品の安全ピン
      ピンはアルミ製

4 おわりに
 
チルホールは本体とワイヤロープ,フックで構成されていますが,それぞれの使用方法や点検を踏まえることにより,活動に対する安全性や信頼性が向上します。

 実際に設定や操作をするにあたり,小隊長あるいは指揮者は細部にいたる確認,判断,安全管理が求められます。

すべての資機材に当てはまることですが,取扱説明書をしっかりと理解したうえで,取扱説明書にない部分の経験則を融合させることが資機材を「手際よく」,「使いこなす」ことに直結します。
連携のとれた行動をするためには合図,伝達,呼称という最も基本的なことを当たり前にできることがすべての活動の「はじめの一歩」になると考えます。

※内容に関してはカツヤマキカイ株式会社(旧チルコーポレーション)石田氏に助言,協力を頂きました。

内部構造確認のための分解および安全ピン切断検証に使用したチルホールは当消防署が所有する予備品です。

安全ピン切断検証実施回数は1回のみであり,この結果がすべてではありません。また,安全ピン切断時の状況を確認することが目的であり,チルホールけん引能力の限界値を知ることではありません。


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15.12.27/3:21 PM