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170820救助の基本+α(13)車両安定化

1 下関市の概要
  下関市は、本州の最西端に位置しており、関門海峡を挟んで九州と相対し古くから九州や大陸との交通の要衝として発展してきた「海峡都市」です。
対岸の北九州市とは、世界初の海底鉄道トンネルとして開通した関門鉄道トンネル等、3本のトンネルと関門橋で結ばれています。下関港国際ターミナルからは韓国(釜山)への定期フェリーが就航しており、アジアの人・物流の拠点としての役割も担っています。
  また、歴史の舞台としても度々登場しています。源平合戦の「壇ノ浦」、武蔵と小次郎の決闘の地「巌流島」、明治維新の魁として高杉晋作が倒幕運動の旗揚げ(回天義挙)をした国宝「功山寺」、さらには日清講和条約が締結され、山口県出身初代内閣総理大臣の伊藤博文がふく食(下関では河豚のことを「ふく」と言う。)を解禁した「春帆楼」等々多くの史跡を有する観光地でもあります。(写真1)
写真1「下関市の概要」関門海峡と「源義経、平知盛」像

2 下関市消防局の概要
  下関市消防局は、消防局4課6消防署5出張所で組織され、その中で救助隊は3消防署に3隊(高度救助隊1隊、特別救助隊2隊)配置されています。職員数322人(平成29年1月1日現在)のうち救助隊員は41名となっています。また、国際消防救助隊は昭和61年の発隊当時から登録されており、現在6名の隊員が登録され、日々訓練に励んでいます。平成27年中の救助出場件数は140件です。

3 救助事案の内訳
  当局管内は中国自動車道、山陽自動車道がはしり、また本州の玄関口として九州と関門自動車道、関門国道トンネルで繋がっている他、鉄道においても九州と接続される関門鉄道トンネルがあり、交通事故救助の割合が非常に高くなっています。
  今回は、皆さんの管轄でも発生件数が多い交通事故救助の現場において、要救助者の負担を軽減すると共に、活動する隊員の二次災害防止のために実施する「車両安定化」について紹介したいと思います。
4 車両安定化について
 ^ 車両安定化の目的
   事故車両内に閉じ込められた要救助者に悪影響を与える可能性のある車両の動きを最小限にするとともに、活動隊員の二次災害防止を図ることを目的とします。
 _ 安定化器具について
  ア 救助ブロック(樹脂製、木製)
    樹脂製や木製のブロックは様々な形があり、組み合わせることで多種多様な状況に適応します。車両と地面の隙間を埋めることにより、車両の安定性を高める為に使用します。(写真2)

写真2「救助ブロック」各本部により配備品は異なりますが、樹脂製、木製があり、形も様々です。

  イ 消防用ホース
    消火活動に使用するホースは、消防車に必ず積載しています。二重巻きホースやホースバック、ホースブリッジを用いて救助隊が到着するまでの間や、救助隊が積載している救助ブロックが不足した際に応急的に使用します。(写真3、4)  
写真3「消防用ホース」消防車に必ず積載している消防用ホース、ホースバックも応急的に活用できます。

写真4「ホースブリッジ」消防車に必ず積載しているホースブリッジも、応急的にウェッジ代わりに活用できます。

  ウ 救助用支柱器具(RESCUE42、レスキューサポート)
    事故車両が横転や転覆している場合、車両と地面との間の大きな空間を確保する必要があります。支柱を用いることにより車両と地面の間に力の三角関係を作り、安定性を高める為に使用します。メーカーにより油圧式、空気式等ありますが、今回は当局に配備されている手動式のRESCUE42を使用します。(写真5、6)

写真5「救助用支柱器具(RESCUE42)車両安定化、ショアリング(クラス1)、ロープレスキューの支柱等、マルチに使用できる資機材RESCUE42ジャパンセットです。今回は本資機材を使用します。

写真6「救助用支柱器具(レスキューサポート)」 車両安定化、ショアリング、トレンチレスキュー等に使用できる資機材ですが、今回は使用しません。

  エ 救助用巻上装置、巻上器具(車載ウインチ、チルホール)
    事故車両の滑落、転覆防止を図るために救助工作車の車載ウインチやチルホールを用いることにより滑落や転覆を防止し、安定性を図ります。救助ブロック等と組み合わせることにより、さらに安定性を高めることができます。(写真7、8)

写真7「救助用巻上装置(車載ウインチ)」 救助工作車の車載ウインチも滑落や転覆車両の安定化を図るために使用できます。

写真8「巻上器具(チルホール)」車両の牽引等で使用するチルホールも滑落や転覆防止を図り、安定化として使用できます。

オ 救助用吊上装置(車載クレーン)
    事故車両の滑落、転覆防止を図るために救助工作車の車載クレーンを用いることにより滑落や転覆を防止し、安定性を図ります。救助ブロック等と組み合わせることにより、さらに安定性を高めることができます。(写真9)

写真9「救助用吊上装置(車載クレーン)」 救助工作車が接近できる現場であれば、車載クレーンで安定化することが可能です。

 ` 車両安定化手法
  ア 車輪が地面に設置している場合
   (ア) 車輪に輪止めを設定し、車両の移動を防止します。(写真10)

写真10「車輪が地面に設置している場合(救助隊が未到着の場合)」車両の移動を防止するため、車輪止めを設定します。

   (イ) 要救助者に動揺を与えないよう、4箇所(状況により3箇所)に救助ブロックを設定し、安定化を図ります。救助隊が到着していない場合、応急的に消防ホースで安定化を図ることもできます。(写真11〜21)

隊員2名で軽く車両を持ち上げ、消防用ホースを活用し、車両を安定化させます。

車両ジャッキアップポイント下部に消防用ホース(例:二重巻きホース)を設定し、車両片側を安定化させます。

車両の反対側にも消防用ホース(例:ホースバック)を設定し、車両を安定化させます。

 消防用ホースと車両との微調整にはホースブリッジを有効活用できます。

 消防隊の装備(消防車両積載品)だけで車両の安定化完了。

写真16「車輪が地面に設置している場合(救助隊が到着時)」

救助ブロックを活用し、車両を安定化させます。

車両ジャッキアップポイント下部に救助ブロック(例:平型+ウェッジ型)を設定し、車両片側を安定化させます。

車両の反対側にもジャッキアップポイント下部に救助ブロック(例:ステップチョック)を設定し、車両を安定化させます。

車両の片側2点ずつ、計4点支持で車両の安定化が完了。

車両の破壊状況等により、応急的に安定化設定箇所を片側1点、反対側2点、計3点支持としても車両の安定化は可能。

  イ 横転している場合
   (ア) A、Cピラーの下部分に救助ブロックを設定します。その後の救助活動で切断する可能性があれば、違う箇所に設定し、安定化を図ります。(写真22)

写真22「車両が横転している場合」車両の天井側に救助ブロック(例:ステップチョック)を設定し、車両を安定化させます。

   (イ) 安定化をより強固なものにするために、車両屋根部、車両底部に支柱器具を設定します。支柱を設定する際は、屋根側エンジン搭載位置側から設定することを基本とし、車両重心部より高い位置に支柱先端を設定します。状況によって支柱を2本、3本、4本と増やすことにより、より強固な安定化が図れます。(写真23〜33)

安定化をより強固なものとするため、車両のエンジン搭載位置側(例:FR車の場合、車両前方)の車両重心より高い位置に救助用支柱器具(例:RESCUE42)を設定します。

救助用支柱器具の広がり防止措置を実施し、車両の安定化をより強固なものとします。

時間及び人員に余裕がある場合、車両の床面側にも救助用支柱器具を設定します。

救助用支柱器具の広がり防止措置を実施し、天井側の救助用支柱器具と併せて車両の安定化がより強固なものとなります。

車両天井面に救助用支柱器具を設定するための穴を作成します。

車両の状態によりエンジン搭載位置側(例:FR車の場合、車両前方)に救助用支柱器具が設定できない場合、又は時間、人員に余裕がある場合は、車両の天井側に追加で救助用支柱器具を設定します。

救助用支柱器具の広がり防止措置を実施し、車両の安定化をより強固なものとします。

救助用支柱器具を3本使用し、車両の安定化を実施した状況。

時間及び人員に余裕がある場合、車両の床面側にもう1本救助用支柱器具を設定します。

車両床面に救助用支柱器具を2本設定した状況。

救助用支柱器具を4本使用し、非常に強固な安定化を実施した状況。

  ウ 転覆している場合
   (ア) 車両の天井面と地面との隙間に救助ブロックを設定します。(写真34、35)

写真34「車両が転覆している場合」転覆した車両の状況。

車両の天井側及びボンネットとAピラーの隙間に救助ブロック(例:ステップチョック)を設定し、車両を安定化させます。

   (イ) 安定性を高めるために、エンジンルームとフロントガラス間の隙間に救助ブロックを追加設定します。(写真35)
   (ウ) 安定化をより強固なものにするために、車両後部に支柱器具を設定します。(写真36、37)

安定化をより強固なものとするため、車両後部の強固な部分(ドアヒンジ部等)に救助用支柱器具を2本設定します。

救助用支柱器具を2本使用し、強固な安定化を実施した状況。

5 最後に
  本来、交通事故現場では要救助者の観察、交通整理状況、漏油等の有無、警戒筒先の配備、検電器による漏電の有無、エンジンの停止状況、エアーバック展開の有無、バッテリーの遮断処置等、いくつもの確認事項を実施するのと同時進行で車両安定化を実施しなければなりませんが、今回はそれらを省略し「車両安定化」の手技、手法について紹介させていただきました。
交通事故現場は多種多様です。似た現場はありますが、同じ現場は二つとしてありません。ここに紹介した手技、手法が全てではありませんし、消防本部によって保有している資器材も出動人員も異なりますが、より安全、確実、迅速な活動ができる様、今後も日々訓練と検証に励んでいきたいと思います。
全ては要救助者の為に!




□ 著者
  内田(うちだ) 吉則(よしのり)

□ 所属
  下関市消防局 中央消防署 国際消防救助隊登録隊員

□ 出身地
  山口県下関市

□ 消防士拝命
  平成11年4月

□ 趣味
  キャンプ


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17.8.20/4:37 PM